2021年も多くのアルバムを当ブログでは紹介してきた。毎月5枚ずつよく聴いたアルバムを紹介する記事も、1年間継続して書いてきた。
今回は2021年を総括するべく、2021年に発売されたアルバムの中で、気に入った作品11枚を紹介したい。
選んでみたら、ほとんどのアルバムが邦楽であった。以前から好きなバンドの作品が多くリリースされた印象もある1年だった。
そして児島未散、人間椅子、怒髪天などベテラン勢の名作が次々とリリースされた。
なお既にブログで紹介したアルバムは、ごく簡単な紹介にとどめ、以前書いた記事のリンクを貼り付けている。
是方博邦 – Waves
・発売日:1月13日
フュージョン・シーンなどで活躍するギタリスト是方博邦氏のソロアルバムで、活動45周年を記念して制作したのが『Waves』である。
フュージョンを軸にした作品ではあるが、心地好いサウンドが全編を流れている。気張っている様子はなく、自然体で聴くことができるアルバムになっている。
※2021年4月~5月 よく聴いたおすすめアルバム5選(DEKISHI, Helios, 是方博邦, Budgie, Judas Priest)
A Winged Victory for the Sullen – Invisible Cities / Le città invisibili
・発売日:2月26日
A Winged Victory for the Sullenは、Dustin O’HalloranとAdam Wiltzieという世界的な作曲家2人によるデュオである。
ポストクラシカルと呼ばれるジャンルに属し、アンビエント要素の強い楽曲が特徴である。これまで4枚のアルバムをリリースし、本作は5枚目となるアルバム。
マルチメディア演劇作品のためのスコアとして制作されたものだと言う。非常に静謐な雰囲気が漂う作品に仕上がっており、平坦なアンビエントが好きな人にはハマる作品。
A Winged Victory For The Sullen – So That The City Can Begin To Exist
アルバム冒頭の「So That The City Can Begin To Exist」は、緩やかに音が紡がれていく心地よさがある。
A Winged Victory For The Sullen – ‘Desires Are Already Memories’
「Desires Are Already Memories」は、荘厳な雰囲気が漂い、ゆっくりとした時間の中で、徐々に変化するメロディを感じ取ることができる楽曲になっている。
本作はメロディが前面に出ている作品ではなく、クラシックと言うよりアンビエント色が強くなっている。アルバム1枚を通して聴きたくなるような壮大な作品になっている。
水中スピカ – mEq
・発売日:4月9日
オルタナティブロックの中でも、マスロック的な要素の強い日本のバンド水中スピカである。
ピックではなくタッピングや指弾きを用いたギターが、サウンドをテクニカルに聞こえさせる。しかし難解な印象はなく、構築された音に心地よさすら感じる作品である。
※2021年10月~11月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(Rasmus Faber, 水中スピカ, Bodikhuu, Nujabes feat. Shing02, THEイナズマ戦隊)
Chihei Hatakeyama – Late Spring
・発売日:4月14日
アンビエントやドローンと呼ばれるジャンルで活動するChihei Hatakeyama氏の作品。非常に作品数が多いのが特徴だが、中でも心地好いサウンドのアンビエントの作品である。
小津安二郎の『晩春』にタイトルを得たアルバムであり、どこか仏教的な涅槃を思わせるような快感を得られる作品となっている。
※2021年8月~9月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(Chihei Hatakeyama, 角松敏生, eastern youth, Ozzy Osbourne, Boards of Canada)
Homecomings – Moving Days
・発売日:5月12日
Homecomingsは女性3名、男性1名という少し珍しい編成のロックバンドである。2012年に京都精華大学フォークソング部にて結成された。
インディーズで活動を続けていたが、このたび『Moving Days』がメジャーデビューアルバムとなった。
活動初期はインディーロックの影響を色濃く受け、全編英語詞による楽曲が特徴であった。平賀さち枝とホームカミングスでは、Pavementの「Spit On A Stranger」をカバーしたりしている。
3rdアルバム『WHALE LIVING』からは日本語詞も取り入れ、ポップスに近いアレンジも行うように変化している。
筆者としては1stアルバム『Somehow,Somewhere』の雰囲気が好きだったので、『WHALE LIVING』は少し違和感があった。
が、本作は『WHALE LIVING』をグレードアップさせたアルバムに仕上がっている。
なおオフィシャル特設サイトが作られ、アルバムについては詳しく知ることができる。そしてアルバムのクロスフェードも公開されている。
Homecomings Major 1st Album『Moving Days』クロスフェード
筆者としては、『Somehow,Somewhere』の頃のインディーロック的要素と、ポップスの良いところをブレンドしたようなアルバムになっているように感じた。
1曲目の「Here」から、柔らかく落ち着いた雰囲気の楽曲である。
Homecomings – Here(Official Music Video)
MVが象徴しているように、豊かな自然の中で聴きたくなるような、穏やかな時間が流れる曲だ。
ラストに配置された「Herge」は、ドラマ 25「ソロ活女子のススメ」のエンディングテーマに起用された。
Homecomings – Herge(Official Lyric Video)
この曲も穏やかな時間が流れるようであり、初期の頃に比べると力の抜けた演奏とボーカルがさらに心地好い。
本作は、特設サイト内のインタビューで「やさしくあること」を歌ったアルバムだと述べている。
Homecomingsは刻々と過ぎる時間の中で、穏やかで優しくなるような時間をとても大切にしているバンドだと感じた。表現したいものと音楽の様式とがマッチしたアルバムになっていると思う。
Fire Attack – Wave Motion
・発売日:5月19日
ファンクとロックの勢いが融合したような、突き進んでいくビートがカッコいいFire Attack。ベースには聖飢魔Ⅱにいた石川俊介氏が参加し、スラップベースを聴かせてくれる。
変幻自在のビートは、時にタイトに、そして時にゆったりと心地よい。圧倒的なテクニックとともに、聴き応えのある作品に仕上がっている。
※2021年11月~12月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(児島未散, NakamuraEmi, Fire Attack, 堀内孝雄, 人間椅子)
児島未散 – Sing for you…
・発売日:5月19日
実に27年ぶりのアルバムとなる本作。ライブ活動から再開し、じっくりと現在の児島未散の音を紡いできた結晶である。
初期のシティポップ路線、哀愁のあるメロディ、普遍的なポップスと様々な顔を見せてくれる。そして当時と変わらない歌声が魅力である。
※2021年11月~12月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(児島未散, NakamuraEmi, Fire Attack, 堀内孝雄, 人間椅子)
NakamuraEmi – Momi
・発売日:7月21日
これまで続けてきた「NIPPONNO ONNAWO UTAU」のタイトルを変更し、参加ミュージシャンも新たに作られた意欲作。
NakamuraEmiの音楽性が揺るがなくなったからこそ、サウンドが変化しても全くブレていない。むしろ打ち込みの無機質さが、彼女の息づかいや歌を、生々しく伝えている。
※2021年11月~12月 よく聴いたアルバムおすすめ5選(児島未散, NakamuraEmi, Fire Attack, 堀内孝雄, 人間椅子)
人間椅子 – 苦楽
・発売日:8月4日
人間椅子が2年ぶりにリリースしたアルバム『苦楽』は、かつてないほど今の世界を映し出す作品となった。小説の世界を借りた楽曲作りから、もう一歩現代を辛辣に描く作風となった。
楽曲は近年の中では最も作り込まれた力作揃い。ベース鈴木氏の楽曲が多めとなり、人間椅子らしいハードロックが存分に堪能できる作品になっている。
※【アルバムレビュー】人間椅子 – 苦楽(2021)かつてないほど”現代”と向き合った超充実作
怒髪天 – リズム&ビ-トニク’21 & ヤングデイズソング
・発売日:12月8日
上京して30年を記念して作られた怒髪天のリメイク作品。2004年のミニアルバム『リズム&ビ-トニク』と活動休止前のレア曲を中心に、全編再録された音源で構成されている。
異なる時期の楽曲が並ぶも、驚くほど違和感なく1枚のアルバムとして聴くことができる。音楽性の変化はあれど、怒髪天の芯にあるものがブレないことがよく分かる作品。
※【怒髪天】『リズム&ビ-トニク’21 & ヤングデイズソング』『痛快!ビッグハート維新’21』全曲レビュー
怒髪天 – 痛快!ビッグハート維新’21
・発売日:12月8日
3枚同時リリースとなった作品のうち、1995年にリリースされた『痛快!ビッグハート維新’95』の再録アルバムである。リズム&演歌を謳い始めながらも、音楽的には迷いもあった時期の作品。
しかし当時のアレンジの行き届かなかった部分を見事に洗練させている。アレンジは変化させずに、見事に今の怒髪天サウンドに昇華させた力作である。
※【怒髪天】『リズム&ビ-トニク’21 & ヤングデイズソング』『痛快!ビッグハート維新’21』全曲レビュー
まとめ
今回は2021年にリリースされたおすすめのアルバム11枚を紹介した。
今年は選んでみると邦楽の作品が多く、ベテラン勢のリメイク作品も多くなっている。
新型コロナウイルスの影響で、ライブ活動より制作活動を中心に行ったバンドも多かったかもしれない。しかしライブができないため、新譜が量産されたかと言うと、そうでもない印象がある。
むしろ怒髪天のように、過去を少し振り返ってリメイク作品を作ることや、ここでは紹介しなかったが人間椅子が過去の作品をUHQCDで再販するなどしている。
世の中全体が「立ち止まる」雰囲気がある中、実際に立ち止まって振り返ったミュージシャンもいれば、あえて前進を続けたミュージシャンもいた。
2022年にはどんな新作が作られていくのか、今から楽しみである。新年の慌ただしい時期であるが、少し”立ち止まって”、2021年のアルバムを聴いてみるのも良いかもしれない。
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