暗いのに元気が出る?ハードロックバンド人間椅子を聴くと元気が出る理由とは

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人間椅子と言えば、ヘビーでおどろおどろしい楽曲が魅力のバンドである。デビューのきっかけになったイカ天でも、陰気なバンド・オタクのバンドと言われたものだ。

確かに元気が出る=ハッピー、能天気さを言うのならば、人間椅子にその要素は少ないかもしれない。しかし人間椅子の楽曲には不思議と元気が湧いてくるものがたくさんある。

今回の記事では、一見すると「人間椅子」と「元気が出る」という矛盾する2つのワードが結び付く理由について、実際の楽曲から考えてみようと思う。

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実は楽しくて元気が出る人間椅子の楽曲たち

「元気が出る」「楽しい」ことについて、あれこれと難しく語る必要はなかろう。実際の人間椅子の楽曲の中から、実は「元気が出る」楽曲をいくつかの角度から選んでみた。

以前筆者が「歌って楽しい人間椅子」というプレイリストを作った時に、人間椅子の中でも歌うと楽しい・元気が出る、ような楽曲を選んだ。

その際にどんな基準で選んだのか思い出しながら、人間椅子の元気が出るポイントをまとめたい。

実はポップで口ずさめるメロディが多い

人間椅子はジャンル的に「ドゥームメタル」と称されることもあるが、それはサウンド面においてのみである。曲を聴けば、70年代~80年代ハードロックのポップな要素を感じることができる。

そして一緒に口ずさめるようなメロディラインの曲が実は多い。決して分かりにくい音楽をしているバンドではないのだ。

とは言え、歌謡曲的な分かりやすさ、とまではいかない、ロックとポップのバランスが絶妙なのである。

ここではそんなポップな要素を感じられる楽曲を紹介する。

鈴木氏の作る童謡をモチーフにしたもの

ベース・ボーカルの鈴木研一氏が作る楽曲は、日本の童謡などを思わせるメロディラインがある。これらはハードロックとの相性も良く、見事にハードなサウンドと融合している。

こうした日本的なメロディが、国内ファンにも馴染みやすく、さらに海外ファンにとっては新鮮で、”ジャパニーズ”を感じる要素として注目されているのだろう。

ここでは「りんごの泪」「心の火事」の2曲を紹介した。

りんごの泪

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
  • 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)

人間椅子初期の代表曲の1つ。土着的なリズムに三味線ギター、そして「りんごりんご」と童謡のようなメロディをハードロックに乗せる、まさに人間椅子の革新性でもある。

メロディだけ取り出せば、まるで民謡のようでもある。ポップと言うより、むしろアバンギャルドな印象さえ感じさせるところが、とても面白い。

心の火事

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
  • 収録アルバム:2nd『桜の森の満開の下』(1991)

スピード感あるメタルサウンドに、童謡のようなサビが印象的である。サビは終戦頃の伝承歌がもとになっているそうだ。

火事の緊迫感をスピーディーなリフに感じさせつつ、どこかそれを楽しむかのような歌メロがユニークである。

ポップなメロディが前面に出た曲

歌謡曲的なポップさを感じさせる楽曲も、一部には存在している。人間椅子を代表する曲とまではいかないものの、こうした楽曲がアルバムの中で良い味を出している。

そして人間椅子の音楽性の幅広さを感じさせるところも、聴いていて楽しい。少しマニアックな「天体嗜好症」「エデンの少女」の2曲を紹介する。

天体嗜好症

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
  • 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』(1998)

鈴木氏がシリーズ化している”宇宙シリーズ”の第2弾。Hawkwind直系の「宇宙遊泳」(1996年の6th『無限の住人』収録)から、さらにポップで爽やかなメロディが印象的である。

人間椅子には珍しいくらい、分かりやすいサビメロがついた楽曲。ただサビのトリップ感は堪らないもので、ポップながらサイケロックの精神はしっかり受け継いでいる。

エデンの少女

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:10th『見知らぬ世界』(2001)

ギター・ボーカルの和嶋慎治氏の明るくポップな曲調が目立つ10th『見知らぬ世界』。その中でも、最も歌謡曲的な展開とメロディが聞けるのがこの曲である。

そして街角で見かけた少女に送る応援歌のような内容も、今聞いても力強く響く。そうした楽曲の世界観からか、映画『いとみち』の挿入歌に起用されたことも記憶に新しい。

【人間椅子】映画『いとみち』の挿入歌”エデンの少女”はどんな曲?挿入歌に選ばれた理由は?

ヘビーなだけではなく、速い曲もある

人間椅子と言えば、ヘビーでおどろおどろしい楽曲のイメージは強い。しかしアップテンポな楽曲も多く、さらにはスラッシュメタルさえ感じる楽曲もある。

メタルの持つアグレッシブさを感じさせる「幸福のねじ」「ダイナマイト」の2曲を厳選して紹介する。

幸福のねじ

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:3rd『黄金の夜明け』(1992)

人間椅子初期の代表的なアッパーな楽曲。轟音リフを鳴らしながら転がっていくようなリズムは、否が応でもヘッドバンギングの嵐となる。

ライブの後半で披露されることが多く、掛け声やシンガロングできる部分もあるため、一気にテンションの上がる曲だ。

ダイナマイト

  • 作詞・作曲:鈴木研一
  • 収録アルバム:5th『踊る一寸法師』(1995)

鈴木氏が一時期”パチンコシリーズ”として作っていた楽曲群の第1弾。Slayer直系のアグレッシブなスラッシュメタルの楽曲である。

人間椅子の楽曲で、本当の意味でスラッシュメタルの楽曲はこの曲だけだろうと思う。この曲も文句なしでテンションの上がる1曲だ。

気味の悪い歌詞は、むしろ明るく歌う

人間椅子の歌詞には猟奇的なもの、気味の悪いものも含まれている。グロテスクな歌詞は、あえてコミカルに明るく歌うことで、かえって恐怖感が増すというもの。

こうした気味の悪い歌詞の楽曲も、ライブでは大いに盛り上がる定番曲だったりするから不思議なものである。

初期の和嶋氏の楽曲から「人面瘡」「天国に結ぶ恋」の2曲を紹介する。

人面瘡

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:0th『人間椅子』(1989)

和嶋氏による初期の不気味な歌詞の楽曲の代表格。横溝正史の小説からタイトルを借り、奇病をテーマに「だらだらどろどろ」とコミカルに歌い上げる。

曲調もハードロックをベースに、所々にプログレ風味を感じさせる。変拍子も入りながら、ライブでは変拍子でノるところが真の人間椅子ファンであろう。

天国に結ぶ恋

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)

身分違いの男女による心中事件、その後に女性の遺体が持ち去られるという猟奇的な展開から、着想を得たとされる楽曲。猟奇的な歌詞を、スピーディーなメタルに乗せて歌う。

変拍子を用いたプログレ要素も感じさせるのに、「人面瘡」同様に見事に盛り上がる楽曲だ。「人面瘡」がコミカルなら、こちらは”エモい”要素を感じさせる楽曲。

近年はヘビーなサウンド+前向きな曲調が増加

これまでは(偶然ながら)2000年頃までの楽曲を紹介した。近年は別の意味で「元気が出る」楽曲が増えたのが特徴である。

その要因は、和嶋氏の歌詞の世界観が大きく変化したことであり、当ブログでも何度も取り上げてきた。

単に暗い・気味の悪い歌詞を書くのではなく、前向きなメッセージを込めつつ、ヘビーな楽曲を作る作風になった。

こうした力強さが近年の再ブレイクと呼べる状況を作ったとも言える。その中でも重要と思われた「なまはげ」「無情のスキャット」の2曲を紹介する。

【人間椅子】ギター和嶋慎治の歌詞の変化を6つのキーワードから紐解く – 歌詞の変化がもたらした再ブレイクの要因とは?

なまはげ

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:18th『無頼豊饒』(2014)

秋田県で行われる伝統的な奇祭とも呼べる「なまはげ」をテーマにした曲。雪の中をずんずんと突き進むかのような、ヘビーなリフはこれまでの人間椅子の肌触りとはまた異なる趣がある。

そしてただ怖いだけでなく、人生の厳しさを教えてくれるような、温かみすら感じる歌詞も印象的だ。日本の祭りを感じさせる、怖くも味わい深い1曲である。

無情のスキャット

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 収録アルバム:21st『新青年』(2019)

YouTubeでのMV再生回数が1200万回を超える、近年最大のヒットナンバー。8分超えの大作で、非常にヘビーなリフに、展開も多く、ギターソロが2回もあり、ヒットが不思議に思われる曲だ。

しかしそのカギは、やはり人間椅子らしい土着的なリズムに、ヘビーなリフ、そして和嶋氏の前向きで力強いメッセージではなかろうか。

これらが組み合わさり、不思議と腹の底から力が湧いてくるような楽曲になっている。

【人間椅子】バズった「無情のスキャット」の魅力を徹底的に掘り下げてみた

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まとめ

今回の記事では、暗い音楽とされる人間椅子が、実は元気の出る音楽だという点について書いてみた。

こうして楽曲を見ていくと、もともとポップで一緒に歌えるような楽曲を作ってきたことが分かる。ヘビーさや難解さは前提にあるとして、分け入って聴いていくと、分かりやすさも見えてくる。

また高度な文学性や世界観は歌詞に込めながら、楽曲は軽快でコミカルだったりと、音楽として楽しめるように作られているのも、魅力の1つだろう。

さらに近年は、ヘビーさを保ちつつ、前向きなメッセージ・精神性を歌う、という新たな人間椅子のスタイルを確立している。

ポジティブなエネルギーで、ダークな世界観を歌う、という手法は見事に功を奏し、人間椅子は黄金期を迎えていると言えよう。

そしてファンにとっては、どの時期の楽曲に元気をもらうか、も人それぞれだろう。

かつての苦難の時期の、後ろ向きだった人間椅子を聴くことで、ある種のカタルシスを覚える人もいるかもしれない。

また近年の凛とした人間椅子に、背筋がピンと伸びるような心地がして、頑張ろうと思える人もいることだろう。

人間椅子の歴史を見ていくと、とても人間臭い部分も感じられる。決してそれを前面に出すバンドではないが、深く人間椅子の曲を聴くと、そうした人間性が見えてくるだろう。

そして聴けば聴くほどに引き込まれる魅力があり、それゆえにパワーをもらえる側面もある。ぜひこれからも人間椅子の楽曲を、深く掘り下げていっていただければと思う。

自部屋の音楽がおすすめする「暗いのに元気が出る」アルバム

Black Sabbath – Master of Reality (1971)

初期サバスの最もヘビーで攻撃的な名盤

The Cure – Pornography (1982)

暗黒期キュアーの名作

Slint – Spiderland (1991)

マスロックの名盤、静寂からの轟音が快感のアルバム

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