このブログでは、毎月よく聴いたおすすめのアルバムを5枚ずつ選んで記事にしている。
※先月(10月~11月)よく聴いたおすすめアルバム5枚紹介記事
2021年最後となるアルバム5枚は、2021年発売のアルバムを3枚選んだ。また今回は全て日本のアルバムが並んでいる。
ジャンルも比較的オーソドックスなポップスが多めとなった。5枚目には人間椅子の『頽廃芸術展』の再販にまつわる出来事について思うことも書いている。
児島未散 – Sing for you… (2021)
最初に紹介する作品は、1985年~1994年まで歌手活動を行っていた児島未散の27年ぶりのアルバムである。
児島氏は高校3年生だった1985年に「セプテンバー物語」でデビュー。
作詞が松本隆、作曲が林哲司による1stアルバム『BEST FRIEND』、この2人が全編タッグを組んだのは後にも先にもこれだけだと言う。
1990年にリリースした「ジプシー」がシャンプー「プレーン&リッチ」のCMに起用されてオリコンチャート4位を獲得。
1998年に渡米をし、日本の芸能界から離れていた。音楽により深く携わりたいと言う思いがありながら、日本の音楽業界をめぐる状況は渡米している間に一変していた。
一度はあきらめかけた音楽活動への復帰だったが、2016年にアコースティックライブハウス「Goodstock Tokyo」を拠点にライブ活動を再開。
※産経新聞「児島未散さんが歌手復帰 27年ぶり新作アルバム」
そして27年ぶりのアルバム『Sing for you…』をリリースした。10曲入りのアルバムであり、うち4曲はセルフカバーであり、以下の楽曲である。
- セプテンバー物語(1stアルバム『BEST FRIEND』(1985)収録)
- マリンブルーの恋人達(2ndアルバム『MICHILLE』(1986)収録)
- floraison(5thアルバム『floraison』(1992)収録)
- ジプシー(4thアルバム『ジプシー』(1991)収録)
新曲は、ライブでともに活動していたギター池間史規(2019年に死去)、ピアノ古垣未来による作曲、また児島氏自身も作詞・作曲を行っている。
さて、児島氏の音楽性の魅力とは何であろうか。1994年までの音源を聴く限り、いくつかのポイントがあるように思う。
1つは初期のシティポップ的な爽やかなサウンドである。本作では「セプテンバー物語」や「マリンブルーの恋人達」などが該当する。
そして1990年の「ジプシー」では、憂いのあるしっとりとしたポップスに路線が変わった。ただこの路線は、アルバム『ジプシー』に限られる独特なものだ。
1992年の『floraison』以降は、当時のJPOPの流れにある普遍的なポップスになっていったように思われる。
大きく分けると、以上3つの音楽的な特徴があるように思う。本作『Sing for you…』では、この3つの要素がすべて詰まったアルバムになっているように思う。
たとえば「ジプシー」のような哀愁を感じさせる楽曲は、新曲の「青い鳥」や「lapis lazuli」にも感じ取ることができる。(いずれも池間史規氏による楽曲であった)
ジプシー(2020年のライブ映像)
またタイトル曲「Sing for you…」は、児島氏自身の作詞・作曲によるものであり、「floraison」以降の普遍的なポップスを思わせる。
「Sing for you…」(2021年「児島未散 無観客配信アコースティックライブ」より)
全体的にはしっとりとした大人のポップスに仕上がっており、初期のシティポップ的要素はセルフカバーから、”懐かしさ”とともに感じ取ることができるのではないか。
過去の作品を振り返りつつも、今のサウンドを探しながら作られたアルバムだと感じた。
NakamuraEmi – Momi (2021)
ヒップホップやレゲエなどを感じさせるNakamuraEmiの最新作『Momi』である。様々な点で、これまでの作品とはカラーの異なるアルバムに仕上がっている。
以前、当ブログでは『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』を2020年のおすすめアルバム記事で取り上げた。
これまでは『NIPPONNO ONNAWO UTAU』というタイトルで、アルバムやベストアルバムを作ってきたが、本作ではその枠を1回取り払おうということになったそうだ。
以下のインタビューにその経緯や変化について、詳しく書かれている。
※インタビュー「NakamuraEmiを変えた、7つの“大切な一歩”」
ちょうど『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』をリリースして、やりきった感覚があったそうだ。
また男女をめぐる言説が「NIPPONNO ONNAWO UTAU」を言い始めた頃とは違うことも影響しているようである。
そしてコロナの影響も大きく、がむしゃらに作るのではないスタイルもあるのではないかと、感じたようだ。
それはサウンド面での変化にも表れている。これまでアコースティックで簡素なアレンジを続けてきたが、今回は打ち込みのドラムを使用し、無機質なサウンドを取り入れている。
これまでのアコースティックギターを軸にしたサウンドは、どちらかと言うと攻撃的な楽曲との相性が良かったように思う。
代表曲「YAMABIKO」や、『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』の「かかってこいよ」などで、Nakamura氏の攻撃モードは1つの頂点を迎えたように感じる。
続く『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.6』では、既にその攻撃モードから変化が見られているようにも感じた。より温かみのある楽曲が増えてきたような感触である。
本作『Momi』は、「過去の作品の種まきから変化し苗になり、新しい作品が籾のように実ったイメージ」とインタビューでは書かれていた。
まさにここ数作からの変化とともに、より人間味の溢れる楽曲が増えてきたように感じられる。3か月連続シングルリリースされた楽曲も本作には収められている。
「drop by drop」MUSIC VIDEO
コーヒードリップを取り上げた「drop by drop」。家で過ごす時間が増えたことで、コーヒーが1滴ずつできていく様子から生まれた楽曲のようだ。
歌詞はこれまでのNakamura氏らしいものだが、サウンドがよりジャズ風の落ち着いたものになったことで、Nakamura氏の歌声が際立っている。
「投げキッス」はコロナの状況でこそ作られた歌詞だが、これまで歌ってきた内容と一貫したメッセージにはなっている。
「投げキッス」MUSIC VIDEO
大胆に打ち込みを持ち込んだことで、メッセージにより説得力が増しているようにも思う。
「私の仕事」では、ストリングスのアレンジが美しいバラード曲になっている。今までの編成ではできなかったタイプの楽曲である。
「私の仕事」MUSIC VIDEO
現在のスタイルになる前は、バラード曲を中心に歌っていたというNakamura氏。あえてそうした路線に戻らないように封印していたのではないかとすら思う。
しかし彼女の歌詞や世界観の軸が定まった今、どんなアレンジでやったとしてもNakamuraEmiの歌になるのではないか。そんな自信も感じさせる仕上がりになっている。
本作のサウンドの変化をどう捉えるかはそれぞれだろう。ただNakamuraEmiは「かくあるべし」という枠が取っ払われたことで、さらに音楽的な広がりが増した作品と言えるのではないか。
Fire Attack – Wave Motion (2021)
渡辺ファイアーとアタック松尾によるファンク・インスト・ユニット、Fire Attackの2枚目となるアルバムである。石川俊介(ex.聖飢魔Ⅱ)と村上広樹がレギュラーメンバーに加わっている。
渡辺ファイアー氏のサックスを前面に押し出したファンクバンドである。2013年からFire Attackが始動し、2015年に1stアルバム『Fire Attack』がリリースされている。
6年ぶりとなる本作。筆者は何気なく見つけた作品で、聖飢魔IIの石川氏が参加しているところから、興味を持った次第である。
ライブ映像を見れば、その様子はよく分かる。かなり激しいファンクであり、各メンバーのソロも入りながらとても楽しげである。
本作に収録されている「Sprite Smash」のライブ映像もあった。
Sprite Smash / ファイアーアタックLive at Hey-JOE
激しいファンクも良いが、落ち着いた楽曲での演奏のクオリティの高さが光る。自由自在に動き回るグルーブ感はさすがと言うほかない。
ファンクにロック的な激しさをブレンドしたようなアルバムになっている。ぜひライブでも見てみたくなるようなアルバムである。
堀内孝雄 – Fall In Love Again (1987)
アリスで活動後、ソロの歌手・作曲家として活動する堀内孝雄のソロ9作目のアルバムである。
堀内氏と言えば、1971年より谷村新司・矢沢透と結成したアリスで活動し、「冬の稲妻」「遠くで汽笛を聞きながら」などの作曲を手掛けている。
アリスの傍らで、1978年に「君のひとみは10000ボルト」でソロデビュー。アリス活動停止後は、ソロで活動をし、「愛しき日々」「恋唄綴り」「影法師」などの楽曲がある。
ソロではフォークから「ニューアダルトミュージック」と称する演歌・歌謡曲路線へと変更している。
今でこそ堀内氏と言えば演歌のイメージが強いかもしれないが、1980年代にリリースした作品が必ずしも演歌の楽曲ばかりではなかった。
本作のような、AOR的な色合いを感じさせる楽曲も実は多かったのである。
まずは本作ジャケットは、ギターのネックに乗った堀内氏が印象的である。このジャケットからも演歌ではなく、ポップスやロックなどへの敬愛を感じさせる。
いわゆる演歌的な楽曲は、ヒットした「遥かな轍」ぐらいになっている。それ以外はソフトロック、ポップス的な佳曲が並ぶアルバムである。
「1枚のメール」の爽やかなソフトロックでアルバムは幕を開け、「10代のように」では、タイトルである「Fall In Love Again」を歌詞に込めるロッカバラードとなっている。
筆者としては「時よ君は美しい」や「そよ風のように」など、王道のポップスの楽曲が心地好くて気に入っている。
アルバム全体を通じて、ゆったりと聴けるような楽曲が並ぶ。ポップス路線の時代の堀内氏の作品を探してみるのも良いかもしれない。
人間椅子 – 頽廃芸術展 (1998)
ハードロックバンド人間椅子が1998年にリリースした7thアルバム『頽廃芸術展』が、2021年12月15日に再プレスとなった。
2003年に再販となったものの、その後に長らく廃盤となっていた。近年ファンになった人にとっては、入手困難となっていたアルバムである。
アルバムは人間椅子の活動状況が厳しい時期の作品で、和嶋氏は家族の都合で実家のある青森県で暮らしていた。
そのためメンバーが全員青森県に滞在し、弘前のライブハウスMag-Net・亀ハウスで手探りでレコーディングされた苦労作である。
バラエティに富んだ楽曲が詰め込まれ、まさに”芸術展”的な内容である。詳しいアルバムの内容などは、下記のページに書いている。
ここでは再販をめぐる動きについて、思うところを書いておきたい。
今回の再販であるが、人間椅子の公式発表がなかったことがずっと気にかかっている。近い時期(11月24日)に、同じく入手困難だった5th『踊る一寸法師』の再販があった。
こちらは現在のレコード会社である徳間ジャパンからのリリースで、リマスター・UHQCDでの再販ということで、公式からも何度かアナウンスがあった。
アルバム5作品がUHQCDにて11月24日再発決定!
— NINGEN ISU(人間椅子)Official (@ningenisu_staff) November 17, 2021
💿萬燈籠
💿無頼豊饒
💿怪談そして死とエロス
💿異次元からの咆哮
💿踊る一寸法師 pic.twitter.com/HSziwMqNmB
しかし『頽廃芸術展』に関しては、公式からの発表(SNSやオフィシャルサイト)は一切なく、唯一発売後にレコード会社のテイチクが再発したツイートをリツイートしたのみだった。
【#人間椅子】
— テイチクエンタテインメントJ-POP (@teichikujpop) December 15, 2021
禁断ノアルバム遂ニ復刻。
『#頽廃芸術展』を限定再プレス💫1998年2月21日に発表されたアルバムで、2003年1月22日再発、今回再々プレスとなります🎵名曲と絶賛される多くの楽曲が収録された唯一のレヴェイユ(テイチク)からの作品をこの機会に是非🛒https://t.co/JHsfy3Gw2W pic.twitter.com/ilPPSSy2xB
個人的にはこの扱いの違いが、何となく気になってしまった。
『頽廃芸術展』はリマスターでもなく、2003年の再販の再販と言う形である。そして公式からも発表がないということで、何となくレコード会社の裁量で進められたように思えてしまう。
『踊る一寸法師』はリマスターしたと言うことで、人間椅子サイドでも作業することもあり、良い音で届けたいという思いを感じるものであった。
しかし『頽廃芸術展』は、どことなく人間椅子が売れるようになったことで、今再プレスしたら売れるのではないか、というビジネス的なものに見えてしまった。
もし筆者の見方が邪推であるなら、公式からアナウンスが事前に欲しかったところである。
とは言え、アルバムの内容は充実の名作であり、ジャケットも味わい深いものである。再プレスの枚数も限定的なようなので、この機に欲しい人は入手していただきたい。
※5thアルバム『踊る一寸法師』のレビューとUHQCDの音質について
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