日本のベテランハードロックバンド人間椅子、怪奇な世界観の楽曲と圧巻のライブパフォーマンスに定評のあるバンドである。
人間椅子の楽曲は、ギター(ベースも)のレギュラーチューニングの楽曲に加え、1音半下げダウンチューニングの楽曲で構成されている。
なお1音半下げチューニングは、敬愛するBlack Sabbbathの影響と言われている。ライブではダウンチューニング曲のコーナーが必ず用意されている。
ただよく聴くと、オリジナル曲ではレギュラーチューニングなのに、ライブでは異なるチューニングで披露されるのが定番となっている楽曲が存在する。
数は非常に少ないが、ライブでは異なるチューニングで披露される楽曲をまとめた。
人間椅子のオリジナル音源とは異なるチューニングで披露される楽曲
今回取り上げるのは、人間椅子の楽曲の中で、オリジナル音源のチューニングとは異なるチューニングでライブにおいて披露される楽曲である。
ほとんどの楽曲が、オリジナル=レギュラーで、ライブ=ダウンチューニングとなる楽曲である。先に言ってしまうと、なぜチューニングを変えたのか、分からない楽曲が多い。
事情の明確なものはその理由を書くことにした。また時期によって、チューニングが異なるものもあり、そうした変遷も書いている。
なお筆者がライブで聴いた限りであり、他にも存在するかもしれない。
ダウンチューニングについてあまり分からない、という方は、冒頭で紹介したこちらの記事をまずはお読みいだたくことをお勧めする。
陰獣
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:『人間椅子』(1989)、『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』(新録、2009)、『現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜』(2014)、『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト』(新録、2019)
人間椅子が世に出ることとなった代表曲の1つである。TBSのテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(通称イカ天)で披露され、多くの人の耳に残った楽曲である。
非常にダークな雰囲気の楽曲であるが、デビュー前に制作された『人間椅子』(1989)収録のオリジナル音源は、ノーマルチューニングで演奏されていた。
イカ天出演時もノーマルチューニングであり、初期のライブでは音源通りに披露されていたようである。
ある時期からダウンチューニングで披露されるようになっている。時期ははっきりしないが、90年代後半には変更されていたようである。
理由は定かではないが、この曲の持つダークな雰囲気に合っていたからではないかと推測する。なおデビュー時にはダウンチューニング自体を取り入れていなかった事情もあろう。
2009年リリースの『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』ではダウンチューニングバージョンで新録されており、以降もずっとダウンチューニングで披露されていた。
しかし2017年のツアー『ライブ盤リリース記念ワンマンツアー「威風堂々」』ではノーマルチューニングで披露されている。

「鉄格子黙示録」「陰獣」という最も初期の楽曲から始まったセットリストで、あえて初期を思い出してノーマルチューニングだったのか、理由は定かではない。
※【人間椅子】イカ天で披露された「陰獣」のその後の立ち位置とは? – 音源・ライブでの登場頻度から探る
悪魔の手毬唄
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『人間失格』(1990)
初期の楽曲の中では、数少ない鈴木研一氏単独の作曲による楽曲だ。不気味な前半部と、アッパーな後半の対比も素晴らしい。
この曲はもう長らくダウンチューニングで披露されている。その様子は、2024年リリースの映像作品『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』でライブ演奏として収録されることとなった。
筆者が初めて人間椅子のライブを観た、2001年の『見知らぬ世界』リリースツアーの時点ではもうダウンチューニングで披露されていたのを記憶している。
ダウンチューニングになった理由は定かではないが、『人間失格』の時点ではダウンチューニングを取り入れておらず、もしダウンで収録するならこの曲だったのかもしれない。
オリジナル以上の不気味さを醸し出すことに成功している。
心の火事
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『桜の森の満開の下』(1991)、『疾風怒濤〜人間椅子ライブ!ライブ!!』(2010)
火事を題材にした、スピード感あるヘヴィメタルソングである。比較的、ずっとライブでは披露されることの多い、安定した定番曲の1つである。
この曲も長らくダウンチューニングで披露されてきた歴史がある。少なくとも筆者がライブで聴いてきた25年ほどは、ずっとダウンだったような記憶がある。
この曲がダウンチューニングで披露される理由はあまりはっきりしない。ヘヴィなタイプの曲でもないので、そこまでヘヴィさを重視してのダウンとも思えない。
考えられるのはキーの問題である。比較的高いキーのまま、上がり下がりの多くない歌になっているので、ライブでは歌いにくかったのだろうか。
またダウンチューニング曲を固めて演奏しなければならない事情がある中、こうしたアップテンポな曲が入ることで、曲調が変わって良い、という面もある。
なお2010年のライブアルバム『疾風怒濤〜人間椅子ライブ!ライブ!!』ではダウンチューニングで披露されているバージョンを聴くことができる。
夜叉ヶ池
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『桜の森の満開の下』(1991)、『威風堂々〜人間椅子ライブ!!』(2017)
人間椅子の文芸シリーズの初期の傑作である。静かな前半部からアップテンポな後半への流れは、まるでLed Zeppelinの「天国への階段」を思わせる。
長らくダブルネックギターで、前半部は12弦ギターで、後半は通常のギターで演奏するというのも特殊なパターンであった。
人気の楽曲ゆえに演奏頻度はまずまず多めだったのだが、難点は初期に作った「出ないキーで歌入れ」してしまった曲の1つなのである。
後半部のサビのメロディは、低いキーで歌って、回転を調整してあのキーに上げているのだという。
若い頃はそれでも無理やり歌っていたのが、近年は和嶋氏の声が出なくなってきている。苦肉の策として、ダウンチューニングが用いられた。
前半部はノーマルチューニングの12弦ギター、後半部の通常のギターのみダウンチューニングにしている。前半部は高くないので、そのままにしたかったのだろう。
しかしそれで大変になるのはベースである。ベースは前半部だけダウンチューニングベースでノーマルキーのフレーズに覚え直さなくてはならない。
そのバージョンは2017年のライブ盤『威風堂々〜人間椅子ライブ!!』で聴くことができる。
ただそれが不満だったのか、後にはノーマルチューニングに戻り、高いサビのみナカジマ氏が歌う、という代替案が採用されたのだった。
サバス・スラッシュ・サバス
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『二十世紀葬送曲』(1999)
鈴木氏によるBlack Sabbath愛に溢れた、かつての“ナンセンスソング”枠とも言える楽曲の1つである。そしてパチンコシリーズで続いていたスラッシュソングを受け継いだ。
この曲もダウンチューニングでずっと披露されている。ただオリジナルを聴くと、ダウンチューニングにする流れのヒントが隠されている。
メイン部分はずっとノーマルチューニングながら、アウトロ部分はダウンチューニングのキーで演奏されている。音源はそのままフェードアウトで終わっていく。
ライブではメイン部分が終わると、そのままBlack Sabbathカバーに続く流れがずっと定番であった。その際に本家サバスのダウンチューニング曲が選ばれることが多かった。
例えば「Children of the Grave」や「Into the Void」などである。
この本家カバーに合わせて、メイン部分もダウンチューニングで披露されることになったのかもしれない。
Black Sabbathのノーマルチューニングの曲をカバーしたこともあった気がする。しかしおジー・オズボーンのキーが高いので、やはりそれもダウンで披露する方が都合が良かったのだ。
肥満天使(メタボリックエンジェル)
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『真夏の夜の夢』(2007)
鈴木氏の体重増加により作られた、当時はまだ残っていたナンセンスソング枠の楽曲である。鈴木氏がこうしたコーナーを多く持っていた、少し懐かしい時代の人間椅子の曲だ。
この曲も当時は人気が高そうに見えたが、演奏頻度はあっという間に落ち、人間椅子倶楽部の集いくらいでしか演奏されなくなってしまった。
ハードなイントロのリフから、割と陽気な雰囲気で進んでいくことの曲、なぜかライブではダウンチューニングで披露されるのが定番である。
なかなか音源等では残っていなかったのだが、このたび映像作品『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』でオフィシャルブートレグとしてライブ映像を見ることができる。
この曲もダウンチューニングにされた明確な理由はわからない。ただこれも歌のキーがなかなか高そうである。
曲調的にはノーマルの方がノリが良いので音源ではそうしたが、ライブではダウンの方が歌いやすい、という事情だったのかもしれない。
まとめ
今回は人間椅子の楽曲の中で、オリジナル音源とは異なるチューニングで披露される楽曲を集めて紹介した。
主にダウンチューニングにキーを下げて披露されることが多いが、その理由は様々であり、多くは明確な理由は分からないものであった。
想像するにはライブで歌うにはキーが高かったとか、本当はダウンチューニングで収録したかったなどの理由が考えられた。
絶対音感的な聴き方をしない人にはあまりピンと来ない話題かもしれない。ただ聴いた感触は、ダウンチューニングだと結構異なる曲もあるように思える。
ライブで聴いた時に「あれ?」と聞き覚えがなかったとしても、実はチューニング違いのお馴染みの曲だった、ということがあるかもしれない。
数は少ないが、ライブの予習用にと思い、今回の記事をまとめた次第である。
※ダウンチューニングの曲が増加することによる音楽性の変化とは? – 陰陽座・人間椅子を事例に





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