「自部屋」とはあまり聞きなれない言い回しである。
しかしあるバンドのファンであれば、すぐにこれのことだ、というのがわかる。
そう、エレファントカシマシの歌詞の中にその一節は出てくる。
その曲とは1989年の3作目『浮世の夢』に収録されている『「序曲」夢のちまた』である。
世を上げて春の景色を語るとき暗き自部屋の机上にて
この曲は本当はもっとやれるはずなのにと思いながら、自分の部屋で悶々と考えごとにふける若者と言うイメージがある。
僕自身も、このブログを開設する前の年が受験生だったが、まさにこの「夢のちまた」に出てくる主人公のような気分で暮らしていた。
東京に出て大学生になることもイメージできず、高校生活が終わることにもしっくりこない、先に進むことがイメージできずに、エレカシを毎日聴き続ける日々だった。
東大を受験したが、結果は不合格。
そんな中、当時はそのまま「自部屋の机上」というタイトルでブログを始めた。
僕の拠点は自部屋の机上であり、ここからすべて始まっていくという思いを込めた。
ブログを開設した2007年は、エレファントカシマシはユニバーサルミュージックに移籍し、新しい動きが生まれようとしている時期だった。
僕は浪人生で、予備校に行かない選択をし、自宅で勉強する日々を送っていた。
この時のエレカシにはずいぶん励まされた。
秋頃には「俺たちの明日」という名曲がリリースされた。
来し方を思い起こしながら、明日に向かって頑張ろうぜというシンプルなメッセージが沁みた。
1月のセンター試験に向けて、僕なりに勝ち目が見えてきた頃、エレカシは元旦に「笑顔の未来へ」という、これまた名曲を世に送り出した。
ここには「俺たちの明日」のように後ろを振り返っている主人公はおらず、どんな悲しみからでも立ち上がる強いヒーローがいた。
僕の精神状態もまさにセンター試験、2次試験に向けて戦うヒーローだった。
なんだかうまく行く予感がした。
センター試験を前年より高い点数で通過できた。
そして2次試験当日は、1日目はまずまずの手ごたえで終えた。
2日目の朝を迎えた時、年に何回かあるかの出来事なのだが、今日何のために起きたのか、思い出せなくなった。
言葉で説明するのが難しいが、記憶や意識ははっきりあるのだが、昨日まであった緊張感が変に抜けてしまっていた。
これは困ったと思った。
何とか立て直さねばと思いつつ、電車に乗って、とりあえず何か聞こうと思った。
その時何気なく聴いたのが、エレカシの「ファイティングマン」だった。
ちょうど1年目の受験が終わった時に買ったエレカシのファーストアルバムの1曲目だ。
すると、どういうわけかみるみる試験に向かう気持ちが湧いてきた。
1日目の感覚が戻ってきたのだ。
これでいけると思って、何事もなかったかのように試験場に向かった。
試験の結果は合格だった。
合格発表の直前の3月5日にエレカシは「桜の花、舞い上がる道を」というこれまた壮大な名曲を放っている。
僕もこれを聴きながら勝利を確信しながら、合格発表を見に行った。
当時の東大はまだ合格発表の張り出しをしていた頃、せっかくなので胴上げもしてもらった。
「輝く時は今」
そんな歌詞が合格発表を見た時に浮かんできた。
なんだかエレカシの歩みと、僕の2度目の東大受験がリンクしていたみたいな時期だった。
エレカシの音楽は僕の10代終わりの人生としっかり結びついている。
だからこそエレファントカシマシと言うバンドもまた特別な存在なのだ。
そして「自部屋の机上」は僕にとっての原点と言えるフレーズであり、
今回の復活ブログ「自部屋の音楽」を始めている。
まだ始まったばかりだが、初心を忘れずにコツコツ続けていきたいと思う。
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