【アルバムレビュー】Ghost – Impera (2022) 音楽性は本当に”変わった”のか?

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ハードロック
画像出典:UNIVERSAL MUSIC

スウェーデン出身のハードロックバンドGhostが4年ぶりとなるアルバム『Impera』を2022年3月11日にリリースした。

当初の発表では2020年にリリースとも言われていた新作だが、ようやくリリースとなった。

さて、その内容は前作『Prequelle』からさらに洗練され、メロディアスになっていると感じた。

初期の不気味なメタルが好きなファンからすると、Ghostはすっかり変わったという感想もありそうだ。しかし筆者はGhostの音楽性は今回も一貫したものだと感じる部分もあった。

この記事では、5thアルバム『Impera』を紹介し、一見”変わった”と思われる音楽性が、実は流れを見ると必然的なものだったのではないか、という考察を述べていきたい。

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前作『Prequelle』から『Impera』のリリースまで

最初に前作の4th『Prequelle』から『Impera』リリースまでについて振り返りたい。

4th『Prequelle』はバンドメンバーによる訴訟問題(下記の記事を参照)を経た後に、新体制で制作された。その作風は70年代色は薄れ、80年代ハードロックへと転換した印象だった。

【GHOST】訴訟問題がバンド・作品に与えた影響はあるのか?- 4thアルバム『Prequelle』以降の作品紹介

2019年に60年代を意識した、企画性の高いシングル『Seven Inches of Satanic Panic』をリリース。

その後アルバムに先行し、2021年9月にシングル『Hunter’s Moon』をリリース。映画『ハロウィン KILLS』(デヴィッド・ゴードン・グリーン監督)とのコラボレーション曲だった。

そして2022年1月には『Call Me Little Sunshine』、同年3月には『Twenties』を立て続けにリリース。いずれの楽曲も、Ghostらしいダークな雰囲気の漂う楽曲が続いた。

なお5thアルバム『Impera』は当初もっと早いリリースが予定されていた

2020年1月にアルバム制作に入り、その年の夏の終わりにはリリースの予定だった。しかしアメリカ大統領選挙やコロナの影響もあり、リリースは遅れた。

また2020年3月のライブにて、5thアルバムのキャラクターとなるPapa Emeritus IVのお披露目が行われていた。

2020年10月には、アルバムはその年の冬にリリースされる予定だという話もあったが、それも延期となった。

そして2022年1月に5thアルバム『Impera』の発売がようやく告知されたのだった。

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5thアルバム『Impera』紹介・レビュー

ここでは5thアルバム『Impera』の作品に関する情報、そして全曲紹介とレビューを行っていきたい。

作品概要・全体レビュー

  • 発売日:2022年3月11日
  • 価格(国内盤):3,300円(税込)
  • レーベル(国内盤):ユニバーサル・ミュージック

アルバムの構想は、トビアス・フォージが2013年にTimothy Parsonsの『The Rule of Empires: Those Who Built Them, Those Who Endured Them, and Why They Always Fall』を読んで得たという。

本作のテーマは「帝国の隆盛と衰退」だそうだ。日本盤のレーベルであるユニバーサルミュージックのサイトには、テーマが「孤立と半神崇拝、空間と精神の植民地化」とある。

テーマ的には、前作の4th『Prequelle』でのペストの流行に伴って流布した「死の舞踏」と、通じるものを感じる内容となっている。

なお3rdアルバム『Meliora』を手がけたクラス・アーランドを再びプロデューサーに起用している。

トビアス・フォージ氏によれば、前作の『Prequelle』は変化の過渡期にある作品だと述べていた。つまり本作は、明らかな変化のあるアルバムということになろう。

その心構えで聴いたため、そこまでの衝撃はなかったものの、前作からさらに突き抜けた作品になっていると感じた。サウンドはヘビーながら、全体の印象は明るく感じられる。

初期のB級感たっぷりのメタルの香りはほぼなくなり、ジャンルで言えば80年代のアリーナロックを思わせる楽曲が増えた印象である。

また前作で見せたプログレ的なアプローチは今回も見られる。長大な楽曲こそないものの、これまでの過度にシンプルにリフを繰り返すスタイルは若干後退したように思える。

一方で先行して公開された「Hunter’s Moon」「Call Me Little Sunshine」は簡素にしてヘビーな曲調で、これまでのGhostを受け継ぐ部分もしっかりと残っている。

前作以上におどろおどろしさはなくなったため、初期からのファンにとっては前作以上に賛否両論となりそうな作品でもあろう。

各曲紹介・レビュー

ここでは各楽曲の特徴やレビューを行っていきたい。

Imperium

アルバムの1曲目が序曲となるパターンは、3rdアルバム『Meliora』以外では毎回とられている。本作でもその様式美は受け継がれた形となっている。

今までと異なる点を挙げれば、不気味な幕開けではなく、高揚感を高めるような序曲となっている点だ。アルバムの幕開けを楽しみにさせてくれるようなイントロである。

Kaisarion

アルバム本編の幕開けは、おそらく多くの人が最も驚いた爽やかなパンク風の楽曲。どことなくエモなども思わせるビートで、これまでのGhostになかった曲調である。

しかしGhostがポストパンクなどのカバーをしていることからも、全く新機軸ではないと思った。そして中間部にはリズムチェンジによる、ややプログレッシブな展開もある。

そして繰り返される印象的なメロディはやはり健在だ。

Spillways

一気に80年代メタルへと入って行く3曲目。いかにも80年代のイントロから、アリーナロック風の爽やかな曲調である。

アルバムの序盤、「Kaisarion」と併せて「Spillways」もかなり攻めた内容で、本作の中でも新たな方向性を示すものとなっている。

Call Me Little Sunshine

2022年1月に先行シングルとしてリリースされた楽曲である。どことなく不気味なアルペジオから、どっしりとヘビーなリフへの展開は、これぞGhostと言う曲調である。

3曲目までが攻めた内容だったが、ここからしばらくGhostらしいヘビーな楽曲が続く。そしてあまり展開がなく同じリフを執拗に繰り返す曲調も、これまでの作風を継承している。

Hunter’s Moon

映画『ハロウィン KILLS』とのコラボレーション曲で、2021年9月にシングルリリースされていた。

ダークなダンスナンバーであり、前作『Prequelle』の「Dance Macabre」のビート感を思わせるもの。随所に不気味なフレーズを忍ばせ、キャッチーながらおどろおどろしさも感じさせる

Aメロ、Bメロと言うシンプルな展開に、その直後のリフは9拍子になる点が面白い。

Watcher in the Sky

シングル曲の流れで、ヘビーなビートで突き進むパワフルな楽曲である。サビの「Searchlights~」が印象的であり、ライブでは大合唱したいパートである。

こうした4つ打ち的なビートは、80年代のヘビーメタルにおいては常套手段で心地好い。また前半はヘビーながら、後半は煌びやかなサウンドへと展開していくのも圧巻だ。

Dominion

オーケストラによる荘厳な雰囲気の序曲である。

シンプルでヘビーな楽曲の流れをいったん変えるための序曲にもなっている。Ghostのアルバムでは、こういった流れを変えるためにSEの楽曲がよく挿入される。

Twenties

アルバム発売直前にリリックビデオが公開になった楽曲。本作で最もヘビーなリフながら、オーケストラと融合した今までにないタイプの楽曲である。

またトリッキーなリズムと、呪文のようなボーカルと不気味なコーラスも耳に残る。これまでのB級メタル的な怖さとは異なる、より狂気を感じさせる怖さがある

本作の中では最も現代的なメタルの要素を感じさせる楽曲になっている。

Darkness at the Heart of My Love

「Twenties」の緊張感から一転して、哀愁漂うパワーバラードである。美しいイントロのアルペジオから囁くようなボーカル、そしてスケール感のあるサビへと美しい流れである。

全体的にはこの曲も80年代アリーナロックを感じさせるが、サビのアレンジなどは現代のアメリカのヒット曲を意識したような雰囲気に仕上がっている。

Griftwood

前曲「Darkness at the Heart of My Love」からの流れを引き継ぎつつ、この曲も80年代アリーナロック的なメロディアスな楽曲になっている。

それにしてもAメロからサビまで耳に残る良いメロディのオンパレードである。Cメロを挟んでからの、クラシカルなギターソロも、これまでになくドラマチックさを印象付けている。

本作はこのように親しみやすい、聴きやすい楽曲が多くなったように感じる。

Bite of Passage

アルバム終盤に向けて、最後に再び流れを変える序曲が挿入される。

ここまでメロディアスでポップな楽曲が続いたが、どこか不気味なギターアルペジオである。このままでは終わらない不穏なムードを醸している。

Respite on the Spitalfields

アルバムラストを飾るこの曲は、イントロこそ浮遊感のあるサウンドながら、壮大なパワーバラードである。そしてGhostにしてはメロディの展開が多く、やや長尺の曲になっている。

ヘビーな展開があったかと思えば、哀愁たっぷりのギターソロが入ったりと、色々な表情を見せてくれる。そして何と言ってもアウトロは1曲目の「Imperium」のフレーズに戻る様式美的な展開だ。

様々なタイプの曲が入ったアルバムながら、1つのコンセプトで作られていることを明示しているように感じられる。

5thアルバム『Impera』総合考察 – 音楽性は変わったのか?

ここまで5thアルバム『Impera』の全体的な印象と、各曲の紹介を行ってきた。ここでは、これまでの作品との比較も行いつつ、アルバムの総合的な考察をしていきたい。

まず感じるのは、初期のおどろおどろしい70年代ハードロックから、80年代アリーナロックへのジャンルの変化だろう。

すでにその傾向は前作『Prequelle』にも見られていたが、さらにその変化は確実なものとなっていた。そのためアルバム全体が聴きやすく、非常にポップな作品として聴くことができる。

また各楽曲を見ると、思いのほか様々なタイプの楽曲が収録されている。パンク風の「Kaisarion」、現代メタルの「Twenties」、80年代色の強い「Spillways」など様々だ。

これらはかなり新機軸の楽曲であるが、「Call Me Little Sunshine」などは、3rd『Meliora』の「Cirice」辺りで確立されたシンプルな構成と1つのリフを繰り返す曲調を守っている。

ただ不気味な要素はフレーズやサウンド面からはあまり見られなくなっている。

また前作『Prequelle』や3rd『Meliora』に比べると、飛び抜けて印象の強い曲は少なく、若干地味な作品かもしれない

その分、アルバム全体の流れは非常に聴きやすく、トータル感はこれまでで最も良い作品にも思える。

筆者としては、アルバム全体の印象の項でも書いた通り、トビアス・フォージのインタビューなどから変化の作品になることを予期していたので、それほど衝撃は感じなかった。

むしろなるべくして起きた音楽性の変化と受け止めている。

Ghostの変わらぬ音楽性とは?

では逆にGhostの音楽性はどんな点で変わっていないと考えられるのか。

その答えは、Ghostがこれまで作り上げてきたサウンド、世界観にあると思っている。

Ghostの音楽は、常に過去のハードロックやへヴィメタル、さらにはオルタナティブロックやAORなど多種多様な音楽を盛り込み、自身のサウンドを現代の音楽として作り上げている。

それはGhostのカバー曲を聴けばわかる通り、どんなジャンルの曲でもGhostのカラーに染めてしまう力がある。

GHOSTのカバー曲まとめ – すべてGHOSTの曲にしてしまう個性的なカバーアレンジの魅力とは?

そしてカバーはハードロックよりも、ニューウェイヴやポストパンクの楽曲が多く見られた。この辺りからも、Ghostがハードロックだけをやっているバンドではないことが分かる。

1stアルバム『Opus Eponymous』のおどろおどろしいハードロックの印象は確かに強力だった。続く2nd『Infestissumam』も音楽性を広げつつ、やはり不気味なサウンドが魅力だった。

この辺りからGhostのファンになった人にとっては、本作はあまりに違い過ぎる作品と受け止められる可能性は大いにあるだろう。

しかしトビアス・フォージという人物の音楽的背景はかなり広いように見える。

Ghostと言うバンドは確かにサタニックな雰囲気が漂うが、同時にいかに多様な音楽をサタニックに仕立てるかの実験を行っているバンドでもあると思う。

そうした実験の中で、初期は”いかにも”のサウンドでスタートしたが、今はあえてサタニックな雰囲気から遠い爽やかなハードロックやAORなどを取り込む実験を行っているように見える。

こうした音楽的スタンスは一貫したものであると筆者は感じている。

念入りに作り込まれた世界観・コンセプト

そして初期の70年代ハードロック風から、今回のような80年代アリーナロックへの変化も、計画されて行われたのではないか、とも思われる。

コンセプト自体は2013年の段階では既に思いついていたとインタビューでは書かれている。

GHOST's TOBIAS FORGE Reveals Concept For Band's Upcoming Album
In a new interview with the KLAQ radio station, GHOST master...

日本では陰陽座と言うへヴィメタルバンドが、何枚も先のアルバムのコンセプトをもう決めていると聞いたことがある。

それと同じように、バンドのコンセプトや世界観はかなり前から念入りに作り込むタイプなのではないか、と思っている。

それはGhostのキャラクターが、作品を経ることで変化しており、それぞれに物語もあるようだ(詳しくその変化の経緯などは分からないが)。

そうした物語に合わせて、音楽性も変化させている節がある。

結局、Ghostと言うバンドは、1つのジャンルにこだわるバンドではなく、バンドの世界観に合わせて音楽性が変化するバンドなのかもしれない。

そのように考えれば、「変化する」こと自体がバンドのスタンスであり、その姿勢こそ「変化していない」とも言えるのではないだろうか。

Ghostの作品を聴き込むほどに、音楽的背景の奥深さを感じるところであり、構築された世界観があることが分かる。

ある意味で、その深いところまで好きになった人でないと、本作の振れ幅にはついて行けなくなってしまうのかもしれない。

まとめ

今回は3月11日にリリースされたGhostの5thアルバム『Impera』のレビューを行った。

音楽的なジャンルとしては80年代アリーナロックへと、大きく舵を切った。その変化の大きさには驚きも確かにあったが、Ghostと言うバンドの特徴を知れば、納得の内容であった。

そして今回も幅広い音楽性を、Ghostという世界観とサウンドにまとめ上げる手腕はさすがだった。何よりも音楽の奥深さや面白さを感じさせてくれるバンドだとつくづく思う。

公式YouTubeチャンネルには、リリースにあわせてライブ映像が公開されている。

なかなか来日公演を期待するのが難しい状況が続いてはいるが、ぜひフルセットでのライブを観たいバンドである。

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