【聖飢魔Ⅱ】エース清水長官の”エース節”と呼ばれる魅力について – 楽曲とギタープレイから探る

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聖飢魔Ⅱ
画像出典:Amazon

日本のヘヴィメタルバンド聖飢魔Ⅱは、1999年の解散後も周年ごとに再結集し、2023年の「聖飢魔Ⅱ期間再延長再集結『35++執念の大黒ミサツアーFINAL』」で再び解散した。

35周年再集結での話題として、25周年以降は活動に参加していなかったエース清水長官が16年ぶりに(ヴィデオ黒ミサの一部楽曲限定ながら)ツアー参加することであった。

エース清水長官は、本活動中にギタリストとして、そして楽曲制作者としても、その個性を遺憾なく発揮しており、信者からは”エース節”とも言われて高い評価を受けている。

初期は”イロモノ”と見られていた聖飢魔Ⅱを、高い音楽性を有するバンドに押し上げた立役者の1人がエース清水長官ではないか、と筆者は思っている。

そこで今回は聖飢魔Ⅱにおけるエース清水長官の魅力について、”エース節”と語られる特徴は何を指しているのか紐解きながら、楽曲やプレイの面から語っていきたい。

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聖飢魔Ⅱにおけるエース清水長官とその立ち位置

まず聖飢魔Ⅱにおけるエース清水長官について、在籍時期や立ち位置についてごく簡単に振り返っておきたい。

もともとエース清水長官は、1982年に初代ドラマーとして聖飢魔Ⅱに参加しており、1983年の悪魔事異動(メンバー交代)で一度脱退している。

1984年8月にギタリストとして復帰し、以降は1999年の解散までプレイ・楽曲制作を行っている。なお作曲については、1987年の『BIG TIME CHANGES』から長官の楽曲が収録されている。

(厳密には小教典『EL・DO・RA・DO』収録の「BURNING BLOOD」から)

なお聖飢魔Ⅱとして活動していた1993年にエース清水名義でソロアルバム『TIME AXIS』をリリース。本作でサウンドプロデュースを行った本田恭之(本田海月)とface to aceを結成。

2005年のデビュー20周年再集結に参加し、「これが最後」と公言して25周年以降は不参加となる。ただ2021年の35周年の期間限定再集結において、16年ぶりに限定的に参加することとなった。

エース清水長官は、聖飢魔Ⅱとしてのデビュー時から3rd『地獄より愛をこめて』までは、作曲には参加せず、ギタリストとしてのみプレイしていた。

初期は創設者であるダミアン浜田殿下(当時)の楽曲を収録し、3rd『地獄より愛をこめて』では作曲経験のあったジェイル大橋代官が主導権を握ってレコーディングを進めた。

しか当時はジェイル氏のイメージするものと、実際の聖飢魔Ⅱの間にはズレがあり、聖飢魔Ⅱを脱退することになった。

ジェイル氏とオーディションで選考を争ったルーク篁参謀が加入し、構成員全員が楽曲制作にかかわった『BIG TIME CHANGES』をリリースする。

ルーク篁氏がロックギタリスト然とした速弾きを得意としており、エース氏は別のところで自分のカラーを出さねばと思ったようで、徐々にエース氏の個性が表に出始めることとなる。

後に”エース節”と言われる個性が確立したのも、ルーク篁というギタリストとの対比の中で、より明確に打ち出されたものだったと言えるかもしれない。

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”エース節”と呼ばれるエース清水長官の魅力 – 楽曲とギタープレイから探る

さてここから、いよいよ本題である”エース節”と呼ばれる、エース清水長官の楽曲・ギタープレイの魅力について述べていくことにする。

エース清水長官の聖飢魔Ⅱにおける功績とは、聖飢魔Ⅱというバンドの音楽性の幅を大きく広げた点にあると考えている。

初期の聖飢魔Ⅱは、創設者であるダミアン浜田殿下(当時)による、おどろおどろしいヘヴィメタルのイメージが強烈にあった。

誤解を恐れずに言えば、非常にB級ハードロック・ヘヴィメタルの要素を持ったバンドであり、”カルト的人気を誇る”バンドで終わるはずだった。

しかし既に述べた通り、ジェイル大橋代官がそのイメージを崩す楽曲を作り、ジェイル氏脱退後は、新たな構成員により、1からまた音楽性を作り上げることとなった。

その中で1988年にエース氏が作曲した「STAINLESS NIGHT」で、ヘヴィメタルサウンドながら、これまでの聖飢魔Ⅱにはなかったシリアスな路線を作り上げることに成功した。

聖飢魔Ⅱの音楽はよりポピュラーな方向に進むこととなり、「白い奇蹟」での紅白歌合戦出場、1989年のベスト盤『WORST』がオリコン1位を獲得するまでとなった。

ヘヴィメタルの”おかしな”ところを逆手にとった聖飢魔Ⅱだが、エース氏はあえてヘヴィメタル的ではない音楽性を持ち込み、ヘヴィメタルらしからぬ悪魔バンドというユニークな個性を生み出した。

そうしたヘヴィメタルらしからぬ要素を取り出して”エース節”と呼ぶのではないか、と筆者は考える。

では具体的に”エース節”と呼ばれる、ヘヴィメタルらしからぬ要素を4つに分けて取り上げることとした。

しっとり味わい深いメロディラインを聴かせる楽曲

”エース節”の1つは、まず楽曲の特徴として挙げることができるように思う。それはしっとりと味わい深いメロディラインを聴かせるタイプの楽曲である。

ハードロック・ヘヴィメタルと言えば、燃えるようなパワフルな楽曲や速い曲、初期の聖飢魔Ⅱのようなおどろおどろしい楽曲が定番である。

しかしエース清水長官の作る楽曲には、湿り気のある味わい深いメロディの楽曲が多い。ハードロックの中にも、メロディアスハードと言うジャンルはあるが、それともまた一味違うものだ。

そうした路線の筆頭は、1988年に小教典としてリリースされた「STAINLESS NIGHT」であろう。

決して歌謡曲的な”クサい”感じはないのにポップであり、どこかヨーロピアンな湿り気を感じさせつつ、哀愁のある雰囲気は、当時の聖飢魔Ⅱにとっては斬新なものだったのだろう。

また1989年の「白い奇蹟」も、いわゆるロックバラードであるが、アメリカンな壮大さとは異なり、もっと耽美的で構築された芸術のような美しさがある。

やはり背景にクラシック、フュージョンなどの素養が見え隠れするものであり、ヘヴィメタルの範疇を飛び出すところに”エース節”が存在する。

信者の間では隠れ人気曲とも言えるのが、1987年の『BIG TIME CHANGES』収録の「ANGEL SMILE」である。

長官が歌う味わい深いこの曲は、アンニュイな前半から希望を感じさせる後半への流れが見事だ。後にソロ活動に繋がる楽曲とも言えるだろう。

活動後期の聖飢魔Ⅱでは長官カラーがやや薄くなるが、1998年の『MOVE』収録の「サクラちってサクラ咲いて」では、エース節が健在していることを示している。

様々なスケールを持ち込んだギタープレイ

そして”エース節”は何と言ってもギターソロに感じられるものである。

もともとはハードロック少年だったようだが、独学で音楽理論などを学び、様々なスケールに関する理論的な内容も押さえた上で、緻密にギターソロを作り上げるようだ。

そのため、いわゆるハードロック・ヘヴィメタルのギターソロとはかなり異質なものだ。速弾きが中心のルーク篁参謀や、ブルースの影響を感じさせるジェイル大橋代官とは対照的である。

ハードロック的な定番のフレーズではなく、コード進行に合わせて作られたメロディのようなソロ、そしてそこにクラシック・ジャズの素養を感じさせるフレーズを織り交ぜるのだ。

ハードロック・ヘヴィメタルのギターソロと言えば、炎のような熱さをイメージさせるが、長官がソロを弾くと、涼しげで爽やかな風が吹き抜けるかのような感覚に陥る。

もちろん長官の楽曲においては、それがばっちりハマるのであるが、全く合わなそうなダミアン浜田陛下の楽曲においても、見事に楽曲に合わせながらエース節を炸裂させている。

それが聖飢魔Ⅱの代表曲、1986年の「蝋人形の館」のソロである。

非常にハードでダークな雰囲気のリフで突き進む楽曲ながら、長官のソロが入ることで一気に格式高い楽曲になったかのようである。

ブルースの影響をあまり感じさせずに、どことない哀愁や泣きの要素を持ち込む。歪んだ音やパワフルで速いフレーズをあえて使わず、歌うようなギターソロこそ、エース節の真骨頂だ。

さらには1988年の『THE OUTER MISSION』収録の「RATSBANE」では、ルーク篁氏との掛け合いで、長官はジャズスケールのギターソロを弾きこなしており、引き出しの多さを感じさせる。

マイナーキーではない陽気なハードロック

長官の楽曲には、シリアスな曲調もありつつ、他の構成員にはない、陽気な雰囲気のメジャー調の楽曲も多い

ハードロック・ヘヴィメタルと言えば、鬼のような形相で顔をしかめながら歌うような楽曲の印象があるが、長官の楽曲は思わず笑顔になるような曲が多いのである。

たとえば1990年の『有害』収録の「精神の黒幕〜LIBIDO〜」は、シンプルなビートのヘヴィメタルながら、デーモン閣下と掛け合いのボーカルが美しくも楽しい雰囲気が漂っている。

ヘヴィメタルの持つ攻撃性は保ちつつも、長官の曲には”陽”のパワーが暑苦しくはなく、涼やかに吹き抜ける感じである。

楽しげな曲では1988年の『THE OUTER MISSION』収録の「RENDEZVOUS 60 MICRONS’」「LUNATIC PARTY」なども、エース節が炸裂していると思う。

エース節の魅力は、巧みなメジャーコードの活用にもあると言えそうだ。マイナーコードの印象が強いヘヴィメタルにおいて、やはりメタル以外のジャンルのコードワークを持ち込んでいる。

さらにはファンクを感じさせるものまであり、『有害』収録の「ファラオのように」などは、ゼノン石川和尚のスラップベースも素晴らしいファンクテイストの楽曲である。

フュージョンやAOR的なものなど洗練された音楽のコード感をヘヴィメタルの中に持ち込んだ画期的な音楽性を有しており、それが独特の明るさ・陽の印象をもたらしているように思う。

プログレ風味のシリアスな楽曲

あまり数が多くはないが、長官の楽曲にはプログレッシブロックの影響を感じさせる楽曲もいくつかある。

こうした楽曲は先ほどの陽気な雰囲気とは異なり、全体的に暗いシリアスなトーンで貫かれており、エース清水長官のまた違った側面を感じることができる。

とりわけプログレ風味が顕著な楽曲として、1988年の『THE OUTER MISSION』収録の「THE OUTER MISSION」がある。

変拍子のメインリフに導かれる独特の緊張感を保ちながら、宇宙的な広がりを持つサウンドは唯一無二の世界観である。

こうしたプログレ風味の曲は、1992年の『恐怖のレストラン』収録の「呪いのボンデージ」「人間狩り」などでも聴くことができる。

おどろおどろしいヘヴィメタルに回帰した本作においても、長官のプログレ風味の楽曲が入ることで、作品に広がりを持たせることに成功しているように思える。

ハード・ヘヴィな楽曲は他の構成員が得意とするところであるため、長官はロックの他の要素や、あるいはロック以外の要素を持ち込んでいる点がやはり個性であるように思える。

まとめ+エース節を堪能できる聖飢魔Ⅱの時期

今回の記事では、聖飢魔Ⅱでギターを担当したエース清水長官の魅力を紹介した。長官の功績としては、聖飢魔Ⅱの音楽性の幅を広げたことである、とまとめられるだろう。

とりわけ”エース節”と語られる楽曲やギタープレイの特徴は、一般的にイメージされるハードロック・ヘヴィメタル以外のジャンルから持ち込まれた要素を巧みに組み込んだ点であろう。

クラシックやジャズ、そしてAORやファンクと言った、いわゆる洗練された音楽や理論的に構築された要素を自らの解釈により、スリリングかつ攻撃的なヘヴィメタルに持ち込んだ。

洗練された音楽の要素を、ここまでヘヴィメタルの中に大胆に持ち込んだ点だけでも評価できるが、”イロモノ”のイメージがあった聖飢魔Ⅱというバンドに持ち込んだ点が非常にユニークと言えるだろう。

長官の楽曲は、『BIG TIME CHANGES』以降ずっと教典に入っている訳だが、”エース節”が際立つ時代というものがあるように思える。

聖飢魔Ⅱはジェイル大橋代官が『地獄より愛をこめて』の雰囲気を作ったように、特定のギタリストがアルバムの雰囲気を作っていく傾向があるように思う。

とりわけエース色が強いのは、『BIG TIME CHANGES』~『有害』(かろうじて『恐怖のレストラン』)の時代頃までではないか、と思う。

中でも『THE OUTER MISSION』はエース節をあらゆる面で感じられる作品として、筆者は最も好きな教典である。

1994年の『PONK!!』以降は、少しずつ聖飢魔Ⅱのバンドとしてのバランスが変化し、活動後期はSgt. ルーク篁III世参謀のカラーが強まっていくような印象がある。

一方で長官は1993年にソロ作品『TIME AXIS』において、既に後に自信が進む道を示しているかのような強力な作品を世に送り出している。

エース清水長官の個性もいよいよ独自路線へと舵を切り始める前の、1980年代後半~1990年代初めころの聖飢魔Ⅱにおいて、”エース節”を最も堪能できるのではなかろうか。

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