エレファントカシマシが聴きたくなる季節はいつだろうか?筆者は秋になるとどういう訳かエレカシが聴きたくなるのだ。
逆に言うと、真夏の盛りにエレカシを聴こうという気持ちが1年で最もなくなる。8月の初めくらいから、昨今では9月の半ばくらいまでだろうか、エレカシを聴かなくなる時期がある。
それが朝夕の時間に少し涼しくなり、夕方に秋風が吹き始めた時、ふいに「エレカシを聴こう」と思うようになる。
筆者にとっては「エレカシが聴きたくなった時が秋の始まり」という基準にしているぐらいだ。
ではなぜ秋になるとエレカシを聴きたくなるのか?その理由について考察するとともに、秋に聴きたいエレカシの楽曲・アルバムを紹介することにした。
秋になるとエレカシが聴きたくなるのはなぜか?
さっそく、なぜ秋になるとエレカシが聴きたくなるのか、その理由を考えてみたい。今回は、秋に聴きたくなる以下の2つの要因から考察することとした。
- 哀愁のある楽曲や世界観が秋に似合う
- 熱量ある”暑い”宮本浩次のボーカルが後押ししてくれる
哀愁のある楽曲や世界観が秋に似合う
まずは直球の答えだが、エレカシの楽曲は秋がとても似合うのである。
エレカシの楽曲は時代によっても雰囲気が変わり、最近では「俺たちの明日」などが取り上げられ、中年のパワフルなおじさんたち、というイメージも強いかもしれない。
確かに武骨なロックバンドと言うイメージは強いが、哀愁から男のロマンのようなものまで、切ない楽曲を作るというイメージもかつてはあった。
”かつて”と言うのは、1990年代後半のポニーキャニオンに在籍した時代、さらには1997年に「今宵の月のように」が大ヒットした時代である。
レコード会社の移籍とともに音楽性が変化するエレカシは、”ポニーキャニオン期”と言われるほど、この時代に特徴的な要素がある。
それはエレカシの歴史の中でも、最も歌謡曲的な側面が強く、人恋しさや葛藤などを歌った曲は秋の物寂しい空気感に似合うのである。
ポニーキャニオン期に限らず、エレカシの楽曲は秋の雰囲気に合うものも多く、たとえばそれは月・夜をテーマにした曲が多いからかもしれない。
「月と歩いた」「月の夜」「晩秋の一夜」「寒き夜」「星の降るような夜に」「月夜の散歩」「今宵の月のように」など、月や夜をテーマにした曲はたくさんある。
どこか文学的な雰囲気が漂い、しかも日本人ならではの情緒や季節感の移ろいなどを感じさせる楽曲は、しみじみとした秋だからこそ味わい深く思えるのかもしれない。
そう考えると、秋の日比谷野外音楽堂で聴くエレカシのライブが、最も贅沢で素晴らしい時間のように思える。
熱量ある”暑い”宮本浩次のボーカルが後押ししてくれる
しかしエレカシを秋に聴きたくなるのは、単に曲が秋に似合うだけではなく、実は宮本浩次氏のボーカルにも秘密がありそうである。
宮本氏のボーカルは、優しく抱きしめてくれる、というよりは後押ししてくれる力強さがあると筆者は感じている。
時に肩をポンと押してくれる感じもあれば、尻を蹴っ飛ばしてくれるぐらい強い場合もあるのだ。(たとえば後者は「奴隷天国」などである)
宮本氏のボーカルはそうした熱量があり、まるで夏の暑さにも似たパワーである。そのためか、真夏の時期は宮本氏のエネルギーと反発し合うからか、気持ちが遠ざかる。
しかし秋という季節は、過ぎてしまうと懐かしい夏を思い出すものであり、心に穴が空いたような物寂しさを感じさせる。
そこに宮本氏の”暑い”熱量のボーカルは、その穴を埋めてくれる感じがする。エネルギーの調和とでも言おうか、ちょうど足りないものを埋めてくれるような感覚なのだ。
そして宮本氏のボーカルはやはり後押ししてくれる感じであり、物寂しげで少し不安な気持ちから、また前に進もうと言う凛とした気持ちへと引き上げてくれる。
この効果は後ろ向きなことを歌った曲であっても同じである。歌の内容ではなく、宮本氏の声自体を耳にするだけで、秋の寂しさから一歩明るいところへと引き出してくれる感じがするのである。
秋におすすめのエレカシの楽曲・アルバム
ここでは筆者が選ぶ、秋におすすめのエレカシの楽曲・アルバムを紹介しようと思う。
楽曲は全10曲、アルバムはオリジナル1作、ベスト盤1作を紹介した。
おすすめの楽曲
秋になると聴きたくなるエレカシの楽曲を10曲集めてみた。収録アルバムと選曲したポイントなどをまとめている。
月の夜
- 収録アルバム:『生活』(1990)
大作の多い1990年の『生活』収録で、割とコンパクトにまとめられた楽曲。しかしその世界観は広大かつ深遠であり、非常に文学的である。
まるでプログレッシブロックのような複雑なコード進行と展開であるが、そこに時に優しく、時に絶叫する宮本氏のボーカルが生き生きとしている。
秋の夜長、そして月の夜の美しさを歌ったものであるが、私たちが今いるところから遠い宇宙へと連れて行ってくれるような荘厳な気持ちにさせてくれる、エレカシ屈指の名曲である。
日比谷野音で聴くと絶品の1曲である。
誰かのささやき
- 収録アルバム:『東京の空』(1994)
エピックソニーとの契約が切られることが分かっていた『東京の空』だが、不思議とカラッとした前向きなアルバムで、最高傑作に挙げる人もいる名盤である。
その中でも、後のポニーキャニオン期に繋がりそうなポップな楽曲が「誰かのささやき」である。小気味いいテンポに、温かみのあるメロディと前向きな歌詞が素晴らしい。
秋風が吹く夜に散歩しながら聴くのに良い曲で、そっと背中を押してくれるような楽曲である。
風に吹かれて
- 収録アルバム:『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
「今宵の月のように」が注目されるエレカシだが、同時期のもう1つの名曲が「風に吹かれて」である。多数のタイアップがあり、根強い人気を誇る楽曲だ。
実は昔から作られていた楽曲だったそうだが、あまりにポップなメロディであり、表に出すタイミングを見計らっていたとのこと。男臭い感じのする名バラードであると筆者は感じている。
季節感はどことなく冬という感じもする曲であり、イントロのギターフレーズの隙間から乾いた風が吹いてくるような感じもする。
赤い薔薇
- 収録アルバム:『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
ヒットしたシングル『今宵の月のように』のカップリング曲でもある「赤い薔薇」、その立ち位置からも自信作だったのではないか、と思われる楽曲である。
緻密に作られている楽曲で、開けるようなイントロから哀愁のあるAメロ、そして転調によって雰囲気を変えるBメロから王道のサビへと、めまぐるしく変化していく楽曲だ。
それでも漂ってくるのは不器用な男の哀愁であるとともに、それでも前に進んでいく力強さだ。特定の季節を連想させるものではないが、夜のイメージの楽曲である。
月夜の散歩
- 収録アルバム:『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
『明日に向かって走れ-月夜の歌-』に収録されている、宮本氏による弾き語りの楽曲である。リラックスした歌唱ながら、凛とした気持ちにさせてくれる名曲である。
筆者としては「月の夜」のポニーキャニオンバージョンだと思っていて、外見は大きく変わっても、根幹にあるエネルギーのようなものは変わっていない。
夏が終わり、秋風が吹き始めた頃に聴くのに最高の1曲である。この曲も「月の夜」同様に、日比谷野音で聴きたい曲だ。
恋人よ
- 収録アルバム:『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
『明日に向かって走れ-月夜の歌-』の終盤に登場する隠れ名曲であり、あまりライブで披露される印象がないものの、人気の高い曲である。
楽曲の展開や雰囲気は「赤い薔薇」と似た部分があるが、より哀愁や切なさが増したような楽曲である。とりわけラストのサビでメロディが変わるところが非常にエモーショナルだ。
どんなシチュエーションの曲なのか、聴く側に委ねられる楽曲ではあるが、どこか凛とした冷たい空気の中を歩いて行くような力強さを感じさせる。
ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ
- 収録アルバム:『愛と夢』(1998)
『明日に向かって走れ-月夜の歌-』の凛とした空気感に比べると、どこか気だるさとともに独特の色気を感じさせるアルバムが『愛と夢』である。
中でも最も色気を発している楽曲が「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」である。昭和の歌謡曲の世界観であり、真夜中の街を女性を求めてさまよう男の歌だ。
どことなく異国感が漂うメロディラインであるが、イントロのギターが始まると冷たい空気感が漂ってくるような秋~冬の時期に聴きたくなる楽曲である。
秋 -さらば遠い夢よ-
- 収録アルバム:『ライフ』(2002)
プロデューサーに小林武史氏を迎えて制作されたアルバム『ライフ』に収録の弾き語り曲である。全体的に静かなアルバムであるが、とりわけしっとりと美しい楽曲だ。
ニューヨークでレコーディングされ、小林氏のカラーもあってか、あまり男臭さや日本的な雰囲気のないアルバムであるが、この曲だけは日本の秋の空気感が漂ってくる気がする。
タイトルも文字通り「秋」であるが、カラっと晴れた秋の乾いた空気感と、どこかぽっかりと心に穴が空いたような感覚が伝わってくる。
風
- 収録アルバム:『風』(2004)
前作『扉』(2003)と同時期に作られた楽曲で構成されるアルバム。ドロッと濃い楽曲が詰まった前作との対比で、まさに”風”が吹き抜けるような、さりげない楽曲の多い独特な作品である。
そのタイトル曲が「風」であり、全体的に虚無感のようなものが漂う楽曲である。「死ぬのかい?」という歌詞にドキッとさせられるものだ。
よく映画やドラマなどで、人が死ぬ時に風が吹く演出が見られるが、まさに風はこの世とあの世を繋ぐものであり、そうしたスケール感を思わせる楽曲なのである。
リッスントゥザミュージック
- 収録アルバム:『STARTING OVER』(2008)
起死回生とも言える「俺たちの明日」から、流れるように出来上がった名盤『STARTING OVER』に収録。アルバムの中のリード曲の1つであり、当時初めて聴いて大いに感動した記憶は生々しい。
宮本氏の若い頃の実体験がベースにあり、エレカシ流のラブソングである。ただ浮かんでくるのは甘酸っぱい青春と言うより、若さゆえの葛藤や悩みのようなものだ。
そこに「井の頭公園」という地名が登場し、若者とその周りにある自然、空気感のようなものがリアルに伝わってくる。季節は明示されていないが、やはり秋~冬の凛とした空気が似合う。
おすすめのアルバム
秋に聴きたくなるエレカシのアルバムとして、オリジナルアルバム1作、ベストアルバム1作を選んだ。やはりポニーキャニオン期の作品が中心となっている。
明日に向かって走れ-月夜の歌-(1997)
エレファントカシマシ通算9枚目のアルバム。ポニーキャニオンに移籍し、ポップでありながら男臭い硬派なサウンドと言う絶妙なバランスを保った絶頂期の作品である。
今回、秋に聴きたくなる楽曲として本作から4曲も選んだ通り、アルバム全体を通じても秋になるとまず聴きたくなるのが本作だ。
全体に漂う哀愁や切なさ、それでいて男臭い感じはエピックソニー時代をわずかに残しつつ、秋にぴったりの作品だと思っている。
しかし楽曲を見ていくと、季節感は様々である。「明日に向かって走れ」「ふたりの冬」などは、冬の冷たい空気感が伝わり、「せいので飛び出せ!」「今宵の月のように」などは夏の雰囲気がある。
四季折々の曲が並んではいるが、ポイントは秋~冬の乾燥し始めた空気感のような、少し緊張感のあるサウンドにあると思う。本作の音作りが、凛とした空気感にマッチするような気がしている。
※【アルバムレビュー】エレファントカシマシ -『明日に向かって走れ-月夜の歌-』
sweet memory〜エレカシ青春セレクション〜(2000)
2000年にリリースされたベストアルバムで、青春をテーマに宮本氏がセレクトした楽曲が並んでいる。
概ねポニーキャニオン時代の楽曲だが、一部東芝EMIの曲、さらには初回限定盤にはエピック時代の未発表曲も収録され、3つのレーベルの曲が全て聴ける。
本作の良いところは、まさに『明日に向かって走れ-月夜の歌-』の作風のような、切なさや哀愁を歌った楽曲が、余すところなく収録されている点である。
単に時代で分けたベストではなく、作風で選ばれているのがとても良い。アルバム未収録の「さらば青春」「sweet memory」も素晴らしいし、佐久間正英氏のオルガン入りの「月夜の散歩」も最高だ。
もちろん本作も四季折々の楽曲が並んではいるが、『明日に向かって走れ-月夜の歌-』と並べて聴くと、やはり秋から冬の時期に恋しくなる作品には違いない。
※【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第12回:エレファントカシマシ おすすめの聴き進め方+全アルバムレビュー
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