ソングライター浜田省吾氏は、年に1回コンサートツアーを行っている。近年はファンクラブ向けのツアーが多くなっている。
コロナの影響で2020・2021年は全てのコンサートが中止となり、2022・2023年と久しぶりに一般向けのホール・アリーナツアーが行われていた。
本ツアーは2019年以来5年ぶりのファンクラブ向けツアーで、テーマは「青の時間」という浜田氏の楽曲タイトルのみがつけられる、というものだった。
選曲は様々な予想をしたくなるものではあったが、予想を良い意味でかなり裏切った曲目だった。しかし公演を観た後ではしっくり来る印象を持った。
今回は11月22日(金)の神奈川県民ホールで行われた神奈川県での公演1日目の模様をレポートし、「青の時間」に込められた意図について考察を試みた。
ライブレポート:「Shogo Hamada Official Fan Club Presents 100% FAN FUN FAN 2024 青の時間」神奈川県民ホール 大ホール(神奈川)
冒頭にも書いた通り、浜田省吾氏5年ぶりのファンクラブ向けのコンサートツアーである。
2020年に計画されていた「Welcome back to The 80’s Part-2」が中止となり、翌年2021年に計画されていた「ON THE ROAD 2021」をファンクラブ向けに行う計画も中止となった。
今回のツアーは前回2019年の「Welcome back to The 80’s Part-1」の続編ではなく、テーマを一新して仕切り直すものとなった。
テーマは「青の時間」という、1990年リリースの『誰がために鐘は鳴る』収録の楽曲タイトルである。
”ソングライターの旅」の途上、「青の時間」という言葉を想起させる曲で構成されたコンサート”と紹介されており、どんな曲が選ばれるのか予想したくなる内容であった。
しかしそうしたファンの予想は大抵当たらないので、筆者はセトリ予想ではなく、”青”を思わせる楽曲を選んで事前に記事にしていた。
※【浜田省吾】ファンクラブ限定イベント「青の時間」にちなんで”青”を思わせる楽曲を集めてみた
とは言え、色んな時代の楽曲が選ばれると思っていた筆者の予想は見事に外れる内容であった。
11月22日(金)、神奈川県民ホールは神奈川県での浜田氏のコンサートがいつも行われる場所である。しかしこのホールも老朽化で休館が決まっている。
開場時間17時10分を過ぎると、入場列がかなり長くなっていた。17時30分頃にもまだ列が長く、入場時の身分証確認などに時間がかかっていたようである。
浜田氏のコンサートは入場時に発券されるチケットで席が分かると言うもの。筆者は1階席6列目という、前から2つ目のブロックの先頭列で、前に座席がない非常に快適な位置だった。
会場内は撮影禁止であるが、ファンクラブ向けページ内に公開OKのオフィシャルフォトがあるので、以下にアップする。
筆者が座っていたのは、下の写真でちょうど左下に見える、5列目の後ろにある通路を挟んで1番前の列だった。
着席したのは開演直前になった。18時に開演となると、まずは小さなトラックが田舎道(おそらくアメリカ)を走る映像が流れる。
その荷台に浜田氏が座っておりハーモニカを吹いていると言う映像だった。
バンドメンバーが登場し、最近は定着した以下のメンバーだった。
町支寛二(Gt/Vo)、長田進(Gt)、美久月千晴(Ba)、小田原豊(Dr)、古村敏比古(Sax)、福田裕彦(Org/Syn)、河内肇(Pf)、中嶋ユキノ(Vo)、竹内宏美(Vo)、佐々木史郎(Tp)
今回の1曲目は「MY OLD 50’S GUITAR」、カウントから町支氏のギターが切り込んでくる。会場も一気に盛り上がりを見せ、そのまま「BASEBALL KID’S ROCK」へと流れる。
この時点で、セトリに関して色々な考えが頭をよぎる。まだ2曲ではあるが1990年の『誰がために鐘は鳴る』の曲順であり、もしやアルバム全曲披露もあり得るか?など考えたものだった。
最初のMCでは神奈川、そして横浜にまつわる話がいくつか出ていた。たとえば、「横浜の皆さん優勝おめでとうございます」と、野球の横浜DeNAベイスターズ優勝の話題も出た。
「カープは散々だったよね。カープファンの人いる?」と会場に聴く場面もあった。
また「横浜は気合いが入るんだよね」という発言もあり、それは広島から最初に出てきた場所が横浜であり、神奈川大学への進学だったと言う縁があるからである。
その縁から、神大の学長からお花が届いている、という情報も。しかし「申し訳ないんだよね、卒業してなくて」と、卒業していないのにお花をもらう申し訳なさを吐露していた。
「それぞれのコンディションにあわせて楽しんでください」と話して、続いても『誰がために鐘は鳴る』から「SAME OLD ROCK’N’ROLL」「恋は賭け事」が立て続けに披露された。
『誰がために鐘は鳴る』の曲順通りと言うことではなくなったが、ここまで全て1枚のアルバムから披露されることは珍しい。
「恋は賭け事」では終盤でコーラス部分を客席と一緒に歌う場面もあった。
続くMCでは「たまには少し長めに話をして良いかな」と着席を促した。ここではファンクラブイベントの歴史について語られていた。
当初は1970年代、まだロード&スカイが設立される以前の頃で、現在のようなコンサート形式ではなく、集まったのは20代の女子ばかりが30人ほどでのイベントだったと言う。
「俺もその時は若者だった訳で」と笑いを誘いつつ、80年代は年間100本以上のライブを行っていたためファンクラブイベントは行っていなかったと説明。
90年代から”100% FAN FUN FAN”という名前でイベントがスタートした。
リクエストを行った年(2003年?)もあり、当時のランキングは3位「J.BOY」、2位「星の指輪」、1位「家路」だったそうだ。
「しかし今日はどれもやりません。「もうひとつの土曜日」のやりません」と笑いを誘い、ファンクラブ向けのマニアックなイベントであることをここでも示唆していた。
その後、2009年からのファンクラブイベントを振り返り、2009年ではオーケストラアレンジ、2013年は街のセットを組んで、浜田氏がメンバーにインタビューするような場面もあったと話す。
※ちなみに筆者は2009年の100% FAN FUN FANから全て参加している。
そして2013年は「WALKING IN THE RAIN」から始めた、ということで浜田氏のアコースティックギター弾き語りでワンコーラスが披露される。
2017年からは年代別の曲目となり、2017年は1960年代のカバー曲を第1部で行うライブ、そして2018年は70年代に制作された楽曲のみで構成されたライブを行った。
ここでは「雨の日のささやき」が披露され、コーラス部分を客席に歌うように投げかける場面もあって和やかな雰囲気となった。
2019年に80年代のパート1が行われ、2020年にパート2、そして90年代と続いて行く予定であったが、コロナによりライブ活動自体がストップになる。
それにより、年代別に演奏していくという流れはいったんやめて、ソングライターの旅の途中というテーマで今回は曲を選んだ、とのことである。
会報の話も飛び出し、今や70,000人に隔月で雑誌(会報も形態的には雑誌)を送付しているところは、出版業界的にももはやないとのことだった。
「会報、読んでくれてる?」という浜田氏の問いかけに、微妙な拍手の数だったため、「さては読んでいないな、ぜひ読んであげてください」と訴えていた。(作り手はかなり努力しているとのこと)
長めのMCの後は、着席スタイルでしっとりとした楽曲が続く。ここでも『誰がために鐘は鳴る』が途絶えず、「少年の心」「青の時間」「サイドシートの影」が続けて披露された。
浜田氏の楽曲の中でも、ラブソング枠とも異なる、実に味わい深い人間の心の機微が描かれた楽曲群であり、今ここにいる感覚から遠く別の世界に誘われるような感覚になった。
この曲目ではベースの美久月氏はフレットレスベースを用いていたように見えた。アンビエントな雰囲気が増されて、とても効果的なアレンジだったように思える。
またスクリーンの映像も効果的に用いられ、浜辺の様子や街の中の様子などが映し出され、それぞれの思いに浸れる空間づくりも意識されていた。
波の音から「THEME OF FATHER’S SON (遥かなる我家)」のイントロ部分が演奏され、『FATHER’S SON』の世界に入って行くことが予感させられる。
激しいギターサウンドが切り込んで、「BLOOD LINE (フェンスの向こうの星条旗)」へ。これはアルバムではなく、シングルバージョンが採用されたようだ。
町支氏、長田氏という2人のギタリストが交互にキメのフレーズを弾くなど、ギターが前面に出る楽曲となった。
曲中の映像は日本の様々な風景が映し出され、終戦後から昭和、平成と時代が流れ、震災やコロナなどその時代ごとの象徴的な出来事に関する映像なども盛り込まれていた。
そのままハードなリフが印象的な「WHAT’S THE MATTER,BABY?」が披露される。『FATHER’S SON』の中でも、あまり普段は披露されない2曲が聴けてとても嬉しかった。
第1部の締めは、比較的通常のライブでも披露される「詩人の鐘」だった。こちらは1998年のシングルバージョンで、戦争や環境問題などに関連した映像が次々と流されていた。
レア曲続きのファンクラブライブであるが、こうした代表曲があえて入ってくるタイミングがあるのも楽しみの1つと言えるだろう。
第1部が終了、比較的アッパーな楽曲が多めの内容となった印象だった。何より、『FATHER’S SON』『誰がために鐘は鳴る』という連続する2作だけからの選曲が衝撃的であった。
休憩時間は全て浜田氏が歌ったカバー曲の映像であった。
「100% FAN FUN FAN 2017 “The Moonlight Cats Radio Show” Welcome back to The 60’s」から「Mercy, Mercy, Mercy」「You’ve Really Got a Hold on Me」「What’s Going on」の3曲。
そして「ON THE ROAD 2023 Welcome Back to The Rock Show youth in the “JUKEBOX”」の開演前に撮影された映像から「Mr. Moonlight」「I Call Your Name」の2曲の計5曲であった。
休憩時間にずっと座席で座って待つ人を飽きさせないよう、こうした映像を用意してくれる辺りが浜田氏の人柄、あるいはスタッフの方々の心配りを感じるところである。
第2部のスタートは再びしっとりした雰囲気から、第1部を引き継いで『FATHER’S SON』から「A LONG GOOD-BYE(長い別れ)」から始まった。
非常にメロディが印象的な楽曲であるが、なかなかライブで聴いたことのないレアな楽曲である。アレンジ的にはオリジナルバージョンに近い雰囲気であった。
美しいキーボードの音色に導かれ、ギターリフが入って来る「LONELY – 愛という約束事」は、本公演で唯一『J.BOY』からの楽曲である。
ただアレンジ的には1989年の『Wasted Tears』であり、今回披露されている楽曲群と同時期にリアレンジされたものである。
そしてこのセットリストに非常に合う楽曲であり、実はこの曲が『FATHER’S SON』以降の曲調を予感させるものだったのかもしれない。
続くMCでは「今日も最後のライブのつもりでやっているが、そう思っていたら間違えた」と浜田氏。
「A LONG GOOD-BYE(長い別れ)」の後半、珍しくメロディをアレンジしたのか、と思っていたら、どうやら間違えたとのこと。
続いてライブ映像作品のチャート記録についての話題もあった。ネットニュースにもなっていたが、ソロアーティスト歴代最年長で映像3部門同時1位と言う記録である。
これは9月4日リリースの『ON THE ROAD 2023 Welcome back to The Rock Show youth in the”JUKEBOX”』が打ち立てた記録であった。
「最年長と言うのがなんとも…」と苦笑いの浜田氏であった。そして映像作品リリースに向けてYouTubeで動画が公開になると、そのコメント欄の内容も見ている、とのことである。
浜田氏の動画にあるコメントのあるあるは、以下のようなコメントだと浜田氏自身が語った。
- 70代でこのパフォーマンスは凄い
- 浜田も凄いが町支も凄い
- 健康に気を付けて頑張ってください
※例えばこの動画のコメント欄を見ると、近いコメントをたくさん発見できる。
本当にどれもありそう(と言うか見たことがある)で、思わず笑ってしまった。そして「父親が車でずっと流していて嫌だったが、大人になって好きになった」というのは嬉しいと語った。
さらには「18歳の時に母親の影響で聞き始めて、今は51歳になった」というコメントもあったとのこと。「そういう計算になるか」と驚きを隠せない様子だった。
「今や2世代ではなく3世代でファンと言う場合も」という話から、アリーナツアー恒例の年齢帯チェックを10~30代だけ行った。
やはりかなり少数派であったが、30代の筆者も元気良く手を挙げた。
そして今回は昨年のツアー(ON THE ROAD 2023)でやった時代の後、40代に入る頃までの楽曲を中心に選んだ、ということも付け加えられた。
「次にやる曲は『FATHER’S SON』と言うアルバムから、皆持っているかな?」と問いかけつつ、「BREATHLESS LOVE」が披露される。
この曲も非常に印象的なメロディであり、『FATHER’S SON』がメロディとして力作が揃っていることが改めて感じられた。
次はやや時代が現代に近づき、2001年リリースの『SAVE OUR SHIP』から、インスト(+語り)の「Theme of “Midnight Cab”」と言うレア曲が披露された。
佐々木氏のトランペットが味わい深かったのと、美久月氏はエレキアップライトベースを弾いており、ジャジーな雰囲気が漂う。
浜田氏は中央の椅子に座って演奏を聴きながら、語りを行った。映像は昔の浜田氏が登場する動画であり、海外で夜のタクシーを運転する浜田氏、様々な客が乗って来る映像だった。
『SAVE OUR SHIP』の流れを引き継いで「…to be “Kissin’ you”」になると、再び客席は総立ちとなった。『SAVE OUR SHIP』からの選曲はこの流れだと意外だが、後で選曲理由を考察してみた。
そしてここからもう1枚のアルバムがセットリストに追加される、それが1993年の『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』である。浜田氏が40代に入った頃の作品だ。
「境界線上のアリア」からこのアルバムのコーナーが始まる。オリジナルは打ち込みっぽいサウンドであるが、生ドラムなのでバンド感の強いパワフルな演奏だった。
アルバムの曲順通り「傷だらけの欲望」へ。ギターリフが非常にカッコいいハードロックテイストの楽曲で、筆者はとても好きな曲だったので嬉しい選曲だった。
サビでは町支氏との掛け合いのようなボーカルになるのも良かった。映像は1996年の『ROAD OUT “MOVIE”』にも登場するイメージ映像が映し出されていた。
最後の曲の前に浜田氏からMCがあり「どうかお座りください」と着席を促した。
会場である神奈川県民ホールが来年に休館となり、浜田氏がここでコンサートをするのも最後になるという話題が出た。
70年代に神奈川に初めて来た時のことや、80年代に売り切れるようになった頃に、なぜか3階席がガラガラで、売り忘れていたという失敗談まで披露された。
またいつも横浜にいる姉、そして母親が真正面で観てくれていたのを思い出すと、なんとも言えない気持ちと言うことを語っていた。
その話を引き継ぎながら、次のような言葉を述べた。
好きな人に愛されたいと努力し、やがて二人は付き合うようになったとする。そしてもし自分が先に逝くことになったら、遺される人の悲しみや喪失感まで分かった上で愛されたいと思うのだろうか。
「そんなことを思いながら、ソングライターの旅の途上です、今夜はどうもありがとう。」と締めて、「初秋」が披露された。
アレンジはオリジナルバージョン、映像は”FLASH&SHADOW”に収録のコンサート映像が用いられていた。
こうして第1部・第2部を通じて、『FATHER’S SON』『誰がために鐘は鳴る』『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』の3枚のアルバムの世界を駆け抜けるようなコンサートだった。
アンコールの呼び出しに応えてメンバーが登場。披露されたのは『FATHER’S SON』から「DARKNESS IN THE HEART (少年の夏)」である。
浜田氏自身について歌ったこの曲は、ソングライターの旅の途上という意味ではとても重要な意味を持つ楽曲だと感じた。
シリアスな曲調で始まったアンコールだったが、2曲目は同じく『FATHER’S SON』から明るい雰囲気の「RIVER OF TEARS」である。
あまりコンサートで聴くことのないレア曲をラストに持ってくる辺りがファンクラブイベントの醍醐味だろう。
「Oh Yeah」と繰り返す部分はもちろん会場全体でシンガロングとなり、最後のにはコーラスの竹内氏・中嶋氏の2人と町支氏が前に出てきて、客席と一緒に歌う場面が印象的であった。
この曲を聴いていた時、この場が本当に特別なものに感じたのだった。
第一線のミュージシャンが(おそらく)このツアーのためだけとなるであろう曲を仕上げてくる。しかしそれを聴いて盛り上がってくれるお客さんがいなければライブは成立しない。
ただここにいるのは全てファンクラブ会員であり、おそらくこの曲を歌えるくらいには浜田氏の曲を知り尽くしている人たちがお客さんとして集まっている。
演者もお客さんも、ともに浜田氏の曲を深く愛していることで成り立つこのアンコール曲「RIVER OF TEARS」は特別なものに思えた。
また曲中にメンバー紹介も行われた。今回のサウンドプロデュースは長年浜田氏と活動をともにする町支氏だったそうだ。
だからこそ、あまりやらない過去の曲の雰囲気を壊さずに、安心して聴けたのだろうとも思った。
盛り上がりも最高潮の中、1回目のアンコールが終了した。
2度目のアンコールは、浜田氏含めミュージシャン全員が一列に並び、お辞儀をして始まった。
今回のイベントに来てくれたことへの感謝とともに、次会う時も健康で(ここをかなり強調して)、また再会できるのを楽しみにしています、と締めくくられた。
ラストは『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』から「最後のキス」。比較的通常のライブでも披露されるこの曲は、しっとりしながらもある意味ダンスナンバー的な感じである。
ミラーボールが設置され、華やかな雰囲気となった。美久月氏はまたエレキアップライトベースを用いて、町支氏はサビの部分の歌唱を浜田氏と掛け合っていた。
こうして全21曲(MCの弾き語り除く)、3時間弱のコンサートが終了した。神奈川県民ホールともおそらくこれでお別れになるかと思うと、会場を去るのも名残惜しい感じがしたのだった。
<セットリスト・収録アルバム>
No. | タイトル | 収録アルバム |
---|---|---|
1 | MY OLD 50’S GUITAR | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
2 | BASEBALL KID’S ROCK | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
3 | SAME OLD ROCK’N’ROLL | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
4 | 恋は賭け事 | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
MCで弾き語り ・WALKING IN THE RAIN ・雨の日のささやき | ||
5 | 少年の心 | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
6 | 青の時間 | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
7 | サイドシートの影 | 『誰がために鐘は鳴る』(1990) |
8 | BLOOD LINE (フェンスの向こうの星条旗) | 『FATHER’S SON』(1988)、シングル『BREATHLESS LOVE』バージョン |
9 | WHAT’S THE MATTER,BABY? | 『FATHER’S SON』(1988) |
10 | 詩人の鐘 | 『誰がために鐘は鳴る』(1990)、『The Best of Shogo Hamada vol.3 The Last Weekend』(2011) |
インターミッション 1. Mercy, Mercy, Mercy 2. You’ve Really Got a Hold on Me 3. What’s Going on 4. Mr. Moonlight 5. I Call Your Name | ※1.~3.は「100% FAN FUN FAN 2017 “The Moonlight Cats Radio Show” Welcome back to The 60’s」の映像、4.と5.は「ON THE ROAD 2023 Welcome Back to The Rock Show youth in the “JUKEBOX”」さいたまスーパーアリーナ公演前のセンターステージで収録した映像 | |
11 | A LONG GOOD-BYE(長い別れ) | 『FATHER’S SON』(1988) |
12 | LONELY – 愛という約束事 | 『J.BOY』(1986)、『Wasted Tears』(1989) |
13 | BREATHLESS LOVE | 『FATHER’S SON』(1988) |
14 | Theme of “Midnight Cab” | 『SAVE OUR SHIP』(2001) |
15 | …to be “Kissin’ you” | シングル『…to be “Kissin’ you”』(2000)、『SAVE OUR SHIP』(2001) |
16 | 境界線上のアリア | 『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』(1993) |
17 | 傷だらけの欲望 | 『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』(1993) |
18 | 初秋 | 『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』(1993) |
アンコール1 | ||
19 | DARKNESS IN THE HEART (少年の夏) | 『FATHER’S SON』(1988) |
20 | RIVER OF TEARS | 『FATHER’S SON』(1988) |
アンコール2 | ||
21 | 最後のキス | 『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』(1993) |
全体の感想 – 選曲から見る”青の時間”というテーマが意味するもの
今回のファンクラブツアー「青の時間」も、とても充実した時間であった。
ツアーも後半戦に入った神奈川公演1日目、演奏やステージにも十分慣れて脂が乗った時期に観ることができた感がある。浜田氏の歌唱も好調だったように思われた。
そして浜田氏が学生時代を過ごした街と言う思い入れも手伝って、気合の入ったステージだったと思う。
今回の選曲に関しては、かなり良い意味で予想を裏切られた。ほぼ『FATHER’S SON』『誰がために鐘は鳴る』『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』の3枚だけから選曲された。
時期を限定したツアータイトルにはしなかったものの、実質的には時期を区切ったライブと言っても良いだろう。ただそれは○年代、とか数字的に区切るのではなく、意味によって区切られていた。
では今回「青の時間」として区切った意味合いは何だったのか、分からないながら考えてみようと思う。
今回選ばれた3作品は、2023年のツアー「ON THE ROAD 2023 Welcome Back to The Rock Show youth in the “JUKEBOX”」で選曲された1976年~1986年より後の作品である。
この時代は、『J.BOY』というモンスターアルバムで打ち立てて(しまった、とも言える)ロックアイコン・社会派ロッカー浜田省吾というイメージからいかに次の段階に行くか、という時期だった。
今までより幅広い層に支持され始めたものの、ロックヒーロー的な分かりやすいイメージで括られてしまうことへの苦悩のようなものがあったようだ。
『FATHER’S SON』ではそれまでの少年の成長物語に1つ区切りを付ける作品であり、『J.BOY』以前とそれ以降を橋渡しするような作品になっている。
そして『誰がために鐘は鳴る』は内省的な作品と評されることが多いが、人間の心の機微を描くことにシフトし、これこそソングライターと言うスタンスに変わっていく過渡期の作品と筆者は見ている。
※『誰がために鐘は鳴る』がソングライター的視点の始まりだったことについてはこちらに書いた。
歌に登場する主人公は、これまでのような少年少女だけではなく、実に多様な主人公が登場し、ソングライターとして物語を紡ぐモードに変わっていったのであろう。
しかし一方で社会的に求められる浜田省吾像のようなものとは乖離していく訳で、その葛藤のようなものが『その永遠の一秒に 〜The Moment Of The Moment〜』まで重苦しく存在している。
そうした葛藤を突き抜けたように見えるのが1996年の『青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~』であり、ラブソングを軸にして多彩な主人公の物語が詰まった作品になった。
今回『青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~』が入っていないのは納得できるところがあり、やはりソングライターとして1つ突き抜ける前の、苦悩の時代を切り取ったと言う意味がありそうだ。
そしてこの3枚に入らなかった楽曲についてはどうだろうか。「LONELY – 愛という約束事」は『WASTED TEARS』という1989年のバージョンだったことから、この時期には当てはまる。
ただそれだけでなく、歌詞や世界観は既に『J.BOY』より先の地点を見つめていた楽曲なのかもしれない。
『SAVE OUR SHIP』から披露されたのはなぜだろうか。
少し話は逸れるが、「青の時間」と近いニュアンスを感じてならないのが、画家のピカソにおける「青青の時代」と言う時期である。
陰鬱とした作風で苦悩の中にあった過渡期の時代とされる。どこか今回選ばれた3作品も、「青の時代」的な過渡期の作品と言えなくもない。
そして『青空の扉~THE DOOR FOR THE BLUE SKY~』以降で言えば、『SAVE OUR SHIP』も若干過渡期の作品と言う雰囲気がある。
音楽的には新しい要素を取り入れようとし、歌詞の世界観も含めてやや模索の色合いが見て取れる。
その後、2005年の『My First Love』が自身の原点であるロックンロールに立ち返り、社会との接点を持ちながら歌の主人公の物語を紡ぐ、という明確な軸ができたのと比べるとより明らかである。
さらに2015年『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』ではソングライターというスタンスをついに明確にし、それまでの浜田氏の作風を統合するような作品に昇華した。
こうした歴史を考えれば、実は『SAVE OUR SHIP』も若干模索の時代に当てはまる作品なのかもしれない。
長くなったが、「青の時間」として選ばれたのは、ソングライターというスタンスを確立する前の過渡期、そして少し陰りがありつつ、模索の時代の曲たち、ということだったのではないか。
ごく個人的な体験を語ると、今回メインで選ばれた3作品は、大学進学のため上京した最初の不安な時期に、擦り切れるほど聴いた3枚なのであった。
実家にちょうどこの3枚のCDがあったということもあろうが、それだけではない。この3枚が外に向かうより、内なる自分を癒すような作品だったからなのではないか、と思っている。
浜田氏自身も、曲づくりの方向性として内側に向かって行った時代であり、それは自分自身を癒すための曲づくりであったのかもしれない。
それゆえこの3作は、他の時代以上に、傷つきへの癒しを感じさせる作品なのだ。
今回のコンサートも、もちろんロックコンサートの形式ではあるが、どこか癒しを感じたのも、「青の時間」を軸に選ばれた楽曲の効果が大きかったのではないか、と思ったりした。
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