アーリーテイチク時代の怒髪天の魅力 – 若さから成熟、実験性からシンプルへと過渡期の絶妙なバランス

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ジャパニーズR&E(リズム&演歌)を謳うロックバンド怒髪天は結成40周年、そして彼らが所属するレコード会社のテイチクエンタテインメントが90周年とのことで記念イベントも発表された。

テイチクエンタテインメント 90周年 特設サイト[テイチクエンタテインメント90周年×怒髪天40周年共同企画「テイチクよ今夜も有難う」] / TEICHIKU ENTERTAINMENT
テイチクエンタテインメント90周年×怒髪天40周年共同企画「テイチクよ今夜も有難う」 / 2025年2月2日(日)@Sp...

怒髪天はテイチクに所属してから様々な時代があった。最近の出来事ではベースの清水泰次氏が解雇されると言うショッキングな出来事も経験している。

一方で怒髪天が遅咲きのブレイクを果たし、2014年には日本武道館公演を満員御礼で大成功している。

そうしたブレイクに繋がる時代を遡って考えると、テイチクに所属した最初の頃が重要だったのではないかと考える。

怒髪天が”売れるモード”へと変わっていく過渡期の時代であり、それまでの怒髪天と、その後の怒髪天をつなぐ、絶妙なバランスが保たれていた時代である。

筆者が最もよく聴いていた時代の思い入れもあるが、改めて今回はアーリーテイチク時代の怒髪天の魅力について語ってみたい。

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アーリーテイチク時代の怒髪天の魅力とは?

さっそくテイチクに所属した初期の怒髪天の魅力について書いていきたいが、いったいいつの時代を指すのか定義しておきたい。

今回扱う時代は、怒髪天のライブDVD/Blu-Ray『”響都ノ宴” 10周年記念『夢十夜』』に収録されている、時代を区切った企画ライブ”アーリーテイチクイヤーズ”から取っている。

すなわちテイチクに所属し始めた2004年から2006年までの時代である。アルバムで言えば、『握拳と寒椿』から『トーキョー・ロンリー・サムライマン』までである。

それまでの怒髪天は1999年に活動再開を果たしてから、インディーズレーベルのフライハイトで活動を行っていた。

2004年にテイチクエンタテインメントでメジャーに返り咲き(1995年以前はメジャーで活動していた)、2007年の『LIFE BOWL』以降、徐々に世間的な注目を集めていった。

この2004~2006年という短い期間は、まだ怒髪天が知る人ぞ知るバンドだった時代であると同時に、後のブレイクの礎になった時代ではないか、と考えている。

この時期は、フライハイト期の怒髪天から、ブレイクを果たしていくその後の怒髪天への橋渡し、過渡期の時代であり、その絶妙なバランスが非常に魅力的なのである。

その絶妙なバランス感がどの辺りにあるのか、「歌詞・世界観」「演奏・音楽性」の2つの観点から書くことにした。

歌詞・世界観 – 若さから成熟、ペシミスティックから開き直りへ

まずは楽曲の歌詞や世界観において、アーリーテイチク時代は過渡期の時代であると考える。作詞を担当する増子直純氏の心境の変化が窺えるところである。

怒髪天の歌詞の世界観は、世の中のつらさや不条理を取り上げ、それを笑い・ユーモアに変えつつ歌う、というもので、根幹はデビュー時から変わっていない。

しかし世の中の不条理との向き合い方、笑いへの変え方においては、アーリーテイチク時代に変化が見られる。

まずフライハイト時代から残っている雰囲気として、まだ不条理に立ち向かおうとする・重く受け止めている感じ(=若さ)が残っている。

立ち向かっても全く勝てない絶望感故に、「笑うしかない」という諦めのような形で笑いに変える、というのがフライハイト期から続く怒髪天のあり様である。

そうしたスタンスは歌詞にペシミスティックなものを残し、不条理なものとの距離が近い若さを感じるところだ。

たとえば「男ノ華」(『握拳と寒椿』)や「男は胸に…」(『桜吹雪と男呼唄』)など、アルバム1曲目にはまだ不条理なものと”戦う”感じが色濃く出ている。

あるいは「傷跡のバラッド」(『桜吹雪と男呼唄』)などシリアスな雰囲気の歌詞・曲調も、若さとして感じられる部分だ。

一方で「ビール・オア・ダイ」(『トーキョー・ロンリー・サムライマン』)になってくると、世の中の不条理をより俯瞰している感じが窺える。

社会に対する不満や毒気のような鋭さは残しつつも、若さゆえの湿り気はなく、徐々に”開き直り”とも言えるカラっとした感じに変わっていく。

不条理に対する俯瞰、毒気を残したまま笑いに変える作風は、歳を重ねたことで成熟した部分が見られるのである。

とりわけこうした変化は、『ニッポニア・ニッポン』から『トーキョー・ロンリー・サムライマン』辺りで顕著になっている。

そして2007年の『LIFE BOWL』以降は、より”開き直り”感が強くなり、自身が”オッサン”であることに対しても前向きに等身大の歌詞が、世間的な共感を集めることになる。

アーリーテイチク時代は、開き直り感はまだ途上で、若さゆえのペシミスティックな歌詞とのバランスが絶妙であり、アルバムの中でも陰と陽が楽しめるのである。

演奏・楽曲 – 実験性からシンプルさへ

怒髪天の作曲を担当しているのは、ギターの上原子友康氏であるが、世界観の変化に呼応するかのように、曲調や演奏面においても変化が見られている時期である。

怒髪天の楽曲は、シンプルに聞こえるが、演奏はかなり凝っているところが特徴の1つである。

インディーズのフライハイト時代が最も実験的で、音楽的に凝ったことをやっていた時代だった。自前のスタジオが自由に使えたようで、日夜音楽的な実験に勤しんでいたのだと言う。

テイチク時代に入り、凝ったアレンジはまだ残りつつ、徐々に演奏はシンプルなものへ、メロディや歌詞のメッセージをダイレクトに伝えるアレンジへと変わっていった。

たとえばフライハイト時代のリメイク曲「宿六小唄~ダメ男に捧ぐ~」(『桜吹雪と男呼唄』)は、キャッチーなメロディながら、ギターは結構忙しく動き回る凝ったアレンジになっている。

一方で「俺達は明日を撃つ!」(『ニッポニア・ニッポン』)になると、やや演奏がシンプルになり、歌のメロディがストレートに入って来るような印象になっている。

こうした演奏がシンプルになっていく傾向は、アーリーテイチク時代以降の方がさらに顕著になっていく印象である。

(とりわけ2008年にリリースされたシングル2作品『全人類肯定曲』『NO MUSIC, NO LIFE.』あたりからその傾向は強まる)

一方でアーリーテイチク時代では、音楽的な実験はまだまだ続いているとも言える。その実験はアレンジ面ではなく、ジャンルがより幅広くなっていくと言う実験に変わっていった。

これまであまり怒髪天がやって来なかったジャンルにも果敢にチャレンジするモードになった。

たとえば「82.2」(『トーキョー・ロンリー・サムライマン』)は電子音楽的なアプローチを、あえてバンドサウンドで再現するなど、かなり斬新な楽曲となっている。

これまでは”男臭いロック”の範疇から外れるものは入れてこなかった怒髪天が、ジャンルの境目という意味でも”開き直り”を見せていくようになる。

アーリーテイチク時代は、今までの保守的な怒髪天と、ジャンル的に自由になっていく怒髪天の過渡期であり、芯の強さと実験性をどちらも楽しめる時代である。

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アーリーテイチク時代の怒髪天のアルバム・ミニアルバムレビュー

最後にアーリーテイチク時代(2004~2006年)にリリースされたアルバム・ミニアルバムのレビューを行った。

作品としては4作であり、その他にシングル『俺達は明日を撃つ!』『銀牙伝説WEED』がリリースされていた。

なお2024年現在はいずれの作品も新品での入手は困難な状況になっているようだ。

握拳と寒椿

怒髪天がテイチクエンタテインメントに移籍して最初にリリースされた6曲入りのミニアルバムである。演歌・歌謡曲に強いテイチクに所属したことでジャケットから作風まで演歌寄りに作られている。

次作の『桜吹雪と男呼唄』とセットで、フライハイト時代のリメイクとカバーがそれぞれ入っている。本作は2001年の『如月ニーチェ』から「愛の嵐~風速2004メートル~」がリメイクされた。

また菅原文太・愛川欽也による、映画「トラック野郎」主題歌の「一番星ブルース」がカバーされている。

純粋な新曲は4曲ということになるが、フライハイト時代の作風を受け継ぎつつ、”怒髪天らしい”作風でコンパクトに魅力を伝えるミニアルバムとなっている。

直球の「男ノ華」から、洗練された雰囲気の「今日という名の街」、喜劇的なパンクソング「実録!コントライフ」など、怒髪天節とも言える楽曲が並ぶ。

桜吹雪と男呼唄

  • 発売日:2005年3月24日

前作『握拳と寒椿』と対になるようなミニアルバムで7曲入りである。前作同様、演歌に寄せたジャケットや世界観が貫かれている。

リメイクは2002年の『武蔵野犬式』から「宿六小唄~ダメ男に捧ぐ~」が選ばれた。カバーは高倉健による、昭和残侠伝シリーズの主題歌「唐獅子牡丹」が選ばれている。

前作『握拳と寒椿』がかなり手堅い印象ならば、本作は少し音楽的に冒険的な要素も見られる作品だ。シリアスな雰囲気の「傷跡のバラッド」やヘヴィなサウンドの「むしけらブンブン」がユニークだ。

男臭さ度合いで言えば本作の方が濃厚であり、より哀愁漂う『握拳と寒椿』と合わせると、当時の怒髪天の雰囲気がよく分かる作品となっている。

ニッポニア・ニッポン

  • 発売日:2005年11月2日

前作から7か月あまりの短いスパンで制作された、テイチクに所属して初めてのフルアルバムである。絶滅危惧種であるトキの学名をタイトルにしている。

ミニアルバム2作が演歌・歌謡曲に寄せつつ、男臭い雰囲気が漂っていたが、本作はもう少し幅広いロックのジャンルを楽しめるアルバムになっている。

音楽的に見るとバラエティ豊かで、シリアスな「枯レ葉ノ音」で幕を開け、怒髪天らしい「放吟者」やロックンロールな「メイド・イン・ジャパン」、アンビエントなベースの「優しい雨」などがある。

全体的にはゴリゴリなロックと言うより、歌モノが多い印象で非常に聴きやすい作品である。歌詞の世界観では、本作までがまだ若さの残る雰囲気で、ペシミスティックな感じが漂っている。

フライハイト時代の雰囲気が残る最後の作品と言って良いかもしれない。

トーキョー・ロンリー・サムライマン

  • 発売日:2006年11月8日

テイチクに所属してから、ジャパニーズR&E(リズム&演歌)の形を模索していた感のある怒髪天だが、明確な方向性を示すことに成功した作品である。

まずは増子氏の作詞に変化が見られ、人生の不条理に対してより俯瞰した視点から、それを前向きに変えていくパワーを感じさせる。

「トーキョー・ロンリー・サムライマン」「ビール・オア・ダイ」「喰うために働いて 生きるために唄え!」など、後にブレイクしていく怒髪天の世界観の礎になっている楽曲が揃っている。

上原子氏の楽曲はますますバラエティ豊かになっており、パンクにジャズ、ガレージからテクノまで、それまでの怒髪天にはなかった音楽性を自由に表現するようになった。

音楽性を広げても、全くメッセージ性や世界観がブレないところに増子氏の歌詞の成熟や、バンド自体の一体感の強さを感じさせる作品だ。

【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第3回:怒髪天 これまでの歴史と各時期の名盤紹介

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