【楽曲解説+レビュー】Gary Moore – How Blue Can You Get (2021) ゲイリーがブルースで聞かせる最後の咆哮

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アルバムレビュー
画像出典:TOWER RECORDS

これまで当ブログでは、毎月5枚のアルバムを選んで、おすすめ盤を紹介してきた。

2021年11月~12月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(児島未散, NakamuraEmi, Fire Attack, 堀内孝雄, 人間椅子)

2022年は書き方を変更し、1枚ずつ月に何枚かおすすめのアルバムのミニレビューを行おうと思う。新しい作品や、あまり当ブログで普段扱わないジャンルの作品を中心にレビューしていきたい。

今回紹介するのは、ハードロックからブルースまで自在に弾きこなすGary Mooreが、生前に遺した未発表音源を集めたアルバム『How Blue Can You Get』である。

Gary Mooreは2011年2月6日に心臓発作により、58歳と言う若さで亡くなって11年が経とうとしている。

没後10年で発売となり、ムーア氏の迫真のプレイに再び会える、最後の貴重なアルバムである。収録された楽曲の解説と、聴きどころを中心に紹介したい。

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Gary Mooreについて

まずはGary Mooreについて簡単に紹介しよう。彼にはハードロックの速弾きギタリストの顔と、ブルースギタリストの顔がある。

1952年に北アイルランドで生まれたムーア氏は、Fleetwood Macの創設メンバーであったピーター・グリーンなど、ブルースギタリストの影響を受けて育った。

1969年にスキッド・ロウでデビューするも、1971年に脱退。メンバーであったフィル・ライノットに誘われ、シンリジィでの活動を行う。

1974年の『Nightlife』収録の「Still in Love With You」では、彼の泣きのギターソロの原型がある。

1978年には初のソロ名義のアルバム『Back on the Streets』をリリースし、全英70位を記録。フィル・ライノットと作った「パリの散歩道 (Parisienne Walkways)」はUKチャート8位を記録した。

1978年にシンリジィに正式加入するも、1979年のアルバム『Black Rose』制作後にはバンドを脱退、G-Forceなどで活動する。

そして1982年にリリースしたアルバム『Corridors of Power』は、ハードロック期の代表作の1つ。1983年に初来日公演があり、チケットが即日完売するなど日本でも人気を博す。

1985年に盟友フィル・ライノットとの共作「Out in the Fields」をリリースし、イギリスで5位を獲得。

ハードかつポップなメロディが前面に出た作風が続いたが、音楽的方向性に迷いが生じる。1990年にリリースした『Still Got the Blues』ではブルースに回帰する

1994年に元Creamのジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーとBBMを結成、90年代後半は一時ブルースとテクノロジー音楽との融合も試みるなど、様々なスタイルで活動した。

2000年代は再びブルースに回帰しつつ、ロック編成のバンドScarsでの活動や、ZZTOPB.B.キングのツアーのサポートなど幅広く活動した。

2010年の来日公演が最後の来日となり、2011年2月6日に心臓発作のため58歳で亡くなっている。

ムーア氏の没後3年の命日に、ソチ五輪でフィギュアスケートの羽生結弦氏がショートプログラムで「パリの散歩道 (Parisienne Walkways)」を使用したことで、大いに話題となったことも記憶に新しい。

Gary Mooreのギターの持ち味は、大きく分けると2つである。1つは80年代のハードロック期に見られるような超速ピッキングによる正確かつ流麗な速弾きギターである。

上手過ぎると言われるほど、正確なピッキングであり、速さの意味でのテクニックでも類を見ないほどの迫力である。

その一方で、「パリの散歩道 (Parisienne Walkways)」「The Loner」などに代表される、ロングトーンによる泣きのギターも大いに見どころである。

速弾きの鋭利なソロとは正反対で、メロウで哀愁漂うフレーズに多くの人が魅了された。バラードでも速弾きが入ってしまうところも、彼の個性と好意的に受け止める人も多い。

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【レビュー】Gary Moore – How Blue Can You Get (2021)

これまでのGary Mooreの歴史と特徴を振り返ったところで、今回紹介する『How Blue Can You Get』の紹介に移りたい。

1990年代以降に、ブルースに回帰した作風の楽曲がほとんどである。

どんな楽曲が収録されているのか、と言う概要と、見どころの楽曲やプレイについて紹介しよう。

作品概要

  • 発売日:2021年4月28日(日本先行発売、海外:2021年4月30日)
  • 価格:¥2,640
  • レーベル:Sony Music Japan International(SMJI)(輸入盤:Provogue)
  • Blu-spec CD2

Gary Mooreの没後10年にリリースされた未発表のスタジオ音源を集めたアルバムである。おそらく最初で最後の未発表曲集になると言われている。

収録された楽曲の録音時期は不明とのことだが、1990年の『Still Got the Blues』以降のブルース路線の楽曲を集めたものになっている。

そして収録された楽曲は、純粋な未発表曲だけではなく、カバー曲の未発表テイクや再録音源など多岐にわたっている。

Gary Mooreマニアにとっては、レア曲集的な聴き方ができるが、あまり詳しくない人にとっては、全くの新作として楽しむこともできるだろう。

なお作品の情報については、ソニー・ミュージックの運営するサイト「otonano」内にある特設ページにも詳しく書かれている。

各曲紹介

未発表曲と言っても、様々な音源が収録されているのがこのアルバム。カバー曲から、楽曲提供したものまで幅広い。

そこで1曲ずつ、楽曲の背景を紹介していこう。カバー曲はオリジナルの音源も貼り付けている。

I’m Tore Down

ブルースの”3大キング”の1人である、Freddie Kingが1961年に発表した楽曲である。他にもEric ClaptonやRory Gallagherなどもカバーしている楽曲だ。

なおGary Mooreとしては、ライブコンピ盤『Essential Montreux』にて、1999年のライブ音源を聴くことができる。

Steppin’ Out

オリジナルはMemphis Slimが1959年に発表したもので、ややジャズっぽいアレンジのブルース。

しかしムーア氏が土台としているのは、John Mayall & Blues Breakersがカバーしたバージョンである。

In My Dreams

本作において、唯一の純粋な新曲である。2021年2月19日にアルバム発売に先行して公開された楽曲だった。

ムーア氏にとっては、「パリの散歩道 (Parisienne Walkways)」の流れを汲む、”お約束”の哀愁たっぷり・泣きのギターが堪能できる楽曲である。

アルバムをリリースすればこうしたタイプの楽曲が収録されることが多かった。しかし今となってはその”お約束”を聴くこともできなくなってしまった。

How Blue Can You Get

オリジナルはJohnny Moore’s Three Blazersが1949年に発表したもの。

“3大キング”の1人、B.B.Kingが1964年にカバーしてヒットした。B.B.Kingが定番のレパートリーとしてライブで披露していた。

Looking At Your Picture

オリジナル楽曲であり、1999年のアルバム『A Different Beat』のアウトテイクである。ブルースと現代的なサウンドを融合する実験的な作品だった。

この楽曲もブルース進行であるが、ドラムン・ベース的な趣がある。やや他の楽曲とは方向性が異なっているが、アルバムとしてはちょうど良い立ち位置に収まっている印象である。

Love Can Make A Fool OF You

オリジナル楽曲であり、もともと1983年にシングルリリースが検討されていたと言う。2002年の『Corridors of Power』のリマスター盤にボーナストラックとして収録された。

そのバージョンはバッキングギターのない未完成とも言える内容だった。本作に収録されたのはブルースアレンジされた再録音源だ。

なおこの曲は日本で、坂上忍が「愛を見失う前に(Love Love Love)」、そして浜田麻里が「LOVE LOVE LOVE」としてカバーしていた。

Done Somebody Wrong

オリジナルは、Elmore Jamesが1960年に発表したもの。

ただムーア氏が参考にしたのは、The Allman Brothers Bandがカバーしたバージョンだったそうだ。

なお自身の2006年のアルバム『Old New Ballads Blues』でもカバーしているが、本作とはずいぶんアレンジが異なっている。

Living With The Blues

オリジナルアルバムに未収録のオリジナル楽曲である。

2002年にアイルランドで発売となったチャリティオムニバス盤『Sounds Minds』に収録されていた。2001年リリースの『Back To The Blues』に収録されなかった楽曲でもあった。

情報が少なく、おそらくレア盤になっていた作品であろう。

アルバムの聴きどころ – Gary Mooreのルーツとブルースギター

筆者が本作を聴いて感じたことは、どの曲もストレートなアレンジ・プレイになっており、非常に聴きやすいアルバムだ、ということだった。

アルバムとしてバランスが良く、聴きやすいというのは重要なポイントである。1.2.4.7.と半数がブルースのカバー、オリジナルのうち3.6.8.はメロディアスな楽曲だ。

ムーア氏のプレイが個性的で力強いゆえに、1つの作品としてまとめるには、バランス感覚が重要になってくるように思う。

そうした配慮がなされ、ブルース初心者の人でも心地よく聴ける作品になっている。

そしてムーア氏のプレイも、どれものびのびとしており、気持ちの良いギターばかりである。

個々の楽曲では、まずオリジナル曲「In My Dreams」が耳に飛び込んでくる。ラフな演奏ではあるが、情熱的なプレイがやはり見どころの1つであろう。

ギターばかりに耳が行きがちであるが、かなり良いメロディである点も見逃せない。

彼のメロディセンスという意味では、「Love Can Make A Fool OF You」も名曲である。80年代当時のポップなアレンジと異なり、渋いブルーステイストのアレンジも良い。

そして後半の怒涛のギターソロは、彼のハードロックギタリストの一面を見ることもできる。

またカバー曲もGary Mooreのルーツを感じられるものばかりで興味深い。彼の敬愛するギタリストがプレイした楽曲が並んでおり、見事に”Gary Moore節”のギターで彩られている。

”らしさ”という意味では、「I’m Tore Down」のギターは怒涛のプレイである。特に後半のソロでは、エモーショナルなチョーキングギターがカッコいい。

一方、B.B.Kingが弾いた「How Blue Can You Get」では、B.B.Kingへのリスペクトが感じられる。

抑えてタメるプレイを得意とするB.B.Kingと、前のめりで弾きまくるGary Mooreはプレイとしては真逆である。だからこそのリスペクトなのかもしれない。

本作のテイクからは、成熟した”Gary Moore節”も感じられつつ、彼が若き日に衝撃を受けたブルースギターに今も夢中である少年のような感覚も聴き取れる

もうベテランだった頃のテイクではあるが、ムーア氏のプレイへの向上心のようなものを感じ取れる。圧倒的なテクニックと、いまだ瑞々しさも感じるところに彼の魅力がある。

彼の新作はもう聞くことはできない。しかしまだ彼が亡くなった後もどこかでギタープレイを磨いているのではないか、と思わせるような躍動を感じる1枚だ。

本作はムーア氏の活き活きとしたプレイが聴ける名盤と言えるだろう。

まとめ

今回はGary Mooreの未発表スタジオ音源を集めたアルバム『How Blue Can You Get』を紹介した。最初で最後となる未発表音源の発売だそうだ。

いわゆる”ファンなら買うだろう”というような質の落ちる楽曲の寄せ集めでは全くない。

伊藤正則氏がライナーノーツに書いている通り、これだけのクオリティの作品がお蔵入りにさせていたのか謎だ、というのが正直なところである。

今回のリリースにあたっては、クオリティの高いテイクを厳選した、ということなのかもしれない。いずれにしても、1枚のフルアルバムとして十分に聴くことができる内容である。

そしてブルースの名プレイヤーのカバーが収録され、ブルース入門的にも良いのではないか、と思う。

この作品を手にする人の多くが、ムーア氏のマニアだろうとは思いつつ、これからブルースを聴こうという人にもお勧めできるのではないか。

彼がルーツとしたブルースへの憧れとリスペクトが、今なお瑞々しく伝わってくるような作品だった。彼の死は本当に惜しいが、またこうして彼のプレイに出会えてことが嬉しかったのである。

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