【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第14回:爆風スランプ 破天荒でポップ、笑えて泣ける楽曲

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歴史の長いバンドは、必ずと言っていいほど「何から聴けば良いのか?」問題が出てくる。

そこで初めて聴く人向けに、最初に聴くのにおすすめのアルバムを紹介するシリーズ記事を書いている。

これまで13回の記事を書いており、国内外のベテランミュージシャンを多く取り上げてきた。第14回は、1980年代~90年代にかけて活動したユニークなバンド、爆風スランプを取り上げる。

爆風スランプと言えば、一般には「Runner」「大きな玉ねぎの下で」など熱く、そしてほろ苦い青春ソングを歌うバンド、と思われているかもしれない。

確かにそれは爆風スランプの一側面ではあるが、アルバムにまで広げて聴いていけば、その音楽性は実に多様かつ独特なものであることが分かる。

そして実は過小評価ではないかと思われるほど、とりわけ初期を中心に高い音楽性を有しているバンドであった。多様な音楽性ゆえ、いくつかの要素からおすすめのアルバムを紹介したい。

前回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第13回:Prefab Sprout 絶対外せない3枚の名盤

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爆風スランプについて

まずは爆風スランプがどのようなバンドなのか、そして活動の歴史を簡単に振り返りたい。爆風スランプは1981年に結成、1984年にデビューしたロックバンドである。

爆風銃(バップガン)のメンバーであったファンキー末吉(ドラム)と江川ほーじん(ベース)、スーパースランプのサンプラザ中野(ボーカル)とパッパラー河合(ギター)の4人で結成される。

なお前者のバンドがヤマハ音楽振興会主催のバンドコンテストであるEastWest(1981年)の最優秀グランプリ、後者が優秀グループ賞を受賞している。

爆風銃がファンクバンドであったことから、爆風スランプもファンク色のある楽曲が多いが、パッパラー河合によるハードロック、プログレを思わせる楽曲もあり、多彩な音楽性を有するバンドである。

1984年にシングル『週刊東京『少女A』』、アルバム『よい』でデビュー。デビュー当時は過激なパフォーマンスで、いわゆる色物バンド・コミックバンドの見方が強かったと言う。

実際に1985年に『夜のヒットスタジオ』に出演時も、火を使ったパフォーマンスやスタジオ内を自由に歩き回るなど、大暴れしていたと言うエピソードがある。

1985年12月には初めての日本武道館公演を果たす。

1984年に九段会館でライブを行った後、中野氏がトイレの窓から武道館を見て「あそこでライブをしたい」と思っていたら、レコード会社から「来年武道館を予約した」というエピソードがある。

自分たちの日本武道館公演の客席が埋まる訳がない、埋まらないのは誘ったペンフレンドの女の子が来てくれなかったから、という歌詞の「大きな玉ねぎの下で」が代表曲の1つとなる。

初期の爆風スランプは破天荒ながらも、強力なリズムセクションを軸に硬派な演奏を見せる、玄人向けのバンドであったように筆者には思える。

1986年にプロデューサーとして新田一郎を迎え、売れる方向性で活動をシフトする。これに反発した江川ほーじんは脱退を決意することとなる。

去っていく江川氏の姿を歌詞にした楽曲『Runner』を1988年10月にリリース。同曲で1988年の第39回NHK紅白歌合戦に出場する。

1989年1月9日の日本武道館公演をもって江川氏が脱退。ベーシスト不在の期間は親交のあるバンドのベーシストがサポートを務め、TOPSの和佐田達彦バーベQ和佐田)が正式メンバーとして加わった。

月光」「リゾ・ラバ」などポップな作風の楽曲でヒットを連発し、ポップで時にコミカルに、時にシリアスで泣ける楽曲を作るバンドとして知名度を上げていた。

1989年に初冠番組「爆風スランプのお店(爆店)」などを持つものの、メンバーの疲労が蓄積し、それぞれが海外に出向いて長期休暇を取ることとなった。

長期休暇後の作品の売れ行きは芳しくなく、音楽性もこれまでのような破天荒さ、青春ソングのような分かりやすい軸を見いだせない状態が続いていた。

そんな中で1995年に映画『ガメラ 大怪獣空中決戦』の主題歌として制作された『神話』がオリコン8位のヒット。

また1996年にはテレビ番組『進め!電波少年』の「猿岩石ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」の応援歌として作られた「旅人よ 〜The Longest Journey」がオリコン8位を記録している。

活動後期は単発のヒット曲はあったものの、メンバーの個人活動も充実し始め、バンド自体の輝きは失われつつあった。

バンドは1999年に活動休止となっており、解散はしていない。その後は2004年・2005年・2007年・2010年に復活を果たしている。

2023年現在は活動に関する情報はなく、継続的な活動は行われていない。

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”はじめて”のベストアルバム

爆風スランプの活動を振り返ってみたが、実に様々なタイプの楽曲がある。そして時期によっても曲調が結構異なるのが特徴だ。

時期ごとのおすすめアルバムは次に書くとして、ここではまずベストアルバムを紹介しよう。

毎度のことながら、オリジナルアルバムを軸に考えているので、正直なところベスト盤はあまりおすすめしない。

ベスト盤がおすすめなのは、「Runner」「大きな玉ねぎの下で」「リゾ・ラバ」などの代表曲だけ聴きたいライトファン層、あるいはアルバム未収録曲を集めたいマニア層のいずれかである。

両者にとっておすすめのアルバムは、2009年リリースの2枚組ベスト盤『GOLDEN☆BEST 爆風スランプ ALL SINGLES』である。

アルバム未収録の「らくだ」「涙2 (LOVEヴァージョン)」などのためにシングル曲が網羅されたベストになる。

概ね代表曲が収録されているが、「大きな玉ねぎの下で」はオリジナルアルバムバージョンではなく、リメイクの方であるためご注意いただきたい。

(リメイク版『大きな玉ねぎの下で 〜はるかなる想い』はバンド演奏ではなく、バラードアレンジである)

ただ今回の記事では活動後期の作品を扱わない関係で、「神話」「旅人よ 〜The Longest Journey」など後期の代表曲を聴く意味ではおすすめできる点もある。

”はじめて”のオリジナルアルバム

爆風スランプのおすすめのアルバムについて、これも毎度ながら、1枚に絞るのはとても難しい。そのため音楽ジャンルに分けて3枚のアルバムを紹介することにした。

はじめて聴くひとにおすすめしたいのは、まず15年間の活動時期の中で、いわゆる初期~中期のアルバムに限られる。

具体的には1st『よい』(1984年)~6th『I.B.W.』(1989年)までのアルバムである。バンドの歴史的には、メンバーが長期休暇に入る前までのアルバムだ。

その理由は、アルバム全体の楽曲のクオリティが高いのがこの時期までである。単発では良い曲もあるのだが、7thアルバム以降はトータル感でおすすめできる作品が思いつかない。

爆風スランプの名盤は、ポップさと奇抜さ、笑える・泣ける要素のバランスが絶妙であり、かつその作品を貫く音楽性のようなものが固まった作品である、と筆者は考える。

なお6thまでの作品はどれもおすすめだが、中でも3つの音楽性に分けて3枚を選んだ。

やんちゃな爆風スランプ:2ndアルバム『しあわせ』(1985)

爆風スランプ最初期の2作『よい』『しあわせ』の2枚は、破天荒なパフォーマンスとともに、楽曲自体も奇抜で、”やんちゃな”感じが伝わってくる作品群だ。

ライブなどで披露される曲が多いのは1stの『よい』ではあるが、アルバムのトータル感で1つの到達点となっているのが2ndアルバム『しあわせ』である。

1stアルバムの破天荒さを引き継ぎながらも、後の爆風スランプの主軸となる”青春”のテーマや、泣けるメロディなどが登場し、作品の彩りが豊かになっている

1stの流れを汲む「来たぜ!!」「青春りっしんべん」などのコミカルな楽曲から、爆風のバラードの代表曲「大きな玉ねぎの下で」まで実に幅広い。

さらには江川氏や末吉氏のファンキーなビートが登場し始め、「The Good Bye」「えらいこっちゃ」などで、切れ味のあるリズムを楽しむことができる。

隠れた名曲として、和風の超絶打ち込みソング「1800」があり、爆風スランプの音楽性の高さを十分に感じられるアルバムだ。

若くやんちゃな部分を見せつつ、音楽性の高さも感じられる点で素晴らしい。そして全体を通じて、流れるような曲順であっという間に聴き通すことができるのも名盤たるポイントである。

ファンクな爆風スランプ:4thアルバム『Jungle』(1987)

破天荒なコミックバンド的なイメージから、少しずつ路線変更されていく時代のアルバムである。江川ほーじん・ファンキー末吉による強力なリズム隊によるファンク色が強い作品だ。

個人的には爆風スランプの最高傑作だと思っている名盤である。前半にファンク色の強い楽曲を固め、中盤から後半では歌モノ、そして初期爆風らしい痛快な楽曲まで、全く隙がない。

まず「THE TSURAI」「星空ダイヤモンド」で強力なファンクを聴かせてくれる。演奏のクオリティも高く、ブラスアレンジも加わり、サウンド的な充実度も随一であろう。

中盤の「夕焼け物語」は本作のハイライトの1つ。ファンクっぽいリズムを前半から引き継ぎつつも、爆風スランプのテーマの1つである”青春”を見事に描いた、泣ける1曲だ。

「スーパーラップX」で超絶プログレを展開した勢いのまま、「映画通り」で再びファンクに戻ってくる流れも素晴らしい。

「愛がいそいでる」でしっとりとバラードを聴かせた後は、「東の島にブタがいたVol.3」で賑やかにアルバムを締める。

とにかく一切捨て曲なしのクオリティに加え、アルバムトータルのまとまりや流れも文句のつけようがない名盤である。

本作に似た作風が他のアルバムにはないのが爆風スランプの特徴でもある。この後のポップ路線に向かう途上で生まれた、奇跡のようなアルバムだ。

ポップな爆風スランプ:6thアルバム『I.B.W.』(1989)

1988年に「Runner」がヒットし、ブレイクを果たしつつあった中で、ベースの江川氏が脱退。1989年にバーベQ和佐田氏が加入して初のアルバムが本作である。

メンバーチェンジして最初のアルバムはたいていしっくり来なかったりするのだが、本作は全体のバランスも良く、楽曲も粒ぞろいの名盤である。

5th『HIGH LANDER』と基本は同じ作風でどちらを挙げるか非常に迷ったが、本作は新体制によるバンドの活気とでも言おうか、勢いを感じるアルバムになっている

アルバム1曲目は意外にも美しいバラード「泳ぐ人のバラード」で始まり、「I.B.W.-It’s a beautiful world-」で一気に攻撃的なモードに入っていく流れが面白い。

「I.B.W.-It’s a beautiful world-」は江川氏在籍時のようなファンクっぽいビートを使いつつも、あえてバンドだけのシンプルなサウンドである。

中盤は「満月電車」「完敗」などポップな楽曲で耳馴染みやすいメロディが並ぶ。そして後半はアマチュア時代の楽曲を並べ、ファンクな爆風が顔を覗かせる。

隠れ名曲「KASHIWAマイ・ラブ〜ユーミンを聞きながら〜」に、ヒット曲「リゾ・ラバ -Resort Lovers-」、泣ける青春ソング「それから」の流れも、本作の聴きどころの1つ。

個人的には「大きな玉ねぎの下で 〜はるかなる想い」はなくても良かった気もするが、爆風スランプの魅力をとにかく詰め込もうと言う勢いを感じる。

これ以降、爆風スランプはまとまりがなくなっていくのだが、本作だけはメンバーチェンジ後の作品で初期に負けず劣らず名盤に仕上がっている。

まとめ

今回はユニークなロックバンド、爆風スランプのおすすめアルバムを紹介した。

筆者としては、1st『よい』~6th『I.B.W.』までの6枚のアルバムをおすすめしており、中でも2nd『しあわせ』、4th『Jungle』、6ht『I.B.W.』の3枚を紹介した。

爆風スランプのアルバム、と言う点からは、「破天荒でポップ、笑えて泣ける」という一見矛盾する要素が、上手くアルバムの中でまとまっている作品が優れていると感じている。

今回紹介した3枚は、爆風スランプの歴史の中でも、そういったバランス感覚に抜群に長けた作品と言うことである。

爆風スランプは個々の楽曲が注目されることが多いが、改めて今回取り上げた作品を聴き返すと、実はアルバム単位でも優れた作品が多いことがよく分かった。

現時点(2023年10月時点)ではバンドとして目立った活動はないが、改めて爆風スランプと言うバンドの凄さが再評価する時期が来ても良いのではないか、と思っている。

若い世代の人にとっては、新たに知るバンドになるだろうが、いまだに色あせない楽曲たちが新たに聴かれることが増えたらとても嬉しい。

今回紹介した初心者におすすめの爆風スランプのアルバム3枚

・2nd『しあわせ』(1985)

・4th『Jungle』(1987)

・6th『I.B.W.』(1989)

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