ベテランバンドの新作は本当に”待望”なのか? – ベテランが新作を作る難しさとファンの求めるもの

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怒髪天
画像出典:Amazon

ベテランバンドと呼ばれる、キャリアの長いバンドが多くなってきた。そして、かつてよりベテランバンドの活動期間が長くなり、当たり前のように新作をリリースすることが多くなった。

しかも継続的に新作をリリースし続けるベテランバンドも多くなり、何年もリリースのなかったバンドが、”待望の”新作リリースという形とは異なる状況も生まれている。

しかし、ベテランバンドがリリースする新作は、本当に”待望”なのか?ということを思った。と言うのも、新作とは活動が長くなればなるほど、難しくなるものだと思うからだ。

今回の記事では、筆者が感じているベテランバンドの新作の難しさ、そしてファン目線として、どんな新作の形が理想なのか、について考察を試みた。

いくつか筆者が聴いているベテランバンドの新作のあり方の実例を紹介し、参考にしたいと思う。

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ベテランバンドの新作の難しさとは?

そもそもベテランバンドが新作をリリースする、ということはハードルの高いことだと筆者は思う。その理由は、簡単にいくつも思いつくことができる。

まず作品数が増えるほどに、悲しいかな人間の才能はどうしても枯渇していくと言う問題がある。

長い期間活動できる見込みはデビュー当時にはない訳なので、若い時期に当然自身の才能の全力を注ぎこんで作ることになる。

その結果、多くのキラリと光る表現は、もう若い時期にある程度やり尽くしてしまうことになる。

もちろんベテランは、若い時期とは違う味わい深さを出せる強みはある。しかしそれは常に若い時期との比較が伴ってしまう。

そしてベテランは既にバンドとしての音楽性の定型が完成している。その定型をいかに守り、いかに壊していくのか、というバランスの難しさもある。

昔から応援してくれるファンのことを思えば、大幅なシフトチェンジは難しいし、それまで信じてきた音楽性を根底から変えると言うことはあり得ないだろう。

しかし一方で、常に同じような作品ばかりでは、ミュージシャンとしてモチベーションを保てない上に、続けていくためにこそ変化が必要である。

ファンが求めるバンド像のようなものに沿えば、それなりにファンの満足度はあるが、作品としての面白さは欠けるものになってしまう。

逆に実験的な作品を続けてしまえば、既存のファンが離れる恐れがあり、そうまでしてベテランとして冒険するのか、という考えも出てくるだろう。

このように考えると、若い時期とは異なり、守るものがあるだけに、自由な感覚で制作することが相対的に難しくなる、ということである。

上記は割と連続してリリースを行う場合の難しさであるが、何年もリリースがないミュージシャンが久しぶりの新譜を出す場合には、また別の難しさがつきまとう。

どうしてもそのミュージシャンとしての感覚は、続けていなければ忘れてしまうものだ。

久しぶりのリリースは、やはりファンが思い描いていたものと乖離が起きやすい。それもリアルなミュージシャンの姿だ、と言えばその通りだが、ファンの期待とは違うものになることもあろう。

こうして見てみると、過去の自分の作品があるからこそ、新たな作品を生み出す難しさが増してしまう、ということだ。

自身の過去といかに向き合うか、と言うテーマは、どうしてもベテランバンドには常に突きつけられることになるのだろう。

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ベテランバンド・ミュージシャンの新作リリースの実例から

ここまで述べたように、ベテランバンドは過去の自身の作品とどのように折り合いをつけるのか、ということが生じてくる。

その中で新作をどのようにリリースしているのか、筆者が聴いているミュージシャン、バンドの実例をいくつか紹介したい。

浜田省吾 – 新作リリースは10年間隔?過去のリメイクを織り交ぜた振り返り活動

まずはベテランの活動としては、理想的に思えるのが浜田省吾氏である。

浜田氏と言えば、コンサート活動を中心に人気を博し、1980年代に『DOWN BY THE MAINSTREET』『J.BOY』などのアルバムがヒットしている。

また1992年にはリメイクされた「悲しみは雪のように」が自身初のオリコンチャート1位を獲得するなど、多くの人気を集めたミュージシャンである。

そんな浜田氏は新作リリース活動を、かなり緩やかなペースで行っている。現時点での最新アルバムは、2015年にリリースされた『Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター』である。

もはやリリースから8年が経とうとしているが、その前のアルバムは2005年の『My First Love』である。リリースのスパンとしては、何と10年と言う長い年月が経っている。

しかし浜田氏はその間もリリースを行っていない訳ではない。過去の作品をリメイク、リミックスしたベストアルバム、ファンクラブライブと連動したリメイクシングルなどをリリースしている。

また2018年以降は、ファンクラブ限定ながら時代を区切って楽曲を振り返る企画ライブツアーを行っており、ファンとともに浜田氏の長い活動を振り返り、楽曲の魅力を再確認できた。

浜田氏としても、そろそろ過去の作品の総括を行いたいと言う思いもあったのだろう。そしてファンも、やはり過去の楽曲が披露される機会を望んでおり、ニーズにも合っていた。

こうしたファンとの交流とも言える企画を進めながら、それと関連した作品リリースもあって、十分活動として成り立つ状況になっているのだろう。

だからこそ、新作リリースを急ぐ必要もないのかもしれないし、じっくりと新作を練る時間を取ることもできるのだろう。

やはりベテランミュージシャンが満足のいく作品を作り上げるには、時間とそれに伴うお金が必要になる。

焼き直しにはならない新規性、その一方でファンが求める定型も守りつつ、という絶妙なバランスが保てる作品になるまで、曲を厳選し、作っていく過程になるのだろう。

浜田氏はリリースペースとしてはかなり緩やかになったが、その間もファンを楽しませてくれる企画が満載であるし、それに浜田氏自身も注力している。

そんな活動の中で、タイミングが合えば新作をリリースしていく、くらいの感覚なのかもしれない。非常に自然体に感じられ、ファンとしても違和感なく楽しめている感覚がある。

【浜田省吾】今、浜省がとてもアツい!2015年以降の活動と現在のまとめ

角松敏生 – リメイクと並行して過去にとらわれない実験的な新作リリース

次に紹介するのは、1980年代にAORと呼ばれるジャンルの音楽の中心的人物として再評価されている角松敏生氏である。

角松氏は80年代に洋楽のセンスを感じさせる音楽性で、早くからスクラッチを導入するなど先進的なダンスミュージックの要素を取り入れたことでも知られる。

また彼の名を知らしめたのは、自身名義の活動よりもプロデュース活動であった。プロデュースを行った中山美穂のアルバム『CATCH THE NITE』はオリコンチャート1位を獲得。

自身の活動を”凍結”している間には、覆面バンドAGHARTAで長万部太郎と言う名前で作った、「ILE AIYE〜WAになっておどろう〜」が一世を風靡した。

角松氏も2010年頃までは新作をコンスタントにリリースしていたが、2012年に過去のリメイクを行ったアルバム『REBIRTH 1 〜re-make best〜』から、過去の振り返りを行うようになった。

それに伴い、純粋な新作リリースのペースは落ちた。しかしその状況も、運営面での苦しさが時折語られるように、本意であるとも言えないようである。

2010年代以降にリリースされた新作は、これまでのAORやポップスとはやや異なり、実験的な作品が多くなっているのが角松氏の特徴だ。

たとえば2014年の『THE MOMENT』は、”プログレッシブポップ”と銘打って、長尺の楽曲で構成される野心的な作品となった。

また演劇との融合と言う彼の新たなライフワークが活動の中心となっている。

2019年の『東京少年少女』、2022年の『Inherit The Life』は独自の音楽エンターテインメントMILAD (MusIc Live, Act & Dance)のサウンドトラックと言う形である。

彼の場合は、過去の自分自身にはとらわれない形で、常に最新の自身の作品を届けると言うスタンスだ。それは過去の自身の作風と大きく違っても良い、と考えているようである。

また彼の再評価は今まさに起きているところだが、彼自身が過去の自分の表現力の至らなさからリメイクした作品を頻繁にリリースしていたのは、それより少し前のことである。

今のブームに便乗は全くせず、自身のペースを貫く姿勢は、彼らしいと言えるだろう。

とは言え、新作に関しては、演劇との融合と言う大きな変化が、すんなりと受け入れられないファンもいるのではないか、と想像する。

やはりファンの中には、角松敏生と言えば、AORテイストのポップスという1つの定型があり、それはもはや揺るがないもののように思える。

どこか彼の中では、それを角松敏生として受け入れきれないものがあるのだろうか。過去のリメイクも、どちらかと言えば、ファンと振り返る意味合いというより、彼のストイックさの表れである。

角松氏の場合は、もっと新しい表現・高い表現力を、と言う方向であり、ファンのスピードよりも先をどんどん進んでいくベテランミュージシャンの例である。

【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第9回:角松敏生 各年代のおすすめ名盤を1枚ずつ選出!

怒髪天 – ずっと”現役”バンドから過去作品の振り返りも

浜田省吾氏、角松敏生氏よりも、もう少し若い世代の例として怒髪天を最後に取り上げたい。

怒髪天は”リズム&演歌”という演歌的な世界観をロックのサウンドに乗せて歌う、ユニークなバンドである。

2000年代後半に入り、40代になってブレイクしたバンドとして注目され始め、2014年に結成30年で初の日本武道館公演を行ったことも話題となった。

これまで紹介したミュージシャンと異なり、若い時期にヒットがなかったが、ベテランの域に達してからブレイクした点が異なっている。

怒髪天の場合は、2000年代以降ずっとコンスタントに新作をリリースしており、それは今も継続中である。2023年にはミニアルバム『more-AA-janaica』をリリースした。

ベテランと言われる世代になってブレイクしたバンドは、彼ら自身もいわゆる”ベテラン”と言う自覚はなく、ずっと活動を継続してきたという感覚があるだけだろう。

つまり比較するような”過去の栄光”があるのでもなく、常にその時の活動を続けてきた結果として今があるだけである。

そんな怒髪天も、過去を振り返るフェーズに入っていることは、自覚しているようでもある。2021年に廃盤となっていた作品を中心にリメイクアルバムをリリースしたのである。

リズム&ビ-トニク’21 & ヤングデイズソング』『痛快!ビッグハート維新’21』と言う2枚のアルバムである。

コロナ騒動のためにライブ活動ができない状況も手伝い、過去の積み残しとも言える作業ができたといったところだろうか。

しかし2作のリリースにより、ライブにおいても過去の楽曲が披露される機会も増えるようになったようだ。

ずっと最前線の”ベテラン”バンドであっても、やはり過去の楽曲は膨大な数になってくる。進み続けるだけでなく、ファンとしては過去の楽曲の振り返りも望んでいることであろう。

ますます活動期間の長くなるバンドは出てくるだろうが、ある時点で過去の振り返りのフェーズがやって来ることは、ベテランの宿命なのかもしれない。

【怒髪天】『リズム&ビ-トニク’21 & ヤングデイズソング』『痛快!ビッグハート維新’21』全曲レビュー

まとめ – 過去作を振り返りながらの緩やかな新作リリースが理想?

今回はベテランバンド・ミュージシャンが新作リリースを続けることの難しさについて考察した。また3組のバンド・ミュージシャンの新作リリースを中心とした活動を紹介した。

3組に共通するのは、やはり過去作品が膨大にあるため、どこかのタイミングで過去の振り返りを行っている、と言う点である。

ファンにとっては、やはり過去作品のリメイクなどを通じて、過去の楽曲の光が当てられることは、概ね嬉しい出来事として受け入れられるだろう。

ただし、ミュージシャンにとっては、過去の振り返りに対して、どんなモチベーションで行うか、に違いが表れるように思えた。

浜田省吾氏のように、ファンとの一種のコミュニケーションのように捉えることもあるし、角松敏生氏のように過去の自分の至らなさへの反省、という形もあり得る。

そして過去の振り返りをどのように行うか、と言うことは、翻って新作をどんな形でリリースするか、にも直結する問題である。

過去の振り返りというラインと、新作のリリースと言うラインを明確に分けるのか、同じ1つのラインに乗せるのか、ということである。

たとえば怒髪天は過去の振り返りは、”横道に入る”ような感覚で、あくまで新作リリースをメインとしている。一方で浜田氏は過去の振り返りは1つのラインとして確立し、新作リリースはかなり控えめだ。

角松氏については、自らの表現の探究という軸の中で、過去の振り返りも新作リリースも同一線上に置かれているような印象を持った。

もちろん様々な形はあろうが、筆者としては過去の振り返りと新作リリースは、別ラインとして走らせてもらう方が、ベテランバンドの活動としては嬉しいように思えた。

ファンにとって、そのバンドの過去が好きであることも、今のバンドを追いかけることも、どちらの自分も認めてもらえるような感覚になるからだ。

ファンとしても、今のバンドも好きだけど、過去のあの時代が好きだ、というような葛藤とも言える気持ちは大なり小なり持っている。

ファン目線では、そのどちらの気持ちも肯定して満たしてくれる、というのが理想的に思える。

どうしてもベテランになるほど新作リリースのハードルが上がることを考えると、緩やかな新作リリース+過去の振り返りプロジェクト、という組み合わせが良い形なのかもしれない。

<紹介しきれなかった過去のリメイクアルバム>

・浜田省吾 – The Best of Shogo Hamada vol.3 The Last Weekend(2010)

・角松敏生 – EARPLAY 〜REBIRTH 2〜(2020)

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