結成から30年を超えてなお、精力的に活動を続けるバンドeastern youth。決して順風満帆ではなく、長年活動をともにしたベーシスト二宮友和の脱退は大きな転機となっただろう。
2015年より”村岡ゆか”が加入して、今日に至っている。3ピースバンドのメンバー1人の交代は、バンドにとって大きな変化をもたらすと思われる。
そこで今回は、村岡ゆかが加入したことでeastern youthにどんな変化が見られたのか、記事にした。インタビュー、ライブ、音源などから、想像しながら考察を行ってみた。
二宮友和の脱退と村岡ゆかの加入について
まずはベーシストの交代について、2015年以降の状況を少し振り返っておこう。
※なお来歴やおすすめアルバムなど、eastern youthについて詳しく知りたい人はこちらの記事がおすすめ
eastern youthは1988年に北海道札幌市にて結成。上京した際に二宮友和がベースとして加入し、吉野寿(ギター・ボイス)、田森篤哉(ドラム)、二宮友和(ベースギター・コーラス)の3名となった。
1995年のアルバム『口笛、夜更けに響く』より、現在の音楽スタイルを確立した。パンクを軸に轟音を鳴らしながら、文学的な歌詞を吉野氏の絶叫が響く。
1994年からは『極東最前線』と呼ばれる対バン企画を行うなど、ライブも精力的に行ってきた。また自主レーベル『裸足の音楽社』を立ち上げ、作品リリースも多数行ってきた。
2015年にアルバム『ボトムオブザワールド』が完成し、easten youthでできることはすべてやりきった、とし、二宮氏が脱退を発表した。
※二宮氏脱退時の各メンバーのコメント
バンド事務所では経理を担当し、バンドの中心的な存在となっていた二宮氏。その脱退発表は突然で、バンド自体の存続もどうなるのか、という空気が漂っていたように筆者は感じていた。
後任として加入したのは、女性ベーシストの村岡ゆかであった。どこか”野郎のバンド”と勝手に認識していたため、少し意外な印象を持った記憶がある。
村岡ゆかは、女性デュオ・手水でベースを担当しており、2010年に解散しソロで活動していた。もともと熱心なeastern youthのファンであったため、加入の打診は驚いたと言う。
「BAYCAMP 2015」で『街の底』名義で出演したのが、最初のライブとなった。
そして2017年に村岡氏加入後では初となるアルバム『SONGentoJIYU』を発表。2019年9月には17年ぶりの日比谷野外音楽堂での単独公演を満員御礼で開催した。
2020年はコロナ禍にあっても制作が決行され、アルバム『2020』をリリース。2021年9月22日にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での単独公演を予定している。
新旧ベーシストの人物像について
その日の夜。
— eastern youth (@ey_chan) September 30, 2019
地下室は喧騒に包まれました。 pic.twitter.com/OgHPCe9x7z
2015年以降のeastern youthの状況を見てきたが、新旧2人のベーシストについて少し触れておきたい。
二宮友和
まずはかつてのベース、二宮友和氏について。かつて「ひょうたん」というバンドではギター・ボーカルを担当しており、もともとはギタリスト志望であったが、eastern youthではベース担当だ。
二宮氏については、以下のインタビューで、人となりを何となく知ることができる。
※アルバム『叙景ゼロ番地』発売後の二宮氏のインタビュー
インタビューの中では、バンドでの立ち位置について「慎重になって客観視する役割」と述べている。それは音楽的にもそうであるし、運営でもそういった視点で眺めていたのだろうと推測される。
設立した自主レーベル「裸足の音楽社」でも、運営の中心を担っていたようだ。インタビューの中では、eastern youthに対しては、かなり強い思いを持っているように窺える。
だからこそ、脱退は驚きだった。脱退の理由は「自分がeastern youthでできることは全てやりきった、と実感したこと」だった。
なおこのインタビューには書かれていないが、ベースのプレイは動きが多く、難解なフレーズが多い。フレットレスベースを使っており、ウネウネと動き回るベースが特徴だ。
村岡ゆか
続いて、村岡ゆか氏である。既に述べたように、eastern youthのファンであり、手水を組んでいた頃に「極東最前線」で対バンしたことがあった。
村岡氏については、加入して初のアルバム『SONGentoJIYU』が発売時に、詳しいインタビューが掲載されている。
※アルバム発売時の村岡氏の単独インタビュー
他のメンバーに比べると10歳ほど若く、もともとファンであったことから、かなり遠慮してしまうこともあったようだ。しかし吉野氏は対等に扱おうとし、プレイヤーとして尊敬しているように見える。
前任の二宮氏がかなり独特なプレイだったがゆえに、あえて真似しようとはせず、自分のベースを心がけたと述べている。
村岡氏のプレイは、非常に安定感があるように聞こえる。二宮氏が吉野氏とバトルしているようであり、一方村岡氏は並走していくような印象だ。
どちらが良い・悪いということではなく、それぞれの個性が出ているということだろう。
吉野氏・田森氏からはプレイについて明確な指示はなかったと言い、それはおそらく村岡氏の個性をそれとなく見抜いて、そう言ったのではないかと推測する。
村岡氏がバンドでの実務的な役割はわからないが、いじられていることや子どものような男性陣2人を見守っている様子は窺えるような気がする。
村岡ゆかが加入してeastern youthに見られた作品の変化とは?
【ey最新ライブ映像公開!|今日も続いてゆく】
— eastern youth (@ey_chan) December 3, 2020
コロナ渦において2020年・イースタン初ライブとなった、9月に長野県松本市で開催「りんご音楽祭2020」での模様。
2020年のeyライブは全4本。
そして今年最後のライブが明後日・渋谷O-EASTにて開催!#easternyouth2020https://t.co/tr67k6fV39 pic.twitter.com/GGvDBAOIzQ
ベーシストの交代は、アルバムの作品に見られた変化も見られたと思われる。
二宮氏脱退前の2枚、そして村岡氏加入後の2枚の、計4枚のアルバムのレビューを通して、その変化を追いかけてみたい。
叙景ゼロ番地
通算15枚目となる本作だが、さらにその前の14th『心ノ底ニ灯火トモセ』にも少し触れたい。前作は心筋梗塞で一度生死をさまよった吉野氏の復活作であった。
そんな経緯もあるためか、それまでの作品に比べてシンプルな作風となっていた。ミドルテンポのどっしりした楽曲が増えていた中で、再び疾走感のあるパンクが増えた快作といった印象だった。
本作『叙景ゼロ番地』は、またダークな方向に進んだ作品に思える。
冒頭「グッドバイ」もヘビーさが目立つ楽曲であり、少しウェットさもある。疾走感のある「呼んでいるのは誰なんだ?」や「ゼロから全てが始まる」などは、やや脇役の印象だ。
バンドの魅力を1つに決めてしまうことは良くないが、eastern youthの魅力には轟音の中にどこかカラリとした爽やかさがあるようにも思う。
本作はなかなかそう言った爽やかさは感じにくい作品かもしれない。ずっしりと重みを感じる楽曲が多くなっており、やや閉塞感も感じられる。
一方で「地図のない旅」のように開けた雰囲気の楽曲もあり、やや歌詞の方向性には迷いがあるようにも見えた。
そして後の作品を聴くと、この『叙景ゼロ番地』は1つの区切りになっているように感じる。
次作からは音楽性も移り変わっているように感じられ、2000年代後半のeastern youthの流れを汲む最後のアルバムに思える。
本作を作り終えてから、「制作を控えてライブを増やす」という方向となっている。制作に対しての苦しさのようなものが表れてきているようにも見えた。
ボトムオブザワールド
前作『叙景ゼロ番地』から約2年半の期間を経てリリースされた16枚目のアルバム。ベース二宮氏の脱退がリリース直前に発表された。
二宮氏の脱退がもう決まっていたこともあるためか、『叙景ゼロ番地』とは明らかに異なる肌触りのアルバムに仕上がっているように感じた。
まずは1曲目の「街の底」は、今までにはない攻撃性を持つ楽曲で、代表曲の1つとなっている。語りのような”ボイス”から、絶叫のサビへ、ありそうでなかった新しい表現方法である。
「鳴らせよ 鳴らせ」「ナニクソ節」「道をつなぐ」など、激しくもカラッとした感触の楽曲が小気味いい。再び攻撃モードと言うか、前に突き進むような楽曲が増えている。
その一方で、「茫洋」「テレビ塔」「万雷の拍手」など、悲壮感の漂う楽曲も目立つ。これらも今までにはなく、ダイレクトに虚しいような感情を伝える楽曲である。
前作に比べると、全体的にシンプルな表現へと回帰しているように思う。加えて、前作までの方法論に縛られず、自由に新たな音楽表現を試しているような実験性も見られている。
歌詞については、次の段階に向かうモードに入っている。そのため爽快感と悲壮感が同居しているようなアルバムとなっているように感じた。
そして村岡氏加入後のアルバムへとしっかりとつながりを感じられるアルバムである。
SONGentoJIYU
村岡氏が加入しライブを重ねて、2年半を経てリリースされた17枚目のアルバムである。イラストを用いられたジャケット、そして強い意思を感じるタイトルに驚いた記憶がある。
政治的な発言は多い吉野氏であるが、音楽にはあまり持ち込まないことが多かった。今回も決してメッセージ性を感じるものではないが、タイトルの持つニュアンスからは明らかに意図を感じる。
アルバム全体としては、前作の延長線上にあるものだと感じた。その方法論に対して、より確信をもって作られているような自信を感じる作品である。
その自信は1曲目「ソンゲントジユウ」から強く感じられる。これまでにない”温かみ”のようなものを感じさせる楽曲であり、今まで以上に人間臭い楽曲であろう。
素晴らしいMVとともに、今のeastern youthを感じさせる楽曲だ。
アルバムの他の曲についても、今まで以上にポップさを感じつつ、オルタナティブロックの幅広さを感じさせるものだ。
「ちっぽけだって、なんだっていいから、歌を俺にくれ」「口笛吹いて駆け抜けろ」などは、疾走感とポップさを感じさせる、非常にシンプルで力強い楽曲になっている。
また村岡氏の楽曲とされている「なんでもない」は、さらに温かみを感じさせる楽曲である。今までのeastern youthにはあまりなかった”優しい”印象の楽曲も新鮮である。
そしてアルバム全体の世界観として、前作に漂っていた悲壮感は感じられない。むしろヤケクソとも言えるような、力強さが感じられる。
今までのeastern youthもヤケクソ的な要素はあったものの、もう少し冷めた雰囲気があった。本作では、もっと剥き出しの感情が表に出ているように感じる。
アルバムタイトルに表れているように、よりシンプルなテーマをシンプルにかき鳴らした作品と言えるだろう。
2020
そして前作から約3年と長めのスパンを経て、2020年にリリースされた18枚目のアルバム。リリースの告知も唐突で、制作している雰囲気もなく驚いた印象が残っている。
本作については既に当ブログでレビューを行っているので、ぜひそちらをご覧いただきたい。
※以下の記事にアルバムレビューを詳しく書いている。
かいつまんで述べれば、シンプルで爽やかなアルバム、と言えるのではないかと思う。吉野氏が「ジャーンと鳴らした感じ」と述べている通り、ロックの衝動性をダイレクトに伝えている。
1曲目は「今日も続いてゆく」である。前作の「ソンゲントジユウ」のようなインパクトの曲ではないが、激震が走った2020年だけに、変わらぬ日々を歌った内容は逆に新鮮だった。
他の楽曲に目を向けると、前作以上に包み込まれるような温かみのある楽曲が増えた印象だ。
村岡氏のコーラスの影響も大きいかと思われる。シングルリリースされた「時計台の鐘」で、大胆に村岡氏のコーラスがフューチャーされ、本作でも「それぞれの迷路」で聴くことができる。
「夜を歩く」「月に手を伸ばせ」など、ポップなメロディが印象的な曲も多い。『叙景ゼロ番地』の頃から比べると、ずいぶんとストレートなメロディが増えたことがわかるだろう。
アルバム全体としても、爽快感のある楽曲、そして柔らかい楽曲のバランスが非常に良い。かつてのざらついた質感から、より温かみのある感触に変化してきたのが分かる。
まとめ – 村岡ゆかの加入でeastern youthに見られた変化
ここまでベーシストの脱退と加入の経過、そして新旧ベーシストの比較、アルバムレビューを行ってきた。これらを総合しつつ、最後に村岡ゆかの加入がeastern youthにもたらした変化を述べたい。
1つの注目点として、アルバム『叙景ゼロ番地』で漂っていた閉塞感である。決してつまらないアルバムだとは思わないが、次第にかみ合わない部分が出てきたアルバムのように感じた。
いったん制作のペースを落とすことを決めた後、作られたアルバム『ボトムオブザワールド』をもって二宮友和氏は脱退した。
作風自体も変化した本作で、二宮氏は何か自分の役目を終えたように感じたのかもしれない。村岡氏の加入による変化、と言うよりも、バンドや作風全体の変化が先に起こっていたと考えられるだろう。
ここで言う変化は、言葉にするのは大変難しい。より突き抜けた感じ、そしてもっと自由な雰囲気で楽曲を作っていくような方向性が、『ボトムオブザワールド』では新たに見られたように思う。
そして村岡ゆか氏の加入によって、さらにその路線は加速したと見られる。プレイスタイルやサウンドも異なる新メンバーと演奏することは、新たに音を作り上げていく作業である。
かつての曲も二宮氏の演奏を参考にしつつ、新たな曲として生まれ変わった。そして新曲は、これまでのeastern youthに縛られることなく作れる状況は揃ったのである。
本日の那覇・桜坂セントラルのライブでは、着席・発声なしでのご鑑賞というお願いにご協力いただき、ありがとうございました。
— eastern youth (@ey_chan) February 20, 2021
ステージからもよく見える皆さん一人ひとりの姿と対峙しながら、一生懸命プレイさせていたまきました。
明日は沖縄2日目、コザ音市場でライブ。楽しみにしています。 pic.twitter.com/e35tQsqBLH
そして『SONGentoJIYU』では、より人間臭いアルバムとなったと思う。そしてシンプルなメロディが活きるような楽曲も増えてきた。
そして村岡氏が加わったことで、より情感のこもったサウンドになった気がする。ジャンル的に言えば、ハードコア的な要素よりもオルタナティブロック的な広がりを見せたように思う。
最新作『2020』では時代の状況も手伝って、より爽快でシンプルなロックのアルバムとなった。村岡氏のコーラスも前面に出て、”優しさ”も感じるような楽曲が多くなっている。
以上のような変化があったのではないか、と分析・考察してみた。全く的外れなものかもしれないが、何かしらの変化を読み取りながら、eastern youthの作品を聴いてみるのも面白い。
今回紹介した4作を聴きながら、eastern youthの近年の歩みを振り返ってみるのも良いのではないか。
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