2023年1月31日、第74回NHK紅白歌合戦にポケットビスケッツ・ブラックビスケッツが25年ぶりに出場した。90年代にテレビ番組から生まれた企画ユニットが、まさか25年の時を経て紅白出場である。
当時、音楽として両ユニットの楽曲を好んで聴いていた筆者としては、今回の紅白の最大の見どころとして注目していた。
そして実際に紅白の舞台で見せた両ユニットの姿、パフォーマンスは期待の何倍も上回るほどの感動があった。いったいこの感動は何なのか、ただ”紅白に出た”だけでは片づけられない感動があった。
今回の記事では、25年ぶりのポケットビスケッツ・ブラックビスケッツの紅白出場で抱いた感動の正体に迫ってみたいと思う。
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツの紅白出場まで
最初に今回の紅白出場までの動きについて、少しだけ触れておこう。
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツは、1990年代にテレビ番組『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』の企画で生まれたユニットであった。
2002年に同番組の最終回イベント「ウリナリ祭り」でパフォーマンスを行って以来、両ユニットとも長らく活動が行われていなかった。
ポケットビスケッツは2018年に『24時間テレビ41「愛は地球を救う」』内で18年ぶり一夜限りの復活を果たし、2020年に千秋がYouTubeチャンネルを開設し、「POWER」のフル歌唱をアップしていた。
一方のブラックビスケッツは、2022年に『日テレ系音楽の祭典 ベストアーティスト2022』にて20年ぶりに復活。初期メンバー3人により、「Timing」「STAMINA」が披露された。
2021年にKlang Rulerがカバーしたバージョンが、2022年頃にTikTokで流行し、ブラックビスケッツ復活のきっかけとなったとされている。
また2023年12月3日(デビュー記念日)にはビビアン・スーの公式Instagramで、南々見(南原清隆)、天山(天野ひろゆき)と共にライブ配信を行っていた。
このように近年になって、いくつか両ユニットの限定的な復活などの出来事はあったが、”紅白出場”という展開は急なものであった。
2023年12月16日、テレビ放送70年特別企画「テレビが届けた名曲たち」の中で、ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツの出場が突如発表された。
そして12月21日には歌唱曲が決定となり、「YELLOW YELLOW HAPPY~Timing」のスペシャルメドレーが披露されることとなった。
この日程を見ても、かなり急に決まってオファーがかかったことが窺える。なおビビアン・スーは、「ビザを取るのがギリギリだった」と語るなど、かなり急展開だったようである。
12月3日のInstagramのライブ配信でも、「来年はライブをしたい」と語っており、大舞台でライブをすることはまだ遠い目標のような語られ方で、その語り口にも真実味があった。
とは言え、テレビ企画を通じて100万枚を超える大ヒットを生み出した両ユニットは、今回の企画の趣旨に合っており、選ばれるべくして選ばれたと言っても良いだろう。
25年ぶり紅白出場の感動の正体とは?
25年ぶりにポケットビスケッツ・ブラックビスケッツが揃って紅白出場、という企画自体で期待は非常に大きなものだった。
そして第74回NHK紅白歌合戦の22時台、彼らのステージが始まった。筆者の感想としては、「期待の何倍も上回る感動があった」というものだった。
何とも言葉にしがたい感動であり、それは単に企画の珍しさであるとか、懐かしさを超えた何かだった。ここでは筆者なりに、その感動を言葉にしようとしたものである。
変わらぬメンバーの姿・佇まい
まず何より感動したのが、集結したメンバー6人の変わらない姿、佇まいである。
ポケットビスケッツはTERU(内村光良)、CHIAKI(千秋)、UDO(ウド鈴木)、ブラックビスケッツは南々見狂也(南原清隆)、天山ひろゆき(天野ひろゆき)、ビビアン(ビビアン・スー)の計6人だ。
今回の紅白出場では、この6人がポケビ・ブラビとして揃った時の佇まいがかつてと変わっていない奇跡を感じた。
※ビビアン・スーのInstagramに投稿された活動当時の6人
とりわけ千秋・ビビアンの2ショットは、相応に年齢を重ねつつも、変わらぬ佇まいである。
どうやっても25年と言う歳月を重ねれば、人は老いるし(むろん老いだけが変わる要因ではないが)、誰かしら”往年とは見た目が随分違う”という現象が起きてもおかしくない。
しかし6人が並んだ写真を見ると、メンバー全員が当時の佇まいから変わっていないように思えた。
それはおそらく、各メンバーがそれぞれに自分の活動を真摯に続けてきたことで、大きく生き方が変わってしまったり、崩れてしまったメンバーがいない、ということでもあろう。
そうやって生きてきた6人が再集結した時に、すぐさまポケットビスケッツ・ブラックビスケッツに戻ることができたのであろう。
さらには6人の結束と言うか、仲の良さも垣間見えて、そうした組み合わせの良さも手伝って、奇跡の6人の映像に感動したのである。
飾らないありのままのパフォーマンス
そして変わらぬ6人の佇まいに加え、飾らないありのままのパフォーマンスも感動を覚えた要因であった。
紅白歌合戦のメイン出場者とは異なる枠であり、スタジオも別の場所であった。観客を入れてのパフォーマンスであり、ライブのようなステージとなっていた。
何より良かったのは、過剰な演出などが一切なく、純粋に両ユニットの楽曲を披露する、という素朴なステージになっていたことである。
最初はポケットビスケッツの「YELLOW YELLOW HAPPY」が披露され、千秋はMVで披露していた足を踏む動作を再現しながらの歌唱であった。
所々で歌の一部分はカットされていたが、変にアレンジされることもなく、原曲のままであったところが良かった。
後半では活動初期のイメージカラーである黒の衣装に身を包んだブラックビスケッツが「Timing」を披露。軽快なダンスも当時のままに、最後はウッチャンナンチャンの2人によるソロパートもあった。
最後は6人全員による歌唱で華やかにステージは終了した。”仲が悪い”と言う設定ではあるが、それを超えた結束のようなものを感じるステージだった。
非常にシンプルなパフォーマンスだったが、それが最も視聴者が求めているものである。
そして急ピッチで準備が進められたことと思われるが、さすがベテランの人たちである。ほぼ完ぺきと言えるパフォーマンスをしっかりと作り上げてきてくれた。
最後の内村氏から司会の有吉弘行氏への激励とも言えるコメントも含め、誠意が見えてくるような、正直なパフォーマンスがさらに好感度を上げていたように思えた。
90年代にタイムスリップしたような感覚
ここまで述べてきたように、当時と変わらぬ6人の姿・佇まいと、過剰な演出もなく素直に2曲をメドレーで繋いで披露したパフォーマンスが、感動を呼んだのではないか、と筆者は考える。
そして、あの瞬間だけまるで90年代にタイムスリップしたような不思議な感覚を覚えたのは、筆者だけではないのではないか。
2023年の年末、令和の時代の紅白歌合戦を見ているはずなのに、あの瞬間だけはそれぞれが覚えている90年代の記憶や思い出が蘇ってきたのではないかと思った。
それを一言で”懐かしさ”と片付けるのは簡単だが、90年代当時の音楽が絶大なパワーを持っていた時代の空気が、再び令和の現代に流れ込んできたような感覚だった。
90年代と言えば、とにかくCDが売れた時代であり、音楽はまだまだ娯楽の中心であった。そして毎週のようにリリースされる新曲を楽しみに、テレビ番組などをチェックしていた時代である。
そうした時代の懐かしさもありつつ、音楽そのものの良さ、そして人を動かすパワーみたいなものが、多くの人たちの中で共有されていた時代、とでも言おうか。
「音楽って良いよね」という素朴な感覚が、両ユニットのパフォーマンスから感じられたのである。これが最も筆者が感動したポイントだったのかもしれない。
そして、その感覚を根っからの音楽集団ではない人たちが、サラリと伝えていたところに感動を覚えたとも言えるだろう。
まとめ
今回はポケットビスケッツ・ブラックビスケッツの25年ぶりの紅白出場で覚えた不思議な感動について書いてみた。
おそらく予想できていた当時を思い出しての”懐かしさ”を超える何かがあったので、どうしても言葉に残しておきたかったところである。
どうやらそれは、90年代に残っていた音楽の持つパワーが、彼らの変わらぬ姿やパフォーマンスを通じて、ふいに令和のこの時代に運ばれてきたことによるのではないか、と考えた。
もちろん今だって素晴らしい音楽はたくさんあるし、音楽に感動する瞬間はある。しかし社会全体が音楽をもっと楽しんでいた時代を思い出すと、明るい気持ちになれたような気がした。
こうした感覚が伝わってきたのも、両ユニットが心からあの舞台を楽しんでいたからであるし、全力でパフォーマンスしていたのが伝わってきたからだろう。
紅白の一夜限りにするのはもったいないくらいであり、ぜひまた再結成してパフォーマンスを見せてくれる日を楽しみにしたいと思う。
<ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツのアルバム>
アルバム:『Colorful』(1997年7月16日)
ベストアルバム:『THANKS』(2000年3月24日)
アルバム:『LIFE』(1999年5月26日)
※ポケビはプログレ、ブラビはダンスミュージック – 2つのユニットの音楽性の違いと魅力
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