日本のハードロックバンド人間椅子の楽曲について掘り下げた記事である。これまでも当ブログでは様々な角度から人間椅子の楽曲について分析を試みてきた。
今回は人間椅子の楽曲の展開の多さに注目した。人間椅子の曲の中には、何度も展開があり、一瞬だけ登場するリフやフレーズがあったりする。
その一瞬のリフであっても、決して無駄なものではなく、むしろそのリフのカッコ良さに驚くことがある。
この記事ではそんな一瞬だけ出てくる名リフ・フレーズについて勝手に選手権を行った。
一瞬だけ出てくる名リフ・フレーズ特集
今回は以下の3つの分類に分けて選手権を行っている。
- イントロに登場するリフ・フレーズ
- 曲中に登場するリフ・フレーズ
- アウトロに登場するリフ・フレーズ
各部門の1位~3位と入選の楽曲を選んだ。またどの時点で登場するのか、そして何秒間の短さなのか、受賞の理由についても併せて記載している。
なおすべて筆者の独断によるものだが、リフやフレーズはどれだけ短いか、フレーズとして優れているか、を中心に評価を行った。
※以下がエントリーされた楽曲のリストである。
イントロに登場するリフ・フレーズ
最初はイントロに登場するリフ・フレーズである。曲の掴みとして効果的に挿入されるフレーズであり、曲中に再度登場することもあるが、最初だけ出てくるものもある。
第1位:もっと光を!
- 収録アルバム:4th『羅生門』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロ、2番の終了後
- 秒数:約13秒
4thアルバム『羅生門』の1曲目を飾る楽曲。1曲目だけあって、最初のリフはやはりインパクトのあるものである。
メインのリフがパワーコード主体のベタなリフだけに、イントロのこのリフは単音のフレーズだ。
筆者としては人間椅子のリフの中でトップ10に確実に入る名リフだと感じている。
第2位:九相図のスキャット
- 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロ、1コーラス終わるタイミング、アウトロ
- 秒数:約9秒(1回につき)
イントロのフレーズとしては比較的何度も繰り返されるパターン。しかしR&B的なメインリフとはあえて異なるグランジ風のパワーコードリフを挿入しているのが面白い。
しかもギターソロ前には、転調することでソロのキーをEに移行している点も凝った作りだ。和嶋氏らしい転調のテクニックである。
第3位:黄泉がえりの街
- 収録アルバム:19th『怪談 そして死とエロス』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロのみ
- 秒数:約11秒
まるでホラー映画のような内容の楽曲であり、人間椅子らしいヘビーさが魅力だ。冒頭にはここだけ登場するヘビーなリフが効果的に挿入されている。
ギターから始まり、ベース・ドラムがキメで入ってくる形はやはりカッコいい。全体的にキメが多い楽曲であり、プログレ風味も感じられる佳曲である。
肥満天使
- 収録アルバム:14th『真夏の夜の夢』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロ、アウトロ
- 秒数:約22秒(1回につき)
この曲でもメインリフとはややテイストの異なるパワーコードリフで曲を挟み込んでいる。かなりかっこいいリフだが、メインリフが来ると途端にコミカルになるのも面白い。
一瞬とは言えない長さではあるが、カッコいいリフなので入選とした。このリフを中心に曲を組み立てるとどんな曲になるのか、想像してみるのも楽しいかもしれない。
沸騰する宇宙
- 収録アルバム:16th『此岸礼讃』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロ、アウトロ
- 秒数:約14秒(イントロ)
アルバム冒頭を飾る楽曲であるだけに、インパクトのあるリフである。ダウンチューニングで轟音のように響くこのリフは破壊力抜群だ。
アウトロにも同じリフが登場し、曲を挟み込む形の編曲だ。唐突な楽曲の終わり方も、いかにも人間椅子らしい。
狼の黄昏
- 収録アルバム:19th『怪談 そして死とエロス』
- 該当するリフ・フレーズ:イントロのみ
- 秒数:約15秒
冒頭にはややトリッキーなリフが挿入されている。メインリフはOzzy Osbourneの「Bark at the Moon」のようであるが、冒頭のこのリフで似過ぎないように工夫されているか。
この曲は他にもギターソロの前に、せり上がるようなフレーズが挿入されている。こちらも一瞬だけ登場するフレーズである。
曲中に登場するリフ・フレーズ
曲の途中で挿入される印象的なリフやフレーズは多数存在する。曲に変化をつけたり、次の展開への導入となったり、様々な効果が見られる。
第1位:月夜の鬼踊り
- 収録アルバム:20th『異次元からの咆哮』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロのギターソロ前(4:08頃~)
- 秒数:約6秒
この記事のアイデアを思いつくきっかけになった曲である。ギターソロ前に唐突に一瞬だけ登場するフレーズが異様にカッコいい。
しかも1回目はギターのみ、2回目はベースとハモるという凝ったフレーズなのだ。この一瞬のリフにどれだけ時間をかけたかと考えると頭が下がる。
第2位:走れメロス
- 収録アルバム:1stベスト『ペテン師と空気男』
- 該当するリフ・フレーズ:ギターソロの終わりのベースソロ(3:02頃~)
- 秒数:約6秒
人間椅子の楽曲の中でもインストのレア曲であり、フレーズ的にもかなりレアだ。一瞬ながらベースのソロが挿入されている。
テクニカルなフレーズは弾きたくないと常々述べている鈴木氏であるが、珍しく難しいフレーズだ。ハッとさせられる展開がカッコいい。
第3位:埋葬蟲の唄
- 収録アルバム:4th『羅生門』
- 該当するリフ・フレーズ:ギターソロの終わり(3:51頃~)
- 秒数:約13秒
4th『羅生門』の中でも最もプログレを感じさせるような展開の多い楽曲である。中間部ではギター・ベースともに動き回るような実験的な箇所も挿入されている。
ギターソロのみになった後で、キメの部分として一瞬だけ挿入されるのがこのフレーズだ。スリリングな展開の最後を締めくくるに相応しい、キレのあるリフである。
人間椅子倶楽部
- 収録アルバム:4th『羅生門』
- 該当するリフ・フレーズ:語りの終わった後のフレーズ(2:00頃~)
- 秒数:約15秒
バンド名を入れ、ファンクラブの名前にもなった記念の楽曲。人間椅子らしいヘビーさと、プログレも感じさせる展開の多さをコンパクトにまとめた名曲だ。
筋肉少女帯の内田雄一郎氏による怪しい語りの後に挿入される、プログレッシブなフレーズである。難解なスケールで一瞬のうちに過ぎていく名フレーズである。
天体嗜好症
- 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』
- 該当するリフ・フレーズ:ギターソロ後メインリフに戻る直前(4:39頃~)
- 秒数:約12秒
宇宙シリーズの楽曲として人気の高い楽曲である。ポップなメロディと中間部のスペースロック的な展開が融合した佳曲だ。
今回注目したのは歌に戻る直前のテクニカルなギターのフレーズだ。『頽廃芸術展』はホールトーンスケールを取り入れるなど、和嶋氏の中でも実験的な一面がうかがえる。
東洋の魔女
- 収録アルバム:11th『修羅囃子』
- 該当するリフ・フレーズ:展開後にメインリフに戻る直前(3:05頃~)
- 秒数:約15秒
鈴木氏らしいヘビーでシンプルなリフで押していくタイプの楽曲だ。ただ細かくみると短時間の中に展開も見られる。
特に今回取り上げたメインリフに戻る一瞬だけ出てくるリフもある。ややアップテンポに展開した後に、自然にメインリフにクールダウンする役割を担っているフレーズだ。
与太郎正伝
- 収録アルバム:12th『三悪道中膝栗毛』
- 該当するリフ・フレーズ:(4:00頃~)
- 秒数:約7秒
この時期の和嶋氏らしい明るい曲調であるが、随所にLed Zeppelinを思わるようなリフが散りばめられている。前半はパワーコード、後半は単音リフ主体に分かれている。
後半のややトリッキーなメインリフでのギターソロ後に一瞬だけ出てくるフレーズがある。ブルース風味のフレーズであり、メインリフで曲を終わるための導入のような役割を担う。
アウトロのリフ・フレーズ
人間椅子の楽曲は同じリフを繰り返して終わる曲も多い。一方で唐突に今までないアウトロで終わるパターンもある。
特にそのような最後にだけ登場するリフのある曲を中心に選んでみた。
第1位:胎内巡り
- 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(7:38頃~)
- 秒数:約13秒
70年代のB級ハードロックを思わせるような緩い雰囲気の楽曲。ただし最後に挿入されるお経のパートはドゥームに展開し、一筋縄ではいかない人間椅子の魅力が光る。
アウトロも凝っており、リズム隊のみリズムが変化し、ラストはギターも揃ってアウトロのフレーズをなぞる。勇壮なドラムに不気味なリフがとてもカッコいい。
第2位:幸福のねじ
- 収録アルバム:3rd『黄金の夜明け』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(5:02頃~)
- 秒数:約9秒
初期人間椅子の中では屈指のスラッシュメタルを感じさせる人気曲。ザクザクとしたギターリフが心地よく、特に中間のギターソロでは高速で突き進んでいく。
アウトロも似たフレーズを引き継ぎつつ、ギターはせり上がるようなテクニカルなフレーズだ。最後でややプログレッシブなフレーズを挿入するのが和嶋氏らしさである。
第3位:痴人の愛
- 収録アルバム:12th『三悪道中膝栗毛』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(4:32頃~)
- 秒数:約28秒(残響部分を含む)
アルバムラストに配置されるお馴染みのヘビーな曲だが、これまでに比べ簡素にまとめられている。とは言え、ギターソロ後からの展開は今までにない新しいものだ。
エモーショナルに展開するラストであるが、悲劇的なイメージで終わりに向かわせるのがこのアウトロだ。テンポを落としながらヘビーに終わる、人間椅子の中でも名アウトロであろう。
遺言状放送
- 収録アルバム:2nd『桜の森の満開の下』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(4:00頃~)
- 秒数:約4秒
鈴木氏の小気味いいボーカルと狂気を感じる和嶋氏のアナウンスが面白い1曲。ギターフレーズは美味しいフレーズのオンパレードの様相だ。
アウトロはここだけ登場するフレーズだが、サビのリフを変形したものとも取れるか。唐突に終わる楽曲の中でも随一の唐突さである。
戦慄する木霊
- 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(3:37頃~)
- 秒数:約16秒
いかにもBudgie風味のリフが心地よい楽曲である。和嶋氏の楽曲の中ではシンプルなリフで押していくタイプの楽曲で珍しい。
アウトロに登場するリフは、途中に出てきそうで初めて出てくるリフである。短い中にもハモりが入っているなど、細部まで作り込まれている印象だ。
塔の中の男
- 収録アルバム:15th『未来浪漫派』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(8:35頃~)
- 秒数:約19秒
15th『未来浪漫派』の中でも最も展開が多く、長大な楽曲である。一番最後まで気が抜けない展開で、アウトロにも今まで出てこないフレーズが登場している。
空間系の広がりを持ったギターから一転、やや不気味なアルペジオのフレーズがアウトロになっている。ギターはクリシェの進行になっており、劇的なラストを演出している。
眠り男
- 収録アルバム:19th『怪談 そして死とエロス』
- 該当するリフ・フレーズ:アウトロ(5:06頃~)
- 秒数:約11秒
見世物小屋をイメージして作られた楽曲である。箱を開ける音をギターで表現するなど、様々な効果音を楽器で表現しており面白い。
アウトロにはドラムのキメとギターのアルペジオ的なフレーズが使われている。直前のクリシェ進行によるリフのアルペジオ部分のみ切り取られた形だ。
まとめ
今回は人間椅子の一瞬だけ登場するリフ・フレーズに注目して楽曲を見てきた。メインのリフやギターソロ以外に注目してみると、新たな発見もあったのではないだろうか。
今回はイントロ、中間部、アウトロの3つに分けて紹介した。いずれの3つにおいても、比較的展開の多い楽曲が選ばれているのではなかろうか。
展開する際には、どうしても唐突になり過ぎないように、次の展開への導入となるフレーズが必要になる。それゆえ展開の多い曲は、さらに展開が増えていく傾向にある。
一方で展開の多い曲は間延びした印象にならないように注意が必要である。その結果、短時間で展開していくことになり、一瞬だけ登場するフレーズが生まれるのだろう。
このような編曲の苦労の結果として、一瞬だけ登場する名リフ・フレーズが生まれている。
マニアックな見方ではあるが、こうした人間椅子のリフやフレーズを細かく見ていくのも面白い。今回取り上げなかった曲もあるため、改めてそんな視点で曲を聴いてみてはいかがだろうか。
※今回紹介した楽曲のリスト
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