イギリスを代表するロックバンドの1つ、The Cureが実に16年ぶりとなる14枚目となるオリジナルアルバム『Songs of a Lost World』をリリースした。
まさか新作がリリースされるとは思っていなかったが、驚いたのはその内容である。”暗黒”とも評されるダークで耽美的なThe Cureが戻ってきたのだ。
筆者はようやくこの新作を手にして何度も聴いている。この記事では、アルバム『Songs of a Lost World』のDeluxe Editionをようやく入手したところから雑感まで書いてみた。
『Songs of a Lost World』の概要とDeluxe Editionの入手経路について
まずはアルバム『Songs of a Lost World』の概要である。
- 発売日:2024年11月1日
- 発売形態:1LP、2LP(ハーフ・スピード・マスター)、ダブル・カセット、CD、CD(インストゥルメンタル・ヴァージョンとドルビー・アトモス・ミックスを収録したブルーレイ付きデラックス版)、デジタル・フォーマット
<収録曲>
- Alone
- And Nothing Is Forever
- A Fragile Thing
- Warsong
- Drone:Nodrone
- I Can Never Say Goodbye
- All I Ever Am
- Endsong
※全作詞・作曲・編曲:Robert Smith
Robert Smithによるアルバム全曲解説はこちら
<参加メンバー>
- Robert Smith:(ヴォーカル、ギター、6弦ベース、キーボード)
- Simon Gallup:(ベース)
- Jason Cooper:(ドラム、パーカッション)
- Roger O’Donnell:(キーボード)
- Reeves Gabrels:(ギター)
本作は、The Cureの16年ぶりの新作(2008年の『4:13 Dream』以来)である。
リードトラックとして「Alone」が公開され、ダークなThe Cureの復活を予感させつつ、アルバムへの期待も高まるものだった。
そしてアルバム収録曲は“Shows Of A Lost World”ツアーで先んじて披露されていた。
アルバムジャケットはヤネス・ピルナットによる1975年の彫刻作品「Bagatelle」が起用されている。
本作は複数の発売形態があり、CDも2形態リリースされている。
通常盤と、Deluxe Editionとしてアルバム音源とインストゥルメンタル・バージョンの2CDに、ハイレゾ・ステレオ音源とDolby Atmosミックス音源を収録したBlu-Rayの3枚組の2つだ。
少し筆者の話として、ここからアルバムのDeluxe Edition入手までの経緯について書いておきたい。
The Cureの新作リリースにあたっては、アルバム全体がどんな内容になっているのか、配信で聴けるようになってから盤の購入を検討しようと思っていた。
「Alone」は素晴らしい楽曲だったが、全体的な印象を知っておきたかった。11月1日にデジタルのリリースで確認すると、往年のダークなThe Cureがまさに復活しているという印象だった。
そしてこの内容ならば、ぜひDeluxe Editionで入手したいと思った。詳しくは後に書くが、暗黒の雰囲気があるThe Cureはボーカルのない演奏だけのバージョンも魅力的に思われたからである。
11月1日のリリース直後、軒並み日本のオンラインショップでは品切れ状態になっていた。人気作の場合、予約で一時的に品切れになることもあるので、そういったことだろうと思っていた。
筆者は特典がない場合は、楽天ブックスで注文するので、Deluxe Editionが再び購入可能の表示が出てから、注文することにした。
しかしDeluxe Editionは待てど暮らせど発送とならなかった。他のショップサイトを覗いても、品切れになっていたり、新作でありながら異例の入手困難状態が続いていたのである。
しかも発売日の表示がたびたび延期になり、とうとう12月の中旬まで持ち越されることとなった。具体的な日付(12月17日発売)が出たので、いよいよ入手できるかと思ったが、音沙汰がなかった。
とうとうしびれを切らして、問い合わせを試みると、最終的な回答は「入荷の見込みがないのでキャンセルとする」というものだった。
仕方がないので、現状で入手できそうなところはないかと思っていると、海外の販売サイトでは売られているようだった。しかし送料が高いうえ、海外での在庫も品薄の様子である。
国内ではHMVだけ、日数はかかりそうだが取り寄せて購入できそうな感じであった。クリスマス頃に注文をしたところ、発送予定よりも早く年始にはあっけなく手元に届くこととなった。
と言う訳で、Deluxe Editionの入手まで時間がかかってしまったが、どうやら国内でDeluxe Editionを購入するにはHMVだけだったようである。
※しかし2025年1月9日現在、HMVのオンラインショップでも注文不可となっている。筆者はタイミング良く入手できたが、いまだ国内での供給はかなり不安定な様子である。
『Songs of a Lost World』の雑感
ようやくCDで聴くことができた『Songs of a Lost World』の雑感を書き留めておきたい。
冒頭にも書いた通り、”暗黒”と称される時代のThe Cureを思わせる作風になっているのが本作である。
中でも『Bloodflowers』(2000)に最も雰囲気や曲調は似ているが、それよりダークでヘヴィなサウンドを聴くことができる作品となっているのが第一印象だ。
こちらのRobert Smithによる全曲解説によれば、歌詞は抽象的・哲学的なものもあれば、具体的なエピソードや体験がもとになっているものもあるそうだ。
全体的には暗いトーンで統一されており、テンポも似ているので、やや一本調子であるという評価もありそうだ。
本作はRobert Smithが全面的にアレンジやレコーディング・ミックスまで関わったということで、彼の色合いが強い作品で、そうした影響もあるのかもしれない。
ただ個人的には、The Cureと言えばこういう作品、というところにストライクの直球を投げ込まれた感じのアルバムで気に入っている。
本作は”暗黒”と称されるThe Cureの音楽的な特徴を持っている。
The Cureの暗黒三部作と言われる『Pornography』(1982)、『Disintegration』(1989)、『Bloodflowers』(2000)は、それぞれ違いはありつつ、共通する音楽性がある。
それはまず無機質とも言える繰り返しの中に、”揺れ”をもたらしながら、情感を込めていくという楽曲展開がある。
こうした楽曲の展開は、ポストパンクでデビューした頃から一貫したもののように思える。
また、彼らの楽曲の中でとりわけ好きな特徴が「歌に入るまでが長い」というものがあり、筆者はそんな楽曲を集めた記事を書くほどである。
歌がすぐに入って来ない、ということは、ボーカルが唯一の主役ではないと言うことだ。もちろんボーカルの要素は重要ながらも、バンドの演奏の中に歌が入り込んでいく感じなのだ。
そのため、本作はインストゥルメンタルで聴くことにも意味があり、また違った魅力を感じられる。だからこそDeluxe Editionにこだわって入手したかったのである。
まさに本作も「歌に入るまでが長い」楽曲のオンパレードとなった。
たとえば「Alone」「Endsong」などは、メロディを歌うと言うよりも、楽器のような役割のボーカルとなっている。
とりわけ「Endsong」の絶望感と恍惚とした感じが入り混じったような壮大なアレンジは、本作の聴きどころの1つと言って良いだろう。
淡々と刻むリズム隊に、時にリズムを、時に彩りを加えるギター、美しさを表現するキーボードに加え、ボーカルは揺れやエモーショナルさを表現する楽器の1つのようだ。
一方で、よく聴くと「A Fragile Thing」「All I Ever Am」辺りは割とメロディがしっかりとある、歌モノという感じの楽曲になっている。
こうした楽曲がアルバムの空気感を変える役割を担っていると言えるだろう。
従来の作品にあまりなかった要素としては、ヘヴィなサウンドである。「Warsong」「Drone:Nodrone」はかなりベースが低いところで唸るように鳴っているのが印象的だ。
ダークで美しい作風はこれまでも多数あったが、ここまでヘヴィなサウンドは新たな展開であるし、より現代的なサウンドに仕上がっているとみることもできる。
これまでThe Cureの持っていたダークな雰囲気と、Robert Smithの内面が反映されたヘヴィな作品である、というのが筆者の感想である。
個人的にはThe Cureの真骨頂を見たように思われ、まさかの16年ぶりの新作であったが、期待を大幅に上回る素晴らしい作品だと思った。
そして8曲と決して多くない曲数ながら、その世界は深遠であるように思われる。聴けば聴くほどに発見がありそうな、そして新たな味わいが生まれてきそうなアルバムである。
※【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第16回:The Cure 入門作から個性的な暗黒作品まで
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