【アルバムレビュー】人間椅子 – 人間失格(1990) アルバムとしての魅力と、その歴史的な意義

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アルバムレビュー
画像出典:Amazon

日本のハードロックバンド人間椅子が、”イカ天出身バンド”という肩書だけで語られたのはもうひと昔前の話。

今や「無情のスキャット」の再生回数は800万回を超え、2度のOZZ fest Japanへの出演など、この10年ほどの間に人間椅子は大きく躍進したバンドとなった。

とは言え、その原点はテレビ番組のイカ天であり、この番組がきっかけになってプロとしてデビューを果たした。そんな人間椅子の記念すべき1stアルバムが『人間失格』だった。

昨年は発売から30年という記念の年で、雑誌「ヘドバン!」では特集も組まれていた。

人間椅子の作風を世に知らしめた金字塔的な作品ゆえ、名作に違いないのだが、音の悪さもあってか、実は筆者はあまりアルバムを通して聴いてこなかった作品だった。

改めてアルバム『人間失格』を通してじっくりと聴いてみた。今回の記事では、アルバムの魅力、そして人間椅子の歴史、さらには音楽の歴史の中での位置づけまで広げて考察してみようと思う。

残念ながら筆者は当時の雰囲気をリアルタイムには感じていないため、バンドブームの考察ではなく、人間椅子の歴史やハードロックという視点からの文章になる。

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人間椅子のデビューから『人間失格』の発売まで

人間椅子のデビューからアルバム『人間失格』発売までの道のりを、ごく簡単に振り返っておこう。

中学時代に出会ったギター・ボーカルの和嶋慎治、ベース・ボーカルの鈴木研一を中心に、人間椅子は結成されている。彼らが大学時代に、ドラマーの上館徳芳が加わり、結成に至った。

70年代のハードロックを基調とした音楽性は、デビュー前から出来上がっていたようだ。

大学時代にはオリジナル曲を作っており、『人間失格』に収録されることになる「りんごの泪」や「鉄格子黙示録」などは既に存在していた。

そして1989年にテレビ番組「三宅裕司のいかすバンド天国」に出演し、「陰獣」を披露した。

鈴木氏のねずみ男の格好が話題になったが、審査員の間では演奏技術や世界観が高く評価された。同年、インディーズで通称0thと言われる『人間椅子』を発売。

そして翌年1990年メルダックより1stアルバム『人間失格』をリリースする。

※その後の人間椅子の歴史については、以下の記事にまとめている。

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アルバム『人間失格』全曲レビュー

ここでは『人間失格』の全曲についてレビューしていきたい。その前に、アルバム全体についての情報をまとめておこう。

  • 発売日:1990年7月21日、1998年7月23日(廉価盤再発)、2016年11月2日(UHQCD再発)
  • 発売元:メルダック、徳間ジャパンコミュニケーションズ(HQCD再発)
  • メンバー:和嶋慎治 – ギター、ボーカル、鈴木研一 – ベース、ボーカル、上館徳芳 – ドラムス
no.タイトル作詞作曲時間
1.鉄格子黙示録和嶋慎治2:30
2.針の山和嶋慎治Tony Bourge, Burke Shelly, Ray Phillips3:28
3.あやかしの鼓和嶋慎治和嶋慎治・鈴木研一5:18
4.りんごの泪和嶋慎治鈴木研一・和嶋慎治4:03
5.賽の河原和嶋慎治和嶋慎治・鈴木研一5:20
6.天国に結ぶ恋和嶋慎治和嶋慎治4:18
7.悪魔の手毬歌和嶋慎治鈴木研一4:09
8.人間失格和嶋慎治和嶋慎治・鈴木研一7:00
9.ヘヴィ・メタルの逆襲鈴木研一鈴木研一3:00
10.アルンハイムの泉和嶋慎治3:15
11.桜の森の満開の下鈴木研一鈴木研一・和嶋慎治6:26
   合計時間48:47

アルバム『人間失格』は、人間椅子のデビュー前からのレパートリーと新曲とで構成されたアルバムだ。既に0thで収録されたものも、再録されて本作にも収録された。

最も特徴的なこととして、デジタル録音したにもかかわらず、トラックダウンの際にアナログのようなサウンドにしたことだ。その結果、かなりこもった音になっている。

2016年のUHQCD再発の際には、リマスターによってクリアな音となっている。

当時はバンドブームや番組出演もあって、本作はオリコンチャートで31位を記録した。ハードロックが主流ではなかった当時にあって、かなり売り上げたアルバムと言えよう。

ではここからアルバム『人間失格』の全曲について、レビューを行っていきたい。なお各曲の細かい情報は、以下の記事でまとめてあるので参考にされたい。

鉄格子黙示録

和嶋氏が高校時代に作った曲であり、UFOにアブダクションされた経験の後に作風が変わってできた曲だと言う。ある意味、意図せず人間椅子的な楽曲ができたとも言えるだろう。

本作では前半部分のみが収録されており、イントロ曲的な扱いだ。

冒頭、ベースのみで始まるところがカッコいい。そしてリフはややプログレッシブなフレーズであり、短い中にも技巧的なフレーズを詰め込まれている。

後半に進む前で終わっており、次の曲にそのまま流れ込む。アルバムの幕開けに相応しく、高揚感のある導入曲の役割を果たしている。

なお歌詞が入っている完全バージョンは、2009年にリリースされたベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』に新録された。

針の山

人間椅子はいくつかカバー曲にオリジナル詞をつけていたが、その中でBudgieの「Breadfan」にオリジナル詞をつけたものだ。

カバーでありながら、ライブの定番曲となりオリジナル曲並みに愛される楽曲となった。その要因としては、アレンジと歌詞にあるように思う。

アレンジはMetallicaがカバーしたよりも、原曲に近いテンポ感だ。それがいかにも70年代ハードロックを愛する人間椅子のサウンドとマッチしていた。

そして人間椅子の特徴の1つでもある”地獄”をテーマに、自由律俳句のような文学的な歌詞が、当時”文芸ロック”などと呼ばれた世界観を象徴するものだった。

曲こそオリジナルではないが、それ以外の歌詞やアレンジが秀逸であり、人間椅子のオリジナルと言って良いほどの出来栄えである。

あやかしの鼓

本作の中では”新曲”であり、アルバムに向けて作られた曲だそうだ。「針の山」で盛り上がったところから、一転しておどろおどろしい世界観へと入り込んでいく。

そして本作でも屈指の怪しさであり、人間椅子のダークな世界観を象徴する名曲だ。リズム、メロディ、展開の3つの点から述べてみたい。

まず冒頭のドラムのリズムは、ねぷた祭りの「行進」のリズムを取り入れている。こういった日本の土着的なリズムを、ハードロックの中に取り入れたアイデアは素晴らしい。

そして着地点のない不穏なメロディラインも怪しさを増している。どこまで意図したものかわからないが、特に和嶋氏のBメロはどこに向かうか分からない、不気味なメロディだ。

最後に、曲の構成も面白い。アウトロ部分では歌がなく、アップテンポになる展開が、より狂気的な雰囲気を高めることに成功している。

若さゆえの勢いもあると思うが、それも含めてこの時期にしか作り得なかった不気味な楽曲になっている。

りんごの泪

人間椅子の代表曲と言ったら必ず挙がるであろう名曲だ。この曲もまたハードロック全体においても革新的な楽曲だと思っている。

この曲は大きく前半・後半に分かれ、前半は鈴木氏・後半は和嶋氏が主に作ったものだろう。2人の個性が見事に融合し、人間椅子の世界観を形作っている。

前半の鈴木氏によるリフは、鈴木氏が初めて作った「デーモン」という曲のリフがもとになっている。初めて作ったからダークな世界観なのも驚くが、これも土着的なリズムで面白い。

そして鈴木氏のメロディは、わらべうたのような覚えやすいものが多い。「りんごりんご」と誰でも口ずさめるメロディは頭に残るものだ。

後半の和嶋氏の部分はダンサブルなリズムで、カッティングギターを軸にしたリフも興味深い。そして何と言っても津軽三味線ギターを大胆に導入した点が画期的だ。

「あやかしの鼓」でも一部取り入れられているが、よりダイレクトに三味線の弾き方を取り入れている。

ここまで「あやかしの鼓」のダークな部分、そして「りんごの泪」がハードロックの楽しさを見せている。この2曲が、アルバムの中で人間椅子の名刺的な役割となっていると思う。

賽の河原

再びヘビーな楽曲となるが、「あやかしの鼓」のような狂気を感じさせるものではなく、仏教における無常を感じさせるような楽曲である。

作曲は和嶋氏が先に来ているが、2人のリフを組み合わせて作り上げたようだ。ただこの悲しげなメロディラインは和嶋氏の作風を強く感じるものだ。

この曲もまた人間椅子が作り出したハードロックの1つの形である。海外では”Hell”を歌う楽曲が多いが、それを日本における”地獄”や”あの世”と捉え、日本的な解釈で見事に作り上げている。

サビには『賽の河原和讃』を取り入れるなど、日本人にしか作り得ないオリジナルなハードロックだ。海外公演で演奏されたことも納得の楽曲である。

また転調も巧みに組み込まれ、メインリフはEmで始まるが、BメロでAmに転調しているが、とてもさりげなく転調し、一気に悲しげな展開となるところが秀逸だ。

このクオリティの楽曲が次々と続く『人間失格』の奥深さを感じざるを得ない。

天国に結ぶ恋

アナログ盤で言えばA面ラストの曲であり、アルバムの中では最もスラッシュメタルを感じさせる楽曲だ。

歌詞の元になっているのは、身分違いの男女の心中事件で、その後女性の遺体が持ち去られたという猟奇的なエピソードである。

人間椅子の中でも和嶋氏が作る歌詞には、こういった猟奇的なもの・不気味なものが文学的に描かれる。和嶋氏の歌詞からファンになったという人も多いのではないだろうか。

楽曲に目を向ければ、変拍子のメインリフが耳に残る。リズムは後付けで、このリフが先に頭に浮かんだというから、和嶋氏は独特な感性をやはり持っていると感じさせる。

そして中間部には非常に難解でプログレを思わせるフレーズが登場する。これもまた人間椅子の魅力の1つであり、既に1stアルバムからその要素を感じることができる。

悪魔の手毬歌

B面の1曲目は横溝正史の小説のタイトルから、鈴木氏単独の作曲である。エフェクトのかかったベースから怪しげにスタートする。

活動初期は、まだ鈴木氏は単独で1曲作ることに自信がなかったようだ。そんな中、後半まで展開するヘビーな楽曲を作り上げ、渋めの名曲が誕生した。

この曲も「賽の河原」と同じく、ヘビーな部分とメロディアスな部分がうまく融合している。Black Sabbathの『Sabbath Bloody Sabbath』の頃からインスピレーションを受けたと思われる。

作詞は和嶋氏であるが、珍しく物語を描写したような詞となっている。今の人間椅子ではあまり見られない歌詞だが、やはり変化してきた部分もあると言うことだろう。

人間失格

アルバムタイトル曲にして、ヘビーかつプログレッシブな名曲である。しかしここまでポップな要素を感じないタイトル曲も凄まじい。

言わずもがな、太宰治の『人間失格』からタイトルを借りているが、「あやかしの鼓」同様、着地点のない不思議なメロディであり、サイケな雰囲気さえ感じる

本作に限ってみられるように思うが、アバンギャルドな雰囲気がよく表れた楽曲だ。ヘビーなリフだが、わかりやすくハードロックとも言えない、何かが蠢くようなリフである。

そして長い中間部が挿入されており、暗闇で水が滴るような効果音のギターなど、絶望感が表現されている。こういったプログレ的な中間部も、後の人間椅子では定番となっていく。

ラストへと流れ込んでいく展開も狂気を感じさせ、圧巻だ。こうした展開の妙は既に本作から出来上がっており、人間椅子の楽曲の大きな特徴の1つとなっている。

非常に渋い楽曲ではあるが、後の人間椅子にとって重要な意味を持つ1曲だ。

へヴィ・メタルの逆襲

ヘビーな「人間失格」から一転、陽気なハードロックである。これも「悪魔の手毬歌」とともに、鈴木氏単独の楽曲であり、当時は”ナンセンスソング”などと括られていた。

楽曲としては非常にシンプルなハードロックだ。ベースとギターのユニゾンが心地よい、ハードロックの王道のアレンジとなっている。

歌詞に関しては、本作の中では異色である。これ以外の楽曲に、”普通の人”が登場しないが、この曲だけメンバーの等身大とも思える内容となっている。

ややコンセプトアルバムとも言える本作にあって、あえて外すと言うのも、後の人間椅子を見ると行われていることだ。こう言った、コンセプトに縛られない自由さも人間椅子の魅力であろう。

アルンハイムの泉

和嶋氏によるインストゥルメンタルであり、一度仕切り直しをするような立ち位置となっている。

こういった静かな曲が収録されたのは、往年のハードロックのアルバムでは必ずアコースティックな曲が収録されているためである。

即興で作られたようだが、和嶋氏のコードワークが光るソロ作品のようだ。今後何作かアコースティックの曲が収録されるが、徐々にその楽曲も人間椅子らしさが出てくる。

桜の森の満開の下

アルバム最後を飾るにふさわしい力作であり、0thアルバム『人間椅子』にも収録された楽曲だ。

ワウペダルを用いたリフは『陰獣』に続くものだが、ヘビーさよりも不気味さを感じさせるリフとなっている。

そして中間部では4つ打ち的なダンスビートとなっている点が面白い。こういった唐突な展開も、ハードロックの魅力の1つではないか、と筆者は思っている。

そしてメインリフに戻ってから、さらに展開していく。この流れはBlack Sabbathの「War Pigs」あたりを思い起こさせる。

後の人間椅子を考えれば、そこまで複雑な展開の曲ではないかもしれない。ただ細かくリフやリズムを変化させている点は注目すべきであり、1stアルバムから高いクオリティで作られている。

それでこそ、今でも人気の高い名曲の1つとなっているのだろう。

アルバム『人間失格』の評価と意義

ここまで『人間失格』の全曲について振り返ってきた。個々の楽曲も素晴らしいものが揃っていたが、ここからアルバム全体としての評価についてみていきたい。

さらにこのアルバムが人間椅子にとってどんな意味を持つものなのか、そして広くハードロックのアルバムとしてどんな作品と捉えられるのか、掘り下げてみていこう。

アルバム全体としての評価

個々の楽曲が人間椅子の代表曲となっているものが多く、それ自体で素晴らしいアルバムである。ただそう言った後の歴史はいったん置いておくとして、1枚のアルバムとしてはどうなのだろうか。

そこでアルバム全体を通じての評価をしてみたいと思う。

アルバムのコンセプト

アルバムのコンセプトが立てられている訳ではないものの、”イカ天”では”文芸ロック”なる括られ方をしてしまった以上、そういったコンセプトを暗にレコード会社が立ててもおかしくない。

『人間失格』というタイトルは人間の闇の部分や生と死を感じさせるものであり、ダークでヘビーな内容を中心に据えるものとなっている。

0th『人間椅子』では、音楽的に少し明るく感じられる「神経症I LOVE YOU」なども収録されていたが、陽気なジャンルの楽曲は意図的に省かれているように思う。

こうしたジャンル的な縛りは、人間椅子の1作目としては明確な方向性を打ち出した点では良かったものの、次回作以降はこの路線をいかに守り、そして壊していくかという戦いとなった。

明確な音楽性・コンセプトが最初から固まっている点は大いに強みではあるが、継続していくことは並々ならぬ努力が必要と思われる。実際にそれを実践した人間椅子はやはり凄いバンドだ。

サウンドと楽曲の印象

本作の特徴の1つは、何と言ってもこの”こもった”音である。全体がモコモコした音で、クリアな音とは程遠い、半世紀前のロックよりも音が悪いように感じる。

メンバー自身もこの音作りは失敗だったと後に語っている通り、やはりアルバムの欠点として挙げざるを得ない点だろう。

ただ現在は2016年にUHQCDとして再発された際には、大幅に音質が上がっており、他の作品と並べて聴けるクオリティとなった。未入手の人は絶対に入手してほしいと思う。

そして音が暗いせいで、暗い印象のアルバムであるが、思いのほかアッパーな曲は多いように思う。「針の山」「りんごの泪」「天国に結ぶ恋」など、アップテンポな曲は割に多い。

そして「あやかしの鼓」「悪魔の手毬歌」はダークながらも、ラストに速くなる展開があり、暗いだけに終わらない楽曲である。

こういったハードロックの持つパワーを受け継いでいる辺り、”ドゥームメタル”と括るバンドではないと筆者は感じている。

暗さを追求していくより、ダークな表現でロックの輝きを求めるのが人間椅子のスタンスのように思う。この姿勢もまた、デビューから今日に至るまで変わっていない

アルバムとしての構成・曲順

本作は、デビューまでの総決算のアルバムと言う印象だ。アルバムのために1から曲作りしたものでなく、デビュー前から繰り返し演奏された楽曲と新曲で構成されているからだ。

ストックがあったこともあり、個々の楽曲は大変充実しており、現在も代表曲として演奏されるのも納得だ。”名曲の宝庫”と言って良いような、それだけで名盤とも言える。

それだけにアルバムとして1枚にまとめ上げるには苦労もあったのではないかと思う。デビュー前のレパートリーは他にもあり、どれを本作に含めるのか悩んだことだろう。

そのためか、0thに収録された代表曲「陰獣」は長らくアルバムに入ることはなく、「人面瘡」「猟奇が街にやって来る」なども後々になって収録されることとなる。

選曲については、メンバーやレコード会社など様々な思惑が入り混じったものになったと想像される。

メンバーとしてはハードロックのアルバムを目指そうとしたのだろう。「アルンハイムの泉」という静かなインスト曲を入れて、ハードロックの伝統を守っている。

一方でレコード会社としては、当時流行っていないハードロックよりも、奇抜な見た目や文学的な世界観を押し出そうとしていたと推察される。

結果的には、ダークで文学的な雰囲気の漂う楽曲が中心に据えられた選曲になっていると思う。

人間椅子は比較的メンバーの意向を尊重した形で音楽活動ができたと聞く。それでもバンドブームの中、ビジネスと芸術との狭間にあった作品とも見ることもできそうだ。

人間椅子の歴史における意義

最後に『人間失格』と言うアルバムが、どういった意味を持つアルバムだったのか考察してみよう。

人間椅子の歴史の中で、そしてハードロックのアルバムとしての意味の2つについて書いてみた。

人間椅子の歴史における『人間失格』

人間椅子の歴史から見れば、世に人間椅子の音楽を知らしめた最初の作品であり、内容としても人間椅子の全てが詰まった作品とも言える。

何度も述べている通り、人間椅子のダークな世界観は本作からブレていないし、最初から高い音楽性を持って楽曲が作られている。

「針の山」はライブの本編最後に必ず演奏されるようになり、「鉄格子黙示録」「りんごの泪」「天国に結ぶ恋」など、現在もライブでは頻繁に演奏される楽曲が多数収録されている。

当ブログで独自に行った人間椅子の好きな楽曲ランキングで、全アルバム中最も多くの得票数だったのが、『人間失格』だった。

それだけ人気のある作品であり、中には『人間失格』は他のアルバムと別枠で考えたいほどの名盤、という人もいるのではないか。

結果的には良くも悪くも、このアルバムが基準となり、ある意味で縛られるものともなったのではないか。

ダークで文学的な楽曲”が求められることになったが、デビュー前から人間椅子はハードロックの様々なタイプの楽曲を演奏していた。やはりこの作風だけに止まる訳にはいかないのだ。

続く『桜の森の満開の下』『黄金の夜明け』では徐々に音楽性を広げていくことになる。

バンドブームが去る中で売り上げは下がったが、人間椅子は好きな音楽を続ける道を選んだ。インディーズや単発のメジャー契約など、苦しい状況になっても、活動休止はしなかった。

人間椅子にとって『人間失格』は1つの基準ではあるものの、メンバーにとっては”やりたい音楽”がここに詰まっているのであり、デビュー頃の若い時代の青春が詰まった作品であった。

メンバーが思いを込め、音楽的に素晴らしいものとして完成できたことが、人間椅子を今日まで続けさせた原動力ではないか、とも思う。

そして様々な角度からハードロックのアルバムを作ってきた人間椅子は、2013年のOZZ fest Japanで敬愛するBlack Sabbathと同じステージに立った。

”第2のデビュー”と和嶋氏が語っていたが、アルバムも『人間失格』が描いていた世界観をアップデートしたものになってきたように感じる。

2013年の17thアルバム『萬燈籠』以降は、デビュー時に目指していた怪奇的なもの・おどろおどろしいものをハードロックで表現する、という方向性を明確に打ち出している。

そして2016年の19thアルバム『怪談 そして死とエロス』では、”怪談”をコンセプトに据えた作品を発表している。

筆者としてはこの『怪談 そして死とエロス』が”第2の『人間失格』”のように感じる。『萬燈籠』で人間椅子の原点を思い返し、その方法論で1つの完成を見た作品だ。

その後から現在に至る人間椅子は安定した作品作りを行っており、面白いことに売り上げも伸びている。

人間椅子の楽曲の軸がしっかりと固まってきたからだろうが、その原点にはやはり1stアルバム『人間失格』があったことが重要なポイントだろう。

ハードロックにおける『人間失格』

少し大きな話になるが、人間椅子が作り出した『人間失格』と言うアルバムは、ハードロックという点からも重要な意味を持つものだと思っている。

それはハードロックを正当に継承しながら、日本人としての感性を持ち込んでオリジナルのハードロックを作り上げている点である。

人間椅子が特に影響を受けているのがBlack Sabbathであり、ハードロックの中でもサタニックな雰囲気を持つバンドからの影響が大きい。

特に鈴木氏はそういったバンドの影響が大きいが、一方で和嶋氏はロックの中に文学性・芸術性を持ち込んだプログレッシブロックにも傾倒していた。

大ざっぱに言えば、この2つの流れが人間椅子の音楽性を形作っている。

そして人間椅子が素晴らしい点として、海外のバンドの真似をしたのではなかったことだ。”ジャパニーズメタル”と言われたジャンルに人間椅子が括れないのは、海外のバンドらしい音ではないからだ。

オリジナルな点の1つは、ブリティッシュハードロックが持っていた湿り気を、日本の東北は青森の湿り気で表現したことである。

日本の田舎にある閉鎖的な陰湿さ、とでも言おうか。日本の文学作品などで描かれるこういった闇の部分を、ハードロックのダークな部分に見事に融合させたのが人間椅子である。

ここまでハードロックの世界観を、日本人的な感覚で作り上げたバンドは人間椅子が初めてだったように思う。

そして”海外から見たヘンな日本”としてではなく、正当に日本人がハードロックを演奏する、という姿勢が素晴らしい。

”イカ天”に出演した時に、コミックバンドのような扱いも受けていたが、人間椅子のスタンスはまったくふざけたものではない。

日本人がハードロックをやる、とはこういうことだ、という姿勢を示しただけである。その結果、津軽三味線ギターや和装での演奏など、日本人らしい要素を込めて30年活動を続けてきたのだ。

それがあまりに大真面目だったがゆえ、なかなかその魅力が十分に伝わらない時代が続いてきた。そして本来最も伝わって欲しい海外に伝わるまでには、なんと30年の時を要した。

しかし活動30年を経て、ついに「無情のスキャット」で海外にしっかり人間椅子の魅力が届いた。海外のファンが、ライブで熱狂する様子は涙なしには見られない。

話は大きくなったが、アルバム『人間失格』は人間椅子のハードロックの姿勢を最初に示した作品としても重要な意味を持つものなのだ。

まとめ

今回は人間椅子の1stアルバム『人間失格』の全曲レビュー、そしてアルバム全体の評価と作品の持つ意味について、深く掘り下げて書いてみた。

”最初のアルバム”であれば重要なアルバムには違いがないのだが、『人間失格』はそれだけでなく、人間椅子の世界観を打ち立てたアルバムであり、ハードロック全体においても重要なアルバムだった。

人間椅子にとっては音楽の軸となるような作品であったし、日本人が鳴らすハードロックを正当に表現できた作品として、素晴らしいアルバムなのである。

そして海外公演でも、「りんごの泪」「賽の河原」「針の山」と、やはり本作からたくさん演奏されている。それだけ人間椅子の代名詞となるような作品なのだ。

このアルバムが出せたからこそ、今の人間椅子がある。この記事を読んだ人が、改めて『人間失格』を聴く機会になれば幸いだ。

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