1970年代Black Sabbathはハードロックなのか、ヘヴィメタルなのか – 音楽的変遷の考察

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1970年代Black Sabbathはハードロックなのか、へヴィメタルなのか?

ここまで70年代Black Sabbathの歴史、そしてハードロック・へヴィメタルの違いを述べた。ようやく本題の、Black Sabbathはハードロックなのか、へヴィメタルなのか?についてである。

結論から言ってしまうと、へヴィメタルを作り上げた後にハードロックに戻った、と言う印象なのだ。

後にへヴィメタルと言われる音楽性を作った後に、そこに止まらなかったのである。ここではその変化をアルバム順に追いかけ、Black Sabbathの音楽性を掘り下げてみたい。

1st『Black Sabbath』~3rd『Master of Reality』 – へヴィメタル路線の確立

まず1st~3rdの3作を取り上げてみよう。この時期こそ、Black Sabbathが後にへヴィメタルと言われる音楽性を作った時期だと筆者は感じる。

デビュー作1st『Black Sabbath』は、1曲目「Black Sabbath」こそダークな雰囲気満載でドゥームメタルの趣があるが、全体的にはアイデンティティを模索しているような印象がある。

全体的にはまだ一般的なハードロックの範疇にあるような作品である。それは「The Warning」「Wicked World」など、どこかジャムセッション的な曲からも感じられる。

Black Sabbathらしさが表れるのが、やはり名盤と言われる2nd『Paranoid』であろう。

最も大きな特徴を挙げれば、執拗に1つのリフで押し進めていくスタイルである。最も有名な曲の1つである「Iron Man」は歌メロと同じフレーズのリフが数多く繰り返される。

そしてパワーコードをリフで多用し始めたのも本作からである。このパワーコードがメタルを彷彿させるものの1つだが、下記の記事ではパワーコードは東洋音楽的な物だと言う指摘もある。

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Black Sabbathにあまりクラシカルな要素がないのも、このパワーコードを多用することによるのかもしれない。

またサバスは急な展開があることも特徴だが、決して長々と展開しないのもまた特徴である。「Iron Man」でも唐突な展開があるものの、コンパクトにまとまっている。

分かりやすいリフの執拗な繰り返し、急な展開とコンパクトな曲。この辺りは、かなり後のヘヴィメタルに影響を与えているように思われる。

またアルバムトータルを見ても、1stにあったジャムセッション的な曲が減り、「War Pigs/Luke’s Wall」「Electric Funeral」などリフや展開がカチッと決まった曲が増えた。

ただしアルバム後半の「Rat Salad」「Jack the Stripper/Fairies Wear Boots」には、まだ1stの頃のジャム的な要素が残っている。

そして3rd『Master of Reality』で、この路線の頂点を迎える。しかもダウンチューニングを導入し、よりヘビーなサウンドが生まれている。

2ndでのリフを執拗に繰り返す手法は本作も引き継がれ、よりヘビーなサウンドによって異様なカタルシスを感じられる作品になっている。

特にヘビーさにおいては随一の作品で、ラストに配置された「Into the Void」はヘビーなリフの教科書のような楽曲である。

またヘビーなシャッフル調の「Children Of The Grave」は、スピード感+ヘビーな曲調で後の速いメタルに多大な影響を与えている。

さらに1曲目「Sweet Leaf」は、ドラッグをイメージさせる、どこか頽廃的な重さである。こういった曲調はへヴィメタルだけでなく、グランジのバンドなどにも多大な影響を与えたそうだ。

2ndがへヴィメタル的だとするなら、3rdはさらにスラッジストーナー的な要素を含んでおり、メタルの中でも様々な方向性への影響を与えていることが分かる。

このように1stから作品を進めるごとに、メタル的な要素が花開いた時期であることが分かる。つまり筆者がヘヴィメタルの特徴として挙げた、先鋭化の方向に進化した時期なのだ。

ここからは、どのような要素がヘヴィメタル的なのか、もう少し俯瞰的に整理してみたい。

まずは2ndで確立した、1つの分かりやすいリフを繰り返すことを軸にした点である。しかしこれだけでは、ハードロックの特徴としか言えなくもない。

何がメタル的に感じさせるかと言えば、彼らの曲にはあまり装飾的な要素がない点ではなかろうか。たとえば泣けるメロディや抒情的な展開など、派手な要素がないのだ。

愚直にリフを繰り返し、それを少し展開しながらまた元に戻る。飾るところがなく、ある種朴訥とした楽曲作りが、ヘヴィメタルの精神性に受け継がれているように思える。

しかし彼らがどこまでそれを意図してやっていたか、わからない。単に自分たちの個性に合った楽曲を作っただけだったのか、とも思える。

なぜならこの1970年~71年頃と言えば、まだハードロックが生まれて日が浅く、十分に様式化していたとは考えにくい。

そう考えれば、彼らとしてはオリジナルなハードロックを作っているつもりで、Black Sabbathの個性そのものがへヴィメタルと言うジャンルになっていった、だけかもしれない。

その証拠として、4th以降の作品では、この路線から離れていく。あくまで彼らにとっては、この方法論は通過点だったのだ。

逆に言えば、Black Sabbathの初期にあった個性こそヘヴィメタルそのものとも言える。

4th『Black Sabbath Vol.4』~5th『Sabbath Bloody Sabbath』 – アレンジの幅が広がりハードロック回帰

3rdで1つの頂点を極めたBlack Sabbathは、4th以降で少しずつ路線を変えていくことになる。その方向性は、むしろハードロックに回帰していくような道筋だった。

人気絶頂期にリリースされた4th『Black Sabbath Vol.4』では、前作までに比べると明るい曲調が増えている印象である。リフのヘビーさは変わらないが、曲全体に地を這うような重苦しさはない。

たとえば「Tomorrow’s Dream」「Supernaut」では、リフは重いが全体の雰囲気は明るさも感じられ、メジャーコードの中間部をさしはさむ変化も見られる。

さらに「Snowblind」など、ヘビーな中にもメロディアスなコード進行が挿入される点もこれまでとは異なる。

アルバム全体的に、楽曲のバリエーションを増やし、プログレ的要素すら感じられる。3rdに比べると先鋭化よりは、拡散する方向性の作品になった。

ドラッグの影響もあり、バンドの状態が悪い中、試行錯誤の末に完成したのが、5th『Sabbath Bloody Sabbath』であった。

5thでは前作以上にプログレッシブな方向性を打ち出し、YESのリック・ウェイクマンをゲストに迎えるなど、キーボードが導入されている。

作風としては前作のハードロック路線から、やや暗いトーンのへヴィメタルに揺り戻しがあった印象。3rdと4thの間くらいの作品、と評価する声もあるようだ。

一方でヘビーなリフの間に、美しいメロディラインを入れる展開が効果的に用いられているのが本作の特徴だ。「Sabbath Bloody Sabbath」や「Looking For Today」などで用いられる。

ヘビーな曲もありつつ、「Spiral Architect」のような明るい曲もあり、曲のバリエーションも適度にある。

曲のバリエーション・サウンドの作り込みなど、あらゆる点が絶妙なバランスでまとまっている。

この2作に共通する点は、1st~3rdで作り上げたサバス的メタルを乗り越えようとする、実験的精神性である。

4thはアルバム全体で多様な楽曲を含む意味での実験があり、一方で5thは曲調の統一感はありつつも、より叙情性を感じさせるアレンジが実験的であった。

面白い点は、初期で先鋭化であるへヴィメタル的精神性に向かったのに、4th・5thでは逆に拡散するハードロック的な態度へとシフトをしたことである。

そのためハードロック好きは4th・5thを高く評価し、メタル好きは2ndや3rdを評価する傾向にある気がする。

Black Sabbathはハードロックからへヴィメタルへの時代的な流れとは逆に、へヴィメタルからハードロックへ進んだように筆者は感じる。

こうした時代の流れと逆だったことからも、サバスは狙って初期の音楽性を作り上げたのではない気がする。

彼らが純粋にヘビーなサウンドを作り上げようとした結果、それが後にへヴィメタルと呼ばれたに過ぎない。

一方で4th以降は、徐々にトニー・アイオミが音楽的に先導する形になったようで、サウンド面での完成度を高める方向に進んだようだ。

結果的により洗練され、ヘビーなサウンドと美しい旋律の融合が図られ、これがハードロックあるいはプログレ的な雰囲気を感じさせるのである。

サバスは3rdまでの音楽性に満足することなく、次のステップに進み、またしても名盤を連発した。しかし絶妙なバランスで保たれていた音楽性も、この後に徐々に崩れていく。

6th『Sabotage』~8th『Never Say Die!』 – さらなる拡散により方向性を見失う

5th『Sabbath Bloody Sabbath』はヘビーさと実験性の間で奇跡的にバランスが保たれた作品となった。しかし6th以降はそのバランスが崩れ、さらに拡散の方向に進む。

6th『Sabotage』はチャート上位にランクインしたものの、徐々にこれまでのサバスの音楽性が崩れ始めた作品になっている。

初期の特徴であった1つのリフで押すスタイルは、本作では影を潜めている。代わりに「Megalomania」や「Supertzar」などプログレ的な作風が見られるようになった。

またリフが印象的な「Symptom Of The Universe」も、性急なビートと展開の多さは、明らかにこれまでのサバスとは毛色が異なる。

全体で見ると、1つのリフが前面に出るタイプの曲が大幅に減り、シンフォニックな展開の楽曲が増加した。その結果、オジーのボーカルの表情が豊かになっている点は面白い。

そして崩れ始めたバランスであるが、クラシカルに振れたサバスだと思って聴くと、なかなか興味深い作品とも言える。

続く7th『Technical Ecstasy』はオジーのアルコール問題もあり、バンドの状態はかなり悪かった時期の作品である。発売当時のセールスは、初めて英国でトップ10入りしなかった作品だった。

Black Sabbathは音楽的に幅を広げた作品を作ると、次は収束するという傾向があるようだ。本作は前作の散らかった印象に比べると、サウンド的にはまとまりを感じるものとなっている。

前作がシンフォニックなアレンジだったのが、バンドサウンドを軸にキーボードが目立つサウンドになっている。ギターリフが目立つ分、前作よりもメタル的な感触は増している。

「You Won’t Change Me」や「Dirty Women」辺りは、初期のサバスが持っていたダーク・ヘビーな路線がやや復活している印象がある。

一方で「Gypsy」「Rock ‘n’ Roll Doctor」など、ロックンロールの作風はまた今までになかったもの。ロック色が増して分かりやすくなった分、普通のハードロックアルバムになった感もある

アルバムトータルでは前作より収束した傾向があり、実験的な要素は減った。その結果、前作ほどのクセがない、わかりやすいハードロックアルバムになった印象である。

その後、一度オジーはバンドから解雇されるものの、結局バンドに戻って制作されたのが、8th『Never Say Die!』であった。

前作のダークな雰囲気はなく、「Never Say Die」で陽気にアルバムはスタートする。そして「A Hard Road」「Over to You」などの明るい曲調は、後のオジーソロ楽曲を思わせる作風だ。

筆者としては、7thまでが何とかサバスを名乗れそうだと思っているが、8thはもはや別のバンドになってしまった感はある。

ここまで6th以降の作品を見たが、サバス初期の特徴であったヘビーなリフを繰り返すスタイルから脱曲した結果、バンドはさらなる楽曲の拡散方向に進んだ。

4thや5thはパワーコードのリフを軸にしながら拡散したためにサバスの個性は残ったが、6th以降は自身のアイデンティティを見失うような拡散の仕方になってしまった。

これをバンドの凋落と見ることもできるが、一方でBlack Sabbathはずっと変化してきたバンドであるとも言える。実験作と揺り戻しを繰り返しつつも、8thまで同じ作風に止まることはなかった。

サバスはずっとハードな音を求めて変化を続けてきたとすれば、サバスの歴史はハードロック的精神性によるものと捉えることもできそうだ。

しかし初期の作品でヘビーに特化した作風があまりに魅力的だったために、バンドとしては進化しているつもりでも、外からの評価としては色褪せて見えてしまったのだろう。

6th~8thの作品群も、もし70年代前半の作品がなかったとしたら、「一般的なハードロックバンド」として楽しめたのかもしれない。

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まとめ

ここまでBlack Sabbathの音楽性の変遷をたどりながら、サバスはハードロックなのか、へヴィメタルなのか、について考えてきた。

かなり話があちこちに広がったため、筆者の考えを改めてまとめておこう。

バンドの歴史、アルバムごとの作風など、いくつかの角度から語ることができる。

まずハードロックが芸術性重視、へヴィメタルが攻撃性重視とすれば、Black Sabbathはメタルからハードロックに変化する特殊な道を辿ったのではないか、と思う。

1st~3rdの間に、ヘビーなギターリフを愚直に繰り返すスタイルを確立し、その音楽性はあらゆる後のへヴィメタルに影響を与えた。

サバスの飾り気のない、ヘビーなハードロックが、後にへヴィメタルと名付けられたと言っても過言ではないだろう。

しかしサバス自身はこの路線を続けることもなく、4th以降は実験を繰り返し、ハードなサウンドを追求し続けた。

その中で芸術性を追い求める時期もあり、後期ほどハードロック的な音楽性になっていった。これは後からジャンル分けを当てはめれば、そう言えるのではないか、ということだ。

一方で70年代のBlack Sabbathの歴史全体を見れば、少しも1つのジャンルに収束していく様子は見られず、やっぱりハードロックバンドだった、とも思えてくる。

やはりそれはハードロックと言うジャンルを作り上げたパイオニアだったからだろう。この先達を見て後に続いたJudas Priestなどは、ハードロックからへヴィメタルへの変化が分かりやすい。

また作品ごとの変化と言う点からは、3rdで1つの頂点を迎えると、4th以降はアルバムごとに拡散と収束を繰り返していたと言える。

4thがジャンルを広げれば、5thでは4thを様式化する。6thでまたプログレッシブな方向性を見せるも、7thではまたバンドサウンドに収束する、といった具合だ。

このように細かく見れば、メタル的・ハードロック的作品が繰り返されているようにも見えてくる。

以上をまとめれば、Black Sabbathはハードロックバンドとして70年代を駆け抜けたが、3rdまでの音楽的特徴が後のへヴィメタルの核を作った、というのが筆者の見方である。

このようにBlack Sabbathの歴史を考えれば、いかにハードロック、そしてへヴィメタルの発展において重要なバンドだったことが改めてわかる。

ジャンルが確立した今となっては、サバスよりヘビーなバンドはいくらでもあるだろう。とは言え、70年代始めに、あのおどろおどろしいリフが繰り返されるカタルシスが始まりなのだ。

やはり温故知新と言ったもので、名だたるへヴィメタルバンドがBlack Sabbathの影響を語る。50年の時を経ても、いまだにバイブルとして影響を与え続けているのである。

今回記事を書いて、Black Sabbathの素晴らしさを再確認できた。この記事を読んだ人が、改めてBlack Sabbathを聴き直すきっかけになれば嬉しい。

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