ハードロックバンド人間椅子は、2022年に今年2本目となるツアー「2022年秋のワンマンツアー~闇に轟く~」が決定した。9月に全国7か所のライブハウスを回るツアーである。
そんな人間椅子のライブでは、ライブ本編最後に披露される曲、またアンコールの最後に披露される楽曲は、決まった楽曲が演奏されることが多い。
しかし時代を遡ると、今とはやや異なる選曲が行われていたことがわかる。
そこで、今回は今となっては少し意外な本編ラスト曲・アンコールラスト曲を紹介しようと思う。
初めて人間椅子のツアーに参加する人の予習になれば幸いである。
近年の人間椅子ライブの本編ラスト・アンコールラスト曲
最初に近年の人間椅子のライブのスタイルをおさらいしておこう。
人間椅子のワンマンライブは、だいたい全部で18曲前後が披露される。かつては20曲以上披露されていた時代もあったが、年齢もあってか鈴木氏は「少しずつ減らしたい」と発言した通りに減少傾向だ。
たいてい中盤にダウンチューニングコーナー(ヘビーな楽曲を披露する)を4~6曲ほど挟んで、ライブの後半戦に突入する。
そして本編最後は、ナカジマ氏ボーカル→和嶋氏ボーカル→「針の山」という流れがほとんどである。
アンコールは2回であることが多く、1回目が2曲、そして2回目に1曲を披露して終了となる。
1回目のアンコールの楽曲は割と流動的であるが、2回目は「どっとはらい」「なまはげ」のいずれかが披露されるパターンで定着している。
ただ最近行われた「『踊る一寸法師』再発記念ワンマンツアー」では、本編ラストが「ダイナマイト」、アンコールラストが「針の山」だったなど、普段と異なることもある。
※【人間椅子】『踊る一寸法師』再発記念ワンマンツアーを振り返ろう! – 選曲分析と全公演セットリスト・レポートまとめ
また少し前の時代には、アンコールラストには「地獄風景」が配置されることが多かった。
ここでは、本編ラスト・アンコールラストに定番の楽曲について紹介しておこう。
針の山
- 作詞:和嶋慎治、作曲:Tony Bourge, Burke Shelly, Ray Phillips
- 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)など
いまやライブ本編最後の定番となった「針の山」。ウェールズのバンドBudgieの「Breadfan」に日本語詞をあてたカバーであるが、もはや人間椅子の代表曲と言える。
しかしライブ本編最後に固定されたのはそれほど古い時期ではない。2010年のライブアルバム『疾風怒濤〜人間椅子ライブ!ライブ!!』に収録されたツアー頃から、徐々に固定されていった。
それまではアンコールラストや、ライブ序盤に演奏されることもあった。
2010年頃までは、アウトロの部分が何度も繰り返されるアレンジが加えられていたが、近年はオリジナル音源通りのアレンジに戻っている。
2019年の「バンド生活三十年~人間椅子三十周年記念ワンマンツアー」ファイナルの中野サンプラザ公演では、針をイメージした銀のテープが発射されたこともあった。
【ライブレポート】人間椅子が満員の中野サンプラザで30周年公演、無数の銀テープが観客を襲う(写真17枚)https://t.co/NXXIuMFEzA pic.twitter.com/2JBTgFQvFb
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) December 14, 2019
どっとはらい
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:14th『真夏の夜の夢』(2007)など
2007年にリリースされた『真夏の夜の夢』のラストに配置された楽曲。シンプルかつヘビーに突き進むかと思いきや、中間部ではキングクリムゾン風の展開が面白い。
近年はアンコールラストに演奏される頻度がかなり高くなった。しかしこの曲もリリース当初からしばらくは中間のダウンチューニングコーナーで披露されていた。
「針の山」と同じく、2010年頃からアンコールラストに演奏される頻度が高くなっていった。
これまでは「地獄風景」などスラッシュメタル風の楽曲で終わることが多かったのが、ヘビーな楽曲がラストを飾るようになったことが当時は新鮮だった。
なまはげ
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:18th『無頼豊饒』(2014)など
2014年の『無頼豊饒』収録の「なまはげ」がアンコールラストの定番に加わっている。シンプルでメタル要素の強いこの曲は、人間椅子の新たな側面を開花させたように思える。
この曲は2014年のツアー「二十五周年記念ツアー ~無頼豊饒~」からアンコールラストに配置されていた。ただフェスでは1曲目に披露されることもあった。
ライブの中で進化してきた楽曲とも言える。たとえばオリジナル音源ではザクザク刻むようなリズムだったが、徐々にテンポを落として、よりヘビーな印象に変わっていった。
また中間部の和嶋氏のギターだけになる部分では、当初は和嶋氏が前に出て目立っていた。しかし鈴木氏が前に出てパフォーマンスをする時間へと変化していった。
ダイナマイト
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:5th『踊る一寸法師』(1995)など
鈴木研一氏によるスラッシュメタル×パチンコソングの第1弾。人間椅子の中でも最もエクストリームな楽曲で、アンコールラストによく披露されていた。
「2連チャン~」の部分では、数字に合わせて手で数字を示すのがファンの間では定番の動きになっている。
近年はアンコールラストを「どっとはらい」などヘビーな曲に譲っており、演奏頻度はやや減った。
しかし2022年の「『踊る一寸法師』再発記念ワンマンツアー」では久しぶりにアンコールラストに配置された。
地獄風景
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:9th『怪人二十面相』(2000)など
鈴木氏によるスラッシュメタル×地獄シリーズの楽曲である。2000年の『怪人二十面相』に収録され、長らくアンコールラストで頻繁に披露される楽曲であった。
近年はアンコールラストは「なまはげ」「どっとはらい」などヘビーな曲にその座を譲っているが、2010年代前半頃まではよく演奏されていた。
またリリースされた当時、アンコールラストで鈴木氏が学ランを着て演奏するということが定番化していた。その様子はライブDVD『見知らぬ世界』で確認することができる。
近年のライブでは鈴木氏が学ランを着ることはほとんどなくなった。
今となっては少し意外な本編ラスト曲・アンコールラスト曲
人間椅子のライブでは、本編最後やアンコール最後の楽曲は概ね定番化していることを述べてきた。
しかしこうした流れも近年になってのことである。また「どっとはらい」「なまはげ」など、2000年代後半以降の楽曲がリリースされる以前は、当然異なる楽曲が演奏されていた。
そうした過去のライブを振り返りつつ、今となっては少し意外な本編ラスト・アンコールラスト曲を紹介したい。
過去には終盤の定番だった楽曲、終盤にはかなりレアな楽曲を取り上げた。
なお通常のワンマンライブから選び、ファンクラブ限定イベント「人間椅子倶楽部の集い」は選曲自体がレアであることから除外して考えている。
陰獣
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:ベストアルバム『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』(2019)など
言わずとしれた人間椅子のデビューのきっかけとなった代表曲。しかしライブでの演奏頻度はそれほど高くなく、またライブで演奏される配置も特に決まっていない。
過去には本編ラストに演奏されたこともあれば、アンコールラストに演奏されたこともあった。
たとえば2011年の『人間椅子レコ発ツアー『此岸礼讃』』初日「此岸の日」ではアンコールラストに披露されている。この配置での演奏はレアであり、大いに会場も盛り上がる。
なお長らくダウンチューニングで披露されてきたが、近年は再びオリジナルのレギュラーチューニングで演奏される機会も増えている。
あやかしの鼓
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)など
1st『人間失格』に収録されているおどろおどろしい、人間椅子らしさ満載の楽曲だ。ダークな印象がありつつ、実はライブでは本編終盤で演奏されることが多いのである。
よくある配置は、盛り上がるタイプの楽曲を披露した後にクールダウン的に置かれる。しかし楽曲終盤でのアップテンポな盛り上がりが、次の楽曲への導入的な位置づけとなる。
たとえば「あやかしの鼓」の後に、「地獄」や「桜の森の満開の下」などに続くパターンが過去にはあった。
ライブの最後に配置されることは珍しいが、過去のライブを遡ると本編ラストに披露されたこともあるようだ。(1997年渋谷 ON AIR WEST「歳末猟奇劇場」追加公演など)
桜の森の満開の下
- 作詞:鈴木研一、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)など
Black Sabbathへの強いリスペクトを感じる楽曲である。ヘビーながら展開がめまぐるしく、それでいてメロディアスであるという名曲である。
人間椅子がデビュー前後のライブでは、この曲で本編が締めくくられることが多かったそうだ。その当時の影響で、時々この曲で本編が締められることがある。
確かにオリジナルのアレンジ自体、ライブの最後のようなエンディングになっている。2009年の『未来浪漫派ツアー〜20周年から21周年へ「月の日」』でもこの曲で本編を終えている。
かつて東京は2Daysでライブが行われることが多く、その際にはレアな終わり方をすることが多かったように思う。
幸福のねじ
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:3rd『黄金の夜明け』(1992)など
人間椅子の初期の楽曲の中でも、早い段階でスラッシュメタルの要素を取り入れた楽曲である。ライブでは大いに盛り上がり、序盤から後半まで自在に配置されてきた。
本編ラストに配置されたこともある(2011年人間椅子レコ発ツアー『此岸礼讃』「此岸の日」など)が、それ以外の終盤に配置されることが多い。
本編最後の「針の山」の前や、アンコール1回目のラストなど、ここぞというポイントで大いに盛り上がる曲である。
キーがかなり高く、近年はかなり歌うのが大変そうである。そのため2022年の「『踊る一寸法師』再発記念ワンマンツアー」で披露された際には、メロディを変えて歌っていた。
もっと光を!
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:4th『羅生門』(1993)など
「なぜ!」の掛け声がライブでは盛り上がる1曲である。なかなか近年の演奏頻度は高くないが、人間椅子倶楽部の集いでは時々演奏されることがある。
90年代のライブまで遡ると、頻繁に演奏されていたのとともに、本編ラストに配置されていたこともあったようだ(1998年梅田 バナナホール【ツアー”怨念大納言”】など)
2000年代以降に演奏頻度が減ってきた理由を聞いたことはないが、終盤に演奏されるタイプの楽曲は新しいものがどんどん登場する。かなりの人気曲でない限り、やはり頻度は減るのだろうと思う。
地獄
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:6th『無限の住人』(1996)など
地獄シリーズの原点とも言えるこの楽曲。スラッシュメタル風ながら、中間部には時報を意識したプログレッシブな展開も見られる楽曲だ。
昔のライブを知る人は、この曲がラストであることは意外ではないだろう。本編ラストが「地獄」であったライブの数を数えれば、限りがないほどである。
ただ最近は本編ラストの座を「針の山」に譲ったことから、アンコール1回目ラストに披露されることが圧倒的に増えた。
いまだにライブでは大いに盛り上がる曲だけに、配置は変化しても、ライブの定番ではあり続けている。
エキサイト
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:7th『頽廃芸術展』(1998)
「ダイナマイト」に続くパチンコシリーズ第2弾の楽曲。スピーディーではあるが、どこか昔のアニソン風の楽曲である。
90~00年代には本編ラスト、アンコール1回目・2回目ラストと、あらゆるところで披露されてきた。しかしB級臭がするこの楽曲、次第に演奏頻度は低くなっていった。
なおライブでは、後半のギターだけになる部分では和嶋氏は背面弾きを披露するのが定番である。
2020年に配信番組『帰ってきた人間椅子倶楽部vol.9』にて演奏された際にも、同様のパフォーマンスが見られた。
※「無観客ライブ」について① – 「帰ってきた人間椅子倶楽部vol.9」の振り返り
相剋の家
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:11th『修羅囃子』(2003)など
2003年『修羅囃子』の中で、和嶋氏が作った数少ないヘビーな楽曲。地を這うような絶望的なヘビーさと、中間部の明るい展開がかえって不気味さを際立たせる。
中間部のダウンチューニングコーナーで披露されることがほとんどだが、実はアンコールラストに配置されたことがあった。
2011年の「冬来たりなば春遠からじ ~人間椅子ワンマンツアー 2011年師走~」である。冒頭のドラム部分で和嶋氏の語りが挿入されていた。
冬・クリスマスの作られたようなにぎやかな雰囲気が苦手で、その中で孤独を感じることなく自由に生きてください、というメッセージを伝えていた。
和嶋氏の誕生日が近いシーズンでもあり、何か思うところがあったのか、印象的な演奏だった。その後「相剋の家」がアンコールラストに配置されることはなかったように思う。
まとめ
【人間椅子2022秋のワンマンツアー ~闇に蠢く~】
— NINGEN ISU(人間椅子)Official (@ningenisu_staff) July 7, 2022
ファンクラブ会員限定先行チケット販売中!
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今回は人間椅子のライブの終盤のセットリストに注目した記事を書いてみた。
近年の人間椅子のライブは、一見さんでも楽しめるようにと、セットリストの中にある程度定番の曲を配置するようになっている。
00年代後半頃までは、かなり自由自在に選曲されていたため、ほとんどのアルバムを聴き込んでいないと曲が分からないと言うライブになっていた。
それが2009年のベスト盤『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』や2010年のライブ盤『疾風怒濤〜人間椅子ライブ!ライブ!!』が出た頃から、セットリストの選曲が変化してきた。
中でもライブ終盤の流れは、かなり固定化している印象である。本編ラストは「針の山」、アンコールラストは「どっとはらい」「なまはげ」で、かなり定着した。
今後また変わることもあるかもしれないが、”ライブはこれで終わり”という区切りもつけやすいためか、選曲が固定する流れは続くと見ている。
ただファンとしては、終盤に意外な楽曲が披露されるのもまた楽しいものである。序盤~中盤で演奏される楽曲を最後に聴くと、新鮮さとともに大いに盛り上がる。
過去にはこんな終わり方もあった、という選曲を今回は紹介した。
9月にはワンマンツアーが予定されているが、今回が初めてという人、また最近ライブを観始めたという人も、過去にこんな選曲もあった、という参考になればと思う。
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