歴史の長いアーティストであれば、アルバムをすべて集めても、そこから漏れてしまう楽曲がある。人間椅子にも何曲もそういった楽曲がある。
さらにどの音源にもいまだに収録されていない、未収録曲も存在する。
そこで今回はそんな、オリジナルアルバムに収録されていない未収録曲を集めてみた。
人間椅子のアルバム未収録曲
「未収録曲」と一口に言っても、いくつか種類がある。今回は以下の楽曲を集めてみた。
- シングル・ベスト盤等にのみ収録されている楽曲
- 人間椅子名義ではない楽曲
- 音源化されていない楽曲
- その他の楽曲
シングル・ベスト盤等にのみ収録されている楽曲
人間椅子の数少ないシングル盤のB面として収録された楽曲を紹介した。またベスト盤に収録された楽曲も併せて紹介している。
人面瘡
【収録作品】
- 0th『人間椅子』
- シングル『夜叉ヶ池』
- 1stベスト盤『ペテン師と空気男~人間椅子傑作選~』
- 3rdベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』
ライブでは欠かせない代表曲ながら、オリジナルアルバムには収録されていない。
0th『人間椅子』は、他とバージョンが異なり、イントロのギターがアコースティックギターではなく、エレキギターで演奏されている。
現在ベスト盤で聴けるバージョンはシングル盤に収録のものと思われる。アルバム『桜の森の満開の下』と同じ音作りである。
陰獣
【収録作品】
- 0th『人間椅子』
- 3rdベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』(再録バージョン)
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』(0thバージョン)
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』(再録バージョン)
言わずと知れた、人間椅子のイカ天でのデビュー曲である。ライブでの演奏は多いものの、0th『人間椅子』のみに収録されていた。
ベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』にダウンチューニングで再録された。0thバージョンはノーマルチューニングで演奏され、歌詞が若干異なる。
なお歌詞はベスト盤収録バージョンがオリジナルである。
猟奇が街にやって来る
【収録作品】
- 0th『人間椅子』
- 3rdベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』
和嶋氏による、少し軽めの曲調の楽曲。
ベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』に収録されているのは、再録バージョン。デビュー当時に演奏していたものを忠実に再現したとのこと。
ちなみに0th『人間椅子』バージョンは、ベスト盤よりもテンポが速め。
神経症I LOVE YOU
【収録作品】
- 0th『人間椅子』
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
和嶋氏によるロックンロールナンバー。
長らく0thのみ収録の幻の楽曲だったが、めでたく2014年のベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』に収録となった。
渋谷公会堂でのツアーファイナルでも演奏され、DVD/Blu-ray『苦しみも喜びも夢なればこそ「現世は夢~バンド生活二十五年~」渋谷公会堂公演』にも収録されている。
走れメロス
【収録作品】
- 1stベスト盤『ペテン師と空気男~人間椅子傑作選~』
ホンダ製オートバイのPR曲として制作された楽曲。インストゥルメンタルである。
ドラムスは上舘氏であり、3rd『黄金の夜明け』の音作りに近い。近年ライブで演奏されたことは、おそらくないと思われる。
大予言
【収録作品】
- シングル『もっと光を!』
- 1stベスト盤『ペテン師と空気男~人間椅子傑作選~』
ベース鈴木氏による、テンポの速い楽曲。4th『羅生門』と音作りは同じ。
『第十二回 人間椅子倶楽部の集い 2016』にて久しぶりに演奏された。
桜下音頭
【収録作品】
- シングル『刀と鞘』
- 6thアルバム『無限の住人』(2020年リマスター盤)
「作詞:沙村広明、作曲:沙村広明・和嶋慎治」となっている。
漫画『無限の住人』の作者である沙村広明氏が元となる曲を作っている。それをギター和嶋氏が1曲に仕立て直したようだ。
楽曲としてはディスコ調で、メロディは歌謡曲。オリジナルアルバムには確かに入らないポップな楽曲である。
『第四回 人間椅子倶楽部の集い 2007』にて演奏されている。2020年8月19日に発売されたアルバム『無限の住人』のリマスター盤に、ボーナストラックとして収録された。
鉄格子黙示録(歌詞ありバージョン)
【収録作品】
- 3rdベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』
- 和嶋慎治著『屈折くん』 特典CD(デモ音源)※特典CDはmuevoにて限定セット販売されたもので、現在は完売
デビュー前からのレパートリーだったが、歌詞が過激であったため、1st『人間失格』には前半部のみが収録された。
ライブでのみ完全版が演奏されていたが、2009年のベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』に収録された。
「屈折くん」のデモ音源では、歌の部分は1オクターブ下の声で収録されており、より不気味な雰囲気が漂う。
狂ひ咲き
【収録作品】
- 3rdベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』
ベスト盤を発売するにあたり、和嶋氏により書き下ろしされた楽曲。人間椅子らしい楽曲、ということで、歌詞も以前の楽曲で使われたフレーズが使われている。
ベスト盤発売ツアーで演奏されてから、あまり演奏されることはなく、レア曲扱いとなっているようだ。
オー!デカダンス
【収録作品】
- 特典CD-R『萬燈籠』(デモ音源)
17th『萬燈籠』をタワーレコードで購入した人向けの特典音源に収録されている。デモ音源の段階だが、歌詞もあり、バンド演奏されている。
和嶋氏による楽曲で、3分ほどの短い楽曲ながら、ローチューニングでヘビーな楽曲だ。
まだこの後に展開もありそうだが、初期衝動を感じる独特な楽曲で発売当時、好評だった。ライブ演奏はいまだされていない。
地獄への招待状
【収録作品】
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
ベスト盤用に書き下ろしされた、鈴木氏による楽曲。モーターヘッドを思わせる、疾走感のあるドラムが印象的だ。
発売当時は、ライブ前半によく演奏されたが、最近は回数が減っている。
悪徳の栄え
【収録作品】
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
和嶋氏による、ローチューニングの重々しい楽曲。毒のある歌詞を書いた、当時のライブMCで語っており、曲調は「阿片窟の男」を思わせる。
『第十二回 人間椅子倶楽部の集い 2016』で演奏されており、レア曲入りしているようだ。
悲しき図書館員
【収録作品】
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
鈴木氏による、シンプルなハードロック。歌詞については、アメリカのテレビ番組「ミステリーゾーン」から着想を得ているそうだ。
鈴木氏が自らレア曲宣言しているが、「おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー」では演奏されている。
宇宙からの色
【収録作品】
- 4thベスト盤『現世は夢 ~25周年記念ベストアルバム~』
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』
3rdベスト盤の新曲の中で唯一定番化した楽曲。和嶋氏による楽曲で、H・P・ラヴクラフトの小説をモチーフにしている。
ライブの冒頭や序盤で頻繁に演奏されている。英語字幕の入ったMVは海外進出前の当時は斬新に感じられた。
命売ります
【収録作品】
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』
三島由紀夫原作の小説「命売ります」がドラマ化されるにあたり、人間椅子初のドラマ主題歌となった楽曲。
和嶋氏には珍しく、スラッシュメタルを感じさせる。シングル盤にはならず、ベスト盤が初の盤面収録となった。
愛のニルヴァーナ
【収録作品】
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』
MV制作もされ、妖艶な映像が話題になった。
ヘビーながら、疾走感もあり、近年の人間椅子の作風を踏襲している。「エロス」と「タナトス」という言葉が印象的だ。
悪夢の序章
【収録作品】
- 5thベスト盤『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』
鈴木氏の作曲で、短いながらも魅力が詰まった楽曲だ。和嶋氏による歌詞は、様々な悪夢の場面を描いたものである。
Aメロのすき間のあるギターリフと、重低音のベースが心地よい。
いつもであれば和嶋氏が変化を狙った楽曲を作るが、このベスト盤の中では、鈴木氏の方が新機軸の楽曲を作っている印象だ。
人間椅子名義ではない楽曲
他のバンドとのコラボによりリリースされた楽曲を紹介する。なお個人が演奏のみで関わった楽曲など、人間椅子全員の関与がないものは除いている。
とんまつりJAPAN
【収録作品】
- ビデオシングル『とんまつりJAPAN』
- アルバム みうらじゅん『青春ノイローゼ -1974~1999-』
みうらじゅん氏の作詞・ボーカル、人間椅子による作曲・編曲による。ドラマーは後藤マスヒロ氏である。
企画物の楽曲ながら、リフや展開は人間椅子らしいものである。
君は千手観音
【収録作品】
- アルバム みうらじゅん『青春ノイローゼ -1974~1999-』
- ミニアルバム アンダーグラウンド・サーチライ『スケキヨ』
ロックユニットの「大日本仏像連合」として発表された楽曲である。作詞:みうらじゅん、作曲:鈴木研一・和嶋慎治、となっている。
大槻ケンヂ氏のソロプロジェクトアルバムにも音源が収録されている。
地獄のアロハ
【収録作品】
- シングル 筋肉少女帯人間椅子『地獄のアロハ』(筋肉少女帯とのコラボシングル)
2015年に「筋肉少女帯人間椅子」名義でリリースされた楽曲。作詞:大槻ケンヂ、和嶋慎治、作曲:和嶋慎治、内田雄一郎、本城聡章、鈴木研一、橘高文彦、である。
どのパートが誰によるメロディなのかは明らかにされていない。
音源化されていない楽曲
音源化されていないものは、全てを確かめるのが難しい。そこで筆者がライブ等で確認できた曲の中から、近年も演奏される可能性のある楽曲を中心に選んだ。
わたしのややこ
【収録作品】
- タワレコ特典DVD-R『異次元からの咆哮』(ライブ映像)
- 和嶋慎治著『屈折くん』 特典CD(デモ音源)※特典CDはmuevoにて限定セット販売されたもので、現在は完売
デビュー前後のレパートリーだった、和嶋氏による楽曲。
近年のライブでも演奏されており、タワレコで20th『異次元からの咆哮』を購入した人の特典として、ライブ盤リリース記念ワンマンツアー「威風堂々」時のライブ演奏が収録された。
ドリフのズンドコ節のギターリフと、歌謡曲を思わせるメロディーが、今の人間椅子からすれば新鮮だ。
1st『人間失格』のレコーディングで録音されたが、歌詞が過激であるため収録されなかった。
造反有理
【収録作品】
- なし
Budgieの「Crash Course in Brain Surgery(脳外科手術の失敗)」にオリジナル詞を乗せたもの。
歌詞のフレーズは後に「太陽黒点」に流用されている。ボーカルは鈴木氏がとっている。
なお『第九回 人間椅子倶楽部の集い 2012』では「わたしのややこ」なども含め、デビュー前に作成したカセットの歌詞カードの複製が参加者に配布された。
2012年の和嶋工務店の対バンイベントで、人間椅子の初期のライブを再現した覆面バンド「椅子ニンゲン」のライブで演奏している。
また2015年の対バンイベント「HEADBANG HELL ON EARTH Vol.1」でも演奏されている。
陰獣(ロングバージョン)
【収録作品】
- なし
もともと演奏されていた7分ほどの陰獣のロングバージョンがある。
イントロが長い、アウトロで鉄格子黙示録の最後のような、しっとりした展開になること、などが異なっている。
2012年の「椅子ニンゲン」によるライブにて演奏された。
夏の墓場(Aメロ)
【収録作品】
- 14th『真夏の夜の夢』の「白日夢」にAメロが使用された。
デビュー当時に演奏されていたらしい楽曲。この曲のAメロが、後に『真夏の夜の夢』の「白日夢」に使用されたそうだ。
セピア色の思い出
【収録作品】
- 和嶋慎治著『屈折くん』 特典CD「御伽姫」(デモ音源)
初期のライブでは演奏されていたバラード調の楽曲。和嶋氏による弾き語り「御伽姫」と同じ曲で、テレビ番組「人間椅子倶楽部」でも披露されていた。
近年のライブ演奏は聴いた記憶がない。
死ね死ね団のテーマ
【収録作品】
- 和嶋慎治著『屈折くん』 特典CD(デモ音源)
人間椅子の前身バンド「死ね死ね団」の時に作られた楽曲で、人間椅子として最初の曲らしい。80年代のハードロックを思わせる楽曲であり、今の人間椅子の曲と変わりない。
『第九回 人間椅子倶楽部の集い 2012』にて、ボーカルの石井氏も登場し、披露された。
君忘れじの田舎館村
【収録作品】
- なし
ビデオ・DVD化された『見知らぬ世界』に収録された、2000年10月29日青森県田舎館村ライブ「青森ロック大臣」において演奏された楽曲。残念ながら映像には残されていない。
アイアンバタフライの「In-A-Gadda-Da-Vida」に和嶋氏が日本語詞をつけたもの。ボーカルはAメロが鈴木氏、Bメロが和嶋氏である。
その後、2002年ビデオ発売ツアーでは各会場で披露されている。人間椅子倶楽部の会報(2003年5月号)に歌詞が掲載されていた。
その他の楽曲
その他、ファンサイトなどで確認されるものの、筆者ではそれ以上の情報を追記できないものを以下に挙げた。
前身バンド、死ね死ね団で演奏されていたらしい楽曲
- たまゆらの恋
- ビッグウェーブ日本海
その他の楽曲
- 美・美・美・美・美・美・美・美佐子(和嶋氏の高校時代の楽曲)
- ワイルド娘(同上)
- 赤い月(屈折くんの特典CD)
- 反剋の使徒(同上)
- デーモン(鈴木氏の処女作。りんごの泪、マンドラゴラの花にリフを使用)
- (仮)男はつらいよ(刀と鞘の元となった)
- 充血(黒猫の後半部分)
- 14歳(楳図かずお氏とのジョイント曲)
- 僕はチキン(同上)
- 猿面冠者
- Big Fat Mama
- 薬の唄
- Dr. Crippen
- 包帯の女
- マッチ売りの少女
- 青森640のテーマ
- 追跡と脱走のサンバ
- メンバー紹介唄
- 夢女
- 阿Q正伝
※Wikipediaおよび青森ロック大臣 練馬調査室様を参照している。
まとめ
人間椅子のオリジナルアルバム未収録の楽曲を特集した。なお、いずれの音源にも未収録の楽曲は他にもあり、筆者も一度も聴いたことがなく、タイトルのみしか知らないものも多数ある。
和嶋・鈴木両氏は、アルバム制作のたびに大量のギターリフを考えて、ほとんどをボツにすると語っていた。また実際に1曲の形になったがお蔵入りとなっている楽曲も多数存在するのだろう。
ファンにとっては気になるところではあるが、1枚のアルバムを制作するという過程においては仕方のないことかもしれない。
しかしベスト盤制作に併せて作られた新曲も、どれもアルバムに加えられてもおかしくないクオリティである。今回こうして並べてみることで、人間椅子の高い音楽性を再確認することができた。
今後もアルバムでなくとも、細かくリリースされる楽曲にも要注目だ。
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コメント
人間椅子への大いなる情熱と探究心に感動しました。
本当にありがとうございます。
>>石井さん
コメントありがとうございます。
ただただ人間椅子が好きで、その思いから記事を書いています。
少しでも楽しんでいただければ嬉しいです!
あまりにも詳細な情報で驚きましたが、少しだけ補足と訂正を。
死ね死ね団としてのレパートリーというか
スタジオで練習したことのある曲でかつ和嶋君の高校生の頃の曲としては
鉄格子黙示録/わたしのやや子/死ね死ね団のテーマ/たまゆらの恋/ビッグウェーブ日本海の5曲だったと思います。すべて高校3年時のものですね。
美沙子とかワイルド娘はやったことがなく、彼が別に加入していたストーンズのコピーバンドでやってたと記憶しています。
>>石井さん
貴重な情報をありがとうございました!
デビュー前のレパートリーについては情報が少なく、不確かながら書いてしまったところがありました。
そして失礼なのですが、もしや死ね死ね団でボーカルをされていた石井さんでしょうか?
お名前が同じで、大変お詳しかったので尋ねました次第です。
そーです!和嶋君の曲はやたらとギター弾くのが難しくて当時初心者だったワタシにはタイヘンでした。
>>石井さん
やはりそうでしたか!コメントいただけるなんて驚きです。
和嶋さんの曲は昔から難しかったのですね(笑)
ちなみに2012年の人間椅子倶楽部の集いで石井さんが来られて「死ね死ね団のテーマ」を歌われたのを現場で拝見しました。
とてもかっこいい曲で、和嶋さん・鈴木さんも楽しそうに演奏していたのを覚えています。