人間椅子にボーカルが加入していたらどうなっていたか? – 3ピースバンドを貫いた先に見えたもの

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活動30年を超えるハードロックバンド「人間椅子」は、ずっと3ピースバンドで活動を続けてきた。

国内外のバンドでは、ギター・ベース・ドラムに加え、ボーカルを含めた4人編成のバンドは多い。しかし人間椅子は単独のボーカリストはこれまでも在籍したことはない。

ボーカルを入れてはどうか?」と言う意見もあったようだ。しかし、メンバーはボーカルを加入させない選択を取った。

もし人間椅子にボーカリストが加入していたらどうなっていたのだろうか?メンバーがボーカルを入れなかった理由を考察しつつ、もしボーカルがいた場合のメリット・デメリットを考えてみたい。

※人間椅子の歴史については、以下の記事に詳しくまとめている。

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人間椅子のボーカルスタイル

最初に人間椅子のボーカルスタイルを振り返っておこう。

人間椅子のボーカルは、基本的に作曲者が歌うスタイルを取っている。楽曲は、ギターの和嶋慎治・ベースの鈴木研一が多くを作っており、この2名が歌うことが多い。

かつては共作の楽曲が多かったため、ボーカルも楽曲の中で割り振っていることも多い。代表曲としては、「りんごの泪」などがある。

近年は単独の作曲がほとんどだが、楽曲によってはボーカルを割り振ることもある。その場合、作曲者がメインで歌い、他の誰かがサブで歌うことが多い。

たとえば、「宇宙からの色」では和嶋氏がメインで歌い、中間部を鈴木氏が歌う。

ドラマーがボーカルをとる場合もある。

ナカジマノブは、自身の曲だけでなく、和嶋・鈴木両氏の楽曲を歌うこともある。

以前在籍したドラマーでは、前任の後藤マスヒロが作曲を行い、自身の楽曲はボーカルを取っていた。

※後藤マスヒロが作曲・ボーカルの楽曲が2曲収録された8th『二十世紀葬送曲』

またメンバー全員で歌う楽曲がある。その場合は作曲者にかかわらず、ドラマーがボーカルに参加することがあった。

たとえば4th『羅生門』収録の「人間椅子倶楽部」、5th『踊る一寸法師』収録の「三十歳」、15th『未来浪漫派』収録の「秋の夜長のミステリー」などがある。

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なぜ人間椅子はボーカルを加入させなかったのだろうか?

人間椅子のボーカルは作曲者を中心に回していることを確認した。しかしライブで演奏しながら歌うことは大変難しい。

またディレクターから見れば、人間椅子のボーカルは決して上手いとは言えず、ボーカリストを入れろとレコード会社から言われたことがあったようだ。

鈴木氏のコラム『ナザレス通信』でそれに対して、「二人とも弾きながら歌いたかった」と受け入れなかった理由を述べている。

【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.19「ボーカルチェンジ」 | BARKS
年賀状の季節になりました。大人になってからあまり真面目に出さなくなってしまいましたが、子供の頃は丁寧に気持ちを込めて書い...

また「ヘドバン」Vol.27の和嶋氏のインタビューによれば、専任ボーカルを入れろと言われたのは、おそらく3rd『黄金の夜明け』か4th『羅生門』の頃だったようである。

アルバムの売り上げも目に見えて落ちていた頃で、レコード会社としても何かを変えたかったのだろうと思われる。しかしメンバーは頑なに拒否したと言う。

また海外のハードロックバンドにも、3ピースバンドはいくつも存在し、そうしたバンドへの憧れもあったのではないか。

たとえばCream、ZZ Top、Budgie、Motorhead、Venomなど素晴らしい3ピースバンドが海外には存在する。

3ピースは3人だけですべての音を作り上げることになる。ボーカルがいると、歌と楽器隊で何となく役割が分かれてしまう。

そして3ピースバンドの多くは、中心人物が歌も担うことが多いため、ボーカルが交代する事態はあまりない。(Venomのように仲が悪く、分裂してしまうバンドはあるが)

結果的に、人間椅子は和嶋・鈴木両氏の世界観を自身で歌うことで、1つの伝統を作り上げた。ボーカルを入れなかったことは正解であったが、ボーカルを入れていたらどうなったのだろうか。

人間椅子にボーカリストが加入していたらどうなっていたか?

では、ここから「人間椅子にボーカルが加入していたらどうなっていたか?」、勝手に想像してみようと思う。

先に行っておくと、加入させない方が良かっただろう、というのが筆者のスタンスである。おそらく現在の人間椅子ファンの多くが同じように思うのではないか。

ここでは、あえて人間椅子にボーカルが加入していたら、どんなバンドになり、どんな出来事が起きていたのか考えてみたい。

まずは、どんなボーカリストが加入しただろうか、ということ。次に加入したことによるメリット・デメリットについて書いている。

どんなボーカリストが加入したか?

まずは、加入したとしたらどんなボーカリストが加入したのか、ということである。

前提として、ボーカルが加入する時期を決めておきたい。今回は、もし4thアルバム『羅生門』の前にボーカルが加入していたら、としてみようと思う。

超大作の3rd『黄金の夜明け』を作ったが、売り上げは落ちる一方だった人間椅子。

実際にBlack Sabbathのトニー・アイオミにプロデュース依頼を試みたなど、これまでと違うことをしようとしていた時期だった。

ボーカルのタイプを考えてみると、様々なタイプのボーカリストが加入する可能性がありそうだ。

まずは、いかにもメタル然としたハイトーンボーカリストである。国内でも”ジャパメタ”の括りで活躍していたバンドがいくつもあった時期である。

人間椅子はそれらとは別の道を歩んでいた訳だが、売れている路線に倣おうと考えれば可能性としてはあり得る。イメージとしては、デーモン閣下が人間椅子のボーカルに加入する、といったところか。

あるいは、アニソンを中心に歌うボーカリストが加入した可能性もある。アニソンとメタルの相性は良く、人間椅子の楽曲のコミカルな部分はアニソンとの相性は悪くないようにも思える。

たとえばハードロックを聴いて育った、影山ヒロノブが加入するとイメージしてみてはどうだろうか。ハイトーンと言うよりはパワフルなボーカリストが加入した可能性もあるだろう。

さらに全く異なる方向性としては、サブカル的な要素を押し出した、よりキャラクターの強いボーカリストを加入させる、という案もあり得そうだ。

人間椅子の個性的な世界観を活かすために、より歌にインパクトのあるボーカリストを探したかもしれない。イメージとしては筋肉少女帯大槻ケンヂが加入すると言ったところか。

筋肉少女帯とはコラボレーションの経験があるためイメージしやすいが、他に類似するバンドが少ないため、他に誰が該当するのかわからない。

キャリア的な話として、当時の人間椅子よりキャリアのあるボーカリストが加入すると言うのは、あまり考えにくい気がする。まだ当時は、活動を始めて3年程度のバンドである。

オーディションで募集することになり、人間椅子のメンバーよりも若いボーカリストが加入することになっていたかもしれない。

どんなメリット・デメリットがあるか?

ここからは人間椅子にボーカリストが加入していたら、どんなメリット・デメリットがあるのか考えてみたい。

そしてメリット・デメリットを挙げながら、バンドはどうなっていったのか想像してみた。

メリット①:ヒット曲が出たかも?

まずメリットの1つ目は、ヒット曲が生まれたかもしれない、というものだ。

ボーカルを入れることに賛成していれば、自動的に”レコード会社の意向に従う”度合いが増すことになる。レコード会社のヒットを狙う方向性に、乗らなければならない状況が作られていくだろう。

たとえばボーカルを加入させたことによって、よりポップな歌モノを求められた可能性もある。

和嶋氏はもともとフォークソング的なポップな楽曲を作っていた。そういった引き出しから、今までの人間椅子とは違うわかりやすい曲を作れ、と言われていたかもしれない。

人間椅子のメンバーがそこまで良しとするかわからないが、ボーカルが加入するような状況となれば、何が起きていたかわからない。

なお人間椅子は、2019年に「無情のスキャット」で、YouTubeを通じてヒットした状況とも言える。この曲は人間椅子本来の魅力を一切損なうことなく、世の中に幅広く伝わることができた。

しかし、もし『黄金の夜明け』の後の時期にリリースされた楽曲がヒットしたとすれば、それはきっと本意ではないような楽曲になっていたのではないか、と想像する。

メリット②:逆にプログレ風味の曲が増えたかも

メリット①のようにヒット曲を出す可能性もあれば、それほど音楽性に変化をしないまま、バンド活動を続けた可能性もある。

その場合、和嶋・鈴木両氏は演奏に集中することができるようになる。そうなると、より演奏が難しい曲・展開の複雑な楽曲を作るようになったかもしれない。

つまり、『黄金の夜明け』のアプローチをさらに深め、プログレ風味が強まったかもしれない、ということだ。

『黄金の夜明け』では「水没都市」「審判の日」「狂気山脈」など、難解なフレーズや展開の多い曲が多数みられていた。

こうしたプログレ的なアプローチは、アルバムの中の一部では見られるものの、やはり演奏の難しさと、ライブでの盛り上がりなどから、メインには据えられることはなかった。

ファンの間ではプログレ風味の楽曲は人気が高い。演奏に専念できるとなれば、より難解な楽曲が増えていたかもしれない。

デメリット①:度重なるメンバーチェンジへ

ここからは、デメリットと思われることを述べていこう。

まずは鈴木氏が「ナザレス通信」でも語っていたことだが、海外のバンドのように度重なるメンバーチェンジが行われるバンドになるのではないか、というものだ。

何らかの事情でメンバー交代のあるバンドは、往々にしてメンバー交代が度重なる傾向にある。バンドの中心人物だけが不動で、残り全員が頻繁に入れ替わるバンドもよく見かける。

人間椅子の場合は、中心人物は和嶋・鈴木両氏であろう。現にドラマーは何度か交代する事態となっているが、ボーカルも加わっていれば、さらにメンバー交代が行われていたのではないか。

しかもボーカルはバンドのカラーを大きく左右するものである。ボーカルの度重なる交代は、やはりバンドの作風自体のブレにつながってしまう。

結果的には、現在の人間椅子のような確固たる音楽性を確立できないまま、中途半端なバンドになってしまったかもしれない。

デメリット②:”好きにやらせる”方針にしなかったはず

人間椅子がここまで活動が続いてきた理由の1つとして、好きな音楽を続けることができた、ということがあるだろう。ハードロックからブレることなく、続けられたからこそ今がある。

しかしボーカルの加入を認めていたとすれば、もはや自分たちのやりたい音楽からズレ始めていたと言える。つまり、自分たちの信念を曲げてしまった可能性がある、ということだ。

ボーカルを入れた以上、レコード会社として作品にも注文をつけるだろう。作風も大きく変更を余儀なくされた可能性がある。

実際に『羅生門』では、タイアップがついたり、曲数が少なかったり、レコード会社の力が入ったイレギュラーな作品だった。

ここからさらに楽曲がポップになる、歌詞が簡単になる、など音楽性にまでメスが入った可能性があると言うことだ。

こうなってしまっては人間椅子の魅力は損なわれてしまい、活動も長続きしなかったかもしれない。

デメリット③:和嶋・鈴木のコンビが崩れ、解散へ?

デメリット②で述べたように、方向性を変えたにもかかわらず、ボーカルを加入して作られたアルバムが全く売れなかったらどうなるだろう。

遅かれ早かれ、契約解消となっていたことには変わりがないように思う。その後はどうなっていくのだろうか。

結局、ボーカルも音楽性が合わずに、和嶋・鈴木両氏が残れば、今と同じことになっていたのかもしれない。

ただ、メリット①で述べたように、ヒット曲を出していたらどうなっていたか。和嶋氏・鈴木氏ともに、よく語っているように、もし売れていたらバンドは解散していたかもしれない

たとえば、どちらかの作曲した曲が売れたとすれば、金銭的な問題が発生しなかったとも言えない。活動もハードになり、無理なスケジュールがたたり、解散に至った可能性もある。

急激にバンドが売れて、歯車が狂った例はたくさんある。中学時代からの和嶋・鈴木氏の間でも、急な売れ方をしていたら、その関係性はどうなっていたかわからない。

まとめ – 現在の人間椅子のスタイルから見えるバンドとしての魅力

ここまで、「もし人間椅子にボーカリストが加入していたら」、と言うことを想像して書いてみた。まとめれば、あまり良い結果にならなかったであろう、と言うことが予想される。

何となく暗い内容となってしまったが、この選択を取らなかったから、今の人間椅子がある。

「ボーカリストが加入していたら」という良くない未来から、逆説的にボーカリストを入れなかった人間椅子の良さをまとめてみたい。

揺るぎない和嶋・鈴木コンビの世界観

まずは、やはり結成当初からのメンバー、和嶋慎治鈴木研一のコンビの結束である。

人間椅子とは、この2人が青森の中学時代に出会ったところから始まっている。生粋のハードロック好きの鈴木氏と、ビートルズが好きだった和嶋氏が中学時代に出会い、同じ高校に通うことになる。

そしてともに浪人していた時代には、鈴木氏が和嶋氏にBlack Sabbathのベストテープを送るなど、文通が続いた。

ともに東京で大学進学した2人は、バンドでオリジナル曲を作るようになる。こうしてできたのが人間椅子である。

この2人が大人になってから出会ったのではなく、友達として子ども時代に出会ったことも大きい。その後は音楽のプロ同士となったとしても、根っこには友達同士で組んだバンド、という感覚がある。

ここにはビジネスの繋がりではなく、固い連帯感のようなものが根底にあるのだろうと思う。

そして音楽的な相性の良さもあった。鈴木氏はどちらかと言えば職人気質で、最初から一貫しておどろおどろしいハードロックを作り続けてきた。

対する和嶋氏は、クリエイターとでも言おうか。常に革新的な楽曲を作り、ハードロックをベースにしながらも、独自な世界観を作り上げていくタイプである。

良い具合にタイプが異なったことで、お互いをリスペクトし合う関係性ができたとも言える。やはり人間椅子の中心にいるのは、この2人であると言えるだろう。

”陰”の和嶋・鈴木に対して、”陽”のナカジマが加入して完全体に…!?

人間椅子はどうしても和嶋・鈴木のコンビの結束が強いあまり、2人とドラマーの2対1の構図になりがちであった。そのためか、ドラマーの交代や正式メンバー不在の時期もあった。

しかし2004年に加入した現ドラマー、ナカジマノブは違った。

これまでのドラマーにはない明るいキャラクター、そして人当たりの良さが強みである。一方で音楽的には人間椅子とは異なるジャンルで活動していたため、なじむまでに時間がかかった。

しかしナカジマ氏は和嶋・鈴木両氏をリスペクトし、必死にこの2人に追いつこうと、努力を続けたのである。そして音楽的にもすっかり馴染んだ今、3人の結束は強固なものになった。

そして元来持っていたナカジマ氏の明るさが、2人にも影響し、バンド全体の風通しが良くなった。作風の変化と捉える向きもあったが、バンドの前進に大きく貢献したように筆者は思う。

3人の結束が強固になった結果が、Ozz fest Japan 2013への出演だった。やはりバンドとしての魅力が高まったからこそ、出演につながったのではないだろうか。

「無情のスキャット」のバズり、初の海外公演、映画公開とこれまでにはあり得ないようなビッグニュースが立て続いている。

そして人間椅子のドキュメンタリー映画、「映画 人間椅子 バンド生活三十年」のBru-ray/DVDが6月23日(水)に発売となる。

2019年12月13日(金)東京・中野サンプラザホール公演の映像を軸に制作された本作に加え、ライブ本編も全曲収録となるようだ。

この映画を見ながら、改めて人間椅子のバンドの歩みと、その魅力を堪能できればと思う。

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