【アルバムレビュー】エレファントカシマシ – 『東京の空』(1994)

スポンサーリンク
エレファントカシマシ
画像出典:Amazon

今年に入ってからエレファントカシマシのボーカル宮本浩次氏のソロ活動が人気となっている。カバーアルバムが11月18日に発売することが決定している。

一方でエレファントカシマシとしては、恒例の日比谷野外音楽堂でのライブが10月4日に行われた。今年は観客数を減らし、配信も行われたが、久しぶりのバンドでのライブだった。

当ブログではエレファントカシマシのアルバムを、いくつかレビューしてきた。

4thアルバム『生活』(1990年)レビュー

9thアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997年)レビュー

この2枚だけを見ても、エレファントカシマシはアルバムごとに音楽性の変化がかなり見られることがわかる。

今回は筆者がエレカシの中で最も好きなアルバムである、1994年の7thアルバム『東京の空』をレビューする。ファンの間では傑作との評価も多いように思われる。

エピックソニー在籍最後のアルバムであるが、後の「今宵の月のように」のヒットへとつながる重要な作品である。そしてエレカシの歴史においても、唯一無二の作風で貴重な作品だ。

スポンサーリンク

『東京の空』発売までのエレカシの流れ

デビューから90年代前半のエレファントカシマシは、あまりに独特な音楽性を有するバンドだった。特に90年発売の4th『生活』は厭世的な世界観と、ヘビーな楽曲は大きな反響を呼んだ。

続く92年発売の5th『エレファントカシマシ5』は宮本氏が一人暮らしを始め、歌詞にも変化が見られた。決して悪い作品ではないが、『生活』に比べると地味な印象は否めない作品だった。

宮本氏が私生活で失恋するなども重なり、バンドの活動も芳しくない状況だったようだ。

周囲からは1stアルバムのようなロック色の強い作品を望むようになり、バンドとしても仕切り直そうとしていた。そこでリリースされたのが、攻撃性の強い6th『奴隷天国』(1993年)だった。

サウンドとしてもバンドらしいアルバムとなったが、売り上げは伸び悩んでいたようだ。

これまではバンドメンバーとともに編曲を作っていたようだが、それがうまくいかなかったと宮本氏は述べている。

次のアルバムでは確信を持って、異なるアプローチで作品を作ると宮本氏は決めていた。しかしアルバム制作中に、エピックソニーとの契約の打ち切りが決定した。

このような状況下で制作されたのが、7thアルバム『東京の空』である。次ではアルバムのアプローチや全曲紹介を行っていこう。

スポンサーリンク

『東京の空』について

  • 発売日:1994年5月21日
  • レーベル:エピックソニー
  • メンバー:宮本浩次(ボーカル・コーラス・ギター等)、石森敏行(ギター・コーラス)、高緑成治(ベース・コーラス)、冨永義之(ドラム、コーラス)

ブックレットには宮本氏とロッキング・オンの渋谷陽一氏のコメントが掲載されている。ジャケット撮影地は東京都港区芝公園(東京タワー)、新宿区西新宿(東京都庁)。

エレカシとしては初のプロモーションビデオが制作され、これまでとは異なる売り出し方が行われた。なお『EPIC映像作品集』に当時の映像や94年の日比谷野外音楽堂でのライブ映像が収められている。

以下ではアルバム制作にまつわるエピソード、全曲紹介を行う。

制作にまつわるエピソード

『東京の空』制作にあたり、これまでとは大きく異なる点があるようだ。それは2008年4月の「MUSICA」に宮本氏によるエレカシ全アルバムインタビューの前編で語られていた。

前項で述べた通り、前作『奴隷天国』までは、編曲をメンバー全員で行っていたが、宮本氏はそれがうまくいかない原因の1つだと考えたようだ。

バンド然としたサウンドに回帰した『奴隷天国』だったが、1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』のようなバンドサウンドにはならなかったと回顧している。

そこでアレンジについても、作曲者である宮本氏が細かく決めてメンバーに伝える方法に変えた。歌詞もよりシンプルな方向にそぎ落とすことにした。

確かにこれまでの作品では編曲はエレファントカシマシとなっているが、この作品ではプロデュースとして宮本氏の名前が書かれるようになっている。

宮本氏はこのアプローチに確信を持って制作に取り組み、楽曲もハイスピードで出来上がっていた。

結果として、レーベルとの契約が終了することが決定しているとは思えない、風通しの良い印象のアルバムとなっている。

各楽曲紹介

全作詞・作曲:宮本浩次(11.を除く)、11.のみ作詞・作曲:高録成治・宮本浩次

この世は最高!

9枚目のアルバム先行シングル曲。「DIGEST OF 東京の空」としてPVが制作された。

疾走感をもって進むロック色の強い楽曲。ダウンチューニングのギターによるヘビーなリフ、宮本氏の絶曲が響き渡る。

前作の「奴隷天国」の流れを引き継ぎつつ、よりポップになっている。次作以降も「ドビッシャー男」「戦う男」などに受け継がれていった曲調の原型であろう。

もしも願いが叶うなら

このアルバムの中でも独特な曲調の1曲。宮本氏の高らかなボーカルとコーラスが印象的な楽曲であり、このアルバムの高揚感を象徴している

これまでのエレカシにはなかったタイトル、そして歌詞もポップになっている。

ギター・ベースに比べ、ドラムが派手に動き回るアレンジがカッコいい。

東京の空

タイトル曲にして、トランペットは先日亡くなった近藤等則氏が演奏している。日比谷野外音楽堂でのライブでも、この曲でゲスト参加している。

機械的に進むギターのカッティングとリズムに対し、前衛的に演奏されるトランペットが印象的だ。宮本氏の音楽性の幅を感じる曲でもあり、オルタナティブロックの影響を強く感じる。

その上で、東京や日本を思わせる民謡的なボーカルが組み合わさり、独特なミクスチャーとなっている。13分近い長い曲ながら、よく作り込まれた名曲である。

真冬のロマンチック

長大な前曲から、一転シンプルなロックンロールである。宮本氏によればシンプルな楽曲ながら、歌詞はまだ少し変であるとのこと。

宮本氏にとっても、どのような楽曲を作っていくのか過渡期であったと思われる。開き直ったような表現も見られ、「クリスマス正月」とめでたいワードを詰め込んでいる点も面白い。

9thシングル『この世は最高!』のカップリング曲。

誰かのささやき

アコースティックギターの音を中心に、メロディラインが美しい楽曲。宮本氏の歌謡曲的なメロディセンスが光る曲となっている。

この楽曲におけるポップな要素が、後のポニーキャニオン時代のポップス路線へとつながっているようにも思える。

リズムやサウンドはどこかカントリーを思わせるもので、高揚感も感じさせる。

甘い夢さえ

どことなく演歌調の歌いまわしの、この時期らしい楽曲。『奴隷天国』で見せたテンションの高さを受け継ぎつつ、より聴きやすくなっている。

『奴隷天国』では鬱屈した怒りが前面に出ていたが、むしろこの曲では爽やかさを感じさせる。宮本氏の心境の変化をよく表した曲ではないだろうか。

エレカシの歴史を通じて不変の弾き語りシリーズ。2017年に発売されたベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』にも収録されるなど、宮本氏も気に入っている曲のようだ。

短い曲ながら、歌詞の内容は味わい深い。「悲しいときには涙なんかこぼれない」がすべてを物語っているが、エレカシの歌詞においては悲しみをどう捉えるか、がテーマの楽曲が多いように思われる。

ライブでも即興で弾き語りされることが多い。

極楽大将生活賛歌

8thシングル曲であり、シングルバージョンには冒頭のギターカウントはない。「誰かのささやき」同様、カントリー調のリズムの曲である。

この曲の歌おうとしている内容はよくわからない。「極楽大将」は何者なのか、最後まで聞いてもやはりわからないのである。

エピックソニー時代のエレカシにはこういった歌詞の内容が不明の曲が時々見られる。メンバーの中だけで通じる言葉遊びのようなものもあるようだ。

男餓鬼道空っ風

前曲の流れを受けながら、アップテンポで進んでいく曲。前曲の「極楽」に対して「餓鬼」と、仏教における六道輪廻を思わせる内容がなぜか入れ込まれている。

この”べらんめえ”的な歌詞や歌い方は、このアルバム特有のものであり、筆者は非常に好みである。宮本氏の男臭い歌い方や声質が際立つ楽曲である。

怒髪天によるカバーも秀逸であり、併せて聴きたいところである。

※怒髪天のカバー楽曲をまとめた記事

明日があるのさ

短い楽曲であり、ドゥーワップ的なリズムを感じさせる。宮本氏のポップセンスを感じることができ、後のポニーキャニオン時代への布石となるような曲である。

かなり短い曲で60年代オールディーズのような楽曲である。こうしたシンプルな曲をアルバムに収録するところに、宮本氏の心境の変化を感じるところだ。

星の降るような夜に

8thシングルのカップリング曲。この曲のみベース高緑氏との合作である。

RCサクセションに影響を受けていた1stアルバムの頃を思わせる、シンプルなロックンロールである。青春を感じさせる、高らかに歌い上げるような楽曲だ。

ライブでは突発的に演奏されることもあり、ライブ終盤に演奏されると大いに盛り上がる。

暮れゆく夕べの空

アルバムラストを飾るこの楽曲も、作り込まれた力作である。アプローチとしては「東京の空」に似ており、シンプルなリフを展開させながら繰り返していくスタイルである。

夕暮れ時の空と言うロマンチックな題材を、センチメンタルになることなく高らかに歌い上げている。日本的な情緒を、オルタナティブな展開に乗せるのが、この時期の特徴と言えるかもしれない。

『東京の空』レビュー

ここまでアルバムの紹介を行ってきた。アルバムレビューを行うにあたり、前後の作風の変化を確認し、『東京の空』の立ち位置と魅力を掘り下げて考えてみたい。

『東京の空』の前後のエレカシの作風を考える

アルバム『東京の空』は、エレカシの音楽性の過渡期にある作品である。『東京の空』前後の作品の特徴を簡単に見ておこう。

3rd『浮世の夢』~5th『エレファントカシマシ5』までは宮本氏の内省的な世界観を掘り下げるものだった。楽曲としてはアコースティックなものや、ロックの中でも陰鬱なものが多い傾向にある。

続く6th『奴隷天国』では、シンプルなロックに回帰している。しかし歌詞の世界は、『生活』辺りから見られる文学的な世界観を引きずっている。

それゆえ若々しいロックと、老成した歌詞がかみ合わない印象は否めない。宮本氏の「かくあらねばならぬ」というこだわりの中で、迷走しているようにも思われる。

『東京の空』では制作アプローチも変え、これまでの方法論から自ら解き放った。顕著な変化として、初めて編曲が宮本氏単独の名義となっていることが挙げられる。

『東京の空』以降については、ポニーキャニオンに移籍しシングル「悲しみの果て」と8thアルバム『ココロに花を』がヒットした。

ここでも宮本氏が単独で編曲を行っている楽曲もあるが、外部のプロデューサーを入れている点が新しい。土方隆行氏、佐久間正英氏が中心となり、よりポピュラーなサウンドに近づいた。

細かく見れば、『ココロに花を』では、まだ外部プロデューサーの意見と自身のやりたいこととの葛藤がうかがえる。ポップに寄った楽曲と初期を思わせる楽曲が混在しているアルバムだ。

続く9thアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』ではその葛藤から脱し、アルバム通じて良質なポップスが並んでいる。

この時期のエレカシの音楽性の流れを以上で確認した。

『東京の空』の立ち位置と魅力

『東京の空』前後の流れを踏まえ、『東京の空』の立ち位置や魅力を掘り下げたい。

『東京の空』のブックレットにおける渋谷陽一氏の記述が的確である。エレカシは「何か変だ」「こんなものじゃない」という感覚のアウトプットに苦悩してきた、と指摘している。

そして渋谷氏は『東京の空』で、ようやくその感覚をわかりやすくアウトプットすることに成功した、と述べている。

つまり『東京の空』は、エレカシがデビュー時から持つ怒りや居心地悪さを、宮本氏がやりたいように表現し、ポップな形で表出できた貴重な作品であると言える。

『東京の空』の魅力を要素に分ければ、次の3点になるとともに、この3点のバランスが絶妙であることが何よりの魅力であろう。

  • 1stアルバムに通じる感覚を受け継ぐ
  • ポップでわかりやすい
  • 音楽的な広がりを持つ

まずは1stアルバムに通じる荒削りの感覚を受け継いだ作品である点が挙げられる。この時期の音楽性を言葉にするのは大変難しいが、特有の感性を持った楽曲が並んでいる。

渋谷氏の言葉を借りれば、「アウトプットが難しい」感覚であり、『東京の空』以前の作品では1stアルバムを除いてアウトプットに苦戦してきた歴史がある。

そして、より普遍性を持たせた『東京の空』以降の作品群では、1stアルバムに通じるこの感覚は、影を潜める形となった。

加えてポップでわかりやすい表現を宮本氏自身が解放した点も見どころだ。ただし『ココロに花を』以降のような整然としたものではなく、荒々しさも残しつつポップに寄ったところが面白い。

さらには音楽的な広がりも見られ、ジャンルに縛られることなく、様々なジャンルのエッセンスを感じられる点も見どころの1つとなっている。

これまでにない「もしも願いが叶うなら」「東京の空」「暮れゆく夕べの空」など、自由に作曲され、そのままアルバムに収録された様子がうかがえる。

そして『東京の空』は絶妙なバランスの上に成り立っているアルバムでもある。渋谷氏が指摘したように、「表現したいこと」と「アウトプット」のバランスである。

そもそもエレカシの作品においては、「表現したいこと」と「アウトプット」のバランスが取れている作品が実は珍しい。

『東京の空』以前はアウトプットの方法に苦悩していた時期だった。そして『東京の空』以降について、10thアルバム『愛と夢』以降は表現したいことがゆっくりと揺らいでいく過程でもある。

最後に、宮本氏自身が自分の音をうまく表現するアプローチを見つけた喜びに満ち溢れたアルバムとなっている点が魅力である。

これまでの苦悩を抜けた爽快感に満ちており、ウェットに感じられる楽曲は見当たらない。エピックソニーでの最後の作品となることを知りながら作っており、逆に気合が入ったという見方もあるだろう。

この両者が相まって、爽快感やヤケクソ感が楽曲の魅力を高めている。『東京の空』は湿っぽさのない作品であり、初期の怒りも抱え持ちながら、それをうまく音に昇華した傑作と言えるだろう。

まとめ

ここまでアルバム『東京の空』の紹介と、魅力を掘り下げて考えてきた。エレカシとして表現したいこと、宮本氏の表現したい音を、ポップに鳴らした傑作として唯一無二の作品である。

そしてポップな表現に向かったエレカシは、次のポニーキャニオン時代のヒットにつながったとも言えるだろう。

『東京の空』から急にポップな楽曲を作るようになったようにも見えるが、実はデビュー時からポップな楽曲は作られていたようだ。

それを端的に示すエピソードとして、1997年の「風に吹かれて」はデビュー頃にその原型はできていたが、バンドの音楽性に合わないので発表しなかった、というものがある。

昔からポップセンスは持ち合わせているが、それをいかに引き出すのか、宮本氏の中での葛藤やバンドでの表現の限界もあったのだろう。

ヒットの結びついた例としては、やはり第三者のプロデュースを入れた時である。ポニーキャニオン時代や「俺たちの明日」などユニバーサル時代の最初の時代がまさにその例である。

『東京の空』は決してセールス的に成功した作品ではない。しかし宮本氏がエレカシで鳴らしたい音を、自分のやりたいように鳴らすことに成功した数少ない作品である。

その爽快感は第三者の手による作品からは味わえないものだ。それゆえ『東京の空』が大変貴重な作品であり、傑作とも言われる理由なのだろう。

据え置き型の音楽再生機器に迷っている人におすすめ!

Bose Wave SoundTouch music system IV

これ1台でインターネットサービス、自身で保存した音楽、CD、AM/FMラジオを聴くことができる。コンパクトながら深みがあり、迫力あるサウンドが魅力。

自宅のWi-FiネットワークやBluetooth®デバイスにも対応。スマートフォンアプリをリモコンとして使用することも可能。

コメント

タイトルとURLをコピーしました