【ライブレポート】2023年11月6日(月)人間椅子 『色即是空 ~リリース記念ワンマンツアー~』 東京 Zepp Haneda(Tokyo)

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ライブレポート

2023年9月6日に23枚目となるオリジナルアルバム『色即是空』をリリースした人間椅子。リリースを記念したワンマンツアーが10月より行われていた。

各地大盛況の様子で、最高動員数を塗り替える好調ぶりだったようだ。そんな勢いに乗っている人間椅子、筆者はツアーファイナルの東京、Zepp Haneda公演に参加してきた。

非常にメッセージ性の強い新作『色即是空』の楽曲たちが、どのようにライブで描かれるのか、新作のツアー故に、それが楽しみなところでもあった。

そして予想以上に、今回の新曲が過去の楽曲ともリンクし、人間椅子らしい深淵な世界に誘ってくれるライブだったように思う。11月6日の公演のレポート、および感じたことをまとめた。

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ライブレポート:『色即是空 ~リリース記念ワンマンツアー~』 東京 Zepp Haneda(Tokyo)

今回の新作『色即是空』は、近年のアルバムの中でも最も充実度が高いアルバムではないか、とアルバムレビュー記事で書いた。

コロナ騒動真っ只中の前作『苦楽』に比べ、メッセージはさらに明確に、そして音楽的にはキャッチーなメロディが散りばめられ、音源としてもライブでも楽しめそうなアルバムに仕上がった。

アルバムの完成度の高さか、本ツアー各地で最高動員数を次々と更新する盛況ぶりを見せている。筆者としては人間椅子フィーバーも落ち着く傾向か、と思っていたら、むしろ大フィーバー中である。

なお東京公演は早々にソールドアウトとなり、追加販売も行われたものの、それもほどなくして売切れる、という人気ぶりである。

公式に告知等はなかったものの、ベースの鈴木研一氏の脊柱管狭窄症が悪化し、着席で演奏することが、本作のインストアライブで語られた。

インストアライブでは全編で着席で演奏され、短い距離を歩くのがやっとと言う状態だった。

ただ各地の様子を聞く限り、インストアライブ時よりは調子が良いようで、ライブの終盤だけ立って演奏していた、という報告も聞いている。

鈴木氏の体調を心配しつつ、Zepp Hanedaへと向かった。

11月6日(月)、連休明けの月曜日は雨交じりの1日であった。人間椅子ファンの間では有名であるが、ギターの和嶋慎治氏は強烈な雨男と言われ、なぜか人間椅子のライブでは雨が多い

事前の予報では、「連休明けに荒天の恐れ」とのニュースもあったが、関東では6日にはそれほどまとまった雨にはならなかった。

Zepp Hanedaは2020年7月オープンと新しいライブハウスで、スタンディングの場合2,925人、椅子ありの場合は1,207席だと言う。

大型複合施設である羽田イノベーションシティ内にあり、都会の喧騒な雰囲気から離れた異空間と言う印象だった。

さらに異空間を思わせるのは、屋上デッキにある足湯である。隣接する羽田空港から飛び立つジェット機を真上に見ながら、足湯に浸かる時間は癒しのひとときだった。

ライブよりも物販よりもまずは足湯に向かった筆者であり、18時過ぎまでここで過ごした。

さて、すっかり前置きが長くなったが、18:20頃にようやく入場である。既にCD販売特典のポスターは尽きていたので、スルーして会場へ。

建物の前にはこじんまりとツアー名を書いた看板があったが、しっかり人間椅子のロゴが描かれていた。

ドリンクカウンターの奥には、お花が飾られており、右側にあったのは海外のファンの方から贈られたものであった。人間椅子も今やワールドワイドなバンドである。

今回の座席は前から2列目の和嶋氏側であった。ちょうど和嶋氏が真ん前になる場所であり、久しぶりにかなり前の方で人間椅子を見ることになった。

鈴木氏の立ち位置には、台座と椅子が用意されていた。

あまり入場前のBGMは聴かなかったが、WhitesnakeやBlack Sabbathなど様々なバンドの詰め合わせだったようである。

19時ほぼ定刻通りに場内が暗転、SEの「此岸御詠歌」が流れる。筆者の座席はメンバーの緊張感がダイレクトに伝わってくるような、かなり近い距離感である。

ライブの始まりは「さらば世界」、この曲はアルバムのスタートであり、『色即是空』の世界観を始める上でも重要な楽曲である。

続く「悪魔一族」、渋谷でのインストアライブと同じ流れで東京公演は幕を開けた。

最初のMCでは、鈴木氏が座って演奏することの謝罪から始まった。和嶋氏はおなじみのMC(ツアーファイナルで脂が乗っている云々)を進めつつ、『色即是空』と本ツアーの手応えを感じている様子。

3曲目「狂気人間」は音源で聴くよりもハードな仕上がりに聞こえた。「地獄大鉄道」披露後のMCでは、踏切の音がポイントであることを改めて紹介した。

「どこかの駅で使ってもらえないかな」と鈴木氏。さらに「踏切の表示に和嶋氏の顔が出るのはどうか?」との話に、「必要以上に人が見る」と和嶋氏が突っ込んでいた。

夏には弘前に帰省し、今年はいつも通りのねぷた祭りが見られたという鈴木氏のMCから、かなり久しぶりの「屋根裏のねぷた祭り」(2000年の9thアルバム『怪人二十面相』収録)。

近年あまり聴かなくなった、中間部で静かになるタイプの曲で、ライブではこうした曲がアクセントになって良い。

「新調きゅらきゅきゅ節」も結構久しぶりの印象だ。筆者の中で、”最近やらなくなったちょっと前の定番シリーズ”と勝手に思っている曲がいくつかあるが、そのうちの1曲だった。

ダウンチューニングコーナーでは、前作『苦楽』から「杜子春」が披露される。今回のライブでは後に「星空の導き」があるので、パーカッションがセッティングしてあった。

そうした背景で「杜子春」もできる、ということになった部分もあるだろう。とは言え、個人的には今回一番グッと来てしまったのがこの「杜子春」であった。

和嶋氏が介護施設にいる母親となかなか会えなかったエピソードを話し、より説得力を増したのもあるのかもしれない。

しかし前作のリリースツアー時に比べて、それ以上に説得力を増したのは、『色即是空』で改めて前作『苦楽』の路線に確信を持てたからなのか、より力強く感じられた。

「皆さんそろそろ疲れて来ていませんか?」のMCから、『色即是空』の中でも人気曲「蛞蝓体操」。インストアライブで披露された時より、息もぴったり、ライブを重ねて物にした印象だ。

「蛞蝓体操」で身体を伸ばしたからか、鈴木氏は「今日は調子が良い」と言って台座・椅子が撤去されて立って演奏するとのこと。

各地で聞こえてきた様子に比べると、かなり早い段階で立って演奏していたのではなかろうか。

この辺りのMCで、和嶋氏は親せきの方が亡くなった時に、”百万遍”と呼ばれる、大きな数珠の周りで念仏を唱える行事を行ったとのこと。

地域行事として日本各地に残る百万遍念仏とは
百万遍念仏とは、知恩寺の大念珠繰りでも有名な行事の一つです。 今日でも、地域信仰として各地に流布し、日本中に残っています...

しかしそれは人が亡くなったのとは思えない、明るく歌うように念仏を唱えるものでとても楽しかったと言う。

人の生死を過度に恐ろしいものとして捉えるのではなく、身近に感じられるのがかつての日本だったのかもしれない。そんなこと感じたMCだった。

さて、個人的なハイライトは「死出の旅路の物語」「死神の共演」「今昔聖」の3曲の流れ。新旧の仏教的世界観、死生観にまつわる3曲が並んだのが感慨深かった。

同じテーマが貫かれている一方、和嶋氏の心境の変化が表れた3曲だったようにも思う。

ようやく自分らしい言葉で生死について歌詞が書けた「死神の饗宴」、バンドが上向き始めた頃の研ぎ澄まされた「今昔聖」、そして円熟の「死出の旅路の物語」である。

筆者が思うに、今回のライブそして『色即是空』を通して伝えたかったことが、この辺りの曲目に表れているようで、後半で詳しく書きたいと思う。

さて、どこかのMCで鈴木氏がねぷたで帰省した時、敬愛する絵師の三浦呑龍氏に会えて、”研ちゃん”と呼ばれたのが物凄く嬉しかったとの話があった。

三浦呑龍氏と言えば、2017年の20thアルバム『異次元からの咆哮』のジャケットに絵が使われている。

和嶋氏は、「僕が研ちゃんと呼ぶのの100倍嬉しいね」という話に、鈴木氏は「いや1000倍」と返すほのぼのした場面があった。

アニキコーナー、久しぶりにアニキコールが響き渡る光景は壮観だった。ただナカジマ氏がMC中、鈴木氏は休憩タイムで座っている場面もあり、やはり万全ではない様子も窺えた。

「未来からの脱出」では和嶋氏、鈴木氏が2人とも背面弾きを披露する場面もあって、楽しげな雰囲気だった。

凱旋の曲、ということで「宇宙電撃隊」。インストアライブで圧倒的な盛り上がりを見せ、ライブ後半に配置されるのがしっくり来る曲である。

”ファンファン”の部分では、タオルを振り回すのが定例になったようだ。物凄く”陽キャ”なノリになっていたが、きっと檀家の人たちも実はやってみたかったことだったのかもしれない。

最後はおなじみ「針の山」、鈴木氏は最後まで立って演奏していた。いつもよりアクションは少なめだが、やはり鈴木氏の動きあっての人間椅子のライブが完成する感じがする。

アンコール呼び出し中に、本編で和嶋氏のエフェクターのトラブルが起きていたのを調整していたようで、少し時間がかかる。

アンコールでは和嶋氏・ナカジマ氏がツアーTシャツ、鈴木氏は白い着物で登場。ナカジマ氏はツアーTについて「ツアーが終わっても毎日着るぜ!」とのこと。

アコースティックギターの和嶋氏、再び着席の鈴木氏で、和嶋氏からは高校時代の友人が亡くなって、曲にしたいと思ってできたのが「星空の導き」であるとのMC。

その友人から教わったコード、Dm6から始まる曲になった、というエピソードも。(こちらのページのパターン②の押さえ方だったように見えた)

Dm6→AM7という美しい音色のギターで始まり、とても凛々しい演奏で良かった。鈴木氏は普段なかなか見せないベーシストらしい運指で、改めて凄いベーシストであると感じた。

全く余談だが、今回和嶋氏の前の席になったので、和嶋氏が舌をペロッと出す瞬間を目撃しよう(つまり失敗した時)と思っていたが、「星空の導き」で目撃した。

それにしても中間部のクラシックのようなギターフレーズは大変難しそうである。

アコースティックでしっとりした後、和嶋氏が新たに作ったと言うレフティー用のSGをお披露目。Jimi Hendrixが右利き用ギターを左に弾いていたのに憧れ、その逆バージョンということだ。

アコースティックだったので、少し雰囲気を戻すためか、和嶋氏の新たなギター(左手用の形をした右利きギター)を披露、と言うより自慢したいそうだ。

再びハードな曲に戻す導入として、Jimi Hendrixの「Purple Haze」のイントロを披露。鈴木氏に「ファズをかけると何でもジミヘンになる」と言われる。

続いてBlack Sabbathの名盤3rd『Master of Reality』から「Into the Void」のイントロまで披露した。

こうした洋楽カバーが聴けるのは東京では懐かしい感じがする、と思ったが、今回映像を撮っていないので、久しぶりに自由度が高いライブだったのだった。

そして披露されたのが「洗礼」である。どうしてもこの曲をライブで聴くと、2004年にナカジマ氏が加入した”新生人間椅子”の時代に思いは戻るのだった。

あの当時に比べるとよりパワフルで、説得力のある「洗礼」になっている。そしてチューニングを念入りに行ってから「無情のスキャット」で締める。

個人的には「洗礼」「無情のスキャット」と言う流れも良かった。ナカジマ氏加入後の人間椅子の始まりと、1つの到達点を並べて聴くと感慨深いものがあった。

和嶋氏は「3年後には我々も還暦、赤いちゃんちゃんこを着て還暦ツアーをやりたい」と語っていた。しかし来年35周年も先にやってくるぞ、と思いつつも、3年後も楽しみである。

今回はアンコールは1回のみで終了、終演後には出口付近にセットリストが貼り出されていた。2時間半ほどのライブだっただろうか、あっという間に夢のように過ぎた時間だった。

<セットリスト・収録アルバム>

No.タイトル収録アルバム
SE此岸御詠歌『萬燈籠』(2013)
1さらば世界『色即是空』(2023)
2悪魔一族『色即是空』(2023)
3狂気人間『色即是空』(2023)
4地獄大鉄道『色即是空』(2023)
5屋根裏のねぷた祭り『怪人二十面相』(2000)
6新調きゅらきゅきゅ節『萬燈籠』(2013)
7杜子春『苦楽』(2021)
8蛞蝓体操『色即是空』(2023)
9死出の旅路の物語『色即是空』(2023)
10死神の饗宴『見知らぬ世界』(2001)
11今昔聖『此岸礼讃』(2011)
12未来からの脱出『色即是空』(2023)
13宇宙電撃隊『色即是空』(2023)
14針の山『人間失格』(1990)
アンコール
15星空の導き『色即是空』(2023)
16洗礼『三悪道中膝栗毛』(2004)
17無情のスキャット『新青年』(2019)
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全体の感想 – 真実・真理の世界を生と死から描く異空間のライブ

今回はアルバム『色即是空』のリリースツアーと言うことで、アルバムから9曲も披露された。そこからも非常にアルバムへの手応えを感じつつのツアーだったことが分かる。

そして『色即是空』で描きたかったテーマ、つまりタイトルそのものが意味することについて、今回のライブからそれとなく明らかになったように、筆者には感じられた。

最後には『色即是空』で描きたかったもの、そして現時点での人間椅子のライブと言う空間などについても書いてみようと思う。

ライブから見る『色即是空』で描きたかったもの

”色即是空”とは仏教用語で、この世のものには実体がなく、変化し続けるものだ、と言う意味である。この感覚を様々な角度から描こうとしたのが『色即是空』と言うアルバムである。

しかしなかなか日常生活を送っていると、この感覚は理解しにくい部分でもある。

中でも世界の裏側の陰謀・精神世界など和嶋氏が好むところだが、日本人の多くはまだ敬遠する人も多い。(でもこれらを知ると、いかにこの世界に実体がないと分かるのであるが)

誰しもがこの感覚を分かりやすく感じられる入口が、生と死にまつわる出来事である。「人は生まれいずれ死ぬ」ことは、紛れもない真実・真理であり、捻じ曲げようもないことだ。

実体のない世界に生きているからこそ、このような絶対的な真理を突き付けられると、人はたじろぐのであり、畏怖のような感情を持つものだ。

分かりやすく言えば「人の生死に比べると、自分の日々の悩みなどちっぽけなもの」と言う感覚だ。

だからこそ「死出の旅路の物語」「死神の共演」「今昔聖」という3曲が並んだ時、誰しもの心に生と死のテーマが心に浮かび、それぞれの思いが去来したのではないか。

”色即是空”の感覚とは、生と死など絶対的な真理を体感するからこそ、この世に実体がないことを知ることができる、というものなのだろう。

しかし今回の『色即是空』では、これまでのようにただ生と死について描いただけではない。”生と死”という絶対的な真理に直面し、垣間見た時、私たちはどう生きるか、と言うテーマである。

つまりただ”知る”のではなく、生きると言う”実践”こそを大事にする仏教的な姿勢なのだ。

異空間としての人間椅子のライブと私たちの”生きる”

さて今回のセットリストを眺めてみると、1990年代の人間椅子の楽曲はほぼ含まれなかったのが特徴である。「針の山」を除き、2000年以降の楽曲が並んでいる。

とりわけ選ばれたのは、2001年の10thアルバム『見知らぬ世界』以降の楽曲であり、和嶋氏が”自分らしい言葉”で歌詞を書くように変化して以降の楽曲たちであった。

その時期以降、人間椅子はただ不気味な曲をやるバンドから、伝えたいものがあり、そのために不気味な楽曲と言うスタイルで伝えている、と言う方向性に少しずつシフトしていった。

今回のセットリストが、その時期の楽曲で占められていることは、何か意義深いことのように思えた。

およそ1990年代の人間椅子は、不気味なものであればモチーフは何であっても良かった。しかし徐々に俗世間的なテーマはなくなり、目に見えないもの・精神世界をテーマにしたものが増えた。

それを「説教臭い」と言う人もいたが、とりわけ和嶋氏が伝えたかったのは、先ほど『色即是空』のテーマで述べたような、真実・真理の世界であり、実体のない俗世間はテーマにならなくなったのだ。

それゆえ今回並んでいる曲目は、とりわけ生死に関するものや精神世界に関するものが多く、人間椅子のライブはまるで俗世から離れ、真実・真理の世界に向き合う”寺”のような場所なのだ。

(今回のZepp Hanedaが都会の喧騒から離れた場所で行われたのも意味がありそうに思える)

だからこその非日常であり、癒しの空間であるとも言える。ただしそれは娯楽的な意味での癒しとは違うようにも思われる。

その空間から出た時、私たち自身はどう生きていくか、それに向き合うことこそ『色即是空』の世界観である。

「ライブは楽しかったけど、日常は地獄」では”色即是空”ではないのである。今回披露されなかったが「生きる」で和嶋氏は自分なりの生き方を示したのだった。

ライブとは、演者が娯楽を提供するエンターテインメントショーとは違うものだと筆者は思っている。演者は空間をリードしつつも、参加者はそこにいる全員である。

人間椅子のライブは、真理の世界と生と死から描く異空間であり、そこに足を踏み入れたからこそ、ひとそれぞれの”生きる”道を考えるきっかけが見つかるのではないか、などと筆者は考えたのだった。

今回披露された楽曲を含むおすすめアルバム

・『此岸礼讃』(2011)

「今昔聖」を含む、人間椅子が上昇気流に乗り始めた過渡期のアルバム。

・『萬燈籠』(2013)

「新調きゅらきゅきゅ節」を含む、Ozzfest Japan 2013出演後の熱量を詰め込んだアルバム。

・『新青年』(2019)

「無情のスキャット」を含む、30周年に原点を見つめたヘヴィ路線のアルバム。

Black SabbathMaster of Reality』(1971)

「Into the Void」を含む、1音半下げチューニングが導入され人間椅子も多大な影響を受けたアルバム。

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