なぜハードロックを聴かない人が人間椅子にハマるのか? – キーワードは”独自の進化”と”中毒性”

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ハードロックを聴かない人もハマる、ハードロックバンド人間椅子の”中毒性”とは?

前半では、人間椅子ファンとハードロックファンの重なりの薄さ、人間椅子の”様式美”が出来上がっている現状について述べてきた。

では具体的に、ハードロックを聴かない人が、人間椅子のどんなところに魅力を感じてファンになっているのだろうか?

この点について考えてみようと思ったのだが、筆者は人間椅子からハードロック全般が好きになったので、ハードロックを抜きに人間椅子を語ることが難しい。

しかも小6の時に親の影響で好きになったため、もはやどうやって人間椅子を好きになったのかもはっきりと思い出せない。

悩んだ結果、ややトリッキーな方法だが、人間椅子と物凄く近いハマり方をしたGHOSTと言うバンドとの共通点から考えることができた。

GHOSTは、スウェーデンのハードロックバンドである。バンドと言うよりは、トビアス・フォージ (Tobias Forge)が主催する音楽グループと言った方が良いかもしれない。

トビアスが悪魔崇拝の司祭のキャラクターに扮し、ネームレス・グールズという名前も顔も明かされないメンバーが楽器を演奏する、と言う独特の世界観である。

そしてハードロックを基調としながらも、ハードロック以前のロックやオルタナティブロックなど、多様な音楽性を巻き込んだジャンルで、音楽的にも独特である。

このような”GHOSTワールド”とも言うべき音楽は、中毒性が高く、人間椅子にハマった時の感覚を思い出すことができた。

※なお詳しいGHOSTの紹介は下記の記事を参考にされたい。

【入門~中級編】異色のハードロックバンド「GHOST」紹介+アルバム4枚レビュー

人間椅子にハマる要素として、以下の6つの点があるのではないかと思う。

  1. 独特の世界観
  2. バンドのキャラクター性
  3. 耳に残るサウンドとグルーブ
  4. ポップだが歌謡曲的ではない独特なメロディ
  5. 音楽的バックグラウンドの豊富さ
  6. これらすべての要素による中毒性

上記6つの要素から人間椅子的”様式美”の魅力を紐解いてみたい。

独特の世界観

音楽的なことを知らなくても楽しめるのは、人間椅子の独特な世界観である。

人間椅子が描く世界観は、恐ろしいもの、怪奇なものであり、それをおどろおどろしいサウンドに乗せて歌う。

そしてこうした世界観は、日本の文学作品から影響を受けたものであり、人間椅子の楽曲には小説からタイトルを借りたものが多くなっている。

デビュー当時から、「人間失格」「桜の森の満開の下」などがあり、近年も「鏡地獄」「杜子春」など、小説のタイトルを借りた”文芸シリーズ”が続いている。

2021年リリースの『苦楽』でも小説のタイトルを借りた「杜子春」が収録され、30年以上文芸シリーズが続いている。

こうした文学からの影響は、いわゆるオタク的な趣味を持つ層にマッチしたものだった。そしてそれを音楽と融合させた試みが、カルト的な人気を持つことになる。

イカ天出演時には、内田春菊氏より「オタクのバンド」と評されたが、まさに人間椅子の魅力を言いえて妙であった。

ただし小説のタイトルを借りる、という表面的なこと以外にも、人間椅子の世界観はもっと奥深いものだと思う。

人間椅子の根底にあるのは、いくつか怪奇的なものの原風景とも呼べるテーマがある。

人間の抱える狂気

1つは、ギター和嶋慎治、ベース鈴木研一の故郷である東北地方の持つ独特の湿り気である。ステレオタイプ的な見方かもしれないが、どことなく演歌が似合うのが東北地方なのだ。

そして人間椅子の音楽からは、どこか日本の古い村にある禁忌に触れるような感覚がある。隠しておかなければならない、不気味なものを除くような感覚が人間椅子にはある。

それはつまるところ、人間が内に抱えている狂気であり、毒々しい感情である。

特に人間椅子初期~中期においては、そういった人間の狂気や不気味さに触れる楽曲が多く見られた。

実際にあった心中事件の猟奇的な側面にヒントを得た「天国に結ぶ恋」、残酷な復讐劇を描く「踊る一寸法師」、人間の心の黒い闇を描いた「黒い太陽」などがある。

こうした日常では出すことが憚られる毒々しい感情に触れた楽曲には、得も言われぬカタルシスがあるのだ。

仏教的世界観

2つ目には、仏教的世界観がある。

和嶋氏はダイレクトに仏教を扱った歌詞を作ってきた。仏教では輪廻転生と言って、その心の状態にふさわしい世界が広がっているという考え方がある。

1つ目の人間の闇に関わるが、人間の中にある悪の心が芽生えれば、三悪道と呼ばれる地獄・餓鬼・畜生の世界に落ちると言われている。

人間椅子はダークサイドを描く際には、この仏教的世界観で悪の世界を描いてきた。2004年には『三悪道中膝栗毛』というタイトルでアルバムをリリースしたこともあった。

詳しい仏教の知識を知らずとも、私達日本人の心の中に古くから伝わる仏教の教えにどこか惹かれるものがあるファンは多いのではないかと思う。

近年の和嶋氏の歌詞は、より仏教の本質的な教えに近い内容を歌詞にしている。仏教でいうところの悟りや涅槃の心の状態と、そうではない人間の苦悩の狭間にあるような楽曲が多い。

人間の魂には故郷があり、肉体に縛られて苦しんでいることを歌ったのが、『異次元からの咆哮』に収録されている「異端者の悲しみ」であった。

1000万回以上の再生回数を誇る「無情のスキャット」も、「異端者の悲しみ」の世界観をさらに広げた、秀逸な歌詞が見どころの1つである。

またベースの鈴木氏も、六道輪廻の地獄にフォーカスを当て、”地獄シリーズ”と題した楽曲群を作ってきた。

和嶋氏が観念的な歌詞を作るとすれば、鈴木氏は描写的な歌詞が得意である

漫画家の水木しげる氏の世界観や、弘前市のお祭りであるねぷた祭りのねぷた絵などにインスパイアされ、残酷なのにコミカルな地獄の風景を歌詞にしてきた。

こうした楽曲はヘビーメタルの攻撃性と見事にマッチし、人間椅子の様式美の1つになっていると言えるだろう。

仏教を学べる人間椅子の楽曲特集

オカルト

3つ目には和嶋氏が好きなオカルトの世界観である。

隠されてきた歴史や恐ろしい陰謀など、仏教的世界観とはまた異なった意味での異次元の世界の楽曲である。

古くはアトランティス大陸を歌った「水没都市」、H.P.ラヴクラフトのタイトルを借りて神々の世界を歌った「時間からの影」などが該当する。

さらに近年では、よりダイレクトに陰謀論をテーマにしたものもみられる。隠された歴史や技術を歌った「宇宙のディスクロージャー」、悪魔的存在による陰謀を歌った「悪魔の処方箋」などだ。

こうした楽曲も私たちの意識を非日常へと誘うものであり、怪奇的でありつつ、時に幻想的な世界観として人間椅子の世界観を形作っている楽曲群である。

以上のようなテーマが、人間椅子の楽曲の根底には流れている。見たくないのに、気になってしまうような恐怖・怪奇の世界に我々はどうやら惹かれてしまう。

こうした怪奇的でおどろおどろしい世界観は、ハードロックという音楽とも見事にマッチした。

ハードロックがもともとブルースという人間の苦しみを歌ったジャンルを土台にしたように、人間椅子は日本人が昔から抱える心の闇の部分を歌にした

これが我々日本人の心をつかんだのではないかと推測され、同時に海外からは日本オリジナルのハードロックと受け止められるようになったのではないかと思う。

バンドのキャラクター性

いったん音楽から離れるが、人間椅子はメンバー3人の見た目も独特な世界観がある。三者三様のインパクトがあり、惹きつけられるものがある。

ギターの和嶋慎治氏は、近年は着物姿である。そして丸眼鏡に口ひげ、長髪を後ろで縛ったスタイルも定着した。

最もステージ衣装が変化したのが和嶋氏であり、ウンモ星人(宇宙人の姿)や花魁などコスプレをした時期もあった。

ベースの鈴木研一氏は、僧侶のスタイルで白塗り・坊主が定着している。2004年の『三悪道中膝栗毛』をリリースする前までは、白塗り・長髪に着物姿が多かった。

いまだに長髪時代の鈴木氏には絶大な人気がある。

ドラムのナカジマノブ氏は鯉口シャツを着て、サングラスにリーゼントと言うスタイルが定着している。加入当時から、あまり大きな衣装の変化はないように思われる。

メンバー3人のステージ上の姿は、どこか別の世界から飛び出したようであり、とても絵になる。そのため、今も昔も女性ファンを中心に、人間椅子メンバーの絵を描く人が非常に多い

かつてはファンクラブで絵画作品を募集しており、毎回力作が届いていたのを思い出す。最近はTwitterでも毎日、誰かしらが人間椅子の絵画を投稿しているのを見かける。

その絵画は、どこか二次創作的な趣であり、メンバーを理想化して描かれたもの、かわいらしいキャラクター化したものなど、各々の妄想が膨らむものとなっている。

人間椅子の見た目は、楽曲の世界観と相まって、想像力・創造力を掻き立てるものになっている。そして、いわゆるオタク的な楽しみ方をしている人が多いようだ。

ひとたびステージ衣装から普段着に着替えると、3人ともかわいいおじさんになるのもファンの間ではポジティブに受け取られている。

あれだけおどろおどろしい楽曲を、迫真の演奏をしていた3人が、ステージを降りると朴訥としたおじさんになるのだ。しかし3人とも、どこか少年のような純粋さを持っている。

人間椅子メンバーは見た目だけでなく、その人柄の良さもファンから愛されているのだ

【人間椅子】人気上昇中のハードロックバンド「人間椅子」の素顔は”カワイイ”おじさんたちだった! – ライブ以外のSNS投稿写真まとめ

耳に残るサウンドとグルーブ

話をまた音楽に戻そう。ハードロックから人間椅子に入っていないとしても、人間椅子の独特なサウンドとリズムのノリにハマったという人はかなり多いのではないか。

ここでは人間椅子サウンド・グルーブの魅力について書いておきたい。

人間椅子は、70年代ハードロックに影響を受けている以上、その様式を全く受け継いでいないわけではない。

それはは、とにかく大きな音、力強いサウンドである。ハードロックではギター・ベース・ドラムのいずれも、豪快な音で鳴らし、その3者のアンサンブルで成り立っている。

人間椅子の魅力を語る時に、「3人で鳴らしているとは思えない重い音」とよく言われる。それだけ3人の鳴らす音がしっかり主張のある音になっている。

「どっとはらい」のようなヘビーな楽曲は、音の深み・広がりが3人で鳴らしているとは思えないサウンドである。

そして3人とも技量が高いことで、見事に3人の音が組み合わさり、”グルーブ”と呼ばれる音のうねりのようなものが作られるのである。

人間椅子はドラマーが何度か交代しているが、その都度、素晴らしいグルーブを生み出している。

現在のドラマー、ナカジマノブ氏はもともとハードロックを叩くドラマーではなかったが、人間椅子に加入してからパワーが増し、今では見事にヘビーかつパワフルなドラミングになった。

人間椅子のリズムの特徴は、機械的ではなく、土着的でお祭り的な感覚のあるリズムになっている点である。

それは思わず体が動く独特のグルーブであり、海外のハードロックが持っているリズム感ともまた異なる。こうした独自のリズムを作り出す要は、ベースの鈴木氏にあると思っている。

鈴木氏が持っているのは土着的なリズム感である。楽曲の随所に、ねぷた祭りなどの祭囃子的な体の動くリズムが使用されている。

鈴木氏が初めて作った曲のリフが「りんごの泪」に使用されている。このリフ自体が持つリズムが、実はお祭り的なリズムであり、体に染みついているものなのだとわかる。

こうした土着的なリズムは、和嶋氏の楽曲でも感じ取ることができる。

2001年の『見知らぬ世界』に収録の「見知らぬ世界」は、ミドルテンポでどっしりとしたリズムだ。こうした曲はメタルの機械的なノリではなく、身体全体が動き出すようなリズムになっている。

このリズムは、「無情のスキャット」にも活かされており、独特なリズムとサウンドが海外からの注目を集めたのかもしれない。

こうした人間椅子のグルーブやサウンドの魅力は、何と言っても人力で作られたものであるということだ。

人間椅子のレコーディングは、基本的に3人が揃ってバンドで音を鳴らしながら行われる。1人ずつ別々に録音されたものを組み合わせると言うことをしないそうだ。

こうして3人で作り上げる音には、機械的なサウンドにはない余白があり温もりが感じられる。激しいサウンドなのに、聴いていると落ち着く音が、人間椅子サウンドの魅力である。

ポップだが歌謡曲的ではない独特なメロディ

続いては、あまり単体では取り上げられることがない、人間椅子の歌とメロディに関してである。重たいサウンドは取り上げられるが、実は歌やメロディも大事な要素だ。

人間椅子のボーカル

ハードロックにおける歌は、激しいシャウトやハイトーンによるボーカルが1つの様式美である。人間椅子ではそうしたボーカルをあえて加入させず、作曲者が歌うスタイルを貫いてきた。

そのため、かつては「歌が上手くない」と言われたこともあったようだが、今や3人の歌うボーカルも魅力の1つとなっている。

最も特徴的な歌は、ベースの鈴木氏のボーカルである。初期は多くの楽曲で鈴木氏がメインでボーカルをとり、人間椅子と言えば鈴木氏のボーカルのイメージもあった。

「死神の饗宴」のようなダークな曲には、鈴木氏のボーカルが似合う

ドスの効いた声、こぶしを回した歌い方など、かなり特徴的なボーカルである。演歌や民謡などを思わせる歌い方も、人間椅子の楽曲のイメージとマッチしたものだ。

対するギター和嶋氏のボーカルは、素朴な味わいがある。初期はピッチが不安定であることが、かえって狂気を感じさせるようなボーカルだった。

近年はボーカルが安定し、メロディがより伝わってくる丁寧な歌い方に変化した。

ドラムのナカジマノブ氏のボーカルは、RAINBOWに在籍したグラハム・ボネットを思わせる、野性味がありつつ、爽やかなボーカルスタイル。

「超能力があったなら」など、ストレートなハードロックでのパワフルなボーカルも魅力である。

ロックンロール調の楽曲では、非常によく通る声で爽快感がある。また人間椅子の中では最もハイトーンが出るため、コーラスなどでも活躍している。

このように、三者三様のボーカルスタイルではあるが、歌のメロディが聞き取りやすいボーカルである点では共通している。

ハードロック・ヘビーメタルでは、ボーカルも楽器の1つのように、メロディよりもシャウトを楽しむようなボーカルスタイルも存在する。

しかし人間椅子は歌がしっかり聴き取れるボーカルであったことも、音楽として入りやすい要因ではないかと思う。

人間椅子のメロディ

人間椅子のボーカルは、メロディが聞き取りやすい歌であることを述べてきた。そしてメロディも、実はポップで耳馴染みの良いものが多いことが特徴である。

人間椅子のメロディで特徴的なことは、いわゆる歌謡曲的なメロディはあまり用いないで、耳に残るメロディを作っていることである。

やはりハードロックのリフを中心とした楽曲に乗せるメロディは、歌謡曲的なメロディは乗せにくい。

いわゆる80年代のジャパニーズメタルは、ヘビーメタルに歌謡曲的なメロディを乗せることで、日本人の心を掴んできた歴史がある。

人間椅子はメロディと言う点でも、そうしたジャパニーズメタルとは一線を画している。

人間椅子で多くの曲を作ってきた、和嶋・鈴木両氏のメロディに注目してみよう。

和嶋氏の作る曲は、ハードロック色の強い鈴木氏に対して、歌モノが多い歴史があった。人間椅子として活動する前は、歌謡曲的な楽曲も多く作っていたようである。

デビュー前によく披露された「わたしのややこ」では、まだ歌謡曲的なメロディがあったが、人間椅子ではそうした要素はそれほど見せないようになった。

人間椅子で作る楽曲のメロディは、独特なコード使いで、耳に残るメロディを多く作っている。

たとえば『二十世紀葬送曲』に収録された「幽霊列車」では、ヘビーなリフに乗せて、不気味でありながら悲しげな、何とも言えない良いメロディがクセになる。

和嶋氏は、あまり定型的なコード進行ではなく、あえて変わった進行に合うメロディを作り、オリジナリティを感じさせるものになっている。

一方の鈴木氏は、ハードロックの王道の楽曲が多めで、そこにわらべ歌など日本人が子どもの頃に慣れ親しんだようなメロディを乗せたものが多い。

たとえば『無限の住人』収録の「晒し首」では、チューリップの歌の節回しを借りて、晒し首が並ぶ様子を歌にしている。

また民謡のようなメロディを用いることもあり、『踊る一寸法師』収録の「どだればち」ではハードロックと民謡が見事に融合している。

このように人間椅子では、日本人受けしそうなコテコテの歌謡曲メロディはあまり使われない。しかし、日本人に耳馴染みやすいメロディを工夫して作ってきた。

ここにも様式にとらわれない精神性が垣間見えるのではなかろうか。次に述べることとも関連するが、色々な音楽ジャンルから影響を受け、それに合ったメロディを作っている。

メロディの良さも、人間椅子の楽曲が愛される理由の1つである。

音楽的バックグラウンドの豊富さ

人間椅子を聴くだけで音楽が完結してしまう、その理由の1つには音楽的バックグラウンドの豊富さが挙げられるだろう。

あらゆるジャンルが人間椅子には揃っている。よほど幅広い音楽ジャンルを聴く人でなければ、人間椅子だけも十分に様々な音楽を楽しめる。

人間椅子はハードロック的なサウンドを用いながら、実に様々な音楽ジャンルを取り入れる試みを行ってきた。ここではそんなハードロック以外のジャンルを感じる楽曲を中心に一部紹介していこう。

ロックンロール…ブルースの進行を土台に、転がるようなリズムの楽曲である。

  • 神経症I LOVE YOU(『現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜』など収録):ロックンロール調のリフだが、Bメロのコード進行などは凝っている。
  • 辻斬り小唄無宿編(『無限の住人』収録):ベンチャーズ的なサーフロックとの融合だが、歌詞は思い切り江戸時代なのが面白い。
  • 悪魔大いに笑う(『見知らぬ世界』収録):T-REXの「Get It On」を思わせる。牧歌的な雰囲気の楽曲である。
  • 至福のロックンロール(『未来浪漫派』収録):KISSを思わせるゆったりとしたロックンロール。

歌謡曲:前項で歌謡曲メロディはあまりないとしつつも、一部存在する。

  • わたしのややこ(アルバム未収録):ロックンロールでもありつつ、Bメロは歌謡曲そのもの。
  • なまけ者の人生(『羅生門』収録):渋い歌謡曲的なメロディ、カラオケで歌いたくなる。
  • みなしごのシャッフル(『怪人二十面相』収録):ドラマの主題歌風、シャッフルのビートでオシャレな楽曲。
  • さよならの向こう側(『見知らぬ世界』収録):爽やかな曲調に賛否両論あった曲。
  • エデンの少女(『見知らぬ世界』収録):こちらも爽やかなポップス。映画「いとみち」の挿入歌に起用された。

フォーク:②と近いものがあるが、アコースティックなサウンドで歌モノの楽曲である。

  • 甲状腺上のマリア(『桜の森の満開の下』収録):難解なアルペジオに猟奇的な歌詞を乗せた楽曲。
  • 羽根物人生(『踊る一寸法師』収録):四畳半フォーク的なサウンド、目指したのはUriah Heepの「Lady In Black」であった。
  • 晒し首(『無限の住人』収録):Black Sabbathを感じさせつつ、中間部は見事にフォークである。
  • 恐山(『修羅囃子』収録):和嶋氏特有のコード使いが光る、じっくり聴きたい弾き語り曲。
  • リジイア(『無頼豊饒』収録):プログレっぽさも感じる美しいフォーク曲。

演歌・民謡:歌謡曲よりもさらに演歌寄りのメロディの曲も、鈴木氏の曲に多い。

  • 憂鬱時代(『桜の森の満開の下』収録):演歌寄りのメロディ、中間部はブルージーなソロがカッコいい。
  • どだればち(『踊る一寸法師』収録):民謡を感じさせるメロディ、サウンドはしっかりハードロック。
  • 蛮カラ一代記(『無限の住人』収録):演歌と言うよりも軍歌に近い。
  • 品川心中(『瘋痴狂』収録):ロック落語、全体的にメロディは演歌調である。
  • あゝ東海よ今いずこ(『此岸礼讃』収録):Black Sabbathなサウンドに、軍歌調のメロディが乗る。

ダンスミュージック:ディスコビートを使った曲がいくつか存在する。

  • 王様の耳はロバの耳(『修羅囃子』収録):のっぺりとしたダンスミュージック。Bメロのギターは、ピコピコ音をイメージしたもの。
  • のれそれ(『三悪道中膝栗毛』収録):ダンスというよりは日本の踊りをイメージさせる。人間椅子にはあまりないビートが多用されている。
  • 孤立無援の思想(『瘋痴狂』収録):ハードロック調で、ビートはディスコ。

スペースロック・ニューウェイブ:いわゆる鈴木氏の”宇宙シリーズ”は、スペースロックから80年代のニューウェイブを感じさせるサウンドである。

  • 宇宙遊泳(『無限の住人』収録):”宇宙シリーズ”第1弾の楽曲で、ポップなメロディと浮遊感のあるサウンドが魅力。
  • 天体嗜好症(『頽廃芸術展』収録):”宇宙シリーズ”第2弾。こちらもポップでながら、中間部は宇宙的なサウンドとギターソロが面白い。

ブルース:和嶋氏が好きなブルース色を感じさせる楽曲もある。

  • ED75(『頽廃芸術展』収録):前半部分では鈴木氏のボーカルの合間にブルースギターが聴ける。後半は演歌調になる。
  • 芋虫(『怪人二十面相』収録):長い中間部ではギターソロが挿入されているが、ブルース色を感じさせる。
  • 山椒魚(『瘋痴狂』収録):ルーズな雰囲気のブルースで、ソロはスライドギターをふんだんに用いたもの。

いくつかの例を挙げてみたが、他にも数え切れないほど、たくさんの音楽ジャンルを楽曲に持ち込んでいる。

普段あまりジャンルを意識して聴くことはないが、実はこうした音楽的多様性が、ずっと人間椅子を聴いていられる要因となっていると考える。

なお2013年の『萬燈籠』以降は、人間椅子らしさが様式化したことで、こうしたジャンルの多様性はやや弱く感じられる。

かつての人間椅子が実に音楽的に多様であったことは、改めて過去の作品を聴いて確認いただければと思う。

これらすべての要素による中毒性

人間椅子にハマる要素を1つずつ並べて紹介してきた。ここには書ききれなかった、他にもハマる要素はたくさんあるだろう。

そしてあえてバラバラにすれば、これまでのようになるが、人間椅子にはどうやら中毒性があるようである。それは人間椅子だけどっぷりと聴きたくなるような中毒性である。

筆者も12歳で聴き始めてから、20年以上の時間が経つが、今まで飽きたと感じたことはない。もちろんファンになった当初のような熱量と今は違うが、ずっと人間椅子は心の中にある。

かつてやったことがあるのは、iPod classicを使っていた頃、人間椅子の全曲を並べたプレイリストを作り、シャッフルで全曲聴き通すという”人間椅子マラソン”であった。

もちろん途中で休憩を挟みつつだったが、20時間以上ある全曲を何度も聴き通したことがある。不思議とそれができてしまうのが人間椅子である。

やはり全体を俯瞰してみれば、ずっと同じことを貫いているが、1作ずつ・1曲ずつをみれば実に多様なことを行っているのがわかる。

そうした進化を遂げながらも、ずっと変わらないのが、人間椅子にどっぷりハマる1番の魅力なのかもしれない。

【人間椅子】お家で人間椅子の曲を徹底的に楽しむ方法 – プレイリスト作りを楽しむために

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まとめ

今回の記事では、ハードロックバンドである人間椅子が、なぜハードロックを聴かない人に愛されるのか、について書いてきた。

この記事での考察では、人間椅子は70年代ハードロックを起点とし、様式美的なメタル要素を感じさせない、独自のジャンルを形成していたことが1つの理由であった。

その結果、一般的なハードロックファンからはあまり受け入れられず、ハードロック以外の角度からファンになる人が多かったのではないか、と推測される。

そして最近になるほど、”人間椅子というジャンル”が確立したことで、より分かりやすく人間椅子の魅力が届けられるようになった。

”人間椅子と言うジャンル”の魅力は、”中毒性”がキーワードであり、独自の世界観やファッション、そしてメロディなどを持つことが挙げられた。

人間椅子はハードロックバンドでありながら、ハードロックという枠で見なくても、様々に魅力あるバンドと言うことである。

ベースの鈴木氏はハードロックを広めたいと言う個人的な野望があるようだ。しかし人間椅子の世界観ができればできるほど、その中が居心地よいという人が生まれてしまうジレンマが面白い。

もちろん、人間椅子ファンの中でハードロックが好きになった人は、70年代ハードロックを遡り、そして80年代以降のメタルも好んで聴くようになるだろう。

その一方で、1つのジャンルにまでなってしまった状況では、人間椅子だけポコッとハマる人が続出しても、何らおかしくないのである。

どちらが良いと言うことではない。それだけ人間椅子と言うバンドが、ハードロックから始まって、独自の進化を遂げてきたことを示しているのだ。

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