日本のハードロックバンド人間椅子は、これまで23枚のオリジナルアルバムをリリースし、総曲数は280曲を超える。
70年代ブリティッシュハードロックに影響を受け、ギターリフを主体とした楽曲が特徴である。曲の数だけ(むしろ曲の中に複数ある)リフが存在し、数々の名リフを生み出してきた。
※リフとは、ギターフレーズのよる繰り返しのことである。
今回の記事は、「自部屋の音楽」筆者が独断で選んだ、人間椅子のカッコいいリフ、トップ10を決める内容である。
意外にも王道過ぎる内容のためか、これまで書いて来なかった内容である。当該リフにまつわる情報なども交えながら、その良さを語った。
「自部屋の音楽」筆者が選ぶ人間椅子のカッコいいリフ、トップ10
今回は人間椅子のリフの中で、カッコいいと感じるものをトップ10形式で選ぶことにした。
かなり迷うものであったが、選んだ基準としては以下のような点を重視している。
- シンプルで口ずさめる、ギターで簡単に弾ける
- 聴いた瞬間に鳥肌が立つような経験がある
- リフの目立たせ方が上手い展開がある
基本的には1.のようにシンプルであり、それでいて2.のように聴いた瞬間の感動があったリフを優先的に選んでいる。
曲全体よりリフの良さで選んではいるが、3.のようにリフを目立たせるための展開がリフの良さを増幅している場合もあるので、そうした曲も選んでいる。
10位から1位へと順に発表することにした。
10位:戦慄する木魂
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『頽廃芸術展』(1998)
10位に選んだのは、近年のライブでは演奏頻度の低めである、やや渋い楽曲である。『頽廃芸術展』に収録された、疾走感のあるストレートなハードロック曲だ。
この曲のメインリフ部分、なかなか疾走感があってゾクゾクするようなリフである。F#mとEの音を用いたリフと言うと、実はBudgieの「Crash Course in Brain Surgery」が元ネタと思われる。
元ネタがやや見える過ぎるところで順位は少し下げたものの、元ネタが分かっていてもカッコいいと思える出来の名リフである。
ややトリッキーなイントロや、歌に入る直前のフレーズを挿入したり、シンプルになり過ぎない工夫も凝らされているので、その点はポイントが高い。
なお筋肉少女帯の「少年、グリグリメガネを拾う」も同じ系列のリフであり、筋肉少女帯人間椅子にて人間椅子がカバーしたことでも知られる。
9位:痴人の愛
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『三悪道中膝栗毛』(2004)
9位は『三悪道中膝栗毛』のラストに配置された、文芸シリーズ「痴人の愛」である。この当時の和嶋氏らしい、ダークな雰囲気がたまらない1曲だ。
ダウンチューニングでミュート気味に弾くメインリフは、まるで蠢くようなリフになっており、非常に不気味なリフでカッコいい。
ベースとのユニゾンが心地好いが、やはりこうした地を這うようなリフは、ベース・ドラムのみになるパートがあると映える訳だが、しっかりギターソロ前に挿入されている点が素晴らしい。
和音を分解したイントロや、終盤に向けた展開など、決して複雑過ぎない中にも展開が工夫されていることで、メインリフの良さが活かされている。
8位:りんごの泪
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:『人間失格』(1990)
8位はデビュー作『人間失格』に収録された、初期を代表するナンバーである。
鈴木氏が最初に作った楽曲のメインリフを改良したのが、この曲のメインリフである。土着的なリズムに乗せて、人間椅子にしか作り出せない世界観を醸し出している。
8位にしたのは、個人的に「ゾクゾクするようなカッコ良さのリフ」を主に選んだ結果、ややこのメインリフは他と趣が異なり、評価が難しかったためである。
カッコいいと言うよりは、筆者としては味わい深さという観点で選出することになった。1回聴くと耳から離れない、中毒性のようなものがある不思議なリフである。
7位:人面瘡
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト』(2019)
和嶋氏が作詞・作曲したかなり初期の楽曲である。トリッキーな展開に、やや歌謡曲テイストもあるところが、デビュー前の人間椅子らしい作風だ。
この曲のメインリフもまた名リフと言えるだろう。長いギターアルペジオのイントロから、不気味でありつつ、ややコミカルな雰囲気も醸している。
ブルーステイストのあるリフでありつつ、半音の移動を巧みに使うことで、より不気味な雰囲気を作り出すことに成功しているのだろう。
かなり細かく展開し、リフがたくさん詰め込まれており、聴いていて飽きない展開になっている点も面白い。
6位:黒猫
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『無限の住人』(1996)
ダークかつヘヴィ、それでいてプログレッシブロックのような展開の多さなど、Black Sabbathに影響を受けつつも、独自のヘヴィさを追求した名曲である。
この曲のメインリフは人間椅子屈指のヘヴィさを誇るものだ。弾いてみると、かなり工夫が凝らされていることがよく分かる。
このメインリフでは前半で6弦で下げるようにチョーキングを行い、後半はパワーコードも用いている。このチョーキングが不思議な這うようなグルーヴを生み出している。
冒頭には奇数拍のブレイク、細かく動き回るような展開、巧みな転調など、とにかく技巧満載であり、ギターの勉強にもなるような曲である。
5位:もっと光を!
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:『羅生門』(1993)
ここからトップ5であり、筆者が本当に好きなリフが並んでいく。5位としたのは、4th『羅生門』の1曲目を飾る「もっと光を!」である。
まずもって掴みのイントロリフからして素晴らしい出来である。イントロには歌が当然ないため、歌に合わせなくて良い、やや難解なフレーズを入れ込むことができる。
これは個人的にはBudgieの「Melt The Ice Away」という曲の影響にあるのではないか、と思っている。
Budgieの方は歌の部分はシンプルなパワーコードであるが、「もっと光を!」はメインリフに不気味な要素を加えて、人間椅子らしさを出している。
歌とユニゾンするようなシンプルなリフであり、お見事としか言いようのない名リフである。
4位:陰獣
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト』(2019)
4位にランクインしたのは、人間椅子がデビューするきっかけとなった”イカ天”出演時に披露した「陰獣」である。
以前こちらの記事でも書いた通りであるが、メインリフはBlack SabbathよりもBudgieの「Guts」と言う曲に多大な影響を受けている。
地を這うようなヘヴィさ、そしてワウペダルで異世界感を出すことに成功している。Budgieに最初に影響を受けたのはベースの鈴木氏のようであるが、このリフを作ったのは和嶋氏のようだ。
デビュー前後の和嶋氏は歌謡曲テイストの楽曲も多い一方で、高校時代に「鉄格子黙示録」を作るなど、ダークなリフ作りにおいてはかなり秀でていたことが窺える。
中間部のアップテンポになるリフもなかなか秀逸であり、こうした展開はBlack Sabbathをむしろ思わせるものである。
3位:賽の河原
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:『人間失格』(1990)
いよいよトップ3の発表であるが、3位は『人間失格』収録の「賽の河原」を選んだ。和嶋氏の作る文学的な世界観と、鈴木氏の持つ不気味さが見事に融合した傑作の1つである。
不気味さの部分では、イントロで紡がれるおどろおどろしいリフが屈指の出来であると思う。リフの中では長い部類に入るが、歌も乗せることができる、実に優れたリフである。
ややマニアックな点を述べれば、ただ単に弦を押さえるだけではあの感じは出ない。弦のスライド、ビブラートなどの技術を駆使することで、あの独特のうねりが生まれるのである。
Bメロ部分が流麗なメロディ、童謡のようなサビへと展開も見事であり、そうした展開の中にこそ、不気味なメインリフが活きるというものだ。
2位:怪人二十面相
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『怪人二十面相』(2000)
そして2位に選んだのは、『怪人二十面相』に収録されているタイトル曲「怪人二十面相」である。この曲のメインリフがとにかく素晴らしい出来である、と筆者は思っている。
キーはAmであり、5弦の開放弦の音を巧みに使ったリフで、不気味さとともに爽快な感じもあるリフになっている。
半音ずつ下がっていく冒頭の不気味なイントロ、さらにはBメロでも同じく半音移動を使ったリフでサンドイッチすることで、より爽快感が増しているようにも思える。
さらにはサビではリフはそのままに、コードがAm→Fへと移動することで、哀愁まで感じさせている。無限に広がる可能性を秘めた名リフであると感じた。
1位:審判の日
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:『黄金の夜明け』(1992)
人間椅子のカッコいいリフランキングを作るとしたら、必ず1位にしたいと思うのが、『黄金の夜明け』収録の「審判の日」である。
考案した鈴木氏自らも、これは秀逸なリフができた、と自覚したのではなかろうか。ベースが軸になるこのリフ、音階と言いリズムと言い、カッコいいとしか言いようのないリフである。
鈴木氏の頭の中には、きっとKISSの「Parasite」が鳴っていたのでは?という元ネタも見え隠れするが、それでもなお「審判の日」のメインリフは名リフである。
このリフを膨らまして、中間部にはかなりプログレッシブな展開が組み込まれているところがとても面白い。
しかしあまりにこのリフが強烈過ぎて、逆に1曲にまとめる難しさがあったのではなかろうか、と推測する。
番外編:ギターで弾くと楽しい少しマニアックな曲のリフ
ここまでは人間椅子のカッコいいリフを10曲選んで発表したが、そこに収まりきらなかった楽曲が膨大にある。
単純に上位に入れたいと言うだけではなく、筆者がギターでつい弾きたくなるリフをいくつか選んで紹介してみようと思う。
並び順は発表が古い順である。
神経症I LOVE YOU
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『現世は夢 〜25周年記念ベストアルバム〜』(2014)
人間椅子がデビュー前にインディーズでリリースした通称0th『人間椅子』に収録された楽曲である。和嶋氏らしい、屈折したロックンロールナンバーである。
この曲のメインリフは個人的にかなり好きである。ブルーステイストの強い、ロックンロールなリフであり、やはりギターで弾くにはとても楽しいリフである。
リフの作りとしてはコードを分解したような構造になっており、こうしたメカニカルなところも和嶋氏らしくて好きなところだ。
人間椅子倶楽部
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『羅生門』(1993)
トップ10の中に入れるかかなり迷ったリフが、『羅生門』収録の「人間椅子倶楽部」のメインリフである。
人間椅子らしい独特の怪しさとヘヴィさを兼ね備えた名リフの1つと言って良いだろう。非常にシンプルながら、耳に残る点でも良くできたリフと言える。
2位に挙げた「怪人二十面相」と運指の上では少し似たところがある。「怪人二十面相」に比べて音数が少なく、よりシンプルなゆえに弾きやすいリフであるように思える。
三十歳
- 作詞:鈴木研一・和嶋慎治・土屋巌、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『踊る一寸法師』(1995)
『踊る一寸法師』収録、メンバーが30代に突入した記念に作られた楽曲である。個人的にはギターを手に取って、まず弾きたくなるリフがこのメインリフである。
おそらくその理由は、6弦で指を2本だけで簡単に弾けるところにある。それでいてカッコいいリフであるし、ピッキングの方は結構慌ただしくて、弾いていて飽きないのだ。
ヘヴィでありながら、どこか(良い意味で)下品な怪しさのあるリフである。鈴木氏のリフ作りのとても冴え渡っているのを感じる。
ロックンロール特急
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『瘋痴狂』(2006)
『瘋痴狂』に収録、ナカジマ氏がボーカルを取った軽快な楽曲「ロックンロール特急」のリフを取り上げた。この曲の場合、イントロから歌の部分まで、どのリフも捨てがたい良さがある。
言ってしまえば、物凄くBudgie臭がするリフである。「もっと光を!」で取り上げた、Budgieの「Melt The Ice Away」の雰囲気も少し感じさせるものだ。
あるいはRiotの「Road Racin’」のようなリフでもある。前に転がっていくようなリフが弾いていてとにかく心地よいのである。
悪魔と接吻
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『此岸礼讃』(2011)
『未来浪漫派』の時期に録音されて、CDショップ購入特典として配布されたのがこの曲である。ライブでの手応えもあったのか、『此岸礼讃』で正式に収録されることとなる。
この曲のメインリフも、ついギターを手に取れば弾きたくなるリフだ。「人間椅子俱楽部」「怪人二十面相」と同様に、開放弦を用いたリフは弾いていて心地好いのである。
サビの部分ではハンマリングを使うリフなど、この時期くらいまでの和嶋氏のリフはギターの教則に使えるような、シンプルで技巧的なリフが多かった印象である。
まとめ
今回は人間椅子のリフの中で、筆者が選ぶカッコいいリフをトップ10形式で紹介した。
おそらくどんなリフをカッコいいと捉えるかも、人それぞれなのだろう。今回はシンプルに聴いた瞬間にゾクゾクするような興奮を覚えたリフをメインに選んだ。
後半ではそこから漏れた、弾いていて楽しいリフ、という選び方もできる。それぞれに魅力があり、アルバムの中での役割、ライブでの役割が異なる曲と言うことになる。
これだけたくさんの名リフを生み出してきた人間椅子には感服するばかりである。逆に言えば、ハードロックにおけるリフとは、それだけ人を夢中にさせるものなのだ。
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