【アルバムレビュー】怒髪天 – more-AA-janaica(2023) もう一花咲く?パンクロック魂溢れる快作

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”リズム&演歌”を標榜するロックバンド怒髪天が、久しぶりにミニアルバムと言う形態で新作をリリースした。タイトルは『more-AA-janaica』、「モウ エエジャナイカ」と読むと言う。

コンスタントにリリースを続けてきた怒髪天だが、ここ数年は過去作のリメイクなどは行っていたものの、純粋な新作リリースは少し久しぶりの印象である。

しかし満を持してリリースされた本作、非常に充実した内容に仕上がっており、筆者としては「怒髪天が帰ってきた!」と思わせるような内容であった。

変わらないようでいて、やはりバンドはちょっとずつ変化している。本作は怒髪天が良い流れの路線に、完全にカムバックしたような爽快な作品になっている。

全曲ミニレビューを行うとともに、なぜそのように感じたのか、近年の作品からの変化と、”怒髪天らしさ”の魅力を語りつつ、本作の魅力を掘り下げようと思う。

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作品概要

  • 発売日:2023年3月22日
  • レーベル:インペリアルレコード

本作は2023年にリリースされた怒髪天のミニアルバムである。「全方向にベクトルが向いた聴きごたえ200%の問題作にして最高傑作」と自ら評している。

アルバムジャケットは「北斎テイストの変顔浮世絵と80’sUKロックを融合した」もので、デザイナー・木村豊氏による。

初回限定盤・通常盤の2形態で、初回限定盤には今作の歌詞からインスパイアしたアートでモードでシュールな完全撮り下ろしの写真集「DA・SO・KU」が付属する。

純粋な新作としては、2020年リリースのアルバム『ヘヴィ・メンタル・アティテュード』以来で、2021年にはリメイクやセルフカバー作が3作同時にリリースされていた。

全6曲入りのミニアルバムであり、ミニアルバムの形態での純粋な新作リリースも久しぶりのことであった。

そして本作とともに公開されたアーティスト写真は、北海道の先輩である“FLATBACKER”、“E・Z・O”をリスペクトした、初のフルメイク写真で衝撃的なものとなっている。

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全曲ミニレビュー

全6曲収録の本作、全曲の簡単なレビューを行った。

令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~

本作のリードトラック、まさかこの時代にこんな曲が出てくるのか、というリードトラックである。

昭和時代にあったコミックソング的な楽曲であり、令和バージョンで歌うとしたら、という仕立てになっていて面白い。

こんな曲は今や怒髪天しか歌えないように思える。戦前~戦後歌謡のような冒頭からメジャーに転調する展開も、かつてのアニメソング・コミックソングなどにあった手法である。

しかし歌詞を見てみると、なかなかにシビアなことを歌っている。ふざけているような曲調で、歌詞は辛らつ、と言うのが怒髪天の真骨頂である。

本作の幕開けに相応しい、ユニークかつ勝負曲と言った印象である。この良さがもっと伝わって欲しい、と願うばかりである。

そして歌詞に登場する「パンク魂に火をつける」が、本作のコンセプトを示す一節になっているように感じる。

OUT老GUYS

歌謡曲的な世界の1曲目から一転、ハードコアパンクやヘヴィメタルなどを怒髪天流に融合させた楽曲である。

アーティスト写真でもオマージュしていたFLATBACKERの影響を感じさせるものだそうだ。和音階のような、異国風のようなフレーズからザクザクと刻まれるギターが心地好い。

短い曲の多い本作にあっては唯一5分を超える楽曲で、ストレートながら細かく展開していく構成力はさすが、と思わされる。

歌詞は”老害”と言われるようになった年齢ながら、1曲目から通じるパンク魂に火が付けば、昔から”害”だった、という内容である。これもなかなか風刺が効いた歌詞だ。

”アウトロー”と”老害”をかけ、さらには”GUYS”にかけており、言葉遊びもここまでやるとカッコ良くなってくる。

ジャナイWORLD

さらにまた曲調はガラッと変わり、R&Bなどブラックミュージック的なリズムで、サラッとお洒落なリズムを取り入れてくるのも怒髪天である。

こういった隙間の多いアレンジでは、ベースが動き回るのが大変心地好い。この曲は3分ほどの短い曲だが、前曲に続いて短い中に展開を巧みに組み込んでいるのが分かる。

そしてここまで聴くと、パンクロック的なスピーディーなリズムを多用しているのが分かる。ここにも”パンク魂に火をつける”の精神が宿っているのだ。

歌詞は「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」にも通じる、現代の世相を反映したもの。社会的な問題から来る(あるいは背後にある)、人々の心の闇を拾い出したような内容に思える。

タイトルは、かの有名なルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」に、”じゃない”をつけたところから来ているか。なかなか辛らつなテーマである。

一択逆転ホームラン

ここまで3曲が辛らつなテーマを扱った、まさに”パンク魂”に満ちた楽曲群であったが、流れが少し変わる。どちらかと言えば”陰”のパワーだった前半から”陽”の後半へと言う流れだ。

これぞ怒髪天の真骨頂であり、言ってしまえば”開き直り”ソングである。タイトルは”一発逆転ホームラン”をもじったもので、”一択”の方がより後がない感じが伝わってくる。

しかし後がないと感じるかどうかは自分次第であり、人生は常に”逆転ホームラン”狙いのようなものななのかもしれない。怒髪天らしいメッセージが込められた楽曲だ。

陽気なビートから始まる曲だが、中間からサビまで2ビートの疾走感がある展開になっている。本作は全体を通じて、こうした疾走感のあるパンクビートが随所に用いられているのが特徴だ。

「三振上等フルスイング一択逆転ホームラン」の部分がとても耳に残るものだ。細かいリズムのキメを効果的に用いて、曲に変化をつけているのが窺える。

たからもの

1曲目が最も濃い楽曲ならば、緩やかに軽くなっていく流れが作られているのが本作だ。そしてこの辺りで分かりやすい歌モノが欲しいところ、と期待通りに登場するのが「たからもの」である。

曲調としては、演歌歌手が時々歌うポップス路線の楽曲、といったところである。特にAメロ部分を聴いていると、吉幾三や新沼謙治などが浮かんでくるようだ。

こうした楽曲にも”リズム&演歌”が流れているのである。

歌のテーマにあるのは、さりげない出会いこそ宝物、というもの。ご縁は探し回って見つかるものでもなく、偶然かのように出会ったものこそ、実は必然であり、大切なもの、ということだろうか。

いったいそれが何であるのかは全く描かれない。つまり聴いた人それぞれが思い描く”たからもの”がテーマの楽曲なのだろう。

Go自愛

ミニアルバムながら、ここまで全方向に広げた楽曲たちをいかに収束させるのか、最後の楽曲に注目されるところである。

最後に置かれたのは、再びパンク魂に火が付いたような、疾走感溢れるパンクロックである。しかも2分を切っている短い楽曲で、怒髪天の原点でもあるハードコアパンク的な短さだ。

ここまで多様な楽曲を収録した作品を締めるには、そのメッセージ性も大きなものに当然なる。そして実際、ここで歌われているのは究極の幸せの法則性である。

それは「自分を愛して生きる」ことだ。スピリチュアルの世界などでも、世界は自分自身の投影である、と言われる通り、実は自分を愛することが世界を愛することでもある。

しかしそんなテーマを壮大に歌えば、辛気臭くなるが、それを2分弱の疾走パンクに乗せるところが怒髪天らしい。むしろこうした曲調だからこそ、歌えるテーマでもあるのだろう。

全体評価 – 怒髪天らしさ溢れるミニアルバムへの回帰

最後に作品全体を総括して、アルバムレビューを行う。

本作を一言で表すならば、「怒髪天らしさ溢れるミニアルバムへの回帰」とも言えるだろう。改めて怒髪天らしさについても考えつつ、本作の魅力を掘り下げたい。

明確になったメッセージ性

怒髪天と言えば、デビューしてからほぼ変わらず、社会に対する違和感を歌ってきた。それはバンド自ら含め、社会に適合できない人たちの気持ちを歌うような形が多く取られてきた。

近年はそこからの開き直りの心境を歌うこともあれば、社会のムードに対する皮肉など、メッセージもより磨かれてきた印象がある。

しかしここ数年は怒髪天にとっても、非常に明確なメッセージの出しにくい世相であった。言うまでもなくコロナ騒動による、自粛や規制、それに伴う何とも言えない宙ぶらりんな状況である。

情報は錯綜し、あちこちで見解の相違を巡る争いが日常茶飯事の状態でもあった。さすがの怒髪天も、発するメッセージが難しいところだったのではないかと想像する。

2021年リリースの「ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イェー!」では、そうした曖昧な状況に対する精一杯のバンドとしてのメッセージが込められた楽曲だったように思える。

とは言え、何をどこにぶつければ良いのか分からない状況にあっては、なかなか”開き直り”きれないものであり、怒髪天らしさも奪われてしまうというものである。

そうした時期を経て、本作ではよりメッセージ性が明確になったように思われる。

何に皮肉を向け、開き直るのが良いか、ようやくはっきりと見えてきたという段階である。それは怒髪天としても、社会全体としても、というところかもしれない。

もはや本作ではコロナ騒動を思わせるものはあまりなく、むしろ騒動によって見えた人間性について皮肉を込めて描くような内容になっている。

そして令和という時代に生きる50代半ばの”オッサン”のリアルでシビアな目線で描かれる歌詞である。

しかし振り返ってみれば、常に等身大の自分から見える世界を描いてきたのが怒髪天であり、元の路線にしっかり戻るとともに切れ味が増している。

パンクロックを軸にしたストレートな楽曲群とミニアルバムと言う単位の妙

良い流れが戻ってきたのは、メッセージ性だけではない。楽曲の持つパワーや作品全体を通じるエネルギーのようなものにも、良いものを感じる作品になっている。

本作の特徴は、「令和(狂)哀歌~れいわくれいじぃ~」にある”パンク魂”である。それはパンクロック的なストレートで疾走感のあるロックの勢いを感じるものだ。

しかもそれは若いバンドには出せない、伝統的なパンクロックやヘヴィメタルのレジェンドから受け継いだ骨太のロックである。

今回は“FLATBACKER”、“E・Z・O”をリスペクトした、初のフルメイクアー写だった訳だが、これはおふざけのようでいて、こうした音楽性を受け継ぐ決意の証でもあったように思える。

近年の怒髪天は、シンプルで勢いのある作風が続いた後に、2010年代後半以降はやや方向性を模索している感もなくはなかった。外国に向けてのアピールも、新たな可能性を模索していたのだろうか。

しかし本作にはそうした模索の色は一切ない。むしろ近年の中では若返ったかのような、生き生きとした楽曲で構成された作品に仕上がっている。

まさかここに来て、ここまでパワフルな作品がまた聴けるとは思わなかったほどである。

そして、少し前までのとにかくシンプルにすると言う路線から少し変わりつつある。ストレートなロックの中に、様々な音楽性をブレンドし、細かく展開するなどして工夫を凝らしている。

こうした楽曲の作り方は、さらに前の怒髪天に回帰したかのような印象さえある。

また今回は久しぶりにミニアルバムと言う形態に戻った点も見逃せない。怒髪天はこれまで数々の名作をミニアルバムという形でリリースしてきた珍しいバンドである。

ミニアルバムは6~7曲程度の短い作品であり、だからこそ厳選された中身の濃い作品になり、その限られた曲数の中で流れを作る面白さがある。

怒髪天はどうやらこのミニアルバムと言う単位での作品制作が得意なようにも思われる。

フルアルバムにももちろんその良さがあるが、実験的な楽曲も多くなるために、ややマニアックになったり、方向性が拡散してしまうこともある印象だ。

今回はお得意のミニアルバムで、怒髪天とはこういう音楽だ!と言う主張をゆるぎなく感じられる作品になっている。

改めて怒髪天の魅力は、分かりやすく”怒った”メッセージ性、あるいはグッとくるメッセージを乗せつつ、ロックのパワーの中に様々な音楽性を感じさせるところであろう。

そういった意味では、本作は怒髪天の直球勝負であり、良い流れをまた掴みつつあるかのように思われる。まだもう一花咲かせるのか?と思わせる、この先が楽しみになる1枚だ。

【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第3回:怒髪天 これまでの歴史と各時期の名盤紹介

近年リリースされた怒髪天のアルバム

ヘヴィ・メンタル・アティテュード(2020)

ジャカジャーン!ブンブン!ドンドコ!イェー!(2021)

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