日本のハードロックバンド人間椅子の初の映画作品”映画 人間椅子 バンド生活三十年”のDVD/Blu-Rayが2021年6月23日に発売となった。
2019年に行われた中野サンプラザ公演の模様を中心に制作された本作は、人間椅子ファンだけでなく多くの人に見てもらいたい映画である。
そこでこの記事では、『映画 人間椅子 バンド生活三十年』をさらに楽しむために、現在の人間椅子の活躍ぶりに至るまで、どのような道のりがあったのか、苦難の道と大躍進の過程を振り返ってみたい。
前半は、まだ映画を観ていない人向けに作品の概要をまとめている。後半は観た人に向けて、映画の感動をより大きくするための、人間椅子の歴史を振り返る内容としている。
『映画 人間椅子 バンド生活三十年』について
- 出演:人間椅子【和嶋慎治(Guitar&Vocal)、鈴木研一(Bass&Vocal)、ナカジマノブ(Drum&Vocal)
- 監督:岩木勇一郎
- 企画・製作:スピード
- 協力:徳間ジャパンコミュニケーションズ
- 配給:ティ・ジョイ
- 公開日:2020年9月25日(金)
『映画 人間椅子 バンド生活三十年』は、人間椅子のライブ映像を中心としたドキュメンタリー映画である。
収録されているライブは、デビュー三十周年記念ツアー「バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー」のファイナル公演、東京・中野サンプラザホール(2019年12月13日)である。
人間椅子はデビュー30周年を迎え、記念ベストアルバム『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』も2019年12月11日に発売された。
映画は、このライブの舞台裏も含めて、その高揚感・緊張感が伝わるような映像づくりとなっている。監督の岩木勇一郎氏は、DIR EN GREY・BUCK-TICK・SAなどの劇場版を手掛けている。
さらに2020年2月に行われた初の海外公演であるヨーロッパツアーの様子も収められている。
※映画の予告編
映画は全国の映画館で公開され、追加となった映画館もあり、盛況だったようだ。
<上映館>
札幌シネマフロンティア、イオンシネマ弘前、MOVIX利府、MOVIXさいたま、ミッドランドスクエアシネマ、新宿バルト9、横浜ブルク13、梅田ブルク7、T・ジョイ京都、T・ジョイ博多、静岡東宝会館、塚口サンサン劇場、宮崎キネマ館
そして今回のDVD/Blu-Ray化にあたり、映画本編に加え、ライブ映像も全曲収録されている。なお映画とはカットが異なり、ライブ映像として楽しむことができる。
現在、下記サイトにて、映画館で販売された映画パンフレットの通販が行われている。買いそびれてしまった人は、ぜひゲットしていただきたい。
少しだけ筆者の感想を述べると、小細工なしのストレートなドキュメンタリー作品だと感じた。大げさな演出やBGMなどは一切行われていない、ありのままのメンバーの様子が映し出されている。
過去の映像などが使われる箇所もあるが、隠し味と言ったところ。メインはライブ映像と、ライブ前後の会場や楽屋での様子である。
演出が行われない、ということは、観る側にその解釈は大きく委ねられている、ということであろう。バンドも30年のキャリアがあれば、観る側のファン歴にも大きなばらつきがある。
特定の層だけに届く内容ではなく、様々なファン歴の人が、それぞれの思いで映画を楽しんでほしい、というメッセージのように感じた。
※「#映画人間椅子」のつぶやき内容のまとめ
さらに『映画 人間椅子 バンド生活三十年』を楽しむために
感想として述べた通り、この映画はそれぞれの感じ方ができる作りになっていると思う。
ただ、人間椅子のこれまでの歩みを振り返った上で映画を観ると、また感動もひとしおなのではないか。そんな思いから、後半では映画を観る上で押さえたい人間椅子のターニングポイントをまとめた。
既に当ブログでは人間椅子の歴史を振り返る記事をいくつも書いている。が、筆者が改めて映画を鑑賞し、映画のシーンから思い出されるポイントをまとめ直してみた。
なお人間椅子の歴史全体を振り返った記事としては、下記リンクからぜひお読みいただきたい。
インディーズ盤『踊る一寸法師』のリリースと苦難の道
人間椅子は1989年にテレビ番組「三宅裕司のいかすバンド天国」に出演し、「陰獣」を披露したことで、デビューのきっかけをつかんだ。
世の中が”バンドブーム”だったこともあり、1990年のデビュー盤『人間失格』は売り上げを伸ばした。しかしバンドブームが去るとともに、みるみる売り上げは落ちていったようだ。
そして1994年の4th『羅生門』をリリース後、レコード会社との契約が終了となった。メジャーでCDを出せない状況となり、活動休止や解散と言う選択肢もあり得たのだろうか?
しかし和嶋氏・鈴木氏のインタビューを読むと、どうも「バンドは続ける」ことで一致していたようだ。どんな環境でも好きな音楽は止めない、出せるところからCDを出す、と。
そして1995年に5thアルバム『踊る一寸法師』がリリースされる。ドラマーは土屋巌氏が参加し、インディーズレーベルのフライハイトよりリリースされた。
1つ目のポイントとして、人間椅子がインディーズになったとしても活動を続け、アルバムをリリースしたことを挙げたい。
好きな音楽を続ける、言葉にすれば簡単だが、並大抵の覚悟ではない。そして本当に好きでなければ、そしてメンバーを本当に信頼していなければできないことであろう。
そして5th『踊る一寸法師』は、メジャーでの制約から解かれ、音楽的にも自由度が高まった。その結果、これまでにない曲調や歌詞が見られ、人間椅子の音楽性を広げることとなった。
この後は単発契約の作品が続くことになり、苦しい時代が続いていくこととなる。
和嶋氏は「いきなりデビューできたから下積みがなかった」と語っていたが、この時代が”下積み”となったのかもしれない。
映画の中では過去の映像として、「陰獣」、「踊る一寸法師」そして今回のライブの「芳一受難」へと続いていった。ここは人間椅子の歩みを思い返さずにはいられないシーンだ。
そして鈴木研一という人が、人間椅子のある意味”父”のような存在であり、ずっと”人間椅子らしさ”を守り続けてきたことを、しみじみと筆者は感じたのだった。
ドラマーの相次ぐ交代から、ナカジマノブの加入
人間椅子は和嶋慎治・鈴木研一の2人が中心となって結成された。しかしドラマーは何度も交代しており、歴代ドラマーは現任含めて4人いる。
その中で現在のドラマー、ナカジマノブは、2004年に人間椅子に加入し、歴代ドラマーの中でも最も在籍年数が長くなっている。
映画の中でも、彼が加入した当時のライブで2004年の12thアルバム『三悪道中膝栗毛』収録の「道程」を披露する映像が差し込まれている。
その後、2019年の21thアルバム『新青年』収録の「地獄小僧」の演奏シーンへと続き、人間椅子におけるナカジマ氏の変化、そして成長を感じられる作りとなっていると感じた。
2003年に前任ドラマー後藤マスヒロ氏が人間椅子を脱退。とにかくテクニカルで迫力のあるドラムだっただけに、誰が後任となっても難しい立場ではあっただろう。
ナカジマ氏は後藤氏とは違い、テクニックよりはシンプルなビートが心地よいタイプのドラマーだ。さらに、物静かなドラマーが多かった人間椅子で、陽気なキャラクターのドラマーは初めてだった。
そんなナカジマ氏がなぜ人間椅子の現ドラマーとして長く一緒に活動できたのか?和嶋・鈴木両氏との相性が実は良かったと言うのが1つだが、さらに言えば2人を尊敬していた、ということがあろう。
プレイヤーとして、そして人間椅子と言う個性的で凄いバンドを作ってきた2人と並んでプレイしたい、という思いが強かったのである。
加入当初こそ、まだロックンロール・テイストなドラムの印象が強かったが、2007年の14th『真夏の夜の夢』の頃には、すっかりハードロックのドラマーとして迫力を増していた。
人間椅子にとって”父”が鈴木氏なら、ナカジマ氏は”子ども”のような存在だったのかもしれない。ハードロックのプレイに関しては、2人に追いつこうと努力をする立場だった。
しかし2人にとっては、新しい風となり、そしてナカジマ氏の明るいパワーは、人間椅子をより活発なバンドへと押し上げていくこととなった。
今の人間椅子があるのはナカジマ氏のおかげである。
和嶋氏が表現において掴んだもの – 「深淵」という楽曲ができるまで
ここまで書いてみると、自然と鈴木研一、ナカジマノブという2人について焦点を当てた内容となった。そして次に来るのは、やはり和嶋慎治である。
鈴木氏が人間椅子の変わらない部分を担っているとすれば、和嶋氏は変化をもたらしてきた。人間椅子の多くの曲で歌詞を作り、世界観を形成する立場だけに、その変化はバンド全体にも大きく影響する。
和嶋氏の楽曲や歌詞の大きな変化は、まず2001年の10th『見知らぬ世界』で起きた。後で分かったことだが、和嶋氏は一度結婚しており、この作品を作る前に離婚をしていたのだ。
新たな思いで作った『見知らぬ世界』は前向きな楽曲が多く、当時は賛否両論であった。ただその後の和嶋氏は、また表現や人生に対して悩みを深めていってしまう。
筆者の推測ではあるが、和嶋氏は音楽的な点では90年代後半までに極めてしまったように思う。人間椅子としても、音楽的な頂点はその辺りの時期だったのではないか。
だからこそ、もっと別の表現の軸のようなものを探し続けることになったのではなかろうか、と思う。そんな軸を掴み始めたと思われるのが、2007年の14th『真夏の夜の夢』の頃である。
詳しくは和嶋氏の自伝『屈折くん』、あるいはBEEASTで連載されていた和嶋氏のコラムをお読みいただきたい。
楽曲としても、和嶋氏のパワーが戻ってきた感覚があり、「どっとはらい」でそれが顕著に感じられた。これまでにないパワフルな曲、それでいて従来のヘビーさも取り戻したような印象だ。
続く2009年15th『未来浪漫派』では、そんな表現の軸のようなものを、より平易な歌詞で書き上げた。そして「深淵」という曲で、和嶋氏の伝えたかったことを明確に表現できた。
映画では、基本的にライブの時系列に曲が並んでいる。しかし「深淵」だけが、エンディングの形で後に回っているのである。
「あゝ 私が幸せにあるのは 苦しみのゆえに」、この歌詞にすべてが含まれているように思う。人間椅子にとって、そして和嶋氏にとって大切な曲だけに、映画でも最後に配置されたのではなかろうか。
人間椅子メンバーを家族で例えてきたのだが、では和嶋氏が”母”なのかはわからない。ただ常に新しさを運んでくる存在であり、だからこそ不安定な部分もこれまではあったと言える。
しかし表現の軸を見つけた和嶋氏は、もうブレないように思う。こうして人間椅子の3人がしっかりと組んで、前に進んでいく準備が整ったのである。
OZZFEST JAPAN 2013への出演と”再デビュー”
映画の中では触れられていないが、やはりOZZFEST JAPAN 2013への出演は大きなポイントだった。
何と言ってもヘッドライナーとして、人間椅子が敬愛し追いかけてきたBlack Sabbathが来日したのだ。
人間椅子はそのBlack Sabbathと同じステージに立ったのである。その事実が人間椅子と言うバンドにもたらす影響は計り知れない。
これまで人間椅子が世間的には”イカ天バンド”というイメージがどうしてもつきまとっていた。しかし、このステージでの人間椅子は紛れもなく”現役のバンド”だった。
着実の新曲をリリースし、ライブを行い、新たなファンも獲得していた。そんな積み重ねが、しっかりとライブのパフォーマンスに表れていたように思う。
そして何より、この人数に人間椅子の音が届いたのである。それ自体、感動的なことだった。
OZZEST無事終了しましたー!
— NINGEN ISU(人間椅子)Official (@ningenisu_staff) May 12, 2013
ありがとうございました‼‼ pic.twitter.com/2nN8pHl4r9
なお筆者もライブに参加しており、より詳細に当時を思い出して書いた日記が下記のリンクである。セットリストや会場の雰囲気なども書いているので、ぜひお読みいただきたい。
さて、このフェスに出演したこと自体の影響ももちろんだが、作品作りへの影響も大きかったように思う。和嶋氏がインタビューで、「再デビューの気持ちだった」とよく話していた。
OZZFEST JAPAN出演後にレコーディングされた2013年の17th『萬燈籠』は、当時の熱気と”再デビュー”の意気込みが詰まったアルバムとなった。
和嶋氏の中で、「ダークでヘビーな音」がやはり求められている、という実感があったようだ。それゆえ、マイナーキーのヘビーな楽曲のみで構成されたアルバムに仕上がった。
人間椅子の原点とも言えるサウンドの作品となり、いつも以上にアグレッシブなアルバムとなった。この姿勢は、後も続くこととなり、その結果さらに新たなファンを獲得していく。
バンドとしての表現の核を再発見した人間椅子は、さらに次のステージへと向かうこととなる。
「無情のスキャット」で日本から世界へ
Web媒体や動画サイト等を通じて、人間椅子はさらに注目を集めていく。国内ではイベントへの参加、アニメ・ドラマ主題歌や劇伴を担当するなど、活動の幅も広げていった。
そんな中で、国内のみならず海外からの注目も集め始める。それに合わせ、YouTubeに公開された既存のMVにも、英語字幕を付けるなど、海外にも目を向け始めていった。
そして2019年にYouTubeに公開された「無情のスキャット」のMVが”バズる”こととなる。コメント欄を見る限り、国内のみならず、海外で大いに盛り上がっていることが分かる。
長年、人間椅子に聴き馴染んできた筆者は、最初それほど珍しい曲にも思えなかった。しかし聴き込むほどに、人間椅子の魅力が詰まった楽曲であることが分かった。
身体が動き出すような土着的なリズムとヘビーなリフ、そして仏教的な世界観の歌詞が印象的だ。加えて各メンバーの個性が際立つMVが組み合わさり、バズったのではないだろうか。
※「無情のスキャット」の魅力を掘り下げて書いた記事が、下記のリンクである。
そしてこの曲がきっかけとなり、人間椅子は2020年2月に初めての海外公演を行った。ドイツ(2公演)、イギリスの計3公演を行い、大盛況のうちに成功を収めたようである。
※筆者による海外公演への道のりのまとめは、下記リンクから読むことができる。
映画ではエンディング後に、海外公演の様子も映し出されている。ヨーロッパで代表曲「りんごの泪」や「人面瘡」が演奏される様子は、何とも言えない感慨深さがあった。
海外で生まれたハードロックと言うジャンルを、日本的な解釈をしたのが人間椅子である。それが現地で人気が出た、と言うことは、また1つ人間椅子にとって大きな自信となったのではないか。
つまり、日本発のハードロックバンドが、ついに原産国で評価されるようになったのである。そんな”お墨付き”をもらった人間椅子の今後がさらに楽しみでならない。
※海外から評価されるようになった要因についてまとめた記事は、下記リンクの通りである。
まとめ
今回の記事では、『映画 人間椅子 バンド生活三十年』の紹介、そして映画をさらに楽しむために、人間椅子の歴史を振り返るような内容で書いてみた。
映画を注意深く見てみると、各メンバーの歴史も浮かび上がってくる。それぞれのメンバーの結束が固まるごとに、それが今のブレイクにつながっている。
バンドの歴史、そしてメンバーの歴史も振り返ってみると、さらに映画を楽しく見ることができるだろう。そしてバンドのヒストリー本『椅子の中から』は、映画にも登場するためおすすめだ。
人間椅子は2021年8月に22枚目となるアルバム『苦楽』を発売することが決定している。それに併せて、アルバム発売ツアーの日程も発表された。
これからの人間椅子にも目が離せない。
<据え置き型の音楽再生機器に迷っている人におすすめ!>
Bose Wave SoundTouch music system IV
これ1台でインターネットサービス、自身で保存した音楽、CD、AM/FMラジオを聴くことができる。コンパクトながら深みがあり、迫力あるサウンドが魅力。
自宅のWi-FiネットワークやBluetooth®デバイスにも対応。スマートフォンアプリをリモコンとして使用することも可能。
コメント