毎月よく聴いたアルバムの中から、おすすめの5枚を選んで記事にしている。
梅雨時期に入り、何となく憂鬱な時期に入った。じっくり聴けるような音楽を紹介していきたい。
今回紹介するのは、昨年~今年に発売された新作を3枚、そして70年代・80年代のハードロックから2枚である。新作はグライム、アンビエント、フュージョンといろいろなアルバムとなった。
DEKISHI – CULT (2020)
何となく視聴してみて、ガツンと来たのでアルバムを聴いてみた作品である。ヒップホップ、そしてグライムと呼ばれるジャンルで活動しているDEKISHIの2枚目の作品だ。
グライムというジャンルを初めて耳にしたのだが、以下のサイトに詳しく情報が載っている。
ヒップホップとは生まれが異なり、イギリスで2000年代初期に生まれたジャンルだという。特徴としては速いビート感、そしてチープな電子音とまくし立てるようなラップがある。
筆者自身もヒップホップとはどこか異なる無機質さ、アグレッシブさを感じたのは、このことだったか、と納得した。新鮮に感じられるジャンルで、非常にかっこいいと思った。
ニューアルバム『CULT』、遂に本日発売です。
— DEKISHI (@dekishi) December 22, 2020
完成に至る道のりは長かったですが、それに見合う作品になったと思います。
ぜひ聴いてください!https://t.co/GUz2NXJtyghttps://t.co/M2Ve5C786d pic.twitter.com/P0lGm3AB52
話を本作に戻せば、DEKISHI氏の2013年の『No Country 4 Young Men』から7年ぶりとなる2枚目の作品。
全曲をsoakubeatsがプロデュースし、ミキシング・エンジニアとしてtofubeatsが参加。マスタリングは得能直也が行っている。
アルバム4曲目に収録された「Matrix」の映像がアップされている。繰り返されるビートに、ラップも無機質に続いていくが、それが何とも言えない中毒性を帯びている。
ヒップホップのような韻の踏み方もあるものの、ラップも1つの楽器のようにトラックの中に溶け込んでいくような感覚が、やはりヒップホップとは違うように感じる。
アルバム最後に配置された「DRIVE」は、よりエモーショナルさが際立つ楽曲。メロディアスなトラックと、アグレッシブなラップが高揚感をもたらしている。
全体を通じて、トリップ感のある作品になっている。アグレッシブさのあるラップであるが、一方で淡々と続くトラックが心地よさすら感じられる。
筆者の好みとしては、音数が少なくシンプル、そして心地よさが感じられるサウンド、がある。本作も、尖っているように見えても、実はシンプルな心地よさが感じられる良盤だと思った。
Helios – Domicile (2020)
続いて紹介したいのは、筆者がとても気に入っているミュージシャンKeith KenniffがHelios名義で発表した最新作『Domicile』である。
Keith Kenniffという人は、このHelios以外にもいくつも名義が存在する。たとえば妻のホリーとのユニットMint Julepは、ドリームポップ的なサウンドのユニットである。
他にもGoldmundでは、ポストクラシカルなサウンドで、生音のピアノやギターを取り入れたシンプルで静謐な音を楽しむことができる。
いずれのユニットももセンスを感じさせるサウンドで、他にもCM音楽なども多数手がけているようだ。そんな中でHelios名義では、アンビエントを中心にした作品となっている。
本作『Domicile』とは、人の住居を意味する言葉であり、より「バックグラウンドミュージック」を意識したもの、になっているのだという。
実際に聴いてみると、かなり本格的なアンビエントであることがわかる。リズムが打ち込まれることがなく、緩やかに音が紡がれていくような作品となっている。
シングルとして先に公開された「Never Will You Be Without」である。聴いてもらえばわかる通り、心地よさ以外の何物でもない、穏やかな音が続いていく。
「Domain」では、どこか宇宙的なサウンドを聞かせてくれる。時折ブレイクを挟みながら、繰り返されるフレーズが、心地よさと緊張感の絶妙なバランスを保っている。
筆者がいくつか聴いていたHelios名義の作品と比べると、よりアンビエント色の強い作品であると感じた。たとえば2008年の『Caesura』では、アコースティックでクラシカルな要素も感じられる。
その他『Eingya』などでは、シンセのサウンドと生音を組み合わせたサウンドで、エレクトロニカの範疇で語られるような作品であった。
それに比べると本作は、しっかりとアンビエントである。日本盤のボーナストラックでは、国内のアンビエントミュージシャン畠山地平がマスタリングを行っていることも頷ける。
居住空間に流れる穏やかな音楽、ゆったりした時間が流れるようなサウンドを聴ける作品となっている。これまでの作品ももちろん良かったが、本作も間違いなく良作である。
是方博邦 – Waves(2021)
3枚目に紹介するのはフュージョン・シーンなどで活躍するギタリスト是方博邦氏のソロアルバムだ。是方氏は1975年に大村憲司、村上 “ポンタ” 秀一らとカミーノと言うグループでデビュー。
桑名正博氏のバックバンド、ティアドロップスに参加し、「セクシャルバイオレットNo.1」のギターを弾いている。
その後もの高中正義、松岡直也などのグループに参加し、1980年代はフュージョンを舞台に活躍していた。
テレビ「タモリの音楽は世界だ!」のホストバンドでの活躍も印象深い方も多いのではないか。
筆者は一度八王子にかつてあった「Live Bar X.Y.Z.→A」で、『これいし太田セッション』のライブを観に行ったことがある。メンバーは、G.是方博邦、 B.石川俊介、D.太田明であった。
終演後だったか、一緒に行った先輩とともに是方氏と少しだけお話しできた。バンドサークルにいることを話すと、「変わった弾き方やろ」とお話しされていたのが印象に残っている。
確かに指の動きやギターの持ち方は独特であり、またフィンガーピックを用いた弾き方も、弾くと言うより”叩く”ような奏法もオリジナルなものだと思った。
しかしそれ以上に、やはり音を聞けば是方氏のギターと分かるようなサウンドのオリジナリティがしっかりある。そんな是方氏が2021年に活動45周年を記念して制作したのが『Waves』である。
本作は是方氏のギターの”メロディ”を堪能できるようなインストアルバムであり、あえて“時流の音”を避けたと述べているように、普遍的に良いメロディ・サウンドを追求した作品となっている。
ゲストミュージシャンとしては、以下のような豪華なメンバー、そして親交のあるであろうミュージシャンが名を連ねている。
Keyboards:難波弘之、E.Bass:鳴瀬喜博/石川俊介/田中晋、A.Bass:田中晋吾、Drums:坂東慧/佐野康夫、Percussion:大儀見元、Synthesizer Programing:林秀幸
以下の動画では、本作収録の楽曲の一部を聴くことができる。
1曲目「Engine」ではロックサウンドとともに是方氏のギター・メロディが印象的だ。ミドルテンポで爽やかさも感じさせる楽曲である。
2曲目に収録された「Sunflower Blues」は、よりフュージョン的なアレンジとなっている。爽やかさとともに、ブルース・ギターをしっかり聴くこともできる。
全体を通じて、実力のあるミュージシャンの力の抜けた良い演奏を楽しめるアルバムだ。是方氏のこれまでのキャリアを総括するような作品でもあり、じっくりと聴きたい作品となっている。
Budgie – In For The Kill! (1976)
4枚目に紹介するのは、一気に時代が遡って1970年代を中心に活動したウェールズのハードロックバンドBudgieである。
”B級ハードロックの代表”のように語られることが多いが、70年代ハードロックの中では独特な音楽性を示しているバンドである。
Budgieは1967年に結成され、Burke Shelley(ベース・ボーカル)、Tony Bourge(ギター・ボーカル)、Ray Phillips(ドラム)が結成当初のメンバーだ。
Black Sabbathのプロデュースを行っていたRodger Bainがプロデュースを行い、1971年に1stアルバン無『Budgie』をリリース。
1973年の3rd『Never Turn Your Back on a Friend』には、最も有名と思われる楽曲「Breadfan」が収録されている。
「Breadfan」はMetallicaによるカバー、そして人間椅子による日本語詞カバー「針の山」などが存在する。
この4thアルバム『In for the Kill!』の録音を前に、ドラマーがPete Bootに交代している。
その後はややバンドは低迷したが、1980年前後にはNWOBHMの勃興により再び脚光を浴び、1980年の8th『Power Supply』はよりヘビーメタルに傾倒した作品となった。
1988年に活動休止後は、90年代に再結成、そして2006年にはオリジナルアルバムとしては20年以上ぶりに『You’re All Living In Cuckooland』がリリースされた。
現在はBurke Shelleyが手術のためバンド活動は停止しており、現在も活動は停止中である。
今回取り上げた4th『In for the Kill!』は、ハードロックファンの間では名盤とされながら、筆者はあまり積極的に聴いていなかった作品だった。1stや3rdを聴くことが圧倒的に多かったように思う。
改めて聴いてみると、やはりハードロックの良さが詰まった良作だと感じている。1曲目「In for the Kill」は何度聴いても好きな曲だが、このリフで突き進む感じが素晴らしい。
今一つ突き抜けない、ドコドコ地を這うような感じがB級と言われる所以かもしれないが、これこそがBudgieの良さでもあるだろう。
「Crash Course in Brain Surgery」も、後のメタルにも大いに影響を与えたであろうリフのスタイルだ。これもMetallicaがカバー、人間椅子も「造反有理」という曲名でカバーしている。
ドラマーの交代もあってか、ヘビーな大作が増えた印象だ。代表曲の1つ「Zoom Club」も、おどろおどろしくはないものの、ヘビーに展開していく名曲である。
全体を通じて、Budgieの中ではダークでヘビーな作品と言う印象だ。1st『Budgie』に通じるような重さであり、2ndや3rdの少し爽やかな曲調とは異なる肌触りである。
その後のBudgieを考えると、最後のダークなBudgieとも言えるかもしれない。だんだんポップさを増していくため、ここまでのBudgieしか聴かない、という人もいるぐらいだろう。
しかしBudgieのB級的な良さは、この後も形を変えながら続いていく。真にBudgieが好きな人は、この後の作品も実はどれもおすすめである。
Judas Priest – Point Of Entry (1981)
最後に紹介するのは、Judas Priestの1981年の7th『Point Of Entry(邦題:黄金のスペクトル)』である。
Judas Priestと言えば、ボーカルのRob Halfordが”メタル・ゴッド”と呼ばれるように、メタルの代名詞のように語られるバンドである。
それはおそらく「Painkiller」(1990年12th『Painkiller』)や「The Hellion~Electric Eye」(1982年8th『Screaming for Vengeance』)のイメージが世に強く広まったからだろう。
しかしJudas Priestは必ずしもこういったメタル然とした楽曲ばかりではない。初期に遡れば、伝統的なハードロックを受け継いだ楽曲が中心であったことが分かる。
聴くほどに、初期Judas Priestの良さにたどり着くのではないか。中でもマニアックな作品として、この『Point Of Entry』があるだろう。
Judas Priestの結成はかなり古く1969年に遡り、1974年に『Rocka Rolla』でデビュー。初期はブリティッシュハードロックを受け継いだ作品が続いている。
1978年の4th『Stained Class』~5th『Killing Machine(邦題:殺人機械)』辺りから、メタル然とした楽曲が増えてきた。Rob Halfordもレザー&スタッドを着用するようになっている。
そして1980年の6th『British Steel』で、タイトで疾走感のあるサウンドを確立した。代表曲の1つである「Breaking the Law」もこのアルバムに収録されている。
1982年にリリースされた8th『Screaming for Vengeance(邦題:復讐の叫び)』はバンド最大のヒット作となり、より鋭利なサウンドで代表作となった。
今回紹介するのは、この間に挟まれたアルバムだ。アメリカ進出を狙って作られた作品で、前後2作に比べると、メタル要素は薄く、ややポップなハードロック路線である。
そのためか一般に評価が低く、筆者も聴かず嫌いだった作品だ。しかし聴いてみると、Judas Priestの魅力が詰まった作品だと言えるのではないか。
1曲目の「Heading Out to the Highway」から、アメリカンな雰囲気が漂う。しかしたとえば「Living After Midnight」などにも通じ、Judas Priestの一面を示すものとも言えよう。
ただし、こう言ったミドルテンポのハードロックが1曲目に配置されることは確かに珍しい。こういった点が低評価に繋がっている気もするが、シンプルに良曲だと思う。
本作はMVが多数作られている点も特徴だ。3曲目の「Hot Rockin’」はJudas Priestらしく疾走感のある楽曲であるが、やはりどこか陽気な印象の楽曲だ。
「Desert Plains」はアルバムの中でもシリアスなトーンの楽曲である。次作『Screaming for Vengeance』以降の流れにも繋がっていくような楽曲とも言えそうだ。
もう1曲MVが作られたのが2曲目の「Don’t Go」である。いまいち世界観の分からないMVであるが、本作はそう言ったMVが多くなっており、”怪作”などと言われている。
MVも含め、ややB級感の漂う楽曲が多い辺りが、筆者としてはとても好きだ。初期のJudas PriestはB級の臭いがする楽曲も多く、突き抜けない感じが逆に魅力に感じてしまう。
一般的なJudas Priestの魅力とはやや異なる味わいの作品であることは間違いない。ただし初期から続くハードロックを感じさせ、さらにはB級的な良さも堪能できるかもしれない。
次作『Screaming for Vengeance』がガツンと来るアルバムだとすれば、本作はじわじわと良さがやってくるアルバムだ。Judas Priest上級者向けの作品とも言えるのかもしれない。
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