2021年には待望のニューアルバム『苦楽』をリリースした人間椅子。そしてその発売を記念した『苦楽 ~リリース記念ワンマンツアー~』が敢行された。
2019年にヨーロッパ公演を行って以来、ワンマンライブが行われるのはこのツアーが久しぶりのことである。
この記事では、ツアーファイナルの東京公演についてレポートする。MCなどを網羅的にまとめたレポートは他の方に譲るとして、ここでは筆者がライブに参加しながら感じたことを中心にまとめたい。
コロナ禍での開催に加え、有料配信もあった。これまでずっと人間椅子のライブを追いかけてきた筆者が、今回の特別なライブで感じたことも書き残しておきたい。
※なおライブの有料配信は10月3日(日)21:00まで視聴可能とのこと
人間椅子『苦楽~リリース記念ワンマンツアー終了!
— NINGEN ISU(人間椅子)Official (@ningenisu_staff) September 27, 2021
10/3(日)23:59までアーカイブ配信中!!https://t.co/s1X3RHzdau pic.twitter.com/9ptJgqUcUy
ライブレポート『苦楽 ~リリース記念ワンマンツアー~』東京 Zepp DiverCity(TOKYO)
今回は何と言ってもアルバム『苦楽』のツアーである。いつも以上に”現代”の在りようを描いたアルバムは、近年の中でも高い充実度を誇る作品になっていたと思う。
どの曲が演奏されても嬉しくなるようなアルバムだ。そして筆者としては、2019年12月13日の中野サンプラザ公演以来のライブ参加である。
SNSが発展した時代、ツアー最終日までセットリストを見ないでおくのはなかなか精神力がいる。筆者はツアーの時、初日の時点でファンの方がアップしているセットリストは見るようにしている。
今回も何となくの流れは知った上で、ライブに臨んだ。
ライブ当日、仕事は半休をとって余裕のあるスケジュールにした。
人間椅子のライブにしては珍しく雨が降る気配がない。ギター・ボーカル和嶋氏の気合が入りすぎると、天気が崩れるというジンクスがある。
夜にかけてむしろ雲が晴れてきた。16時30分頃に会場に到着したが、その直前に先行物販が16時30分までであることを知る。
間に合わなかったので、カフェでこの記事の冒頭を書くことにした。ライブの前にライブレポートを書き始めるのは初めてのことだ。
暮れる空を見ながら、しばらくカフェで過ごし、18時前頃にようやく入場。まだ入場列があったが、比較的スムーズに入場できた。
※ライブ当日の17時50分頃の空の様子。雨になる予感は全くない。
グッズ・CD販売ともに列はなく、スムーズに買える様子だ。『苦楽』のジャケットTシャツがぜひとも欲しかったので、すぐに購入した。
なおCDの方は購入特典のステッカーがあり、『三悪道中膝栗毛』のUHQCDバージョンを買いたかったが、既に売り切れ。
と言うか、かなりのCDが既に売り切れており、徳間の担当の方が「(売り切れ過ぎて)恐ろしい」と何度もつぶやいておられた。
なおCD販売コーナーには、『苦楽』の購入者応募特典の湯飲みとコースターが置かれていた。撮影許可をもらって写真に収めることができた。
今回は全席指定と言うこともあったが、なぜか直感的にギリギリまでライブ会場内に入らなかった。しかしその予感は的中していたと思う。
席がきっちりと詰められていて、ここで30分も待つのは正直しんどそうだった。コロナ的な密は全然気にならないが、精神衛生上はあまりよろしくない環境だった。
座席はC列なので3列目かと思ったら、A列は外されており前から2列目。鈴木氏サイドのスピーカー真ん前だった。
そしてふと前を見たら、知り合いとばったり会った。まさかこんなに近くで会えるとは、開演前から不思議なことが起きる。
ライブは大声での発声禁止ではあったが、立って観ることは可能なライブだった。
あっという間に、客電が落ちていつも通りに「此岸御詠歌」が流れ、メンバーが入ってくる。筆者はこの時間は手拍子をせず、気持ちをステージに集中させる時間にしている。
全く久しぶりとは感じられないくらいに、いつも通りの感覚でライブが始まった。1曲目は『苦楽』の最後に配置された、「夜明け前」だ。
選曲は分かっていた1曲目とは言え、この曲はライブで大化けする曲だと感じた。スタジオ音源では感じなかった、驚くほどのヘビーなサウンドが体中を駆け巡る。
この感覚は、かつて筆者が13歳で初めてライブに参加した『見知らぬ世界』発売ツアーの1曲目「見知らぬ世界」と全く同じだった。
※筆者が初めてライブに参加した頃の人間椅子について書いた記事
良い曲だとは感じていても、ライブでよりその曲の魅力に気づくパターンは嬉しい。そして和嶋氏の圧巻の泣きのソロも堪能することができた。
そのまま2曲目の「神々の行進」へ。鈴木氏のサバス愛と、和嶋氏の勇壮な歌詞が融合した楽曲だ。
ナカジマ氏の銅鑼のソロはスタジオ音源よりもド派手である。序盤から演奏の見どころが多くて楽しい。
最初のMCは、いつも通りに鈴木氏、和嶋氏の順番に挨拶を行っていく。演奏はそこまで緊張している様子はなかったが、MCは少しタイトに進行していた印象だった。
「遠藤ミチロウさんの次に『お母さん』がうまく言えるように」と始めたリードトラックの「杜子春」。
ナカジマ氏がドラムの前に登場し、イントロでパーカッションを演奏したのは広い会場ならではである。
そしてドラムが入るまでに、ナカジマ氏の素早い移動、そしてさらに素早いパーカッションとマイクを片付けるスタッフの俊足に目を奪われてしまった。
鈴木氏が海外向け配信のために、英語バージョンの人間椅子の楽曲タイトルをいくつか挙げていた。そして次にやる曲は…と英語で述べて演奏された「宇宙海賊」。
和嶋氏のアナログディレイをしゃがんで操作する様子に注目、とのこと。前から2列目だったため、しっかりと目に焼き付けることができた。
それにしてもスタジオ音源よりも、スペースロック感のあるイントロだった。また中間部のソロの掛け合い部分は、和嶋氏がギターソロ、鈴木氏がテルミン、と楽しげな様子だった。
ライブで披露する機会がなかったと言う新曲「無限の住人 武闘編」、そして2004年の楽曲「洗礼」と立て続けに演奏される。
個人的には「洗礼」が演奏された時に、人間椅子のライブに帰ってきた!と感じた。やはり鈴木氏のあのパフォーマンスと迫力こそ、人間椅子のライブを生で観る醍醐味なのだろう。
これも久しぶりだった「恐怖の大王」をもって、ダウンチューニング曲は終了。『苦楽』がダウンチューニングが多いためか、ヘビーな曲が多めであった。
和嶋氏のMCから次の曲が「人間ロボット」と分かるが、配信に残るためかかなりマイルドなMCだ。肝心の”ムーンショット計画”というタームは封印された。
そのためか調子が出ずにMCはややスベり気味で、鈴木氏にフォローされる和嶋氏であった。その分、演奏はばっちりだったのが救いである。
続いて今回の目玉曲の1つ「恍惚の蟷螂」。鈴木氏が「最近はゴキブリもかわいい」という衝撃のMCも登場し、徐々にMCもいつも通り和やかになっていった。
そして和嶋氏の個性が際立つ「疾れGT」では、サビの「GT!」では会場で多くの人の手が上がる。声が出せないのが寂しく感じられるのが、この辺りの流れだったかもしれない。
唐突に演奏されるレア曲「暁の断頭台」は、セットリストを知らなかった人は息を飲んだことだろう。ヘビーさと中間部のアッパーな展開に、ライブでは意外にも盛り上がる曲だと思う。
この辺りでライブにノッてきたな、と感じたが、もう終盤である。続いてナカジマ氏ボーカルコーナーでは、ナカジマ氏はファンやスタッフの協力があってライブが開催できた感謝をまずは述べる。
そして「アニキ」コールはできないので、拍手で応える。不思議な体験ではあったが、「至上の唇」が始まると一気に会場は明るいムードになった。
これまで少しピリッとした雰囲気もあったが、この曲の持つ陽気なパワーが会場を柔らかくしてくれた。ある意味、”ラブソング”はやはり強いなと思った。
いよいよライブ本編もラスト、まずは2017年の20thアルバム『異次元からの咆哮』から「超自然現象」。和嶋氏とパワーの交換を行う宗教儀式のような動作、コロナ禍のライブでも楽しめる。
そしてラストに演奏されたのは、意外にも「ダイナマイト」。最近は「針の山」で定着していたが、昔のライブではよく「ダイナマイト」で終わっていたのが懐かしい。
久しぶりに頭を振り回し、「2連チャン!」のところでは指で数字を表す動作も懐かしく楽しんだ。そして鈴木氏がマイクを手に持つパフォーマンスも、今回限定だったようだ。
メンバーがステージから去り、アンコールへ。座席があると、この時間が観客にとっても小休止タイムである。
再びメンバーが登場すると、和嶋氏・ナカジマ氏は新作Tシャツである。2人で背中を合わせてクルクル回る動作がかわいかった。
”祭り”がないことを嘆く鈴木氏のMCから、「ねぷたのもんどりこ」。人間椅子のライブと言うお祭りももうすぐ終演である。
次のライブの告知があるかと思ったが、今回はなかった。物寂しげな和嶋氏、「最後の曲です」と演奏されたのは、「無情のスキャット」である。
筆者はここまでいつも通りの気持ちでライブを観ていたが、この曲のイントロで感極まっていた。人間椅子がまた一つ大きく飛躍した曲であり、ここ数年のことが一気に思い出された。
それほどライブで聴いた回数は多くはないはずだが、何だかとても懐かしい気持ちになった。こんな風に毎回ライブを観て、そして終わりを迎えていたなと。
演奏終了後は、おなじみメンバー紹介でステージを後にした。
#Zepp_Divercity_Tokyo !!
— NINGEN ISU(人間椅子)Official (@ningenisu_staff) September 27, 2021
ツアーファイナル!
ありがとうござました!#人間椅子#苦楽 pic.twitter.com/wdBhkbvtNl
およそ2時間ほどのライブで、アンコールは1度だけ。いつもよりやや曲数の少ない16曲の演奏だった。
今回のライブで感じたことをいくつか述べておこう。まずは人間椅子の変わらぬ安定した演奏は素晴らしかった。
コロナ禍でライブもなく、しばらくのブランクがあったものの、それを感じさせない3人のコンビネーションは全く変わらないように聴こえた。
もちろん全国を回った最後の公演で、新譜の楽曲も十分に馴染んだ中での演奏だったのもあるだろう。過去の楽曲と並んで自然に聴くことができた。
さすが苦難ではびくともしない人間椅子の強靭な演奏力を感じた。
そして少しコロナ禍でのライブ、ということにも触れておきたい。
そもそもライブの醍醐味は大きく分けて2つあるように思う。1つは生音を五感で感じること、もう1つはライブという同じ空気を皆で共有することである。
今回のライブでは、前者の生音を感じられる喜びはひとしおだった。やはり人間椅子の鳴らすバンドサウンドは、生音で聴いてこその迫力がある。
こればかりは配信では絶対に感じられないものであろう。バスドラムの振動や、ベースがお腹に響く感覚、突き抜けて聞こえてくるギターソロなど、やはり生音でしか味わえない。
だからこそ、人間椅子は配信ライブは一度しかやらなかった。それも、やってみて「違うな」と感じたと後に語っている。
筆者としても、安易に配信ライブを増やさなくて本当に良かったと思う。それほど、人間椅子が生音を届けることにこだわりを持っていることが知れて、とても嬉しかった。
ただし、後者のライブの空気を皆で共有すること、これがコロナ禍のライブで困難を極めることがよくわかった。
まずもって発声禁止、立ち位置固定などの制約そのものが、どうしてもファンの熱量を下げる。
演者がどれほど熱いパフォーマンスをしても(むしろすればするほど)、観客との間に温度差が生まれてしまう。どうしても観客は、ロック的な衝動はなく、”演奏する人の見物”になってしまうからだ。
これは9月22日に観たeastern youthのLINE CUBE SHIBUYA公演でも全く同じことを感じた。
それだけではない。ライブは、そこにいる観客が一心にステージを見つめる集中力、その純度の高い思い出満ちた空間であることも醍醐味の1つであると思っている。
しかしライブに来ることに対する思いが、今回はそれぞれに複雑なものもあったことだろう。全くいつも通りにライブに来た人もいれば、感染症を恐れて決死の覚悟で来た人もいるかもしれない。
どうしてもコロナ禍にまつわる様々な思いが交錯し、少しそわそわした空間になっていたように思えた。
やはり心をステージに向ける集中力、そして安心してステージを見られる開放感を取り戻すには、通常のライブ形態になるまでは難しそうである。
生音の良さの一方で、ライブと言う空間がまだ完全に戻っていないもどかしさの両者を感じた。こんなところにも、”苦楽”があることを感じながら、次のライブも楽しみに待とうと思う。
<セットリスト>
- 夜明け前
- 神々の行進
- 杜子春
- 宇宙海賊
- 無限の住人 武闘編
- 洗礼
- 恐怖の大王
- 人間ロボット
- 恍惚の蟷螂
- 疾れGT
- 暁の断頭台
- 至上の唇
- 超自然現象
- ダイナマイト
- ねぷたのもんどりこ (en.1)
- 無情のスキャット (en.2)
オフィシャルライブレポート・ニュース記事まとめ
2021年9月27日に行われた『苦楽 ~リリース記念ワンマンツアー~』東京 Zepp DiverCity公演のその他レポートを集めている。
音楽サイトやニュース記事を中心に集めた。なおライブレポートの文章、写真はどのサイトも共通のようである。
BARKS:人間椅子、『苦楽』リリースツアーが東京でファイナル
Vif:2021.09.27 人間椅子@Zepp DiverCity
Musicman:人間椅子、全国ツアーファイナルのライブレポート到着「2年ぶりでみなさんの前で生音を聴かせることができて、本当に嬉しいです」
まとめ
この記事では、人間椅子の『苦楽 ~リリース記念ワンマンツアー~』ファイナルのZepp DiverCity公演のレポートを書いてきた。
人間椅子の新作『苦楽』の楽曲をライブで聴ける喜び、そして人間椅子のバンドサウンドを生音で聴ける体験は、やはり素晴らしいものだった。
その一方で、どうしてもコロナ禍によるライブの制約や、複雑な思いが交錯し、なかなか心地好いライブ空間には至らない状況だったように思う。
こればかりは、通常のライブに戻り、誰もが心置きなくライブ参加できる日まで待つしかないだろう。
それにしても、活動32年を迎え、ますますライブが盛り上がっている人間椅子の状況は大変喜ばしい。最初のMCだったか、和嶋氏は「日本のローリング・ストーンズになりたい」と語っていた。
イカ天出身で、現在も活動を継続し、30年を超えて最もブレイクしている稀有なバンドである。今でも、大ベテランでありレジェンド的なバンドとなっている。
しかしまだまだその伝説は継続中である。その歩みを一歩ずつ進めるごとに、新たな伝説が生まれていくのが今の人間椅子だ。
今回のライブに参加し、また新たな歴史の1ページを見届けることができた。これからも人間椅子の活躍には目が離せない。
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