【人間椅子】Budgie「Breadfan」のカバー「針の山」は人間椅子の曲と言っても良い理由とは?

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ハードロックバンド人間椅子の代表曲の1つが「針の山」である。近年のライブでは、本編の最後に必ず披露されており、人間椅子を語る上では欠かせない楽曲の1つだ。

作曲欄に英語の名前が並んでおり驚いた人もいるかもしれない。実はBudgieというバンドの「Breadfan」という楽曲にオリジナル詞をつけたカバー曲なのである。

しかしもはやカバー曲であることを忘れてしまうほど、人間椅子に馴染んでいる。それは単なるカバーとは異なる立ち位置であり、もはや人間椅子の楽曲と言っても良いほどである。

今回の記事ではもともとカバー曲であった「針の山」が、人間椅子の楽曲と言い切っても良い理由について考察してみた。

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人間椅子「針の山」の概要

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:Tony Bourge, Burke Shelley, Ray Phillips
  • 収録アルバム:『人間失格』(1990)、ベスト『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』(2009)、ベスト『現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜』(2014)、ベスト『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト』(2019)

まずは人間椅子による「針の山」の概要を紹介しておこう。

「針の山」は、1990年の1stアルバム『人間失格』に収録された楽曲であり、70年代を中心に活動したBudgieの「Breadfan」にギター・ボーカルの和嶋慎治氏がオリジナル詞を乗せたものだ。

作曲に並んだ3名の名前は、当時のBudgieのメンバー3名(1973年『Never Turn Your Back On a Friend』リリース時)である。

1973年の楽曲としては先見性のあるスピードメタル調の楽曲であり、これに人間椅子らしい地獄の様子を歌詞に乗せて、ベース・ボーカルの鈴木研一氏が歌っている。

ライブの終盤に披露されることが多かったが、毎回披露されるようになったのはここ15年くらいのことである。

カバー曲だったためか、1994年のベスト盤『ペテン師と空気男〜人間椅子傑作選〜』にも収録されず、ライブでも必ず披露される、ということでもなかった。

2009年の20周年を記念したベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』で、ようやくベストに入り、この頃から徐々にライブ本編ラストへの定位置化が進んでいった。

なお近年の人間椅子のライブでは、和嶋氏による歯ギター、ギターソロ後のリフで和嶋氏および観客がジャンプするなど、パフォーマンス面でも派手な楽曲である。

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「針の山」を人間椅子の楽曲と言っても良い理由とは?

人間椅子の「針の山」は、曲はBudgieの「Breadfan」から拝借し、歌詞はオリジナルのものをつけた楽曲である。

当然ながらオリジナル曲とは名乗れないものの、人間椅子の楽曲と言われても全く違和感がないほど、人間椅子に馴染んでいる。

そのため、わざわざ”カバー曲”とはあまり言われることがなく、人間椅子の楽曲と言っても良い立ち位置なのだ。

改めてそう言わせる要因は何なのか、大きく分けて以下の2つの観点から書いてみた。

  1. 「Breadfan」の潜在的な魅力をさらに引き出した
  2. 「針の山」に見る人間椅子独自の魅力

「Breadfan」の潜在的な魅力をさらに引き出した

まずはカバーと言う点において、Budgieの「Breadfan」が持つ潜在的な魅力を引き出すことに成功している点を挙げておきたい。

そもそも人間椅子がなぜ「Breadfan」のカバーを行うに至ったのかにも触れておこう。

大学生時代に鈴木氏がBudgieと出会い、Budgieのファンになったそうだ。後に和嶋氏とMetallicaの来日公演を観た時に、Metallicaが「Breadfan」のカバーをしていたのだと言う。

MetallicaがBudgieの楽曲を取り上げたのは嬉しかったが、ヘヴィにし過ぎているので、自分たちだったらこうする、というカバーをやってみたい、ということになったそうだ。

※このエピソードは『椅子の中から 人間椅子30周年記念完全読本』に書かれている。

ここまで経緯を書いたのは、人間椅子には2つの参照する元ネタがあり、その両者の良いところをミックスしながら、最大限オリジナルの魅力を引き出したと言うことなのだ。

まずはライブを観てカバーを決心したMetallicaバージョンも大いに参照している。例えばキーをEに変えたのは、オリジナルが高過ぎるキーだからであるが、Metallicaバージョンと同じだ。

またMetallicaのライブバージョンでは、オリジナルにあった静かな中間部はカットされており、「針の山」も同様に中間部はなくなっている。

やはり「Breadfan」が持つ性急なビートに、まくしたてるような歌い方は、後のスピードメタルやスラッシュメタルを予感させるもので、静かな中間部はややちぐはぐな印象もある。

さらにはAメロに出てくるDのパワーコードをジャーンジャーンと繰り返すところで、オリジナルは結構タメて弾くのを、リズム通りに近く弾くのもMetallicaライブバージョンに近い。

ここもあえてタメることでテンポが変わるところがBudgieらしいが、スピード感重視ならばそのまま突っ走った方がカッコいいだろう。

このようにスピード感のあるヘヴィメタル調に仕立てたところは、Metallicaの影響を感じさせる。ただしMetallicaのカバー音源バージョンは割と原曲に忠実に演奏されている印象である。

ただしMetallicaがヘヴィメタル的な鋼鉄サウンドに仕立て、ヘヴィなノリになっているのに対し、人間椅子は、Budgieの持つ牧歌的な要素を残しつつ、ソリッドさを増した感じになっている。

これはもはやバンド自体のグルーヴの問題かもしれないが、縦のノリがぴったり揃ったMetallicaのヘヴィメタル然としたノリに対し、やはり人間椅子はハードロックらしいすき間のあるノリになっている。

「Breadfan」をシンプルかつストレートなビートにそぎ落としつつ、ハードロックらしいグルーヴを残したのが「針の山」で、人間椅子のBudgie愛が感じられるところだ。

「針の山」に見る人間椅子独自の魅力

そしてBudgieともMetallicaとも異なる、人間椅子独自の魅力が「針の山」にある点は見逃せない。いくつかオリジナリティを感じる部分を挙げてみよう。

まず最大の違いはもちろん歌詞である。和嶋氏が作ったのは、仏教的な世界観における地獄の歌であり、まさに針の山の様子を歌った内容になっている。

この歌詞の素晴らしいところは、オリジナルのまくしたてるような歌い方と、似たような音の言葉を繰り返すところに、「戻れど戻れど」という文学調の文体をあてたところである。

どうやら種田山頭火の自由律俳句にインスパイアされたものらしく、Budgieが歌った英語の語感と、日本文学が見事に結びついた瞬間である。

また和嶋氏のギターソロも良い味を出している。和嶋氏らしいブルーステイストが強めのフレーズを中心に、ややトリッキーでプログレ風味のフレーズもさりげなく取り込んでいる。

こうしたさりげない不気味なギターフレーズも、「針の山」という地獄を題材にしたからこそ生まれたのか、オリジナルの世界観にはなかった要素が歌詞・ギターソロで加わっている。

さらには歌詞に加えて、人間椅子が演奏することで独特の日本的かつ土着的な雰囲気が漂うのが、オリジナルとは異なる魅力に思える。

その要因として、まずは鈴木氏の歌唱がある。Budgieのベース・ボーカルは中性的な声が特徴だが、鈴木氏のお経を読むような歌い方が、独特の”地獄感”とも言える雰囲気を作り出している。

また人間椅子が作り出すグルーヴも土着的で、どこか祭囃子のような賑やかさがある。Metallicaのような縦にが揃ったヘヴィメタルっぽさとは異なるところが、いかにも人間椅子だ。

「針の山」のライブではジャンプする部分のリズムも、本家はリフの後は”タタ”と平坦なリズムだが、「針の山」では”タットト”と言う、ノリが良いビートに変わっている。

細かいところではあるが、あえて心地好いリズムに変えた場所であると思われ、本家BudgieともMetallicaとも異なる、土着的なビートこそ人間椅子の真骨頂であると思っている。

まとめ

今回の記事では、人間椅子の「針の山」はカバー曲ながら、もはや人間椅子の楽曲と言って良い理由について考察した。

これまで書いた通り、オリジナルの魅力を最大限に引き出しつつ、人間椅子独自の魅力も十分に伝えることができている点で極めて優れていると言えるだろう。

その証拠に、1st『人間失格』に並ぶ「りんごの泪」「賽の河原」「人間失格」などと並べても、「針の山」は何の違和感もなく、人間椅子の楽曲として並んでいる。

それだけ人間椅子の個性が、1stアルバムの時点で確立されていたとも言える。だからこそ今日に至るまで、ライブの定番曲として披露され続けてきたのだろう。

「Breadfan」という偉大な名曲を残したBudgieに最大限の敬意を示しつつも、やはり「針の山」は人間椅子の楽曲と言っても良いだろうと思う。

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