日本のハードロックバンド人間椅子はブリティッシュハードロック、中でもBlack Sabbathに影響を受けている、と言われている。確かにそれは疑いようのないことであると思われる。
しかし初期の人間椅子の楽曲を聴いていると、Black SabbathよりBudgieの方が直接的な影響を受けているのではないか、と思わされる部分が多々ある。
今回は初期の人間椅子がいかにBudgieに影響を受けたか、そしてBlack Sabbathからの影響とはどのように異なるのか、について考察した。
初期人間椅子がBudgieに影響を受けた点とは?
人間椅子はメンバーそれぞれに影響を受けたバンドがありつつ、人間椅子全体として影響を受けたバンドがある。それがBudgieとBlack Sabbathである。
いずれも1970年代を中心に活躍したバンドであるが、Black Sabbathの方が知名度が高く、後のヘヴィメタルに大きく影響を与えたバンドとして知られる。
トニー・アイオミがパワーコードを駆使したこともよく知られる。
一方でBudgieは一般的な知名度はやや低いが、玄人的な評価は極めて高い。Iron MaidenやMetallica、Megadethなどがカバーしたことでも知られ、ヘヴィメタルバンドへの影響は絶大である。
両バンドに共通するのは、ブリティッシュハードロックに特徴的な湿り気とダークさ、そしてヘヴィなリフを主体とした楽曲である。
人間椅子はBlack Sabbathの影響を指摘されるが、実はBudgieにも多大な影響を受けている。Budgieから受けた影響について、どのような点があるのか見てみよう。
カバーにオリジナル詞を付けるほど好きだった
人間椅子はBudgieの楽曲に、オリジナル詞を乗せて歌っていることで知られている。Budgieの3rd『Never Turn Your Back On a Friend』収録の「Breadfan」である。
Metallicaのカバーでも有名なこの曲に、ギターの和嶋慎治が作詞し、「針の山」として、1st『人間失格』に収録されている。
もともとお金について歌った「Breadfan」に、日本の地獄の世界観を持ち込んだ時点で、人間椅子の楽曲として再構築されたと言っても良いだろう。
人間椅子が他のミュージシャンの楽曲をカバーしてアルバムに収録したのは、Budgieだけである。その事実からも、いかにBudgieに影響を受けているか物語っている。
実はBudgieの曲にオリジナル詞を乗せたのは「針の山」だけではない。もう1曲、音源化されなかったが「造反有理」と言う曲も、Budgieの楽曲にオリジナル詞をつけたものである。
Budgieの4th『In for the Kill!』収録の「Crash Course in Brain Surgery」に日本語詞を乗せたもので、人間椅子デビュー前のレパートリーの1つだった。
もちろんBlack Sabbathのカバーもライブなどでは行ってきた人間椅子だが、自らのアルバムに日本語詞をつけて収録するほどの入れ込み具合は、他のバンドとは異なる影響の受け方と言えるだろう。
ベース鈴木研一氏が「バッジー臭」と呼ぶその特徴とは?
人間椅子の楽曲について、ベースの鈴木研一氏自らが「バッジー臭がする」とよく語っていた。人間椅子がかなりBudgieに影響を受けていることを示すものである。
実際のところ、人間椅子の初期の楽曲にはBudgieのリフを参考にしたものがいくつもある。
たとえばイカ天に出演した時に披露した「陰獣」は、1st『Budgie』収録の「Guts」にそのまま影響を受けて作られたかのような楽曲である。
地を這うようなヘヴィなリフ、似たようなメロディを繰り返す簡素な構成などは、人間椅子の初期と類似する部分が多い。
またBudgieの7th『Impeckable』収録の「Melt the Ice Away」冒頭の長めのリフは、「独裁者最後の夢」「もっと光を!」のイントロのリフと似ているようにも思える。
簡素なリフが多いBudgieではあるが、この曲のようなどことなくB級の臭いがするリフを使うところが、人間椅子は大いに影響を受けているようである。
初期ではないが、7th『頽廃芸術展』収録の「戦慄する木霊」は、先ほど紹介した「Crash Course in Brain Surgery」に似ているし、後々まで影響を受けていることが分かる。
※【人間椅子】イカ天で披露された「陰獣」のその後の立ち位置とは? – 音源・ライブでの登場頻度から探る
Budgie・Black Sabbathからそれぞれ人間椅子が受けた影響の違いは?
ここまで人間椅子がBudgieから受けた影響や、関連などをまとめた。改めてBlack Sabbathから受けている影響と比較しつつ、それぞれのバンドから受けた影響の違いなども考えてみたい。
結論から言ってしまえば、人間椅子はBudgieとBlack Sabbathを融合したような楽曲を目指している、ということだろう。
鈴木氏も実際そのように語っており、たとえば「死神の饗宴」についても両バンドが融合した楽曲と自ら評していた。
影響の受け方として、リフや展開など楽曲を構成する要素としてはBudgieからの影響が強いのではないか、と筆者は感じる。
不気味な楽曲はもちろんBlack Sabbathの用いる悪魔的な音階のリフなども影響を受けている。たとえば「Black Sabbath」という曲のメインリフのような音階は人間椅子も用いることが多い。
ただそう言ったタイプではない、人間椅子的にオーソドックスなハードロックの楽曲は、Budgieのリフの雰囲気を感じさせるのである。
Black Sabbathからは1音半下げのチューニングを用いる点で影響を受けているが、もっと深い精神的なところを含めて影響を受けている感じもする。
と言うのも、Black Sabbathは和嶋・鈴木両氏が高校生~浪人生の時代によく聴いていたようで、Budgieは大学生になってから鈴木氏は聴くようになった、という時系列の影響もあろう。
Black Sabbathは2人にとって不気味なハードロックの原点であり、そこから作り手に回った時に、表現する上でより影響を受けたのがBudgieということなのかもしれない。
そして筆者が思うに、BudgieとBlack Sabbathそれぞれに対する距離感も少し違うような気がしている。
両バンドとも偉大な先達であると言う前提で、Black Sabbathへの感情は”憧れ”、Budgieに対しては”共感”にそれぞれ近いものがあったのではないかと思う。
和嶋氏と鈴木氏を結び付けたバンドであり、Black Sabbathがなければ2人が意気投合しなかったかもしれない。
一方でBudgieは彼らが人間椅子として音楽活動をするにあたっての、楽曲の指針となるようなものだったのだろう。
その感覚は共感=シンパシーに近いものであり、だからこそBlack Sabbathはカバーこそすれど、オリジナル詞を付けるような存在ではなく、Budgieはもっと近い存在に感じられたのかもしれない。
そしてBudgieの魅力はどこかB級の楽曲と佇まいである。それはBlack Sabbathより劣ると言う意味ではなく、Budgieは孤高で唯一無二の存在である、という感じに近い。
だからこそBlack Sabbathの方が商業的に成功し、Budgieは知る人ぞ知る存在で、玄人的な評価が高かったバンドである。
人間椅子が自身の音楽性や個性を考えた時に、Black Sabbathに憧れつつ、Budgieの佇まいにシンパシーを感じて、音楽活動を始めたのではないか、と筆者は思う。
そして初期ほどBudgieへのシンパシーから影響が強く、徐々に両者の影響がブレンドされ、人間椅子独自のカラーが出来上がっていったのだろう。
※昔と今の人間椅子の決定的な音楽性の違いを考える – 人間椅子はハードロックなのか、ヘヴィメタルなのか?
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