ヘビーメタルの1ジャンルとして、スラッシュメタルがあり、今やジャンルとして定着している。今回取り上げるのは、そんなスラッシュメタルの草創期やそれ以前の名作である。
筆者自身はスラッシュメタル・マニアではなく、むしろ70年代のハードロックを好んで聴く。
しかし、スラッシュメタルが勃興した時期の作品には、これからジャンルができていく興奮が詰まっており、聴くだけでワクワクするような感覚を味わえるから好きだ。
今回は、筆者が好きなスラッシュメタルの元祖とも言えるバンドのファーストアルバムに絞った傑作4枚を紹介したい。
スラッシュメタルについての基礎知識
スラッシュメタル(Thrash Metal)とは、”ムチ打つ“(Thrash)ような速いスネアドラムの音から名づけられたとされる。
ハードロックはボーカルやギターが前面に立ち、荒々しさとともに芸術性も持っていた。スラッシュメタルはより攻撃性を重視し、弾丸のようなリフとドラムが駆け抜けていくところに快感がある。
スラッシュメタルが世に出てきたのは、およそ1980年代初頭のアメリカだった。
スラッシュメタルの元をたどると、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)にたどり着く。
1970年代後半に登場したIron MaidenやSaxonなどのバンドを中心に、ニュー・ウェイヴ全盛期に、ハードロックの伝統を継承しようと言うムーブメントだった。
このNWOBHMの曲調をさらに過激にさせたのが、一般にはスラッシュメタルと言われている。
スラッシュメタルの勃興と歴史に関しては、以下のサイトで掘り下げて書かれており、大変興味深い。
ここでは、スラッシュメタルの代表的なバンドとその後の変化について、筆者なりにまとめてみた。
最初に名乗りを上げたのは、Metallicaである。
Metallicaがコンピレーションアルバム『Metal Massacre』(1981年)に「Hit The Lights」を提供したのが、スラッシュメタルの始まりとも言われる。
Metallicaは1983年に1st『Kill ‘em All』をリリースしているが、この時点ではNWOBHMの曲調に近いものとなっている。
Metallicaは音楽的バックグラウンドが幅広く、70年代のハードロックからハードコアパンクなどから大きな影響を受けた。
その後のMetallicaは、スラッシュメタルに止まらず、1991年の5th『Metallica』ではグルーブを重視した、ヘビーな楽曲路線を取るなど、音楽性の広さを感じさせるバンドとなっていった。
同時期にロサンゼルスでは、Metallicaの後を追うようにSlayerがデビューしている。
1983年に1st『Show No Mercy』をリリースし、悪魔・反キリスト的な世界観を打ち出した。
こういった世界観は、既にIron MaidenやJudas Priestが掲げていたものを継承しており、ややマニアックなVenomやMercyful Fateなどからの影響も大きかった。
Slayerはより速く、よりアグレッシブな方向を目指し、1986年の3rd『Reign in Blood』で1つの完成形を見ている。その後も一貫してダークでヘビーなスラッシュメタルを続けているバンドだ。
ほぼ時を同じくして、ニューヨークではAnthraxが人気を博し、1984年に1st『Fistful of Metal』が発表された。
1stアルバムはIron Maidenの影響を強く受けた、スピーディーなメタルという印象もある。同時期のバンドの中では、最もメロディアスなボーカルも特徴だ。
初期2nd、3rdは破壊力のあるスラッシュメタルであったが、Anthraxも90年代には他ジャンルとの融合により、モダンな要素が加わっていく。
さらには、Metallicaの結成当初にメンバーだったデイヴ・ムステインがバンドをクビになり、その反骨心からMegadethが結成された。
1983年に1st『KILLING IS MY BUSINESS …AND BUSINESS IS GOOD!』がリリースされている。バンドと仲違いしたため、Metallicaの『Kill ‘em All』にはタイトル違いの同曲が収録される形になった。
テクニカルなメタル、と言われるMegadethはより正統派のメタルとの相性が良いバンドとなっていった。
ここまで紹介した4つのバンドは、BIG4とかスラッシュ四天王などと呼ばれている。
さらにアメリカのサンフランシスコ・ベイエリアからExodusやTestamentと言ったバンドが先駆者となっている。アメリカでは他にもOverkill、カナダではAnnihilatorといった名バンドも生まれた。
ドイツではSodomやKreator、Destructionなどが続いていった。
初期スラッシュメタルの面白さ
スラッシュメタルの成り立ちとしては、NWOBHMの動きの中で、ハードコアパンクの影響を受けて出てきた、というのが一般的な言われ方である。
しかしスラッシュメタルはヘビーメタルの攻撃性をいかに高めるのか、という目的によって生まれたものだ。
当時ハードロックよりも先鋭的で攻撃性を持っていた、パンクやハードコアの影響を受けたバンドが結果的には多かったということなのだろう。
そのためスラッシュメタルという様式は生まれたものの、スラッシュメタルの先駆者バンドは必ずしもその様式に縛られない音楽性を持っていたとも言える。
BIG4の中でも、音楽性に大きな変化がなかったのはSlayerぐらいで、他のバンドは時代の変遷とともに、新たな音楽性を模索することになっていった。
今回は1980年代始め、どのバンドも競ってスラッシュメタルを作り上げていた時期を取り上げた。
中でも1stアルバムにこだわって取り上げたのは、2つ理由がある。
1つはスラッシュメタルという新たなジャンルが生まれていく、高揚感が詰め込まれている点である。新たな音楽を作り出していく意気込みが感じられ、後続バンドにはないフレッシュさがある。
演奏や音作りは後の作品と比較すれば稚拙な部分もあるが、その粗っぽさがまた良さでもある。
もう1つは、どのバンドも自分たちなりのスラッシュメタルを模索しているスタートラインが同じだからこそ、音楽性の違いがはっきり見えてくる点だ。
様式が出来上がる前の、スラッシュとそうでないメタルの間の境界線がはっきりしないところも、今となってはカッコいい。
以上のように、スラッシュメタルの黎明期だからこその面白さがある。
元祖スラッシュメタルバンドの名盤1stアルバム4枚レビュー
ここからスラッシュメタルの元祖ともいわれるバンドの、1stアルバムに絞って厳選した4枚を紹介したい。スラッシュメタルという言葉が生まれる以前の作品も含めて選んでみた。
Venom – Welcome to Hell (1981)
スラッシュメタル誕生前ではあるものの、後続のバンドに多大な影響を与えたVenomのアルバムを取り上げたい。Venomは1980年代のNWOBHMのバンドと言われるが、異色のバンドである。
悪魔・反キリスト的な世界観を歌っているが、何よりも本作の特徴は音の悪さである。デモテープ段階のものが発売されてしまったという説があるが、各楽器の音が聞き取れないほどだ。
しかし本作ではスラッシュメタルを始め、”エクストリーム”と括られるジャンルの多くの元祖とも言われるほど、重要な作品である。
スラッシュメタルにおいては「Witching Hour」がまさに元祖と言われ、今までにないダークでありつつも疾走感のあるという新たな音楽性を生み出している。
この疾走感はMotorheadと比較されることもあり、パンクからの影響が語られることがある。しかしBURRN!のオムニバス本の中で、ギターのマンタス氏は「パンクの影響はない」と語っている。
確かに表題曲「Welcome to Hell」は陽気なハードロックとも言えるし、「Schizoid」「Poison」などもNWOBHMの流れにある楽曲である。
攻撃的でサタニックな音楽を作るという気概で作られた結果として、あまりにインパクトのある作品ができてしまった、というのが素直なところかもしれない。
残念ながらVenomがこの音楽性を保ったのは2ndの『Black Metal』までで、度重なるメンバーチェンジによりその個性は薄らいでいった。
しかし繰り返しになるが、本作のインパクトは大きく歴史的名盤であることは間違いない。Venomを聴く人は、本作と2nd『Black Metal』を強くおすすめする。
Slayer – Show No Mercy (1983)
既に取り上げているスラッシュメタルの”帝王”Slayerのデビュー作である。
3rd『Reign in Blood』から聴いてしまうと、この1stはチープに聞こえてしまうかもしれない。しかしSlayerがNWOBHMの流れの中で自分たちの音楽性を模索していた時期の音源は大変貴重だ。
とは言え、1曲目の「Evil Has No Boundaries」を聴くと、Slayerの音楽性の骨格は既に出来上がっているようにも思える。攻撃的なボーカルと、前に転がっていくようなドラムは1stから変わっていない。
Slayerの音楽性の一貫性は、メンバーチェンジが少ないことにも由来するのかもしれない。同時期のAnthraxやMegadethはボーカルやギターの交代が多いが、Slayerはドラマーが交代しただけだ。
この1stはVenomが生み出したサタニックで、狂ったような疾走感を受け継いでいるアルバムだ。
MetallicaやAnthraxが他ジャンルの要素を積極的に取り入れていったのとは対照的に、Slayerはサタニックなハードロックにパンクの要素を持ち込んだところから外れていない。
Venomが自身で生み出した音楽性を継続できず、Slayerが成し遂げたのはなぜだろうか?
Venomがパンク的な要素を持ち込んだのではなく、”偶然”あのような音楽性ができたのとは異なり、意識的にハードロックとハードコアパンクを融合させる方法論を用いたことではないだろうか。
Slayerは徐々にハードコアの持っているエクストリームの要素を強めながら、より攻撃性を高めていった。この方法論によって、中毒性の高い音楽を作り出すことに成功したのだと思われる。
本作はエクストリームな要素をまだ十分には感じられず、ハードロック寄りのSlayerを聴ける珍しい作品である。ハードロック好きの人にもおすすめできるアルバムになっている。
Megadeth – KILLING IS MY BUSINESS …AND BUSINESS IS GOOD! (1985)
続いて紹介するのは、BIG4の中では最もデビューの遅いMegadethだ。
ボーカル、ギターのデイヴ・ムステインは素行不良のため、Metallicaから解雇されてしまった。打倒メタリカ!とばかりに結成されたのがMegadethと言うから、ロックを地で行くような話である。
Megadethは、テクニカルで知的なメタルが特徴の1つであり、1stの本作からその片鱗が十分にうかがえる。
2nd『PEACE SELLS …BUT WHO’S BUYING?』ではスラッシュメタルの要素は残しつつ、テクニカルで速いヘビーメタルへと移行している。それ以降の作品も、2ndの路線を継承する形だ。
ある意味、この作品でのみスラッシュメタル然としたMegadethが聴けるとも言える。そして2nd以降にはない、迸りのような荒々しさを感じることができる。
本作の楽曲はいずれも短時間にまとめられつつ、展開が多く聴き応えは十分だ。おすすめは「Skull Beneath The Skin」で、ハードロック的なリフ・展開を感じられる曲である。
マーティ・フリードマンが加入してからの90年代のMegadethが好きな人にとっては、やや印象と異なる作品かもしれない。
ハードロックが好きな人には、刺さる部分の多いアルバムに思われるため、聴いていない人にはぜひおすすめしたい。
Exodus – Bonded by Blood (1985)
Exodusはサンフランシスコで生まれたスラッシュメタルバンドで、Metallicaのカーク・ハメットも初期には在籍していたことがある。結成は1980年だが、アルバムリリースはやや遅れた。
本作の魅力は、何と言っても攻撃性だけを詰め込んだアルバムであることだ。
攻撃性を特徴づける要因として、ザクザクと切れ味の良いギターリフが挙げられる。Judas Priestからの影響を感じさせ、ベイエリア・クランチと呼ばれるようになった。
そしてポール・バーロフの狂ったようなボーカルも印象的だ。ほとんどメロディを歌わない、喉が裂かれそうな叫びは、このアルバムを唯一無二のものにしていると言える。
Exodusの邪悪な音楽性やボーカルスタイルにも、Venomの影響を感じることができる。
しかし高評価される背景には、アルバム全体を通じて様々なタイプのメタルを詰め込んで飽きさせない作りになっていることもあるだろう。
「And Then There Were None」「No Love」のようなヘビーな曲もあれば、「Deliver Us to Evil」では展開の多い一面も見せている。
MetallicaやSlayerより後に作品を出したこともあるが、スラッシュメタルとしても一段進化を遂げた作品として聴くことができる。
しかしボーカルの癖が強いので、ハマる人はハマる、という類の作品かもしれない。中毒性は強いので、まずは1曲目の名曲「Bonded by Blood」を聴いてみてほしい。
まとめ
今回の記事では、スラッシュメタルの黎明期について、そして先駆者たちの名盤1stアルバムを紹介してきた。
いずれにも共通することは、先駆者たちが”今この瞬間”を詰め込んだ良さを感じられることだ。
おそらく今録り直せば、演奏技術も上がっており、音も良く録れるだろう。しかし、決して当時収録したバージョンを超えるものはできない。
スラッシュメタルという新たなジャンルを生み出していった熱気が込められており、各バンドの後に名盤と言われるアルバムにはない魅力がある。
有名なアルバムしか聴いたことがなかった、という人はぜひルーツを探る意味で、1stアルバムを聴いてみるのも良いのではないだろうか。
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