【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第15回:陰陽座 時期ごとの名盤を徹底解説!

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歴史の長いバンドは、必ずと言っていいほど「何から聴けば良いのか?」問題が出てくる。

そこで初めて聴く人向けに、最初に聴くのにおすすめのアルバムを紹介するシリーズ記事を書いている。

これまで14回の記事を書いており、国内外のベテランミュージシャンを多く取り上げてきた。今回は結成から24年、”妖怪ヘヴィメタルバンド”を自称する個性的なバンド、陰陽座である。

古典のような雅な日本語と妖怪をモチーフにした世界観に、ヘヴィなサウンドが融合した陰陽座は、先達のヘヴィメタルバンドを受け継ぎつつ、日本で独自な進化を遂げたバンドである。

リーダーである瞬火氏の緻密でマニアックな音楽性も聴きどころながら、実にポップで馴染みやすいメロディの良さが最大の魅力だったりする。

そんな陰陽座も微妙に音楽的には変化しつつ今日に至っている。そんな音楽性の変化を押さえつつ、各時期のとりわけ名盤を紹介していきたい。

前回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第14回:爆風スランプ 破天荒でポップ、笑えて泣ける楽曲

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陰陽座について

まずは陰陽座と言うバンドと、その歴史を簡単に振り返りたい。

陰陽座は1999年に大阪で結成されたバンド、結成当初のメンバーは以下の4人であった。

  • 黒猫(くろねこ) – ボーカル
  • 瞬火(またたび) – ベース、ボーカル、リーダー
  • 招鬼(まねき) – ギター、コーラス
  • 狩姦(かるかん) – ギター、コーラス

全員猫にちなんだ名前となっている。なお黒猫・瞬火はデビュー前から別のバンドで活動しており、瞬火と招鬼は兄弟であり、招鬼と狩姦は高校の同級生であった。

同年に「斗羅(とら) – ドラムス、パーカッション」が加入し、1stアルバム『鬼哭転生』でデビュー。インディーズ時代にはヴィジュアル系のシーンでも活動していた。

活動初期から一貫して、和装に黒髪でメイクをしたスタイル、雅な古文調の歌詞にヘヴィメタルのサウンドを鳴らす”妖怪ヘヴィメタル”を自称している。

瞬火と黒猫のツインボーカルも特徴であり、黒猫の表情豊かなボーカルがバンドの魅力の重要な部分を担っていると言える。

2001年にメジャーデビューし、1stシングル『月に叢雲花に風』をリリースする。2003年頃から楽曲のタイアップがつくなど、活動の幅を広げる。

2004年には『組曲「義経」』の三部作をシングルリリース。2005年のシングル『甲賀忍法帖』がテレビアニメ『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』のオープニングテーマとして起用されて知名度を上げた。

2005年には初のヨーロッパツアーを行う。2006年にはベスト盤『陰陽珠玉』をリリースし、自身初となるホールライブ『珠玉の宴』を中野サンプラザにて行った。

同年、全都道府県を回る「“全都道府県+α”強襲の陰陽座ツアー2006『生きることとみつけたり!!』」を開催。このように陰陽座は生粋のライブバンドであり、全国を回るツアーを数多く行っている。

2008年リリースのアルバム『魑魅魍魎』がオリコンチャートトップ10入りを果たす。

2009年にドラムの斗羅が脱退し、再びサポートメンバーとなるが、2011年以降は参加していない。

2011年ツアー『谺』は石川和智、2011年リリースの『鬼子母神』からは土橋誠がサポートとして参加している。

2012年には初のホールツアー『絶界の鬼子母神』を行い、2部構成の第1部はアルバム『鬼子母神』の全12曲をMCを挟まずに演奏した。

2013年にはベスト盤『龍凰珠玉』をリリースし、『魔王戴天』以降の楽曲と初期の楽曲のリミックスなどを含む2枚組となっている。

2014年にはアルバム『風神界逅』『雷神創世』の2作を同時にリリース、前者はノーマルチューニング、後者はダウンチューニングによる作品となっている。

2016年リリースの『迦陵頻伽』はオリコンチャート7位を記録、本作より7弦ギターを導入して、よりヘヴィなサウンドになっていく。

2019年から始まった全国ツアー『生きることとみつけたり【参】』では、黒猫が突発性難聴を発症したことを受け、2020年2月21日以降の公演を中止。3月2日、黒猫の療養のため活動の休止を発表する。

2022年10月18日にアルバム『龍凰童子』リリースを発表(2023年1月18日リリース)、2023年は特別公演2023『捲土重来』、ツアー2023『鬼神に横道なきものを』を開催した。

活動開始時期から一貫した世界観を持ち、進化しつつも変化はしていない、ブレない音楽性を有するバンドである。

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はじめてのベストアルバム

まずはベストアルバムを紹介しておこう。

筆者の立場としては、ベストアルバムよりもオリジナルアルバムを重視しており、その理由はベストアルバムが曲を並べただけで、アルバムとしてのトータル感に欠けることが多いからだ。

しかし陰陽座に関しては、ベストアルバムに対してもこだわりをもっており、そうしたベストアルバムにありがちの問題点を克服している、と言える。

陰陽座は2枚のベストアルバム『陰陽珠玉』『龍凰珠玉』がリリースされており、前者がデビューから『臥龍點睛』まで、後者が『魔王戴天』~『鬼子母神』の楽曲(+初期の楽曲)で構成されている。

中でも2006年リリースの『陰陽珠玉』は収録曲やその配置も含めて、完璧と言っても良いくらいのクオリティのベストアルバムである。

初期陰陽座の代表曲が選ばれているのはもちろんながら、その配置が絶妙である。

2枚組の本作は、盤之壱 disc-1 「陽」・盤之弐 disc-2 「陰」となっており、1枚目がアップテンポで力強い楽曲、2枚目がダークでじっくり聞ける楽曲を中心に配置されている。

1枚目はまるで陰陽座のライブを体感できるような曲順になっているが、ただライブのセットリストで配置したのとは異なり、音源として聴ける緩急のつけ方が絶妙である。

2枚目は彼らを象徴する組曲が2つとも入っているのと、重厚な楽曲やバラードなど、黒猫の歌や瞬火の作る美しいメロディや展開を堪能できる。

「醒」「梧桐の丘」「卍」「螢」などアルバム未収録曲もしっかり収録されており、ベストアルバムを手にする魅力もしっかりと込められている。

大抵はオリジナルアルバムから聴いた方が良い、とおすすめする筆者であるが、陰陽座に関しては『陰陽珠玉』から入るのも大いにおすすめである。

ちなみに初回限定盤には「盤之特典」としてライブ音源が収録されている。ここに収録された「鬼斬忍法帖」のライブ音源が最高なので、入手困難ではあるがぜひ聴いていただきたい。

はじめてのオリジナルアルバム:3つの時期の名盤

いよいよ本題とも言える、初めて聴く人におすすめの陰陽座のアルバム紹介である。今回も数あるアルバムの中から1枚を選ぶのはとても困難である。

陰陽座の歴史を振り返ると、大きく3つの時期に分けることができるように思う。その3つの時期の中で、とりわけ名盤と思われるアルバムを1枚ずつ紹介したい。

3つの時期について、筆者が命名した名前と該当する作品は以下の通りである。

  • 衝動期:1st『鬼哭転生』~6th『臥龍點睛』まで
  • 成長期:7th『魔王戴天』~11th『風神界逅』12th『雷神創世』まで
  • 変貌期:13th『迦陵頻伽』以降の作品

筆者の分けた各時期の特徴と、その中でのおすすめアルバムを紹介していこう。

衝動期:4th『鳳翼麟瞳』(2003)

デビューから6th『臥龍點睛』まで、すなわちベストアルバム『陰陽珠玉』に収録された範囲を”衝動期”と名付けた。

いわば陰陽座の初期衝動を感じる時代である。デビューした頃はインディーズであり、音源制作もまだ手探りの中で行われている感があり、やや粗削りに感じられる部分もある。

しかし陰陽座の良さが原石としてありのままに感じられるのがこの時期であり、瞬火氏のハードロック・ヘヴィメタルへのロマンが感じられると言っても良いかもしれない。

作風としては、ハードロックバンド人間椅子の影響を色濃く感じさせる、ダークなハードロックを軸に、様式美メタルや歌謡曲など、瞬火氏の好きなものが渾然一体となっている印象だ。

アルバムのトータル性やサウンド面では後の時代に劣るが、1曲ずつ入魂で作られたような煌めきを感じる。そしてメロディの良さにおいても、光る楽曲が多いのがこの時期である。

個人的には1st~6thまで全アルバムおすすめなのだが、あえて1枚挙げるとすれば4th『鳳翼麟瞳』(2003)を紹介したい。

1st『鬼哭転生』・2nd『百鬼繚乱』は人間椅子の影響下にあったおどろおどろしいハードロックだったが、メジャーに移った3rd『煌神羅刹』からはオリジナルな作風が出始めている。

そしてそれまでのやや荒削りな音作りから脱皮し、新しい陰陽座像を世に提示した作品が4th『鳳翼麟瞳』である。

本作の特徴は、ジャケットの黒猫氏の美しい姿にも象徴される通り、凛とした楽曲とサウンドである。とにかくパワフルでありながら、美しく煌めきを感じさせる作品になっている。

何といっても冒頭の「焔之鳥」「鳳翼天翔」は、言わずもがな瞬火氏が敬愛するJudas Priestの「The Hellion」「Electric Eye」のオマージュであり、陰陽座の代表曲の1つとなっている。

Judas Priestのような勢いを感じさせつつ、鳳凰が飛び立つような壮大なスケール感を見事に黒猫氏が歌っている。

全体的にこれまでのおどろおどろしい作風は影を潜め、ストレートなヘヴィメタルが多く、そこに歌謡曲風のメロディが加わった楽曲が多い。

シングル化された「妖花忍法帖」を筆頭に、「叢原火」「面影」などもキャッチーなメロディが光る。大作「鵺」もヘヴィさとポップなメロディのバランスが絶妙である。

ライブ終盤で欠かせない「舞いあがる」は、Ozzy Osbourneの「Crazy Train」が示したメジャーキーでもメタルは成立するという精神を正当に受け継いだ名曲だと思っている。

アルバム全体に通じる風通しの良さと凛とした佇まい、美しいメロディとストレートなヘヴィメタル、という陰陽座の良さが絶妙なバランスで保たれた名盤である。

なお続く5th『夢幻泡影』はダークな陰陽座で、『鳳翼麟瞳』と対をなす作品となっている。

成長期:9th『金剛九尾』(2009)

”衝動期”の後半には、人間椅子からの強い影響下から独自のヘヴィメタルを生み出し、陰陽座らしさが確立され始めた。

『陰陽珠玉』でこれまでの歩みを総括した後は、より音楽的にクオリティの高いものを目指そうと、進化を続けたのがこの時代である。陰陽座が成長して行く過程として、”成長期”とした。

これまではバンドだけのシンプルな演奏で楽曲を作り上げてきたが、楽曲の世界観をさらに深めていくために、アレンジ面でも変化が生まれている。

1つにはキーボードを効果的に使用するようになり、『鬼子母神』以降はライブともども阿部雅宏氏がピアノ・キーボードで参加するようになっている。

またギター・ベースもレギュラーチューニングでの表現をやり尽くしたということなのか、ダウンチューニングが用いられるようになった。

もちろんダウンチューニングの効果として、よりヘヴィなサウンドへと変化していった。

このように初期から続けてきたスタイルを少しずつ変化させ、陰陽座の音楽をさらに広げ、深めていった時期である。

楽曲1つずつの個性は”衝動期”の方が強烈ではあるが、アルバムトータルのクオリティや世界観のまとまりなど、より大きなスケール感で陰陽座の音楽が作られるようになった。

成長の1つの到達点として、9th『金剛九尾』(2009)を取り上げたい。結成時から9枚目は”九尾”のアルバムを作りたかったという瞬火氏だが、当人も「今までで最高傑作」に挙げる作品である。

ちなみに2009年9月9日にリリースされた9枚目のアルバムと言うのも出来過ぎである。

さてその内容であるが、陰陽座の音楽性が実にバラエティ豊かに発揮されつつ、それを1つのコンセプトの下、バランス良く配置された、凄まじいクオリティのアルバムだ。

1曲目はどっしりとしつつ美しい「獏」で始まり、これまでのアルバムタイトルが歌詞に込められているのも粋である。そのまま2曲目「蒼き独眼」へとなだれ込むのも、メタルの王道である。

「十六夜の雨」「小袖の手」など、良いメロディの佳曲が本作を下支えしているのもポイントだ。

名バラード「慟哭」や、まるでGary Mooreのような泣きのブルースギターが聴ける「挽歌」など、実に多彩な楽曲が聴ける。

そして本作のハイライト「組曲「九尾」」は、ポップ→ドゥーム→スラッシュという変化球の流れも非常に面白い。

これ以降の陰陽座の流れを予感させつつ、それまでの陰陽座の音楽性を総括する内容ともなっている。陰陽座を代表するアルバムと言っても良い、充実のアルバムが『金剛九尾』と言って良いだろう。

変貌期:13th『迦陵頻伽』(2016)

”成長期”後半より導入されたダウンチューニングにより、ハードロックなサウンドからより現代的なメタルのサウンドへと、少しずつ変化を始めていた。

全編レギュラーチューニングにする、とあえて決めた11th『風神界逅』を最後に、メインはダウンチューニングへと移行していった。

そしてサウンド面で決定的に変貌した印象がある作品が、13th『迦陵頻伽』であった。

これまでは、バンドによるシンプルなアレンジに時折キーボードなどが味付け的に加わるサウンドだった。それが全編にわたってキーボードとバンドサウンドが融合する奥行きのあるサウンドになった。

あくまで主軸はバンドの音ではあるが、キーボードがより有機的に関わるようになり、キーボードも含めた鮮やかなサウンドが陰陽座サウンドになったのである。

そうしたサウンドにはレギュラーチューニングのロックンロールな響きよりも、ダウンチューニングを用いた重厚な響きの方が相性が良かったのかもしれない。

さらには7弦ギター(および5弦ベース)が用いられるのも新たな試みであり、よりエクストリームな雰囲気を漂わせることに成功している。

これまでのある意味古き良きメタルサウンドから、重厚で豊かな現代的サウンドへと変貌したため、現在に至るまでの時期を”変貌期”と名付けた。

”変貌期”に該当する作品はまだ少ないが、そのきっかけともなった13th『迦陵頻伽』(2016)をおすすめしたい。

瞬火氏いわく「17年間の活動の中、ずっと卵の中に居た『黒猫』という名の迦陵頻伽が孵化する作品」と述べ、黒猫氏のボーカルの魅力を最大限に引き出した作品のようである。

確かにその通りに、黒猫氏のボーカルが引き立つように、ヘヴィなサウンドは後ろ支えに回り、メロディや楽曲のタイプがバラエティ豊かになっている印象がある。

「鸞」「熾天の隻翼」など王道メタルはもちろん、「刃」「轆轤首」のようなポップセンス溢れる楽曲やダークな大作「人魚の檻」にバラード「絡新婦」など多彩な楽曲が聴きどころ満載だ。

個人的にはゴリゴリのメタルで押す陰陽座よりも、瞬火氏の音楽の引き出しが存分に活かされる、本作のような音楽性豊かな作品が好みである。

そして幅広い音楽性を、見事に筋の通ったサウンドと世界観でまとめ上げているところも、長年培ってきた経験と技術のなせる技であろう。

「愛する者よ、死に候え」は「甲賀忍法帖」と対になる曲で、7弦ギターも用いられている。サビは瞬火氏が歌い、黒猫氏のコーラスが非常に美しく響く。

この「愛する者よ、死に候え」がサウンド面、曲の雰囲気含め、現在の陰陽座を象徴しているようにも思える。

ヘヴィメタルを基調にしつつも、それにとらわれ過ぎず、陰陽座の世界観をより伝えるための豊かなサウンドが構築されているように思える。

ハードロック、もっと言えばロックンロールな要素があった初期に比べると、より現代的なヘヴィメタルの要素が強まったとも言えるだろう。

まとめ

”妖怪ヘヴィメタルバンド”陰陽座を初めて聴く人におすすめのアルバムを紹介した。

ベストアルバムは初期の代表曲を集めた『陰陽珠玉』が素晴らしいベストなので、こちらから入るのもおすすめである。

そして今回紹介したオリジナルアルバム3枚については、どれから聴いても良いが、たとえば新しいものから『迦陵頻伽』『金剛九尾』『鳳翼麟瞳』と遡って聴いてみるのも面白いかもしれない。

陰陽座の音楽性や世界観は結成した時からブレていない。瞬火氏は何作も先の構想を考えていると言うから、彼の頭の中に思い描く陰陽座絵巻が実に広大に広がっていることが分かる。

一方でミュージシャンとして、バンドとしては、確実に進化を遂げており、サウンドやアレンジ面などでは変化を感じ取ることができる。

それによってどの時代が好き、という好みが出てくるだろう。今回紹介したアルバムを聴いた上で、好きな時代から楽しんでいただければと思う。

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