デビューから50年を超えるイギリスのBlack Sabbath。1970年代を中心に不気味かつヘビーなサウンドで、人気を博したバンドである。
今回はそんなBlack Sabbathの音楽性について掘り下げてみたい。
Black Sabbathは”ハードロック”バンドであるとともに、”ヘヴィメタルの祖”などと言われ、後のメタルシーンに多大な影響を与えたと言われる。
そこで個人的に気になるのが、Black Sabbathはハードロックなのか、ヘヴィメタルなのか?ということだ。
もちろん当時は”へヴィメタル”と言う認識は希薄だっただろうが、メタルと言うジャンルが確立している今、いったいどっちに近い音楽をやっていたのか、ということである。
そこでこの記事では、ハードロック全盛の1970年代、Black Sabbathがハードロックとへヴィメタルの狭間でどんな音楽をやっていたのか考察する。
音楽を聴くのにジャンル分けは気にしないかもしれない。しかしハードロック、へヴィメタルという似て非なるジャンルの歴史を紐解くことは、筆者としては大変興味深い。
そしてBlack Sabbathの音楽性を語ることは、ハードロックからヘヴィメタルへの歴史を理解する上で、極めて重要になりそうなのだ。
70年代ハードロックとBlack Sabbathについて
最初に70年代、つまりオジー・オズボーン在籍時のBlack Sabbathの歴史を簡単に振り返りたい。また70年代のハードロックの状況も、その中で触れておくことにしよう。
後半では筆者の考える、ハードロックとへヴィメタルの違いについても述べた。
70年代のBlack Sabbathについて
1970年代の前半がハードロックの全盛期とも言われ、今回取り上げる70年代のBlack Sabbathは、ボーカルにオジー・オズボーンが在籍した時期と重なる。
そもそもハードロックは、1960年代後半にブルースやロック、サイケデリックロックなどが融合して生まれたとも言われる。ジミ・ヘンドリックスやCreamなどは草分け的存在であった。
そして1968年にLed Zeppelinがデビューし、ブームに火が付く。
Black Sabbathがデビューしたのは、その2年後の1970年だった。同じ年、Deep Purpleは4th『Deep Purple in Rock』でハードロック路線に転向したところだった。
Black Sabbathは1970年2月13日に1st『Black Sabbath(黒い安息日)』でデビューしている。デビューした当時のメンバーは下記の通りだ。
- Ozzy Osbourne(ボーカル)
- Tony Iommi(ギター)
- Geezer Butler(ベース)
- Bill Ward(ドラムス)
ホラー映画のタイトルからとったバンド名に、「13日の金曜日」にデビューするなど、「怖がらせる音楽を作る」ことがバンドのコンセプトだったようだ。
同年リリースの2nd『Paranoid(パラノイド)』からシングルカットされた「Paranoid」がヒットする。アルバムも全英1位、全米12位と世界的なバンドへとのし上がっていく。
続く1971年3rd『Master of Reality(マスター・オブ・リアリティ)』は予約の段階でゴールドディスクを獲得。全英5位・全米8位という大ヒット作となった。
この頃から、1972年の4th『Black Sabbath Vol.4(ブラック・サバス4)』辺りにかけて、メンバー全員が酒やドラッグに溺れ、バンドの成功と裏腹に、メンバーの状態は良くなかったと言う。
しかし音楽界に目を向けるとハードロック全盛期であり、セールス的には好調が続いた。
ギターのTony Iommiがより前面に出るようになり、実験的な試みも行った5th『Sabbath Bloody Sabbath(血まみれの安息日)』もポップさを増しながら、ヒット作となった。
しかしトニーの意見が強くなり、バンド内の人間関係はさらに崩れた。1975年の6th『Sabotage(サボタージュ)』は、どこか統一感に欠け、バンドの不調を物語っているような作品だ。
オジーのアルコール問題のため、1977年についに解雇する。Dave Walkerを後任に迎えるも、バンドは上手くいかずオジーが復帰。
1978年に8th『Never Say Die!(ネヴァー・セイ・ダイ)』をリリースするも、売れ行きは芳しくなく、再びオジーが解雇されることとなった。
70年代後半にはパンクニューウェイブが流行したことで、既にハードロックのブームは下火でもあった。
そしてオジーが解雇された1979年、イギリスではIron MaidenらのNWOBHM(ニュー・ウェイブ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル)が登場し、時代はへヴィメタルへと移行していった。
ハードロックとヘビーメタルの違いは何か?
少し話はBlack Sabbathから離れるが、これまで述べたように70年代のハードロックブームから、80年代にかけてへヴィメタルが主流へと移り変わっていった。
ではハードロックとへヴィメタルの違いは何だろうか。これからBlack Sabbathについて書く際に、筆者がそれぞれのジャンルをどのように考えているのか述べておこう。
まずはハードロックであるが、ロックやブルース、サイケデリックロックなど、それ以前からあったジャンルを、とにかく激しく大きな音で鳴らしたのがハードロックだった。
その中でいくつか特徴的な点が出てきており、1つは歪んだ激しいギターサウンドである。そして”リフ”と呼ばれる繰り返しフレーズが印象的なジャンルである。
その他にもハイトーンのボーカル、ギターソロが必ず入る、などいくつか定番化したものがあった。
しかしハードロックの特徴の最たるものは、その自由なスタイルである。各々のバンドが持つ音楽的背景によって、どんなジャンルを”ハード”化するかが異なっていた。
例えばアメリカのMountainなど、ブルースをルーツに持つバンドは、ブルースの進行や土臭いサウンドが特徴的である。
一方でイギリスのUriah Heepは、ハモンドオルガンのサウンドが前面に出て、上品でクラシカルな雰囲気が漂うバンドであった。
同じハードロックと言う括りにあっても、とにかく様々なジャンルをハードロックにしていったバンドが群雄割拠していた、ということである。
一方のへヴィメタルは、ハードロックが持っていたヘビーなサウンド、それはリズム隊にしてもギターにしても、重たい部分をより先鋭化させたジャンル、と考えている。
また、ハードロックが共通して持っていた激しいギターサウンドやリフ主体の曲、シャウトするボーカルなどの特徴が、様式として固まったと言う点も特徴だ。
ハードロックがルーツミュージックをいかにロック的な解釈をするか、という試みだったのが、へヴィメタルは、出来上がった様式の中でいかにオリジナルなジャンルを生み出すか、という試みである。
またハードロックが持っていたアート性・芸術性の要素は後退し、むしろいかに攻撃的であるか、と言うことが重視されているように思える。
たとえばそれを速さに求めたのがスラッシュメタルであり、SlayerのようにBlack Sabbath的なダークな世界観を高速で演奏してみたのが、オリジナルな要素であった。
逆にどんどんヘビーな方向に行ったのがドゥームメタルなどである。
Cathedralなどドゥームメタルと言われたバンドは、こちらもBlack Sabbathの影響を受けつつ、さらにテンポを落としてヘビーにしている。
ここまでをまとめると、ハードロックとへヴィメタルの違いは、まず様式化の度合いである。ハードロックの中にあった音楽的様式が、へヴィメタルではさらに明確なものになった。
もう1つは、芸術性を重視するか、攻撃性を重視するか、という違いである。
ハードロックは激しさとともに、ルーツミュージックの持つバリエーション豊かな音楽性が反映されている。一方へヴィメタルは、重さや速さに特化し、攻撃性を高めたサウンドが特徴である。
※ハードロックとへヴィメタルの違いは、以下の記事でも書いている。
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