今回は、活動歴40年を超えるオルタナティブロックバンドThe Cureを取り上げてみたい。FUJI ROCKでの来日公演も何度かあり、国内でも人気のあるバンドである。
The Cureの楽曲の中には、なかなか歌が始まらない曲が数多くある。インスト曲かと思った頃に、ようやく歌が始まるというパターンがよくある。
ややひねったテーマだが、この”歌に入るまでが長い”曲に良い曲が多数あるため選んでみた。どんな曲が出てくるのか楽しみにして、お読みいただきたい。
The Cureの音楽性の変化
最初にThe Cureの音楽性について簡単に紹介したい。
The Cureはポストパンクから始まり、ゴシックやオルタナティブなど変遷を遂げたバンドである。ロバート・スミスの個性的なボーカルと、陽から陰まで幅広く揺れ動く楽曲が特徴だ。
イングランドのクローリー出身で、1979年にデビューしている。1stアルバム『Three Imaginary Boys』はニューウェイブ的なサウンドで、シンプルなギターロックだった。
2nd『Seventeen Seconds』から、シンプルなサウンドながら、徐々に陰鬱とした表現となっていく。3rd『Faith』もその路線を引き継ぎつつ、さらに暗いトーンになっている。
後に”暗黒三部作”と呼ばれる1作目、4thアルバム『Pornography』が1982年にリリースされた。サイケデリックで不気味なサウンドの作品になっており、やや異色の作品になっている。
この時点でメンバー間の仲が悪くなっており、ロバート・スミスはバンドの活動休止を決意するほどだった。
しかし新たなメンバーと1984年に5thアルバム『Top』をリリース。同年、初めての来日公演も行っている。
さらにメンバーチェンジを経て、1985年にリリースされた6thアルバム『The Head On The Door』は楽曲に明るさが戻った力作だった。
この路線を引き継いだ7th『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』は世界的にヒットする。陽気な楽曲からダークな楽曲まで、1枚の作品の中に凝縮した作品となった。
続く8th『Disintegration』は初期の陰鬱とした作風に戻ったような作品であり、前作とは大きくイメージの異なるものだった。しかし予想に反して作品はヒットし、バンドの人気は不動のものとなる。
”暗黒三部作”の第2作が、この『Disintegration』と呼ばれている。
ロバートは解散を匂わせる発言もしていたが、活動は継続。その後、1992年には9thアルバム『Wish』も大きなヒットとなり、音楽的にはこれまでの総決算のような内容だった。
しかしメンバーの脱退などでバンドの勢いは止まり、1996年の10th『Wild Mood Swings』をリリースするも、商業的には失敗する。
2000年の11th『Bloodflowers』で公式に解散を宣言するも、アルバムの完成度が高く、解散は撤回される。”暗黒三部作”の第3作が『Bloodflowers』であり、再び暗いThe Cureが戻ってきた。
ロバートはソロ活動を行おうとしていたが、プロデューサーからの説得により、2004年に11th『The Cure』をリリース。メンバーチェンジもありつつ、2008年には12th『4:13 Dream』をリリース。
The Cureは度重なるメンバーチェンジがあり、それにより音楽性も変化してきた。非常に大括りに言えば、陰と陽の間を行ったり来たり、と言うのがThe Cureの特徴である。
初期を中心に陰鬱とし、耽美的な世界観の楽曲がある半面、ダンサブルで陽気な楽曲が多くなる時期もある。こう言った楽曲の幅により、The Cureを1つのジャンルで語ることが難しい。
今回の記事では、そんな多様な楽曲の中から、”歌に入るまでが長い楽曲””を選んでみた。
”歌に入るまでが長いThe Cureの曲”を10曲紹介
なぜ今回”歌に入るまでが長いThe Cureの曲”を選んだのか、その理由を少しだけ書いておこう。
The Cureの魅力として、陰鬱としつつ耽美的な世界観がある。その世界観を表現するために、淡々とリフが続く楽曲が多くなっている印象がある。
同じリフが続くことで、恍惚とした独特な快感が生まれる。その効果を狙ったものと思われ、結果的に長い繰り返しパートの後に、ボーカルが入ってくる楽曲が多くなっている。
歌メロがメインであるポップスとは異なり、ボーカルも楽曲の中では中心にないこともあるのがロックである。
The Cureではそんな演奏がメインのボーカル曲に魅力があり、それを選ぶ基準として”歌に入るまでが長い楽曲”としてみたのだった。
今回は楽曲の時間と歌が始まるまでの時間を示した。その上で、歌に入るまでの時間が、楽曲全体の何%を占めているのか、ということも示している。
A Forest
- 収録アルバム:2nd『Seventeen Seconds』(1980)
- 楽曲の時間:5:55
- 歌が始まる時間:1:48~
- 歌が始まるまでの時間の割合:30.4%
The Cureの初期の楽曲であり、まだパンクらしさも残っている。以降の作品に比べれば、特別に歌まで長い印象もあまりないかもしれない。
しかしシンプルなパンクと言うには、イントロがかなり長い。ボーカルをメインに据えないような楽曲となっており、既にThe Cureらしさを感じ取ることができる。
アレンジとしては非常に簡素だが、ひたすら繰り返される無機質なビートが独特のトリップ感を生んでいる。ロバート・スミスのボーカルも、スペースロックにも通じるような浮遊感がある。
All Cats Are Grey
- 収録アルバム:3rd『Faith』(1981)
- 楽曲の時間:5:28
- 歌が始まる時間:2:19
- 歌が始まるまでの時間の割合:42.4%
3rdアルバム『Faith』ではパンク要素がなくなり、陰鬱とした作風がさらに進んだ印象である。アレンジとしては、前作同様に簡素なものとなっている。
ついにこの曲では、歌に入るまでの時間だけで全体の4割以上となった。そもそも歌の割合が非常に少ない曲であり、ボーカルもささやくように歌っており、歌の印象は薄い。
この曲の心地よさは、アンビエントなどにも通じるものがあるように思う。淡々と同じコード進行、穏やかなキーボードの音に包まれることで、独特の快感が生まれる。
Pornography
- 収録アルバム:4th『Pornography』(1982)
- 楽曲の時間:6:27
- 歌が始まる時間:3:15
- 歌が始まるまでの時間の割合:50.4%
前作とは作風が変わった4th『Pornography』のタイトル曲。アルバムを通じて、攻撃性が前面に出たことで、ポストパンク的でありつつサイケデリックな印象さえ与える作品だ。
その中でもこの曲は、前作までの陰鬱としたムードを受け継ぎつつ、より不気味でノイジーなサウンドに仕上がっている。背後では何かの騒めきのような声が収録されており、不気味さが際立つ。
ボーカルは半分以上出てくることがなく、3分を過ぎておもむろに歌い始める。混沌としたサウンドの中、ボーカルも焦点が定まらず、地獄に堕ちていくような絶望感に襲われる。
Push
- 収録アルバム:6th『The Head on the Door』(1985)
- 楽曲の時間:4:31
- 歌が始まる時間:2:24
- 歌が始まるまでの時間の割合:53.1%
暗黒期から抜け出した充実作の6th『The Head on the Door』は、ヘビーな曲もありつつ光明を見出しつつある曲調も増えてきた。
そんな中でも、ライブでも定番の「Push」はインスト曲かと思うほど、歌までが長い。曲の半分以上はボーカルが入ってこないが、ラストに挿入されるボーカルの高揚感がたまらない。
筆者は暗いThe Cureが好きなのだが、一方でこういった爽やかな楽曲もたまらなく好きである。
Sinking
- 収録アルバム:6th『The Head on the Door』(1985)
- 楽曲の時間:4:57
- 歌が始まる時間:1:57
- 歌が始まるまでの時間の割合:39.4%
同じく『The Head on the Door』からであるが、アプローチとしては初期の陰鬱としたタイプの楽曲である。同じリフが延々と繰り返される楽曲であり、アンビエント的な快感がある。
初期に比べるとサウンド面では凝ったものとなっており、キーボードも効果的に挿入されている。またボーカルもメロディラインがよりはっきりとして、歌メロも印象的だ。
初期のような絶望的な雰囲気ではなく、美しくも浮遊感のあるサウンドとなっている。
The Kiss
- 収録アルバム:7th『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』(1987)
- 楽曲の時間:6:17
- 歌が始まる時間:3:52
- 歌が始まるまでの時間の割合:61.5%
音楽的に充実度を増した7th『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』の冒頭を飾るこの曲は、どちらかと言えば攻撃性の高い楽曲。ポストパンクのカラーが強く、イントロのギターが心地よい。
同じリフが繰り返され、ワウギターがノイジーに鳴り続けており、ポストロックなどに影響を与えたのではないかと思われる。ラストに登場するロバート・スミスのボーカルも叫びのようである。
ほとんどボーカルがなく、インスト曲と言っても良いだろう。
One More Time
- 収録アルバム:7th『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』(1987)
- 楽曲の時間:4:29
- 歌が始まる時間:2:11
- 歌が始まるまでの時間の割合:48.7%
同じく7th『Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me』から、こちらは優しげなサウンドが印象的な楽曲である。この曲も、曲の半分近くまでボーカルが登場しない。
この曲も同じフレーズが淡々と繰り返され、アンビエントやチルアウトなどに影響を与えているのではないか。穏やかなギターアルペジオとキーボードには、夢に誘われるような浮遊感がある
筆者としては非常に好きなサウンド、リフであり心地よく感じられる。
Plainsong
- 収録アルバム:8th『Disintegration』(1989)
- 楽曲の時間:5:12
- 歌が始まる時間:2:37
- 歌が始まるまでの時間の割合:50.3%
”暗黒三部作”に入れられる名盤8th『Disintegration』のタイトルトラック。このアルバムの世界観やサウンドを端的に示した名曲である。
先に紹介した「One More Time」のようなアプローチだが、さらに深く沈みこむような、それでいて温かなアレンジとなっている。キーボードと、柔らかいギターが効果的に挿入されている。
”暗黒”と言われているものの、初期の絶望感とは違って、暗いトーンの中にも優しさを感じられるようなサウンドとなっている点が異なっている。
Fascination Streets
- 収録アルバム:8th『Disintegration』(1989)
- 楽曲の時間:5:16
- 歌が始まる時間:2:21
- 歌が始まるまでの時間の割合:44.6%
8th『Disintegration』はロックらしいビートの曲は少ないものの、この曲はややバンドサウンドを感じさせる。ヘビーなベースが引っ張っていくリズムがカッコいい。
そしてスペーシーなギターが入り、キーボードと混ざり合って盛り上がりを見せる。ポストロック的なサウンドを思わせるもので、The Cureの音楽的な幅を感じさせる。
アルバムの中では緊張感を感じさせる楽曲であり、印象深い曲だ。
Trust
- 収録アルバム:9th『Wish』(1992)
- 楽曲の時間:5:33
- 歌が始まる時間:2:40
- 歌が始まるまでの時間の割合:48.0%
これまでのThe Cureの総決算的な内容でバランスの良い名盤9th『Wish』からの楽曲。初期から続く陰鬱とした世界観の楽曲であり、The Cureの王道の1つと言えるものだ。
前作8th『Disintegration』の流れを汲むような曲調だが、サウンドとしてはやや明るさを帯びているようにも感じられる。ピアノやキーボードが前面に押し出され、よりクラシカルな印象もある。
ロバート・スミスのボーカルも、叫ぶのではなく音に沈み込むように穏やかなものとなっている。”暗黒”と言われるThe Cureのサウンドも、進化を遂げてきたことがよくわかる楽曲だ。
まとめ
ここまでThe Cureの曲の中で、”歌に入るまでが長い”楽曲に注目し、その特徴についても述べてきた。
楽曲としては、”暗黒”と言われた陰鬱とした楽曲と、もう少し攻撃性の高い楽曲などが多く含まれていることが分かる。
後の音楽ジャンルとしては、ポストロックやアンビエントなどに影響を与えているのではないか、ということも随所で述べている。
The Cureの楽曲は1つのリフやフレーズをひたすら繰り返し、変化がほとんどない曲はアンビエント、盛り上がりを見せる曲はポストロックを感じさせるのであろう。
今回取り上げた曲以外にも、歌までが長い曲は他にもある。Spotifyでプレイリストを作ったので、そちらもぜひチェックしていただきたい。
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