新潟を拠点に活動するアイドルグループNegiccoは、結成から19年を迎えた。
現在はメンバー3人とも結婚し、また妊娠・出産というおめでたいニュースが続いている。またコロナ禍ということもあって、グループとしての活動は緩やかとなり、個人活動が中心になっている。
そんな今だからこそ、Negiccoというグループの活動を振り返ってみようと思った。活動をまとめた記事は以前作成したので、今回は音楽の側面に注目する。
※2003年結成の新潟発アイドルNegiccoはなぜ解散することなく続いてきたか? – グループの歩みと魅力、そしてこれから
この記事ではNegiccoがリリースした4枚のフルアルバムについて、レビューを行ってみたい。
そして当時のグループの活動を思い出しながら、それがどのようにアルバムに表れているのか、ということを中心に語ってみたいと思う。
アルバムという作品に残されたもの、そして当時の活動の雰囲気を組み合わせながら、Negiccoというグループをさらに知ろうという趣旨である。
Negiccoの音楽のイメージとアルバムリリースまで
Negiccoの音楽について一般的に言われていることを、少しまとめておきたい。Negiccoはファンの間ではよく”楽曲派“と言われてきた。
アイドルの音楽と言うと、そのアイドルのキャラクターを表現するツールとされることも多い。
楽曲派とは、王道のアイドルソングと異なり、純粋に音楽として聴いて唸ってしまうような楽曲を歌うグループを指していると筆者は考えている。(定義は非常に難しいところだが)
※参考:音楽ナタリー「2010年代のアイドルシーン Vol.7 “楽曲派”と呼ばれるグループたち」
今でこそ楽曲派と呼ばれるようなグループは多くなったが、Negiccoが1stアルバムをリリースする2013年頃にはまだそう呼ばれるグループは少なかった。
しかしNegiccoが最初から楽曲派となることを狙って活動してきた訳では全くない。
Negiccoはやわ肌ネギのPRのため期間限定で結成されたグループであった。そしてデビュー曲「恋するねぎっ娘」はまだ楽曲派の片鱗は見られない、ご当地アイドル”らしい”曲だった。
転機になったのは、ファン第1号とも言われるconnie氏が楽曲提供をし始めたことだろう。
その第1弾は2004年の「トキメキ★マイドリーム」であり、リリースより少し前に流行っていたFolder5を思わせるビート感のあるダンスポップだった。
connie氏による80年代~90年代のダンスミュージックやポップスの影響を感じさせる楽曲は、次第に玄人好みなものになっていく。
たとえば「Summer Breeze」などはシティポップ的な感覚のある楽曲だ。今でこそシティポップ路線のアイドルはたくさんいるが、ローカルアイドルでこの楽曲はかなりコアな印象であった。
また広島のご当地アイドル出身のPerfumeがブレイクすると、Perfume的なテクノサウンドに寄った時期もあった。
2011年にはタワーレコード内のアイドル専門レーベルT-Palette所属となってからは、キュートなポップス・ダンスミュージックへと収束していったように見える。
2012年にリリースされた「圧倒的なスタイル」(オリジナルは2008年)は、自然体なポップスに、既にアイドル界ではベテランになりつつあった彼女たち自身に向けたような歌詞が印象的だ。
様々な音楽性を辿ったが、その後のNegiccoの音楽性を予見しているかのような楽曲で、ファンも一体となって踊るラインダンスも含めて極めて重要な曲となった。
こうして1stアルバムリリース頃までを振り返ると、必ずしも音楽性において強い一貫性があったとは言えないことがわかる。
それも当然、活動自体の存続の危機や波乱万丈を経験していたNegiccoは、楽曲リリースにおいても恵まれた環境にあったとは到底言えなかったのである。
ようやくT-Paletteに所属し、これまでより安定して作品リリースができる状況になって、楽曲派としての真骨頂の時代になっていくのである。
Negiccoの全アルバムレビューとグループの歩み
Negiccoがこれまでリリースした4枚のフルアルバムについてレビューを行う。2つの項目を立てて、それぞれの作品について書いてみようと思う。
まずは作品そのものから感じ取れる雰囲気や、作品としての特徴を、収録楽曲にも触れながら述べる。
そして当時のNegiccoの活動を振り返りながら、その作品がグループにとって持つ意味を考えてみたい。
1stアルバム『Melody Palette』(2013)
- 発売日:2013年7月17日(CD)、2013年8月14日(2LP)、2019年6月17日(2LP再発)
- レーベル:T-Palette Records
- プロデュース:connie、嶺脇育夫 (TOWER RECORDS)
No. | 曲名 | 時間 | 作詞 | 作曲 | 編曲 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 愛のタワー・オブ・ラヴ | 4:32 | 西寺郷太 | 西寺郷太 | 西寺郷太 |
2 | あなたとPop With You! | 4:00 | connie | connie | connie |
3 | アイドルばかり聴かないで | 3:28 | 小西康陽 | 小西康陽 | 小西康陽 |
4 | イミシン☆かもだけど | 4:26 | 長谷泰宏 | 長谷泰宏(ユメトコスメ) | 長谷泰宏(ユメトコスメ) |
5 | 相思相愛 | 3:30 | tofubeats | tofubeats | tofubeats |
6 | 恋のEXPRESS TRAIN | 4:23 | connie | connie | connie |
7 | GET IT ON! | 5:10 | connie | connie | connie |
8 | ナターシア | 4:46 | サイプレス上野、connie | サイプレス上野とロベルト吉野、connie | サイプレス上野とロベルト吉野、connie |
9 | ルートセヴンの記憶 | 4:17 | connie | connie | connie |
10 | ネガティヴ・ガールズ! | 3:58 | Negicco & connie | connie | 吉田哲人 |
11 | Negiccoから君へ | 4:41 | RAM RIDER | RAM RIDER | RAM RIDER |
12 | スウィート・ソウル・ネギィー (grooveman’s Jack Bounce Mix) | 5:11 | connie | connie | grooveman Spot(remixed) |
13 | ニュートリノ・ラヴ (banvox remix) | 6:16 | connie | connie | banvox(remixed) |
収録時間 | 58:38 |
T-Palette所属によるクオリティ向上・多彩な楽曲と抜群のトータル性
Negicco結成10年の節目に、初めてのオリジナルフルアルバムである。それはもう気合が入りまくったアルバムであることは間違いない。
本作はNegiccoがT-Paletteに所属して最初のシングルから、著名なクリエイターから楽曲提供を受け始めた2013年までのシングル曲が収録されている。
Negiccoが各方面から注目を集め始め、活動の幅が広がったことで様々なクリエイターから楽曲提供を受けることとなった。
先行シングルではNONA REEVESの西寺郷太による「愛のタワー・オブ・ラヴ」、そして小西康陽による「アイドルばかり聴かないで」がリリースされ、話題となった。
アイドルファンを皮肉ったような歌詞とPIZZICATO FIVE的なキュートなサウンドの「アイドルばかり聴かないで」は、当時新たなファンを大いに呼び込むこととなった。
そしてアルバム収録曲にも、ユメトコスメの長谷泰宏による「イミシン☆かもだけど」や、tofubeatsによる「相思相愛」など、気鋭の作家陣が楽曲提供を行っている。
豪華なクリエイター陣に触発され、これまで楽曲を提供していたconnie氏も、さらに磨きがかかった楽曲を提供しており、これまで以上に楽曲のクオリティが上がった作品となっている。
アルバムタイトルに入っている”Palette”はレーベル名にかけつつ、アルバムがパレットにある多彩な色とりどりの楽曲が並んでいる作品であることも宣言している。
王道ダンスチューンの「GET IT ON!」から、ユーミンへのリスペクトが感じられる少し背伸びをした「ルートセヴンの記憶」、さらにはラップにも挑戦した「ナターシア」など実に多彩だ。
しかしその一方で抜群のトータル感のアルバムであるとも言える。その秘密は楽曲の並び順の良さにあるように思える。
冒頭は、その当時のNegiccoの最先端であるキラーチューンを立て続けに並べている。
そして「愛のタワー・オブ・ラヴ」~「あなたとPop With You!」では、間髪入れずに景色が広がっていくような爽快感が素晴らしい。
「あなたとPop With You!」は、シングルバージョンにあったフェードイン部分を削ると言う細かい工夫だが、それだけで一気にアルバムのテンポ感が良くなる。
「イミシン☆かもだけど」~「相思相愛」ではこれまでのNegiccoから少し大人になった一面を見せてくれる成長の軌跡が感じられるパートである。
そしていったんT-Paletteに所属した当時のシングル曲2曲を続けることで、過去にタイムスリップ。「ナターシア」「ルートセヴンの記憶」で楽曲のバリエーションを再び広げる。
最後を締めくくる「ネガティヴ・ガールズ!」「Negiccoから君へ」で、Negicco自身を振り返り、そして支えてくれたファンへの感謝を伝え、未来に向かうと言うアイドル的に激アツの展開である。
現在から過去、そして改めて現在地から未来へと、時の流れさえ感じるアルバムの展開は完璧である。アルバムトータル感で言えば、Negiccoの全アルバムでも最強と言えるのではなかろうか。
※bounce:「『Melody Palette』を形成するカラフルな彩りのひみつ」
ネガティヴ・ガールズからNever Give Up Girlsの始まり・アイドルとアーティストの絶妙なバランス
「ネガティヴ・ガールズ!」の歌詞をメンバー自らが書き、自らの特徴を自覚できたことが後のグループにとってとても重要なことだったのではないか。
自らを”ネガティヴ・ガールズ”であるとともに、”Never Give Up Girls”と言えたことが大切なことである。
この時期は、逆境を経験してきた10年から今度こそは輝くという強い意思を感じる。そのため楽曲にも非常にパワーがあり、その流れが本作後にリリースされるシングル群に活かされていく。
そしてOTOTOYのインタビューに応えているように、まだ売れるのか売れないのか、不透明な時期ゆえに、希望を持って行こうと言う力強さがあるとも言える。
またアイドルかアーティストかという悩みについて、良い曲を伝えることを念頭に、なすがままにというスタンスであることをこの当時は述べている。
この当時は、まだNegiccoというグループのオリジナリティが確立しきっていなかったことが窺える。
別のOTOTOYのインタビューで、tofubeats氏はアイドルとアーティストのアンビバレントな感じが良い、と述べている。
Negiccoは素の可愛らしさがありつつ、それを前面に出し過ぎるとわざとらしくなる。かと言ってアーティスト然とし過ぎても、何かが違う。
そんな絶妙なバランスが保たれたアルバムが本作とも言えるが、そのバランスは後に活動のスタンスの変化とともに、少しずつ調整を求められることとなっていく。
なお当時のNegiccoはまだ知名度も低かったこともあり、無料のイベントでも割となんでも出演していた印象である。
活動自体はアイドルらしいもので、アルバムがアーティスト寄り、というバランスがファンにウケていたようにも見えた。
2ndアルバム『Rice&Snow』(2015)
- 発売日:2015年1月20日(CD)、2015年4月7日(2LP)
- レーベル:T-Palette Records
- プロデュース:connie
No. | 曲名 | 時間 | 作詞 | 作曲 | 編曲 |
---|---|---|---|---|---|
1 | トリプル!WONDERLAND | 4:34 | 矢野博康 | 矢野博康 | 矢野博康 |
2 | ときめきのヘッドライナー | 4:18 | Jane Su | 西寺郷太 | 奥田健介・西寺郷太 |
3 | 1000%の片想い feat. Tomoko Ikeda (Shiggy Jr.) | 4:33 | connie | connie | Shiggy Jr. |
4 | クリームソーダ Love | 5:06 | Nao☆ | connie | 北川勝利 |
5 | サンシャイン日本海 | 4:36 | 田島貴男 | 田島貴男 | 田島貴男 |
6 | 裸足のRainbow | 4:34 | connie | connie | スカート |
7 | 二人の遊戯 | 5:12 | connie | connie | 矢野博康 |
8 | パジャマ・パーティー・ナイト | 5:25 | connie | connie | Orland |
9 | BLUE, GREEN, RED AND GONE | 4:41 | 三浦康嗣 | 三浦康嗣 | 三浦康嗣 |
10 | Space Nekojaracy | 5:10 | connie | connie・吉田哲人 | 吉田哲人 |
11 | 自由に | 4:21 | connie | connie | 蓮沼執太 |
12 | 光のシュプール | 4:30 | connie | connie | 田島貴男 |
13 | ありがとうのプレゼント | 1:07 | Negicco | connie | connie |
収録時間 | 58:04 |
ヒット志向のシングル曲と音楽的探求志向のアルバム曲の混在
2013年に10周年を迎えたNegiccoは”Next Decade”として、オリコンチャートを意識したシングルを次々にリリースしていく。
西寺郷太氏による「ときめきのヘッドライナー」、そして元Cymbalsの矢野博康氏による「トリプル!WONDERLAND」と、豪華な作家によるパワフルな楽曲が続いた。
しかも「ネガティヴ・ガールズ!」などで見せた、Negicco自身のことを歌った歌詞が続き、10年続けてきた重みとともに、いまだフレッシュかつピークとも言えるパワーを見せていた。
そして「サンシャイン日本海」は、まさかのOriginal Loveの田島貴男氏を起用した楽曲で、オリコンチャートトップ10入りを目指す。
しかし惜しくも11位となり、これまで楽曲を制作してきたconnie氏の楽曲「光のシュプール」で再度トップ10入りを目指し、ついに週間5位を獲得するに至る。
本作はそんな怒涛の2013年後半~2014年のシングル曲が、まずは前面に強く出ている印象である。
曲順においても、頭から「トリプル!WONDERLAND」「ときめきのヘッドライナー」が並び、かなりパワフルな始まり方だ。
シングル曲は「光のシュプール」を除いて、connie氏以外によるもの。その一方で、アルバム収録曲はconnie氏が全ての楽曲の作曲を担当している。
実は(隠している訳ではないが)かなりconnie色が強いアルバムなのだ。しかしあまりそれを感じさせないのは、編曲に豪華なクリエイターが参加しているために思える。
そうしたクリエイター陣による音作りにより、前作以上に音楽的な志向が強い作品になっている。そしてNegiccoのインタビューにもあるように、connie氏も多彩な楽曲を意識して作っているようだ。
王道ポップスの「クリームソーダ Love」、ディスコ・ブギーな「二人の遊戯」、そして宇宙的なサウンドが出色の出来である「Space Nekojaracy」など、実に多彩な楽曲が並ぶ。
またこれまでのNegiccoにはない音楽性を取り込む実験性も窺える。唯一アルバム曲で提供を受けた「BLUE, GREEN, RED AND GONE」もアイドル曲とは思えない難解な楽曲だ。
とにかく今Negiccoが出せるものを全て出し尽くしたアルバム、という印象である。そして確実に前作よりも音楽的なレベルは上昇した、という感じもしている。
その一方で、アルバムトータル感で見ると、シングル曲のアイドル的パワーと、音楽志向の楽曲が別々のろころにあるような印象もある。
多彩であり、かつそれがアルバム1枚としてまとまった、という前作のような印象とは異なる。
シングルヒットを狙う方向性と音楽的探究の新たな方向、2つが同時に進みながら広がっていくような作品になっている。
超多忙の売れっ子突入期
この時期のNegiccoを振り返ると、とにかくライブ・イベントへの出演が毎日のように続く、忙しい時期だったように思う。
その1つにはメンバーのKaedeが2014年3月に新潟大学を卒業し、ついにメンバー3人がフル稼働できる状況になったことも要因にあった。
2014年は勝負の年として、シングルヒットを本気で狙うべく、メンバー・運営・ファンが一丸となって盛り上げていこうと言う機運が非常に強かった。
「サンシャイン日本海」で惜しくもトップ10入りを逃した悔しさ、そして「光のシュプール」でリベンジ成功を果たす、という最高の瞬間を筆者もリアルタイムで経験した。
以前このブログでも書いたように、筆者は東大の駒場祭でのライブを企画した。
その頃のNegiccoは新潟と東京を行き来し、多忙な日々だったように見えた。マネージャーの熊倉氏が東京に来ている間を狙って、打ち合わせをして、何とかイベントを行うことができた。
「光のシュプール」はフィンランドでMV撮影が行われていたが、いったいいつそんな時間があったのか、と驚いたほどである。
そしてシングル『光のシュプール』のリリースイベント最終日の12月7日に東京・タワーレコード新宿店7Fで“感謝挨拶会”において、本作『Rice&Snow』のリリースが発表された。
またしても、「いつアルバムのレコーディングをしていたのだろう」と、MV撮影と同様に驚いてしまったのを記憶している。
とにかく2014年はめまぐるしく過ぎ去っていったのだった。
そんな状況をリアルタイムで経験しているためか、本作がシングル曲の方向性と、アルバムの音楽志向の方向性が別々に向かっている、という印象が、この怒涛の活動状況と重なって見えた。
つまりシングルヒットを狙おうと頑張っているNegiccoと、新たな音楽的探究をしようと言うNegiccoが別々の存在のように見えてしまったのである。
当然、ファンはシングルヒットを狙うNegiccoを見てきたのであって、新たな方向性がまだすんなりと入ってこなかったように思えた。
しかも唐突なアルバムリリースの発表ということもあって、情報過多に陥り、特にアルバム曲がスッと入ってこなかったのが正直なところである。
これはリアルタイムで聴いていた人と、後追いで聴いた人では、印象はずいぶんと違うかもしれない。
ただ改めてアルバムを聴き直してみても、やはりその慌ただしさがアルバム全体の雰囲気に表れているように思える。
後の3rd、4thと聴き比べてみると、音楽的探究と言う面ではまだ模索の途上という感じだ。
なおアルバムタイトルは松任谷由実の1980年のアルバム『SURF&SNOW』からインスパイアされたもの。そして本作のタイトル『Rice&Snow』とは”米と雪”であり、新潟を意味するものである。
改めて新潟を拠点にすることを宣言した形になっている。とは言え、この当時はかなり東京での活動も多くなっていた時期であり、1番新潟を離れていたことが多いくらいではないだろうか。
どこかで自分たち自身に向けて新潟という原点を大切にしたタイトルにしようと、語り掛けているかのようでもある。
次ページ:音楽志向がさらに強まる3rd『ティー・フォー・スリー』、そして4th『MY COLOR』
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