現代的な解釈の新MV、賛否が分かれるポイントとは? – 村下孝蔵「初恋」のMVに批判が集まった理由

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音楽の聴き方
画像出典:Sony Music:『歌人撰集』

音楽の聴き方は時代とともに大きく変化している。近年は音だけではなく、ミュージックビデオ(MV)とともに発表されることが増え、音楽は映像とともに楽しむものになっている。

そうした流れからか、MVのなかった過去の楽曲に、現代的な解釈を加えたMVを新たに制作する動きが少しずつ増えているようだ。

2022年2月25日には、村下孝蔵の1983年の「初恋」のMVが公開され話題となった。しかし原曲の世界観と大きく異なるMVだとして、批判も噴出する事態になっている。

筆者としては非常に興味深い動きだと思いつつ、原曲の世界観に新たな要素を付け加えることに対して、否定的な意見が出てくるのも当然だろうと思う。

今回の記事では、そんな新解釈のMVを取り上げる。賛否の分かれどころについて考察し、なぜ「初恋」のMVに批判が多かったのか考えたい。

また今後の新たな解釈のMV制作について、より良い動きにしていくには何が必要なのか、考察してみた。

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過去の楽曲を現代的に解釈したMVとは?

まずは、ここで言っている「過去の楽曲を現代的に解釈したMV」とは何を指すのか、ということから述べていきたい。

今回取り上げているのは、リメイク楽曲・MVと言うことではない。あくまで、過去の楽曲をそのままで、MVだけ全く新しいものを制作する、ということだ。

そしてMV制作は、気鋭のクリエイターを採用し、現代的な再解釈を含んだ内容となっている。そのため過去のミュージシャンの映像や写真などを組み合わせて映像化されたものとも異なる。

つまり、過去に作られた楽曲と、現代に作られた全く新しいMVを組みわせる、という試みなのである。

そして映像は、ストーリー仕立てになっているものが多く、確かに現代的なMVになっているようだ。いくつか公開されているMVを紹介しよう。

最初は、竹内まりやが1984年に発表した「プラスティック・ラヴ」のMVである。

MV制作には、林響太朗氏が監督を務めている。林響太朗氏は米津玄師やあいみょん、緑黄色社会など多数のミュージシャンのMVなどを手掛けている。

2019年に制作されたこの映像は、これまでショートバージョンが公開されていた。近年の海外における日本のシティポップ再評価の動きを受け、フルサイズの公開に至ったと言う。

続いて、2022年2月25日に公開された、村下孝蔵が1983年に発表した「初恋」のMVである。

発売から40年近く経っても愛され続けるこの楽曲に、初のMVが制作された。監督を務めた井上真行氏は、「この愛され続ける名曲の世界観をとにかく壊したくなかった」と述べている。

また映像の世界観としては、「スマホのカメラがあれば、カメラを通した時だけ好きな男性に近付ける臆病な女性の心理」を描いており、原曲に新たな解釈を加えたものだった。

さらに、新解釈を加えたMV制作を取り上げたテレビ番組もあった。2021年10月1日にテレビ朝日系で放映された「ザ・ニュージックビデオ」である。

リリー・フランキー&伊藤沙莉がMC!MVがない昭和の名曲に藍にいな&シシヤマザキが新たな命を吹き込む<ザ・ニュージックビデオ> | WEBザテレビジョン
10月1日(金)放送の「ザ・ニュージックビデオ」(夜11:15-0:15、テレビ朝日系)では、ミュー...

同番組は、MVが存在しない昭和の名曲の“全く新しいミュージックビデオ=ニュー(new)ジックビデオ”をクリエイターたちが制作する番組であった。

チェッカーズジュリアに傷心」のMVを、Chanel、PRADAや資生堂など、ブランドのプロモーションイメージの制作を担当するシシヤマザキ氏が制作。

また太田裕美木綿のハンカチーフ」のMVを、YOASOBIのMV制作なども行うアニメーション作家の藍にいな氏が制作した。

これらのMVは公開はされていないが、藍にいな氏は、山下達郎の1991年の「さよなら夏の日」の新たなMVを制作している。

鮮やかな色彩が目に飛び込んでくるMVであり、近年のYouTube発の音楽シーンを思わせる作風となっている。

さらには、海外の楽曲でも新MVが制作されている例もある。

1960年代後半~70年代初頭に活動した、アメリカのCreedence Clearwater RevivalHave You Ever Seen The Rain(雨を見たかい)」のMVが2018年に公開された。

バンド結成50年を記念して、クラフト・レコーディングスが制作した短編映像作品である。政治的な側面ではなく、友情や冒険と言ったテーマから新たに解釈した作品となっていた。

このように国内外、様々な楽曲の新解釈MVが作られているようだ。まだブームと呼べるほどの数はないように見えるが、今後さらに増えてくる可能性がある

しかし過去の楽曲を大事に聴いてきた人たちにとっては、新たな解釈に馴染めない場合もあるだろう。試みとしては面白いが、評価が二分されてしまう恐れもある。

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新解釈MVは賛否両論の可能性あり -賛否の分かれるポイントとは?

新解釈のMVをいくつか取り上げたが、この中でも賛否が分かれてしまっているようだ。

中でも、村下孝蔵氏の「初恋」のMVについては、批判的なコメントが非常に多くなってしまっている。なぜこのような事態になってしまったのか。

集まっている批判的なコメントや、映像の中身などを考慮しつつ、新解釈MVの賛否が分かれるポイントについて考察してみたい。

「プラスティック・ラヴ」と「初恋」のコメント比較

賛否が分かれるポイントが何かについて、2つの作品を比較しながら見てみたい。同じ実写のMVである、「プラスティック・ラヴ」と「初恋」を見てみよう。

「プラスティック・ラヴ」のYouTubeのコメントを見ると、まず英語コメントの多さに目が行くだろう。

海外からの注目度の高さが窺えるし、「I REALLY LOVE THIS SONG AND MV.. AWESOMELY COOL!」など、肯定的なコメントが多いように見える。

日本語のコメントも、数は少ないが「四十年も前の曲にただMV載せただけなのに新曲の感じが半端ない。」など、批判的なコメントはあまり見かけない。

一方で、「初恋」のYouTubeコメントは、批判的なものがほとんどである。「あまりの出来映えの酷さに衝撃を受けて思わず泣けてきた。」「村下孝蔵さんの初恋の世界が台無し」など散々である。

またTwitter上でも、厳しいコメントが見受けられる。

なぜここまでコメントで評価が異なる事態になってしまったのか。

賛否が分かれる要因とは何か?

なぜ「プラスティック・ラヴ」と「初恋」の両者でここまで評価が分かれてしまったのか?ひとまず、両者のMVをめぐる状況や、内容から考えてみたい。

まず、両者のMV公開をめぐる状況の違いがある。「プラスティック・ラヴ」は、近年の海外からのシティポップ人気と言う、大きな波があった。

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こうした状況と、新MVの公開は見事にマッチしたと言える。そして海外からのファンの多くは、リアルタイム世代ではなく、まだ新鮮にこの楽曲を聴くことができる層でもあるだろう。

1984年の楽曲ながら、そういったムーブメントも手伝って、何か新しさも感じつつのMV制作となったのだろう。

一方で村下孝蔵氏の「初恋」に関しては、残念ながらそうしたムーブメントが後押ししてくれる状況にはなかった。見たところ、何かの記念という枠組みで作られたのでもなさそうだ。

そのため、注目したのは、リアルタイムにこの楽曲を聴き込んできた(少なくともよく知っていた)ファン層が圧倒的に多かっただろう。

そのためハードルはこれだけでも大きく上がってしまった。新解釈を行うには、公開するタイミングが1つの大きな要因ではないか、と考える。

しかし、「プラスティック・ラヴ」もリアルタイム世代が注目したはずだが、なぜ批判的なコメントが少ないのか、と言う疑問が湧いてくる。

やはりMVの中身にも要因がありそうである。両者にはMVの中身も対照的な点がある。

まず「プラスティック・ラヴ」は、実写のドラマ仕立てながら、ストーリー性は一見すると読み取りにくいものになっている。

下記のブログ記事では、歌詞の意味を考察している。”プラスティック”=「無機質な」恋愛ということで、孤独な女性を描いた歌詞ではないか、としている。

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MVを見てみると、タクシーに乗る無表情の女性、ホテルでの男女の駆け引きなど、それとなく歌詞のイメージに寄り添うような映像が、次々と展開していく。

原曲の世界観に近い、と言えばそうだが、あまり特定のイメージに寄せ過ぎない、ギリギリのところで止めている。そしてストーリー性も読み解けばわかるものの、一見しただけではあまりわからない。

一方の「初恋」は、監督自ら「スマホのカメラがあれば、カメラを通した時だけ好きな男性に近付ける臆病な女性の心理」を描いたMVだと述べている。

かなり大胆な新解釈と言えるだろう。原曲の歌詞では「遠くで僕はいつでも君を探してた」とあり、やはり男性の淡い恋心を歌った歌詞のイメージが非常に強い。

女性を主人公にしたMVになっている点は原曲と大きく異なる世界観だ。

また青春映画のようなMVになっており、そのストーリー性は明白である。イメージ的に映像が散らばる感じではなく、ストーリーとして紡がれていくような作りだ。

そのため、新解釈ではなく、「解釈間違いだ」とのコメントが溢れ返ってしまったのではなかろうか。

しかし「解釈違い」と感じさせてしまった要因は、MVの内容だけにあるとも言えないのではないかと思う。

以下のようなツイートを見かけて、非常に合点がいくものだった。

「初恋」と言う楽曲はMVがないのであるが、歌詞の段階で映像が頭に浮かぶほどの描写が、既に歌詞に書かれているのである。

それは「五月雨は緑色」や「夕映えはあんず色」などの詩的な言葉と、情景を思わせる色彩が、頭の中でそれぞれが思い描く初恋の甘酸っぱいイメージを膨らませていたのだ。

さらには村上保氏による切り絵のイラストも、強烈にこの曲のイメージを形作っていた。

このように、ストーリー性の高いMVがまだない時代に、それ以外の手法でストーリーを生み出す工夫がされていたのである。

そのため、ファンの胸にはそれぞれの「初恋」のイメージがあり、それは強固なものだった。それを崩されたような感覚になって、批判が噴出したのではないかと考えている。

※こんなタイトルの記事も見つけた。「村下孝蔵「初恋」には誰が聴いても自分の初恋を歌った曲に聞こえる魔法がかかっている

村下孝蔵「初恋」には誰が聴いても自分の初恋を歌った曲に聞こえる魔法がかかっている
そんな彼の代表曲は、言わずと知れた「初恋」。オリコン売上で言えば52.6万枚。大ヒットではあるが、同じ枚数売れた曲がみん...

付け加えれば、「プラスティック・ラヴ」はどちらかと言えば、詞の世界観よりも、先にサウンドやグルーブを楽しむタイプの音楽である。

洋楽的な感覚で聴くことができるので、MVを作るにも作りやすい側面はあるだろう。

翻って「初恋」は、メロディとともに歌詞の比重は物凄く大きい。ここまで歌詞のイメージが強い楽曲に対して、冒険したMVは批判が免れなかったのではないか、とも思う。

つまりMVが主流ではなかった時代には、MVを使わずに曲のイメージを膨らませる工夫をされたものがある。「初恋」はその工夫が強力に働き、斬新なMVは「解釈違い」と受け取られてしまった。

そして、楽曲のタイプによって、見合ったMVの作り方は存在するのであり、その楽曲のタイプにマッチしないMVは、やはり批判が多くなってしまうのだろう。

まとめ – より良い動きにしていくために

ここまで新解釈MVについて、そして賛否が分かれてしまう要因について、述べてきた。楽曲のタイプによって、どういったMVを作るのか難しさもあることがわかった。

しかし、ここまでの話は、過去の名曲を知っていて、ファンだった側からの意見である。では新解釈のMVを作る目的は、そう言ったファンを楽しませるためのものなのか?

1番の目的は、過去の曲を知らない、特に若い世代に聴いてもらうきっかけにすること、なのではないだろうか。そうであれば、これを見て若い世代が何を思うか、が最も重要なことである。

それでも何とかして、過去の名曲を伝えたい思いは、筆者にもある。あまり今の時代に受け継がれていないジャンルなどは、MVによって再評価のきっかけになることには期待したい。

そもそも曲を知ってもらうために「MVを作る」ことは、冒頭に述べたように、音楽の聴き方の変化から来ている部分が大きいのだろう。

かつてはアルバムジャケットや歌詞のブックレットを見ながら曲を聴き、頭の中で情景を想像するのが一般的だった。

それがMVが作られることが一般的になり、今ではMVとセットで聴くもの、という風潮もある。

近年のYouTube発の音楽シーンなどを見ていると、いかに魅力的なMVを作り、楽曲の世界観を鮮やかに示すか、というポイントも、ヒットにおいては重要になっているように思う。

ヨルシカなどYouTube発アーティストのブレイクは、印象的なMVが大きく影響しているだろう。

またMVにストーリー性があることで、楽曲の歌詞が抽象的になってきた面もある。歌詞の方が漠然としたイメージを伝え、MVで具体的な情景を伝えるという手法である。

思えば、その先駆けとしてケツメイシの2005年の楽曲「さくら」があったような気がする。

このように楽曲のあり方自体が、今と昔では異なっているようにも思う。そんな中で、どうやって過去の名曲を後に伝えて行けば良いのだろう。

確かにMVとセットで音楽を聴く、というあり方がしばらく続くのであれば、新たなMVを作ることは意味がありそうだ。

しかし曲の作り方自体が違うのであれば、”現代の解釈で”とは言っても、現代の楽曲に合わせるようなMVであってはミスマッチが起きるだろう。

やはり楽曲のメロディと歌詞で勝負してきた時代の曲には、全力でメロディと歌詞に耳を向けさせるようなMVを作る必要があるのではないか。

MVが楽曲よりも変に目立ってしまってはいけない。かと言って、見ても面白くない映像では意味がないから、そのバランスが腕の見せ所になりそうだ。

新解釈MVの制作にはセオリーなどは存在しないのだろう。結局は丁寧に過去の曲に向き合い、何を新たな要素として付け加えれば良いのか、じっくり対話するほかない。

そうした努力が新たな風を呼び込み、若い世代にも何か新しさとして映ってくれることを願いたい。

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