【エレファントカシマシ】大ヒット曲「今宵の月のように」の魅力とは? – コード進行と宮本浩次のボーカルから考える

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1曲に焦点を当てて紹介する「自部屋に流れるあの歌」のコーナー、vol.3となる今回はエレファントカシマシ最大のヒット曲「今宵の月のように」を取り上げる。

1997年にフジテレビのドラマ『月の輝く夜だから』の主題歌としてリリースされ、80万枚を超える大ヒットとなった

その後は大きなヒットがなかったことで、「今宵の月のように」の”一発屋”バンドのイメージを持たれていた時期もあった。

今でこそ、2007年の「俺たちの明日」での再注目、2017年での紅白歌合戦出場、そして宮本浩次のソロ活動のブレイクなど、エレカシの名前は多くの人が知ることとなっている。

エレカシの楽曲をその時々の”点”で聴いている人と、エレカシの歴史の中で”線”で聴いている人(つまりエレカシファン)では、実は随分と楽曲のイメージが異なるのではないか、と思う。

筆者は後者の人間であり、「今宵の月のように」も、この曲だけ聴いている人には、なかなか伝わっていない魅力があるのではないか、と感じているところである。

来年でエレカシのデビュー35周年、そして今年は「今宵の月のように」25周年を記念し、「今宵の月のように」の魅力について、エレカシと言うバンド、宮本浩次と言うボーカルから紐解いてみたい。

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「今宵の月のように」について

最初に「今宵の月のように」の楽曲としての情報についてまとめておこう。

楽曲の概要、そして「今宵の月のように」が収録されているエレファントカシマシのアルバムについても紹介している。

楽曲の概要

  • 作詞・作曲:宮本浩次、編曲:宮本浩次、佐久間正英
  • 時間:
  • 初収録シングル:15thシングル『今宵の月のように』(1997年7月30日)
  • 最高順位:週間8位(オリコン)

エレファントカシマシが1997年7月30日に15枚目のシングルとしてリリースされたのが「今宵の月のように」である。

エレファントカシマシ最大のヒット曲であり、この曲によって世間一般にも認知されているバンドとなった。

フジテレビ系ドラマ『月の輝く夜だから』のプロデューサーに依頼されて書き下ろした楽曲であった。エレカシとしては初のドラマ主題歌のタイアップだった。

宮本氏は「ドラマなんて絶対に見ない」と言いながら、放映時間になるとしっかり見ていた、というエピソードはファンの間では有名である。

この曲によりエレファントカシマシが知られることになるとともに、宮本氏の個性的なトーク・髪をぐしゃぐしゃにする仕草が、テレビで人気となり、一時期テレビ出演が多くなる。

しかし2002年頃から、”面白いキャラクター”がテレビで定着したことの反省から、テレビ出演は激減。

それにより、エレカシは一般的には「今宵の月のように」の”一発屋”バンドと捉えられていた節があった。

2007年にユニバーサルミュージックに移籍後は、『俺たちの明日』をリリースし、再び「今宵の月のように」のようなポップなエレカシに回帰する。

40代に突入して再び黄金期に入ったことで、世間からの注目を集めることとなる。

2017年に結成30年を記念したベスト盤『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』をリリースし、年末の第68回NHK紅白歌合戦に初出場し「今宵の月のように」を披露した。

収録作品

「今宵の月のように」が収録されているエレファントカシマシのアルバムを紹介しておきたい。

「今宵の月のように」にはバージョン違いは存在しない。どの音源を聴いても、同じ演奏であるため、新しい音源の方が音質が良いため、おすすめである。

カバーも多数存在するが、この楽曲については、カバーはあまりおすすめしない。その理由は次項で述べることとする。

9thアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)

「今宵の月のように」を収録した1997年のオリジナルアルバム。黄金期のエレカシで、名曲が多数収録された名盤として知られている。

シングル『今宵の月のように』のカップリング曲「赤い薔薇」や、「風に吹かれて」などポップで聞きやすいエレカシのアルバムである。

「今宵の月のように」はアルバムラストに配置されている。

ベストアルバム『sweet memory〜エレカシ青春セレクション〜』(2000)

”青春”をテーマに選ばれたベストアルバム。ほぼポニーキャニオン時代の楽曲と、一部東芝EMIの時期の楽曲が含まれる。

アルバム未収録の「sweet memory」やシングルバージョンの「悲しみの果て」など、一部レアな音源も収録されている。

ベストアルバム『エレファントカシマシ SINGLES1988-2001』(2002)

デビューから2001年までのシングル曲を網羅したベストアルバム。「ふわふわ」「真夜中のヒーロー」「孤独な太陽」など、アルバム未収録曲もここで聴くことができる。

なおカップリング曲は収録されていない。

ベストアルバム『エレカシ 自選作品集 PONY CANYON 浪漫記』(2009)

2009年にエピックソニー、ポニーキャニオン、東芝EMIの各時期のベストがリリースされた。自ら選んだ楽曲で、ポニーキャニオン時代の名曲をたっぷり聴けるアルバム。

未発表曲「きみの面影だけ」を収録している。

ベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』(2017)

結成30周年を記念したオールタイムベスト。2枚組で、”Mellow & Shout”と”Roll & Spirit”というそれぞれのコンセプトで選曲されている。

現時点(2022年)では、「今宵の月のように」が収録されている最も新しい音源である。

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「今宵の月のように」の魅力をコード進行とボーカルから考える

ここからエレファントカシマシの「今宵の月のように」の魅力を、さらに深く掘り下げてみたい。

歌詞や世界観を取り上げた記事は散見されるため、この記事では”コード進行”と”ボーカル”の2つの側面から分析してみようと思う。

コード進行に関しては、楽器をやったことのある人向けの内容も含まれるが、できるだけわかりやすく書くよう努めた。

コード進行から見る「今宵の月のように」の特徴

「今宵の月のように」のコード進行から、楽曲の魅力を語ってみたい。まずこの曲には、宮本浩次らしいコードの展開が詰まっていることがわかる。

冒頭から始まるサビの進行のベースには、「悲しみの果て」などの、宮本氏お気に入りの進行が使われている。

具体的には、G→B7から始まるサビであり、他にも「はじまりは今」「普通の日々」「俺たちの明日」「」「愛すべき今日」など、エレカシの定番の進行である。

毎度おなじみの展開ということもできるが、宮本氏が心地好く歌うことのできる展開、ということでもあるのだろう。

またBメロはやや地味に聞こえるが、これも宮本氏のお気に入りの進行のようである。

少々マニアックな話になるが、ギターでコードを押さえる際に、宮本氏は「セーハ」と言って人差し指で全ての弦を押さえて、和音を弾く押さえ方をする。

押さえるのは大変だが、1つ押さえ方を覚えると、フレット移動だけで簡単にコードを弾くことができる。

この「セーハ」を使うと、Bメロのコード進行は、7フレットから5フレットへと綺麗に移動する形になる。

具体的にはB7→Em→A→Dの進行だから、7フレットでB7→Em、5フレットでA→Dという具合である。

さらに言えば、このコード進行も宮本氏が癖のように使う進行であり、のちに「甘き絶望」ではサビとして使われている。

不思議と哀愁の漂うコード進行であり、Bメロでこの進行を使うことで、やや陰りのあるムードを漂わせている

そしてサビに向かうと、哀愁のある雰囲気は引き継ぎつつ、やや陽のパワーが強いコード使いになっていくのである。

一方で、Aメロはあまりエレカシでは登場しない展開だ。ポップスでは王道のクリシェの進行である。

クリシェは、同じコードの中で、構成音を半音ずつ下げていく進行である。「今宵の月のように」ではGから半音ずつさがりE7へ、そしてAmから再び半音ずつ下がっていく進行だ。

一般的には”泣き”の要素として使われる進行であり、ここぞというサビで使われたりする。しかしこの曲では、歌の導入であるAメロで使われている。

そして乗せられるメロディは、どこか牧歌的なムードも感じさせる。でもクリシェの進行ゆえに、やはりどことなく哀愁の漂う、それでいて穏やかな雰囲気である。

このようにAメロ、Bメロ、サビと並べてみると、穏やかな雰囲気から始まり、一度悲しみの方向に下がって、そこから陽のパワーに上がる、という展開になっていることがわかる。

だからこそBメロまでの展開があるからこそ、サビが明るい展開に聞こえるのである。

しかし全編を通じて、そこはかとない哀愁が漂っており、サビにおいてもそれは変わらない。これこそ「今宵の月のように」の魅力そのものと言ってもよいだろう。

そして曲中の緩急、ムードの盛り上げ方がエレカシの楽曲の中でも、最も構築された部類の楽曲と言えるだろう。

こうした要素もヒットした要因の1つではなかろうか、と考えた。

「今宵の月のように」の頃の宮本氏のボーカルの特徴

「今宵の月のように」の魅力は、やはり宮本浩次がボーカルをとってこそ輝く、と筆者は考える。それだけ、この曲は”歌い方”も重要な要因なのである。

この時期の宮本氏の歌い方を見てみると、初期のぶっきらぼうな歌い方の名残を感じさせるような歌唱である。

どこか吐き捨てるような歌い方が、この曲の雰囲気と見事にマッチしているように思える。

「今宵の月のように」はとても綺麗なメロディラインである。それゆえ、つい流麗な歌い方で美しく歌いたい、と思ってしまいそうだが、それでは雰囲気が出ない。

多くのカバーがなされてきた楽曲ではあるが、どうしてもプロの人が歌えば、その上手さが前面に出てしまうのは当然のことである。

しかしその上手さを殊更に感じさせない歌唱をしているのが、この曲のポイントである。だからこそ、カバーでなかなかしっくり来るものがないのは、そのためだと思っている。

この時期の宮本氏の歌唱について、詳しく見てみよう。

初期のエレカシは、かなり荒削りのロックを鳴らすバンドで、一部のファンにはカルト的人気を誇っていた。在籍していたレーベルから、”エピックソニー期”と言われる。

エピックソニーとの契約が切れた後、1996年の『ココロに花を』でポップな楽曲に路線変更している。

しかしこの時の楽曲は、エピックソニー時の叫ぶような歌い方を、まだ我慢しているかのような、エネルギーが溜まっているかのようなボーカルである。

この抑えた衝動性は「孤独な旅人」で顕著である。

後半で若干のシャウトが登場し、懸命に荒々しくならないように抑えている。

しかしMVでは花を引きちぎり、花壇ごと蹴飛ばし、シャツのボタンを破壊するパフォーマンスを行っており、やはり初期の衝動性が抑圧されていることを象徴するかのようである。

逆に「今宵の月のように」より後の、1998年の「はじまりは今」では、どことなく力が抜けたような、衝動性をあまり感じさせない歌唱へと変化している。

そしてレーベルを東芝EMIに移籍してからは、歌唱が細やかになり、初期の荒々しさはますます影をひそめるようになっていく。

「今宵の月のように」の頃の宮本氏の歌唱は、まだ朴訥とした雰囲気と初期の荒々しさの名残を感じさせつつ、落ち着いた歌唱に移行する途上の段階であった。

そうした”未完成”ながら、味わい深い歌唱が、この曲の雰囲気とちょうどマッチしたのである。

それゆえ、この曲の雰囲気を歌える人は宮本浩次ただ1人であり、今の宮本氏が歌ってもまた違った印象に聞こえるのである。

エレカシの歴史における「今宵の月のように」 – エピック期からの集大成

最後に、エレファントカシマシの歴史を振り返った時に、「今宵の月のように」という楽曲の持つ意味について考察して、本記事を締めくくりたい。

「今宵の月のように」を”点”で見たときには、80万枚を記録するヒット曲として存在する。

一方、エレカシの歴史から見ると、宮本氏の作るポップなメロディが最も良い形で結実したもの、と言えるのではないか。

1996年以降のポップな路線変更は、当初エピックソニー時代とのギャップからぎこちなさもあった。

しかし、もともと宮本氏が持っているポップな作曲センスが、『ココロに花を』を経て違和感なくアウトプットできるようになってきた感がある。

1997年には「明日に向かって走れ」「戦う男」と、立て続けにパワフルでキャッチーな楽曲をリリースしている。

しかしその変化は、さらに遡れば、1994年の『東京の空』において、宮本氏がプロデュースするという、制作においても宮本氏の”総合司会”ぶりが発揮される形になってから、である。

混沌としていたエピック期だったが、『東京の空』のライナーノーツで渋谷陽一氏が書いている通り、エレカシがもともと持つ社会に対する違和感を、ポップな形でアウトプットできた作品となった。

違和感や攻撃性と言う形でのアウトプットは、ポニーキャニオン時代には影を潜めることになるが、歌唱スタイルで触れたように、静かに秘めた怒りのような歌い方が残り続けた。

ポニーキャニオン時代のエレカシは、美しいメロディの中にどこか鋭利な刃物のような切れ味と、ロック風味を感じさせる。

そしてどことなく漂う哀愁もまた、エピック時代の持つ攻撃性や内省的な世界観を、引き継いでいた時期のように思える。

『東京の空』でやりたかった世界観は、ポニーキャニオンに移籍してからのポップなアウトプットの試行錯誤を経て、「今宵の月のように」で結実していると、筆者には思える。

その後、東芝EMIに移籍してからのエレカシは、「ガストロンジャー」で再びロック路線に戻りつつ、エピックソニー~ポニーキャニオン時代の、わかりやすい攻撃性や哀愁とは異なるものとなる。

東芝EMI期のエレカシは、どこかアンニュイさがあり、洋楽テイストがさらに強まり、渋いロックへと移行した。

EMI期以降のエレカシは、ポニーキャニオンまでの一種の”青春時代”とも言える若さを感じさせるものから、大人になっていく過程だったのではないか、と思う。

逆に言えば、青年としての若さ溢れるエレカシ・宮本浩次最後の時期の楽曲が「今宵の月のように」だったのかもしれない。

エレファントカシマシがデビューし、苦悶のエピックソニー期を経て、起死回生のポニーキャニオン時代、そして自身最大のヒット曲が、バンドにとっても1つの到達点だったのだと思う。

まさに名実ともに、エレファントカシマシを代表する楽曲が「今宵の月のように」ということになるだろう。

リリースから25年、改めてこの曲を聴き直すとともに、エレカシの歴史や楽曲の成り立ちから、堪能してみるのも良いのではないか。

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