【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第9回:角松敏生 各年代のおすすめ名盤を1枚ずつ選出!

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歴史の長いバンドは、必ずと言っていいほど「何から聴けば良いのか?」問題が出てくる。

そこで初めて聴く人向けに、最初に聴くのにおすすめのアルバムを紹介するシリーズ記事を書いている。

これまで8回の記事を書いており、人間椅子南佳孝といった、国内ベテランミュージシャンも多数取り上げてきた。

【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第6回:南佳孝 おすすめのベストアルバム、おすすめのオリジナルアルバムは?

今回取り上げるのは、2021年に活動40周年を迎えたシンガーソングライター・音楽プロデューサーの角松敏生である。

1981年より活動を開始し、自身名義だけでなく他アーティストへの楽曲提供・プロデュースも積極的に行ってきたミュージシャンである。

2022年にはアルバム発売が予定されており、4月13日に先行シングルが配信リリースが決定した。

約8年ぶりとなるアルバムだが、角松氏によれば「最後のオリジナルアルバムになるかも」といった発言も見られている。

今後の動向も気になるところだが、アルバム発売前にこれまでのアルバムを遡りたい人向けに、初めて聴くのにおすすめのアルバムを紹介したい。

枚数も多いため、80年代・90年代・00年代の3つの期間に分け、3枚のオリジナルアルバムをおすすめしようと思う。

前回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第8回:Budgie 名曲”Breadfan”の入っているアルバムを最初に聴くのが本当に良いのか?+全アルバムレビュー

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角松敏生について

まず角松敏生のこれまでの歴史を振り返っておこう。

1981年、角松氏は日本大学在学中にシングル『YOKOHAMA Twilight Time』、アルバム『SEA BREEZE』でデビュー。

2ndアルバムまでは外部にプロデュースを委託していたが、1983年の3rd『ON THE CITY SHORE』よりセルフプロデュースを行い始めた。

角松氏は自身の名義での活動に加え、プロデュースの仕事もかなり早い段階から行っていた。杏里のプロデュースでは、1983年の「悲しみが止まらない」がオリコン週間4位を記録した。

活動初期は山下達郎など日本のシティポップや、海外のAORに大きく影響を受けた作風だった。80年代後半になると、ダンスミュージックや打ち込みサウンドにシフトしていく。

1988年には、中山美穂のアルバム『CATCH THE NITE』がオリコンチャート1位、自身の7thアルバム『BEFORE THE DAYLIGHT〜is the most darkness moment in a day』が2位の快挙を成す。

華々しい活躍の一方で、徐々に哲学的・内省的な歌詞が増えていく。そして自身の音楽に対する限界から、1993年の日本武道館公演をもって活動の”凍結”を行う。

音楽業からの引退の可能性もあったが、プロデュース業で多忙を極めることとなる。

また長万部太郎と言う名前で、覆面バンドAGHARTAを結成。NHKみんなのうたに起用された1997年の「ILE AIYE〜WAになっておどろう〜」がヒット。

V6にもカバーされ、1998年の長野オリンピックではAGHARTAとしてライブ演奏を行った

「ILE AIYE〜WAになっておどろう〜」に関する情報をまとめた記事

1998年5月の日本武道館公演で、満を持して”解凍“を宣言する。

2001年には活動20周年を記念したコンサートが東京ビッグサイトで行われた。(2日間の予定が初日は台風で中止となり、2年後の2003年にリベンジ公演が行われる)

20周年以降は、5年ごとに周年を記念した大規模なコンサートが開催されることとなる。

角松敏生名義で活動を再開したものの、日本の音楽業界は大きく変貌し、失望を口にすることも多くなる。2002年には『INCARNATIO』は民族音楽を大胆に取り入れた作品もリリースされた。

2006年にベーシストの青木智仁、2007年にギタリストの浅野祥之という、バンドの中核となる2人が相次いで亡くなる悲劇を経験する。

2010年以降は、オリジナル作品だけでなく、自身の作品のリメイクや企画性の高いアルバムなど、幅広い作品をリリースしている。

2019年には『東京少年少女』をリリースし、架空のミュージカルのサウンドトラックという形態であった。その後、実際に演劇になっており、40周年のコンサートでも演劇とライブがコラボした。

現在制作中のアルバムも、「MILAD」(Music Live Act & Dance)を標榜し、演劇やダンスと融合した作品となりそうである。

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”はじめて”のベストアルバムは?

最初に角松敏生のベストアルバムについて紹介しよう。

角松氏に関して、いわゆる”オールタイムベスト”のような、全期間を通じたベストアルバムはリリースされていない。一方で、時期やテーマに沿って選ばれたベスト盤は多数リリースされている。

初心者におすすめの作品は、2012年にリリースされたリメイクベスト『REBIRTH 1 〜re-make best〜』である。

角松氏自身が選曲し、80年代に表現しきれなかった部分をリアレンジしたベストアルバムとなっている。特に人気の高い80年代前半の楽曲がコンパクトにまとまっている。

「Tokyo Tower」のように一部大幅にリアレンジした楽曲もあるが、原曲の骨格を残したものが多くなっている。角松敏生入門編におすすめの作品となっているだろう。

また2020年にリリースされた第2弾リメイクアルバム『EARPLAY 〜REBIRTH 2〜』も同様におすすめで、80年代後半まで広げ、カバー曲とともに楽しむことができる。

よりベスト盤的な作品としては、時代を区切ったベスト盤3作『角松敏生1981-1987』『角松敏生1988-1993』『1998-2010』がある(いずれも2枚組)。

ただし『角松敏生1981-1987』はリテイクが多く、またアルバム未収録曲が多く、レアトラック集の立ち位置でもある。純然たるベストは『角松敏生1988-1993』『1998-2010』の2作になるだろう。

曲数としてもかなり多いので、オリジナルアルバムを聴こうと言う人には、あまりおすすめできないかもしれない。

他にはバラード集である『T’s BALLAD』(1985)、『TEARS BALLAD』(1991)があるが、これらもベストと言うよりリメイク曲集という印象だ。

”はじめて”のオリジナルアルバムは?

続いて、この記事で最も取り上げたい、おすすめのオリジナルアルバムである。

角松氏のオリジナルアルバムは、20枚を超えており、時期によって作風も異なっている。そのため、やはり1枚だけに絞ることは非常に難しい。

そこで大きく3つの時期に分け、それぞれから1枚ずつアルバムを選出することとした。その時期とは、1980年代・1990年代・2000年代である。

各時期で作品数も異なるが、一応平等に選ぶこととした。また2010年代以降については、リメイクや企画性の強い作品が多いために外した。

1980年代 – 5th『GOLD DIGGER〜with true love〜』(1985)

1980年代は角松氏の代表曲が多数生まれ、名盤と呼ばれる作品が目白押しである。この中で1枚だけを選び出すのはかなり難しい。

しかも80年代初頭はシティポップ・AORの影響下にある作品であるが、中盤からダンス・ファンクミュージック路線へと変化し、80年代後半には打ち込みを多用したアレンジになっていく。

角松氏が自身のキャリアを怒涛の勢いで駆け上がっていった時期で、勢いのある作品が多い。また角松氏にAORのイメージを持つ人はどの作品を手にとっても良作に出会えるだろう。

ただし厳しいことを言えば、80年代前半はまだ楽曲制作においては、既存のシティポップ・AORの影響が強いため、オリジナリティと言う点では後の作品に劣る。

そこで80年代は、角松氏のオリジナリティを確立し始めた傑作として、1985年の5thアルバム『GOLD DIGGER〜with true love〜』を選びたい。

前作『AFTER 5 CLASH』で”都会と夜”のイメージを打ち出し、そのイメージをさらに確立させた作品である。

そして後の打ち込みサウンドの原点とも言える楽曲がいくつか収録されている。

アルバム前半の「I CAN’T STOP THE NIGHT」~「MOVE YOUR HIPS ALL NIGHT LONG」は、切れ味の良いダンスチューンが続くのがカッコいい。

当時はまだ主流ではなかったスクラッチやラップなどをいち早く導入した感性も素晴らしい。

また「MELODY FOR YOU」「MERMAID PRINCESS」など、これまでのAORテイストのメロウな楽曲も冴え渡っている。

ラストにはファンとの間では重要な楽曲「NO END SUMMER」も収録され、文句なしの名作と言えるだろう。

そして作品のクオリティと言う点からは、本作が80年代の経験が活かされた、洗練されたものとなっている。

サウンド的には後の打ち込み路線への導入とも言えるが、角松氏の楽曲はより玄人的になっていく側面もある。ある種、大衆音楽としての聴きやすさも含め、本作を80年代のイチオシ盤とした。

AORが好きな人は本作から順に遡り、ダンスミュージック路線が好きな人は本作以降を聴き進めるのがおすすめだ。

1990年代 – 10th『あるがままに』(1992)

1990年代に関して、角松敏生名義のアルバムはミニアルバムを入れても4枚だけである。

少ない理由は、1993年より歌手活動を「凍結」したことにあり、1998年に「解凍」するまでの楽曲提供やプロデュース、別名義の作品の方が中心になっている。

凍結前の角松氏は、シンガーとしての限界や自身の音楽への絶望を感じていた。しかし楽曲のクオリティ的には、この時期が頂点にあったと筆者は感じる。

内省的でやや難解な歌詞ながら、ポップスとしては抜群のソングライティングを行っていた時期だ。大衆性と芸術性のバランスが絶妙に保たれていたように感じる。

その奇跡的なバランスで作られた傑作中の傑作が、1992年の10thアルバム『あるがままに』である。

本作は90年代の作品の中でも特に楽曲に優れ、そしてアルバムトータルの出来も最高峰であると思っている。

ソングライティングとしては、80年代前半のAORなどへの憧れだけでなく、角松敏生オリジナルのメロディが完成した作品である。

またアルバムのトータル感としては、他の作品とはやや異質な統一感がある。

本作はある種のコンセプトアルバムとも言える肌触りだ。それは、ある1人の女性への思いが露骨と言って良いほどはっきりと描かれた歌詞の世界観に表れている。

活動凍結の一因には妻との離別など女性関係の問題もあったと言う。本作は、アルバムを通して「君」に対して歌われるラブソングが続き、ここまでコンセプトのはっきりした作品は他にない

そのコンセプトはブックレットの最後に書かれた「If my music cannot change your mind, Music does no longer make sense to me.」という悲痛なメッセージからも読み取れる。

角松氏自身の音楽への苦悩とも相まって、あまりにリアルな言葉として歌詞は綴られた。それはアルバムタイトルが初の日本語表記、そして英語のみの楽曲タイトルがない点からも窺える。

そうした世界観の下、これまでの角松氏の総決算とも言える音楽的バリエーションが楽しめるのが本作の魅力だ。

ファンク曲の「さよならなんて絶対に言わない」「君を二度とはなさない」、ダークな雰囲気漂う「夜をこえて」、シティポップの角松流解釈「君がやりたかったSCUBA DIVING」など多彩だ。

ここまでバリエーションのある音楽性を構築できたのも、悲痛な叫びとも言える1つのメッセージ、コンセプトがあったからこそだろう。

角松氏の苦悩があったからこそ生まれた、奇跡的な名盤なのである

なお角松氏自身は限界を感じていた時期だったのだが、凍結中も含めて、作品としては最も充実していた時期だと思う。

角松敏生としてこの時期に音源リリースを続けていたら、どんな楽曲ができていたのか、見てみたかった気もする。

【角松敏生】1991年~1993年と言う時期について – 活動”凍結”前夜がなぜ魅力的なのか?

2000年代 – 18th『NO TURNS』(2009)

1997年にAGHARTAの「ILE AIYE〜WAになっておどろう〜」のヒットなどを経て、1998年に満を持して活動”解凍”を行った角松氏。

しかし日本の音楽業界は90年代以降、大量消費を続けてきた結果、音楽全体の質の低下を招いて、リスナーの質も低下するという悪循環に陥っていた。

角松氏もそうした状況に対して怒りを口にすることも見られた。

2002年にリリースされた『INCARNATIO』は民族音楽とのコラボ作品だが、当時の日本の音楽へのアンチテーゼのようにも見えた。

その後は、これまでより企画性の高いアルバムを制作することで、新たなチャレンジを行っていたように見える。が、青木智仁氏・浅野祥之氏という重要なバンドメンバーを亡くす悲劇が重なった。

音楽的にも精神的にも支柱であった2人を亡くしたことの影響は大きく、角松サウンドも再構築せねばならなかった。

このように2000年代前半~中盤にかけては、あらゆる意味で激動と混沌の時代であったように思う。

2000年代の1枚として紹介したいのは、その激動を経て、ようやく角松氏らしいポップスを作り上げることに成功した、2009年の18thアルバム『NO TURNS』である。

本作は2000年代の中では、最もストレートな角松メロディを聴くことができる作品だ。そのため2000年代の中で最も初心者向けではないかと思ったのである。

REMINISCING」「もっと」など、爽やかなファンクソングから、王道バラードの「美しいつながり」、ファンキーなデュエット「鏡の中の二人」まで、充実の楽曲群だ。

またサウンド面についても、こだわりを強く見せた作品である。

本作の発売前の2008年に、ファンクラブ限定販売で、本作から先行して5曲とセルフカバーなどを含む『TOSHIKI KADOMATSU I』をリリースしていた。

『TOSHIKI KADOMATSU I』ではアコースティックアレンジだった楽曲を、さらに本作ではバンドサウンドに仕上げている。並々ならぬアレンジの作業であったことが窺える。

ギターに今剛氏、ベースに松原秀樹氏を迎えており、また当時は今より知られていなかった玉田豊夢氏を起用した。

メンバーを失うなどの苦難を経て、もう一度自身の好きだった音楽を見つめ、丁寧に作り上げた作品と言う印象である

その後、ギターに鈴木英俊氏、ベースに山内薫氏をバンドメンバーに迎えて、ようやく角松サウンドの再構築が行われた印象である。

”バンド感”と言う意味では、彼らが中心的に参加している2014年の20th『THE MOMENT』以降がおすすめだが、ストレートなポップス作品がないのが少々残念なところである。

ぜひ現在のバンドメンバーで王道のポップスアルバムが聴きたいところだ。

まとめ

ここまで角松敏生氏を初めて聴く人におすすめするアルバムについて書いてきた。以下に、ベストアルバム・オリジナルアルバムについて紹介したアルバムをまとめた。

<ベストアルバム>

REBIRTH 1 〜re-make best〜』(2012)

EARPLAY 〜REBIRTH 2〜』(2020)

<オリジナルアルバム>

1980年代 – 5th『GOLD DIGGER〜with true love〜』(1985)

1990年代 – 10th『あるがままに』(1992)

2000年代 – 18th『NO TURNS』(2009)

オリジナルアルバムだけでも20枚以上の作品があり、絞って選び出すのは非常に難しい。

ただ今回紹介した作品は、角松作品の中でもそれぞれの時代の頂点となっているような作品を選んだ。楽曲のクオリティはもちろん、角松氏やバンドの状態なども考慮に入れている。

そしてこれらの作品の前後を掘り進めていけば、きっと良い作品に多数巡り合えるのではないか、と思っている。

角松氏の今後の作品も気になるところだが、オリジナルアルバム制作は今回制作しているものが最後と語ったようである。

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そして次回作も『東京少年少女』に続いて、ライフワークとなっている演劇とのコラボ要素のある作品となりそうだ。

しかし個人的には、今一度シティポップやAORを軸に、正面からポップスを描いた作品を作ってほしいと言う気持ちもある。

現在、日本のシティポップ再評価の波もあり、角松作品は日本だけでなく海外からの注目度も高まっている。ただ、そうしたブームに便乗しないところも角松氏らしい。

とは言え、求められている状況がある今こそ、懐古的にはならずに、今のサウンドで角松氏の上質なポップスをもう一度世に送り出して欲しいと願うファンは筆者だけではない気がする。

今度の新作で終わりと言わず、ぜひ今後も角松氏の音楽作品に期待したいところである。

次回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第10回:浜田省吾 おすすめのアルバムの聴き進め方とは?

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