以前より音楽のアルバムにこだわった記事を書いている。
アルバムのレビュー等では頻繁に「名盤」という言葉が使われる。
いったいこの名盤と呼ばれるアルバムはどんなアルバムを指しているのか、とふと思った。
なぜそれが気になるのかと言うと、レビューに「名盤」と書かれていても、様々なタイプのアルバムが含まれているように思われたからだ。
たとえばキャリアのあるミュージシャンの場合、それぞれの時期に出された「名盤」がある。しかしその作品の特徴は、それぞれにずいぶんと異なっていることが多い。
今回は「名盤」と呼ばれる要素を挙げながら、「名盤」とは何か考えてみたい。
今まで以上に名盤の良さを味わうことができるようになればと思う。
辞書的な意味から考える
まずは辞書的な意味はどうなっているのか。
名盤とは、
すぐれた演奏の録音盤。有名なレコード盤。
コトバンク
とある。
そもそもこの時点でも、2つの要素があることが分かる。
1つは演奏がすぐれていること、2つ目に有名であることがある。
この2つは評価の仕方において、大きく違うように思われる。
1つ目はアルバムが制作され、発売されるまでに既に評価が決まるものであり、2つ目は発売されてから人に聴かれてから決まるものであると考えられないだろうか。
この2つの視点から論を展開してみよう。
「名盤」の2つの視点
先に2つ目の「有名であること」から考える。
こちらを先にしたのは、実は評価としてはシンプルで、最も多くの人に聴かれたアルバムということになろう。
つまり売り上げ枚数、順位といった指標から見ることができる。
ただしアルバムをレビューする専門家が、「みんな聴いているから名盤だろう」と言っているとは思えない。
やはり「なぜ売れたのか」ということを1つ目の内容的な部分から探ろうとする。1つ目の「演奏がすぐれていること」という中にもいくつかの要素が含まれている。
僕は出てきた音の結果と制作の過程の2つの要素に大きく分かれると思う。
1つ目の結果については、いい音・演奏が吹き込まれていることや、いい楽曲が収録されていること、と言った一聴してわかる要素がまずはある。
そして練られた曲順、アルバムトータルのコンセプトなど、もう少し全体を見渡した上で、優れた芸術性を感じ取れるかどうか、と言うあたりも加わってくる。
音楽雑誌等では、音楽の専門的な観点から語られる評価はこの類のことだろう。
2つ目の過程についてはどうだろうか。
たとえばミュージシャンやスタッフの楽しさややりがいが伝わってくるような、前向きな息づかいが感じられるアルバムも、名盤と言われるように僕は思う。
わかりやすく言ってしまえば、ミュージシャンのキャリアの中で輝いている時期に制作されたアルバムであるということだ。
バンドのメンバー同士、プロデューサーとミュージシャンの関係が良くない時にはいい作品は生まれないだろう。
何らかの形で、制作の環境が整い、関係者の心が1つになって前進している時に生まれた作品が、名盤と言われる1つの要因になっていると思う。
もう少し正確に言えば、そういった前向きな気持ちが音に乗っかり、リスナーの心に触れるので、多くの人が手にして売れる、ということなのだろう。
制作するのは人間であるから、こういったムードみたいなものは作品に刻み込まれる。
こちらは音楽雑誌等では、制作過程に関するインタビュー記事、あるいはミュージシャンの作品に対する思いや人となりに関するインタビュー記事など、作った人の言葉を通じて窺える部分である。
ただ作品は発売したその日から作者の手から離れるのであって、アルバムの評価として「このミュージシャンが頑張ったから名盤」と言われることはなく、なぜ良いのかということの理由づけに語られるのみである。
そして耳からだけでは感じ得ない、心を通じて感じ取る類のものだ。
売れるアルバムには、こういった要素が必ず入っているものであり、音楽的に優れているからと言って、何かが突き抜けていないと売れないものであると思う。
まとめと「名盤」の選び方
少しまとめると、やはり制作の過程の良かった作品は、音にもそれが表れて、売れるから名盤だと言われるように至るという1つの流れがあるだろう。
ただしミュージシャンのコンディションが100点とは言えずとも、音楽的には成果を残し、そこまで売れなかったものの名盤と呼ばれるものもある。
一般には前者が名実ともに名盤と認定されるものであり、後者は「知る人ぞ知る」みたいな書かれ方をするタイプの名盤だ。
特にキャリアが長く、アルバム数が多いミュージシャンの場合、どれから聴くのが良いか迷った経験があると思う。
その場合は、やはりまずは一番売れたアルバムが間違いはない。
ただこの場合、売れたシングルの入っているアルバムよりも、アルバムとして最も売り上げた作品の方がアルバムとしては良いように思う。
どうしてもそのシングルを聴きたい目的であれば、ベスト盤か今やストリーミングで聴けば良いのだ。
また売り上げ的に劣るが音楽的に優れている作品については、やはりレビューが大いに参考になる。
業界にインパクトを与えたもの、コンセプトのはっきりしたもの等、レビューを読みながらご自身が気になるものを手に取ってもらうのが良いだろう。
あまりまとまらないながらも、名盤と言われるものの要素について考察してみた。
最後に身も蓋もないが、結局自分の感覚に合う作品から聴いていくのが何よりなのだ。
いろんなレビューを読んだりしながら、作品とそれを作ったミュージシャンについて知っていくプロセスも楽しいものである。
そのプロセスの道しるべの1つとなればと思って書いた次第である。
事例:エレファントカシマシの作品を題材として
もうすぐ登場!
— 日本レコード大賞 (@TBS_awards) July 14, 2018
エレファントカシマシの皆さんがCMにも使われた平成19年のあのヒット曲を歌います!#音楽の日 #エレファントカシマシ #エレカシ #TBS pic.twitter.com/xEJRN3kTsK
しかし具体例がなければ、結局よくわからないような気もする。
今回は「エレファントカシマシ」の作品の中で、様々な「名盤」があることを紹介したい。
エレカシを選んだ理由は、アルバムごとに作風が異なり、また大ブレイク時期と、あまり表に出ていない時期があり、1作ごとの評価を考えるのが面白いバンドだからだ。
そして今日がエレカシのデビュー日なのである。
それではいくつかの観点からアルバムを挙げてみよう。
順位の高いアルバム
「明日に向かって走れ-月夜の歌-」(最高順位2位、1997年)
「昇れる太陽」(最高順位3位、2009年)
「Wake Up」(最高順位4位、2018年)
なるほど、3作とも確かに名盤である。
「明日に向かって走れ-月夜の歌-」はエピックソニーの契約が切れてのち、ポップな曲調にシフトし、ドラマの主題歌となり大ヒットした「今宵の月のように」や名曲「風に吹かれて」が収録されている。
まさに輝かしい時期のアルバムだ。
「昇れる太陽」も前作「STARTING OVER」でユニバーサルに移籍し、やや閉塞感のあった状況から脱した時期の作品で、タイアップのついた楽曲も多く収録されている。
「Wake Up」はボーカル宮本氏の突発性難聴による休養を経て、また輝かしい時期に突入した時に生まれたアルバムである。
やはり順位と言うのは正確であろう。
間違いなく「良い時期」に作られたアルバムで、楽曲も溌剌としている。
では順位以外の観点からみるとどうだろうか。
※【アルバムレビュー】エレファントカシマシ -『明日に向かって走れ-月夜の歌-』
インパクトのあった作品
「THE ELEPHANT KASHIMASHI」(圏外、1988年)
「生活」(最高順位43位、1990年)
「THE ELEPHANT KASHIMASHI」はデビュー盤にして衝撃を与えたアルバムと言われる。
ライブでもよく演奏される曲が収録されており、後のエレカシとは音楽的に異なる部分もあるが、ただならぬ怒りを感じさせる、やっぱり名盤である。
「生活」もまた衝撃的なアルバムである。
厭世的な世界観の歌詞、コンセプトアルバムのようであり、音作りはめちゃくちゃである。
ただレッドツェッペリンのようなハードさ、そしてキングクリムゾンのようなプログレッシブな要素も併せ持っており、音楽的には凄まじいクオリティだと思っている。
この2作は音楽的に衝撃を与えたアルバムではあるが、一般にはそこまで知られていないと思う。
だが少し興味を持ってエレカシのレビューを読めば、必ず出てくる作品ではないだろうか。
こういった業界に衝撃を与えた作品も、いわゆる「名盤」と括られることになるのだ。
※【アルバムレビュー】エレファントカシマシ -『生活』(1990)
楽曲の勢いを感じるアルバム
「東京の空」(62位、1994年)
「俺の道」(34位、2003年)
いずれも全盛期真っ只中と言うわけではない時期の作品だ。また先ほどの2作のように「衝撃的な」と語られるのでもないのがこの2作であると思う。
「東京の空」は個人的には最も好きなアルバムだが、契約の切られる直前の背水の陣ながら、変化していこうという勢いを非常に感じる。
楽曲のバリエーションも豊かで、充実を見せている。アルバムのブックレット内で渋谷陽一氏も高い評価を出している。
一方の「俺の道」は若手バンドとの対バン企画を行っていた時代を経た作品。ある意味で攻撃モードで、その剥き出しのサウンドからも窺える。
こちらは曲の方向性を揃えたことで、シンプルに感情が伝わってくる作品だ。ファンの中では名盤と評する人も多いように思う。
ここまで来ると好みの問題も出てきてしまうが、楽曲の充実度の高いもの、一貫したカラーのはっきりした作品も「名盤」となってくるだろう。
※【アルバムレビュー】エレファントカシマシ – 『東京の空』(1994)
エレカシについて言えば、「これが入っていない」というそれぞれの意見があることと思う。一度どっぷりとファンになってしまえば、すべて「名盤」だ。
エレカシをアルバムで初めて聴きたいと思っている人にとって、何かヒントになれば幸いである。
ちなみに、「Wake Up」が入っていないが、「Rainbow」までのレビューはこちらがおすすめだ。
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