【アルバムレビュー】南佳孝 – 愛した数だけ(2025)熟練の技が生み出す”新鮮さ”

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アルバムレビュー
画像出典:Amazon

デビューして50周年を迎えた、シンガーソングライター南佳孝氏は、2025年5月7日にアルバム『愛した数だけ』をリリースした。

新曲5曲+セルフカバー7曲によるフルアルバムで、単独の名義で新曲を含むアルバムをリリースするのは実に6年半ぶりのこととなる。

南氏と言えば、ヒット曲「スローなブギにしてくれ(I Want You)」や「Monroe Walk(モンロー・ウォーク)」「スタンダード・ナンバー」など、長くファンに愛される楽曲が多い。

キャリアを重ねれば、往年の楽曲をファンとともに繋いでいく活動に比重が置かれることも多い。南氏も、近年はライブ活動を主体にしてきた節がある。

久しぶりに自身名義の新曲を収録した『愛した数だけ』には、それでも新たなメロディを探していきたい、という南氏の思いがこもった作品に感じられた。

この記事では南佳孝氏のアルバム『愛した数だけ』をレビューする。

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アルバム『愛した数だけ』の概要

  • 発売日:2025年5月7日
  • 価格:3,000円(税抜)
  • レーベル:CAPITAL VILLAGE

<収録楽曲>

No.曲名作詞備考(カバー曲はオリジナル収録作品を記載)
1クレッセント・ナイト竜真知子南佳孝『MONTAGE』(1980)
2MOONLIGHT WHISPER南佳孝南佳孝『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)
3砂丘松井五郎・南佳孝新曲
4渚にて来生えつこ南佳孝『SPEAK LOW』(1979)
5FAMILY TREE松井五郎・南佳孝新曲
6愛した数だけ南佳孝新曲
7HOME TOWN南佳孝南佳孝『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)
8銀のペンダント南佳孝内田有紀『愛のバカ』(1996)
9つぶやきの音符来生えつこ薬師丸ひろ子『古今集』(1984)
10早くあいつに逢いたい南佳孝南佳孝『SOUTH OF THE BORDER』(1978)
11SPACE AGEのスノードーム売野雅勇新曲
12MISS YOU売野雅勇新曲
※全作曲:南佳孝、全編曲:松本圭司

南佳孝氏のアルバム『愛した数だけ』は、2025年5月7日にCAPITAL VILLAGEよりリリースされた。

前作のフルアルバムは2018年の『Dear My Generation』であり、6年半ぶりの新作とも言える。

その間の南氏はライブ活動を軸としつつも、ラジオ番組とのコラボ作『ラジオな曲たちⅡ』(2019年)や杉山清貴氏との共作『愛を歌おう』(2020年)などの音源をリリースしてきた。

またライブ音源を2作リリースしていた。

1つはデビュー50周年企画として、松本隆氏の作詞による楽曲だけで構成されたライブ盤『南佳孝 松本隆を歌う Simple Song 夏の終わりに』(2023年)である。

そして2023年の”南佳孝フェス”で披露されたオリジナル曲のライブ録音を集めた『MY FAVORITE SELECTIONS』(2024年)と、ライブ活動の充実を物語る作品が続いていた。

そしてようやく新曲を含む、オリジナルアルバムとしての新作が登場した。

さて、本作は新曲5曲+セルフカバー7曲と言う構成になっている。上の<収録楽曲>に、カバーはオリジナル収録作品を記している。

まず新曲について、「砂丘」「FAMILY TREE」は松井五郎氏が作詞している。松井氏の作詞は、2011年リリースの『SMILE&YES』以来の登場である。

また「SPACE AGEのスノードーム」「MISS YOU」では売野雅勇氏が作詞を担当した。売野氏に関しては、1999年『PURPLE IN PINK』以来となる。(名曲「Holy Lei」の作詞を行っている)

「MISS YOU」については、杉山清貴氏がコーラスで参加しているが、ツインボーカルとも言える存在感を見せている。

セルフカバーは南氏が楽曲提供したものも含まれ、内田有紀「銀のペンダント」、薬師丸ひろ子「つぶやきの音符」という、これまであまり光の当たっていなかった楽曲が取り上げられた。

なお本作の制作以前には、50周年の時に松本隆氏とアルバムを作ると言う構想もあったようだが、実現はしなかった。

前述の松本氏作詞曲によるライブ盤もリリースされたためか、セルフカバー等も含めて松本氏の作詞は1曲も収録されていない作品となっている。

本作の編曲は松本圭司氏が担当しており、彼は近年の南氏のライブでは欠かせない存在となっていた。またボーカル録りの大半を自宅で行ったことなども、以下のインタビュー記事に書かれている。

南佳孝インタビュー『LIVE DUO with 松本圭司』開催決定、新曲初披露予定も「今はライブが一番楽しい」

南佳孝インタビュー『LIVE DUO with 松本圭司』開催決定、新曲初披露予定も「今はライブが一番楽しい」|ウーマンエキサイト
Text:森朋之Photo:石原敦志
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アルバム『愛した数だけ』全曲ミニレビュー

ここでは『愛した数だけ』の全12曲について、聴いた感想をそれぞれ述べていきたい。

クレッセント・ナイト

1曲目は、『MONTAGE』(1980)収録の小気味いいリズムの楽曲。オリジナルは坂本龍一氏のテクノ風味のあるアレンジだったが、こちらはかなりジャズっぽい雰囲気に仕上がっている。

ジャズテイストを得意とする編曲の松本氏らしい仕上がりで、冒頭の歌唱からイントロ部分まで、肩の力が抜けたピアノが心地好い。

オリジナルとはパターンを変えつつも、跳ねるビート感は活かしつつ、より大人っぽい雰囲気である。原曲の持つ雰囲気は活かされているところがポイントが高い。

南氏の歌唱も年齢を重ねた良さが表れている仕上がりだ。アウトロはオリジナルにはないギターソロパート、全体にゆったりした演奏が非常に聴きやすい。

MOONLIGHT WHISPER

都会や夜をイメージさせる楽曲の多い『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)収録の隠れた名曲がセルフカバーとなった。

オリジナルはAORテイストの強いサウンドで、ベースのうねりが心地好いサウンドであった。今回のカバーでは、イメージを変えて、爽やかなボサノバ調のアレンジになっている。

アレンジで大きく印象が変わる曲だと思った。こんなにラテン要素の強いメロディだとは思ってもみなかったし、オリジナル・セルフカバーともにアレンジ力の高さを改めて感じさせた。

そして『SEVENTH AVENUE SOUTH』という強烈な文脈・コンセプトのある作品から離れてみると、この曲の持つ普遍的なメロディの良さを再確認できた。

またコード進行もほぼ変更がなく、完成度の高い楽曲なのだとも思った。

砂丘

松井五郎氏との共作による作詞の新曲である。住友紀人氏の優しげなサックスが心地好い、ドライブナンバーと言う趣の楽曲である。

ここまでが跳ねるビートの大人っぽいアレンジだったのが、むしろ新曲で若返ったかのようなシンプルなロックビートの楽曲である。

シンプルでストレートに耳に残る良いメロディである。そして歌詞は、かつての自分自身を振り返りつつ、海が広がる爽やかな光景が目に浮かぶ内容となっている。

歳を重ねたことで、むしろストレートで若々しい楽曲が出てくることが大変興味深い。セルフカバーの楽曲の方が、老成しているかのような感覚がある。

渚にて

『SPEAK LOW』(1979)に収録された、唯一日本語タイトルのナンバーである。アルバムの中でも渋い楽曲が選ばれた印象である。

オリジナルはまさに海辺が似合う、ビーチボーイズなどを連想するようなビートであるが、セルフカバーはピアノの弾き語りをベースにしたジャズテイストの強いもの。

メロディ自体の持つ洗練された雰囲気が、今の南氏の歌唱でより説得力を増しているように思われる。今回選ばれたセルフカバー曲は、どれも今の歌唱がしっくりくるものが多い。

昔の楽曲ほど、背伸びをしていた部分も大きかったのか。それはそれの良さがありつつ、熟練の演奏と歌唱によるセルフカバーバージョンはどれも良い。

FAMILY TREE

「砂丘」と同様、松井五郎氏との共作による作詞の新曲である。”家系図”などを意味する英語がタイトルにつけられている。

パリ在住の娘さんについて歌った内容になっているのだと言う。

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やはり過去のセルフカバーに比べると、非常にストレートな楽曲である。ビートもシンプルな8ビートが用いられているなど、そぎ落とされた印象だ。

この曲はとにかくグッとくるメロディライン、コード進行が印象的である。Bメロ部分(「ウイスキーの~」)のコード進行や、サビ(「どんな星も今~」)など、思わずうなってしまった。

南氏は改めてメロディの職人であることが窺える楽曲である。良いメロディを求めて旅した中で見つけた、宝石のような曲だと思う。

愛した数だけ

アルバムタイトル曲で、本作に収録された新曲の中では、唯一南氏自身による作詞である。他の新曲に比べると、渋い大人の雰囲気が漂う楽曲だ。

メロディやリズムは、2018年の『Dear My Generation』収録の「泣かない」と重なるところがあり、ワルツのリズムで、歌謡曲的でもあり、ヨーロピアンな雰囲気も漂っている。

「泣かない」がラテン風味の情熱的な雰囲気ならば、「愛した数だけ」はより複雑なコード使いで味わい深いメロディラインに仕上がっている。

歌詞は南氏自身が歩んできた道のりに重なる。「綺麗な蝶を追いかけてここまで来たけれど」の辺りは、自身の音楽を貫いてきた現在地が歌われているように思える。

HOME TOWN

セルフカバーで唯一『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)から2曲が選ばれており、これもやや渋い選曲であろう。

良い意味での緊張感がある『SEVENTH AVENUE SOUTH』の中にあって、少しほっこりするような曲調である。

このセルフカバーもそれほど印象は変わらず、本作の中でも近い位置づけの楽曲と言えるように思えた。

アレンジを変えても曲の雰囲気が近しいと言うことは、意外とメロディの主張は強い曲なのかもしれない。

ピカソに対して使うことの多い「青の時代」と言う言葉が使われるのが、絵画を好む南氏らしいなと印象的に思った記憶がある。

銀のペンダント

ここから2曲続けて、提供を行った楽曲のセルフカバーである。1曲目は内田有紀氏に提供した「銀のペンダント」である。

いつに作ったのか分からないが、リリースは1996年であり、90年代に作られたのならば南氏としては貴重な楽曲かもしれない。(90年代半ば頃から新譜のリリース頻度を落としている)

オリジナルはいかにもシティポップな雰囲気であるが、セルフカバーでは南氏の弾き語りを軸にしたアレンジである。それゆえのメロディの美しさが際立つアレンジである。

またライブで培った松本氏のピアノとの絡み合いも素晴らしい。これは「お見事」というメロディラインであり、南氏の真骨頂とも言える極上のポップスである。

つぶやきの音符

1984年の薬師丸ひろ子氏の1stアルバムに収録された楽曲で、南氏の作曲においても黄金期と言って良い時代に作られた楽曲だ。

しかしあまりこの時代の南氏オリジナル曲にはないタイプの曲である。そうしたオーダーがあったのか、全体に悲しげなメロディである。

当時の南氏はこうした悲しげな曲は自分には合わないと思ったのだろうか。しかし今の歌唱で聴くと、哀愁が漂い、非常に説得力があるものである。

むしろ今の南氏の楽曲として、しっくりくるようにも思えた。この曲を本作に配置したことは、企画の意味でも手柄だったと言えるのではないか。

早くあいつに逢いたい

初期の名盤『SOUTH OF THE BORDER』(1978)に収録されている、これもやや隠れた名曲である。

オリジナルではゆったりしたサンバのリズムとなっており、アンビエントな雰囲気のイントロのピアノが印象的なアレンジだった。

本作のセルフカバーでは、ガロの「学生街の喫茶店」などで用いられるリズムパターンを応用した印象である。

やはりこの曲も本作の若々しい雰囲気に合わせており、ギターサウンドを取り入れたロック要素が感じられる。

また演奏の見せ所を作っており、アルバムの中での立ち位置も明確にしている。松本氏が編曲をアルバムトータルで行っている良さが出ているように思えた。

SPACE AGEのスノードーム

売野雅勇氏が作詞を担当した新曲の1つ。ほっこりと可愛らしい雰囲気の楽曲である。

アルバムジャケットにも描かれているスノードームは、どこか子ども時代を思い起こさせる懐かしいアイテムである。

楽しさや賑やかさと言うか、子ども心を感じさせるもので、「火星のサーカス団」と言う南氏による”みんなのうた”の曲調と重なる部分があるように思えた。

(ちょうど宇宙が関わるタイトルであるところも「火星のサーカス団」に近いものを感じる)

「愛した数だけ」のような年を重ねた大人のポップスと対になるような楽曲であり、遊び心を忘れない大人というのがキーワードにも思えてくる。

MISS YOU

本作を締めくくるのは、ジャジーな雰囲気のピアノ弾き語りバラード曲である。歌詞は亡き友に向けたものであり、今やライブや制作でも親交のある杉山清貴氏がコーラスで参加している。

コーラスと言っているが、ツインボーカルとも言える存在感とハーモニーがとても美しい。それでいて、目の前で歌っているかのような、臨場感と言うか生っぽさも感じさせる。

決して仰々しくはないが、味わい深いバラード曲であり、男同士の友情をテーマにした歌詞が実にぴったりである。

思い出すのは2011年『SMILE & YES』収録の「これからも I LOVE YOU」である。あれから10数年、今度は男の友情の曲で締めくくるのが、どこか南氏らしいようにも思える。

全体の感想 – ベテランならではの”新作”と熟練の技が生み出す”新鮮さ”

最後に南佳孝氏の新作『愛した数だけ』の全体的な感想を述べて締めくくりたい。

まずもって、デビューから50年を超える大ベテランが新作を出す、というのはなかなかハードルが高いのではないか、というところから述べておきたい。

しかも若い頃に、自身のヒット曲もあり、楽曲提供などで十分に活躍していたソングライターならなおさらである。

もちろん新たな曲は生まれてくるだろうが、過去の自分自身との色々な意味での戦いがある。それは過去の自分のクオリティとの戦いでもあり、それまでのイメージとの戦いでもあろう。

それゆえ、過去の名曲を歳を重ねたファンと楽しむ、あるいは新曲として聴く若い人に伝えるのでも十分すぎるところではある。

そうした過去の楽曲を聴きたいファンのニーズもあり、ベテランの新作は本当に待望なのか、という記事を過去に書いたことがある。

ベテランバンドの新作は本当に”待望”なのか? – ベテランが新作を作る難しさとファンの求めるもの

それでも新作を作り続けるには、個々のソングライターの思いが重要になる。それに加え、より良い形でリリースする工夫も必要になって来るだろう。

今回は新曲が5曲、セルフカバー7曲のアルバムになっており、新作としてのバランスが良いように思えた。

2018年の『Dear My Generation』のような全編新曲のアルバムではなかったが、そうした作品を作るにはかなりのエネルギーがいるし、納得のクオリティでなければリリースはしないだろう。

当然ながらキャリアを重ねるほど、及第点に達する楽曲は減っていくことになる。5曲と言うのは、真摯に楽曲に向き合った結果、完成まで漕ぎつけて及第点に至った厳選されたものということだ。

それ以外を過去の楽曲のリアレンジで固めると言うのは、大ベテランの新作としてはほど良い形なのではないか、と思った。

そしてベテランが新作を出すと言うことは、過去の自身の歩みを尊重しつつも、新しいものをそれでも取り入れていく姿勢が必要になるのだろう。

その意味でも、過去の大人っぽい洗練したポップスをベースにしながらも、むしろ若々しさを感じさせるアレンジと、ストレートなメロディが光る新曲は、新たなものを感じさせる。

熟練の技で生み出される、逆に若々しさを感じさせる楽曲が、今の南氏らしくてとても素朴に良い作品だと思った。

南氏にとって、新曲を作り続ける意味は、やはり新たなメロディを探し続けたい、という思いなのだろう。本作でも、これまでにありそうでなかったメロデイがたくさん詰まっている。

南氏はよく”マイペース”にやってきたと語っている。それこそが今日まで活動が続いたのだろうし、常に純粋な良いメロディを生み出し続けてきた秘訣なのだろうと思った。

【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第6回:南佳孝 おすすめのベストアルバム、おすすめのオリジナルアルバムは?

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