バンド生活三十五周年を迎えた人間椅子が、2024年2本目となるツアー『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』を行っている。
前回は4月に『バンド生活三十五年~猟奇第三楽章~』が行われ、人間椅子の初期の楽曲を中心としたセットリストが組まれた。
今回も特に選曲に関するコンセプトは発表されていないが、11月13日リリースの映像作品 『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』のプロモーションを兼ねたものだったようだ。
”ベストヒットな選曲になるかも”という前回ツアーのMCもあったが、蓋を開けてみればなかなか渋い楽曲を交えた、人間椅子らしいライブになったと感じている。
今回は本ツアーの11月5日、名古屋Electric Lady Landでの公演の模様をレポートする。
ライブレポート:人間椅子 2024年秋のワンマンツアー『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』名古屋 Electric Lady Land
かなり久しぶりに名古屋で人間椅子を観ることとなった。当ブログでも書いているが、かつて実家に住んでいた当時(2007年まで)は名古屋で人間椅子のライブを観ていた。
それ以降、時々人間椅子のライブのタイミングに合わせて実家に帰ることもあったが、今回はおそらく10年ぶりくらいに名古屋のライブに参加した。
両親とともに参加したが、ファンクラブでチケットを取った両親とは番号が大きく離れていたので、開演直前に中に入ることにした。
開演前の物販では、トートバッグが売り切れ、ロングTシャツはXLが残るのみとなっていた。CD購入のサインは残っていたので、今回は『修羅囃子』のHQCDを購入した。
開演15分前くらいにはほぼ満員となり、フロアの後ろの階段まで人が溢れていた。今回の開演直前のBlack Sabbath曲は「Wheels of Confusion」であった。
開演時刻の19時に暗転すると、前回ツアーと同様に「新青年まえがき」が入場曲だった。ギター和嶋慎治氏は紋付袴姿である。
ベース鈴木研一氏はいつもの袈裟、ナカジマノブ氏は鯉口シャツの姿であった。
1曲目は鈴木氏のベースから「鉄格子黙示録」、和嶋氏が高校生の時に作った人間椅子の原点と言っても良い楽曲である。
そのまま続きで「暁の断頭台」、レア曲に見えて意外と演奏頻度の多い楽曲である。じっくりと聞かせる演奏がとても良かった。
冒頭の鈴木氏のMCでは「連休明けの平日にもかかわらずありがとうございます。」と述べ、「ベストヒットにしようと思ったが、なかなかレアな曲も入っている」と語っていた。
和嶋氏からは「さっそくレアな曲を」ということで『修羅囃子』から「愛の言葉を数えよう」。ライブ映像『威風堂々〜人間椅子ライブ!!』のように、冒頭にアドリブソロが挿入された。
鈴木氏のMCによれば、1番売れなかったアルバムが『修羅囃子』で、1番売れたのが『人間失格』とのことで、いまだ『人間失格』の売り上げは超えられないそうだ。
そして2番目に売れなかった『羅生門』から、ということで本日最もレアな楽曲「埋葬蟲の唄」が披露された。筆者の記憶する限り、2010年の人間椅子倶楽部の集いくらいでしか聞いたことがない。
中間部のギター・ベース双方のソロが絡み合う展開はやはりカッコいいものである。アウトロ部分ではボトルネックによるスライド奏法が見られた。
続く楽曲では楽器を持ち替え、和嶋氏はボトルネックを持ったままであり、何の曲が披露されるのか全く予想できないセッティングである。
鈴木氏はSGタイプの新しいベースを持つと歓声が上がる。その歓声を聴いて「これで歓声が上がるなら毎回新しいベースを買おうかな」という鈴木氏。
和嶋氏からは11月13日リリースの『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』に収録される過去の映像集の話題となり、かなり体型や衣装の変化があったことを語る。
「メンバーがいないと思わないで、見た目が変わっただけ」と笑いを誘う。デビュー前の映像もあるそうで、その中で披露されているという未収録の楽曲を披露するということに。
ここでは「夢女」が披露された。今の人間椅子にはないタイプの、不気味なムード歌謡のような楽曲である。
やはりこの曲や、今回披露されていないが「わたしのややこ」などを聴くと、人間椅子のデビュー前後はメタルバンドと言うより怪奇的な世界観の音楽を幅広くやる、という趣向だったのがわかる。
※デビュー前のレパートリーも含め未収録曲を集めた記事はこちら
再び楽器を持ち替えて、またしても和嶋氏はボトルネックをつけたまま、鈴木氏がエフェクトのかかったベースを弾いたので曲が予想できた「芋虫」。
だいぶん後のMCで鈴木氏から今日のギターソロは良かった、考えていない(作り込んだものではない)感じだったと言う感想があった。
それに対し、和嶋氏は予習をしたものの、いったんそれを置くことにしたので、アドリブっぽいソロが弾けたということだった。
ダウンチューニングの楽器に持ち替え、和嶋氏のMCで我々も昭和時代に子どもだった、ノストラダムスの大予言が起きるのではないかと言う話から「恐怖の大王」。
相撲の話題が登場し、まさか「相撲の唄」か?という雰囲気も一瞬流れたが、「はっけよい」つながりで「神々の決戦」が披露される。
アルバム『色即是空』のツアーではあまり披露されなかった楽曲であり、嬉しい選曲だった。
和嶋氏からは「人間椅子は終末のことを歌うバンド」(楽しい終末ではないと和嶋氏)、世界は何度か滅んでいるのではないか、というMCから「水没都市」が披露される。
前半部分はフロントピックアップで演奏されるのがこれまでと違っていた。確かにアルペジオ主体の演奏なので、フロントの方が音は聴き取りやすくて良かった。
名古屋のライブ当日、楳図かずお氏が亡くなったということで「洗礼」が披露された。今までの会場にはなかった曲目なので、もしかすると急きょ決まったものかもしれない。
演奏終了後には、人間椅子と楳図かずお氏との思い出が語られる。かつて「14歳」と言う楽曲で人間椅子はコラボした歴史がある。
その時に楽器のケースにサインを書いてくれたが、鈴木氏はケースごと盗まれてしまったという悲しいエピソードも披露された。
ちなみにメンバーが好きな楳図かずお氏の作品は、鈴木氏「神の左手悪魔の右手」、ナカジマ氏「へび少女」、和嶋氏「赤んぼ少女」だと語られた。
和嶋氏から自選詩集が発刊された話から、「無情のスキャット」が披露された。「洗礼」「無情のスキャット」と定番の力強さを改めて感じられた。
いつも通り、ナカジマ氏のMCコーナーが始まるものの、鈴木氏がいったん退席した。明らかに腰の調子が悪い様子が窺われる。
和嶋氏もMCに加わり、かつてのナカジマノブ氏が学生時代に組んだバンドの話などが引っ張られたが、その間に鈴木氏はいったん座るなど休んでいたのだろうか。
ナカジマ氏が加入して20年と言う話もありつつ、鈴木氏が戻ってきたが、やはり苦しそうな表情をしている。
かなり久しぶりの「赤と黒」ではあったが、鈴木氏の調子が悪そうなのが気になってあまり集中できなかった印象だった。
ラストは初期のレパートリー「天国に結ぶ恋」「針の山」を立て続けに披露して本編が終了。やはり終盤も明らかに本調子ではない様子だった。
アンコール呼び出しも若干長め、和嶋氏・ナカジマ氏から今回のツアーグッズの紹介をしつつ、和嶋氏の新たな楽器のお披露目が行われる。
エクスプローラーというMetallicaのジェームス・ヘットフィールドが弾くことでもおなじみのギターである。ギブソンが作ってくれたということだそうだ。
なんちゃって「Creeping Death」も披露された後、和嶋氏からデビュー前は曲が少なくて、次の曲をよくやっていたということで「神経症I LOVE YOU」。
若干鈴木氏も持ち直した様子で、「名古屋の皆様のご健康と~」という懐かしい口上とともに「地獄風景」が披露された。
最近はダブルアンコールで引っ込む形ではなく、そのままダウンチューニングに持ち替えて「どっとはらい」が披露されてアンコールは終了した。
2025年にはニューアルバムの制作を予定しているとのことで、また名古屋に来ることを約束してメンバーは戻っていった。
<セットリスト・収録アルバム>
No. | タイトル | 収録アルバム |
---|---|---|
SE | 新青年まえがき | 『新青年』(2019) |
1 | 鉄格子黙示録 | 『人間失格』(1990)、『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』(2009) |
2 | 暁の断頭台 | 『二十世紀葬送曲』(1999) |
3 | 愛の言葉を数えよう | 『修羅囃子』(2003) |
4 | 埋葬蟲の唄 | 『羅生門』(1993) |
5 | 夢女 | 未収録 |
6 | 芋虫 | 『怪人二十面相』(2000) |
7 | 恐怖の大王 | 『怪談 そして死とエロス』(2016) |
8 | 神々の決戦 | 『色即是空』(2023) |
9 | 水没都市 | 『黄金の夜明け』(1992) |
10 | 洗礼 | 『三悪道中膝栗毛』(2004) |
11 | 無情のスキャット | 『新青年』(2019) |
12 | 赤と黒 | 『未来浪漫派』(2009) |
13 | 天国に結ぶ恋 | 『人間失格』(1990) |
14 | 針の山 | 『人間失格』(1990) |
アンコール | ||
15 | 神経症I LOVE YOU | 『人間椅子』(1989)、『現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜』(2014) |
16 | 地獄風景 | 『怪人二十面相』(2000) |
17 | どっとはらい | 『真夏の夜の夢』(2007) |
全体の感想
今回のツアーの選曲に関しては、前回のツアーでベストヒットになるかも?という話もあったが、個人的には後藤マスヒロ期祭りになるのでは、と予想していた。
蓋を開けてみると「暁の断頭台」「愛の言葉を数えよう」「芋虫」など、まずまず後藤マスヒロ氏在籍自体の曲が散りばめられていた。
(他の会場で披露された楽曲にも、後藤氏在籍時の曲があるようだ)
あまり予想できなかったのは、映像作品『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』に収録されると言われるデビュー前のレパートリーが多めに披露されたことだった。
前回のツアーがデビュー後、初期の楽曲が多かったものの、今回はさらに昔の楽曲が選ばれたのは面白かった。
なお鈴木氏の腰の調子が気にかかるところである。
雰囲気的には、割と急に調子が悪くなった感じだったのか、とりわけ和嶋氏にも不安げな様子が漂っていて、なかなか演奏の世界に入りにくかった感もあった。
筆者は18日の東京公演にも参加する予定であるが、どうか無事にツアーが完遂されることを願うばかりである。
※【ライブレポート】2024年4月24日(水)人間椅子 2024年春のワンマンツアー『バンド生活三十五年~猟奇第三楽章~』東京 EX THEATER ROPPONGI
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