1973年にアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビューした、シンガーソングライターの南佳孝。
その活動は50年近くにわたり、ラテンミュージックを取り入れるなど、”わが道を行く”スタイルを貫いてきた。
そんな南佳孝氏は、毎年夏の終わりにコンサート「Simple Song」を開催。2022年は、ゲストに松本隆氏を迎え、「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲のみで構成されるスペシャルライブとなる。
9月3日(土)に大阪のSPACE14、10日(土)に東京の大手町三井ホールの2か所で開催される。
南氏にとって松本氏は非常に縁の深い人物であり、これまでに2人で多くの楽曲を制作してきた。
そこで、今回は南佳孝の名義で発表されている楽曲の中で、「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲を全て集めてみることにした。
9月3日・10日のライブに何を聴いていけば良いのか、予習としてもご利用いただきたい。
- なぜ「松本隆」×「南佳孝」なのか?
- 「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の南佳孝名義の楽曲一覧
- 作品ごとに「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲紹介
- 『摩天楼のヒロイン』(1973)
- 『SPEAK LOW』(1979)
- 『MONTAGE』(1980)
- 『SILKSCREEN』(1981)
- 『羅針盤』(シングル、1982)
- 『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)
- 『DAYDREAM』(1983)
- 『冒険王』(1984)
- 『二人のスロー・ダンス』(1985)
- 『LAST PICTURE SHOW』(1986)
- 『VIDEO CITY』(シングル、1987)
- 『VINTAGE』(1987)
- 『DAILY NEWS』(1988)
- 『SKETCH OF LIFE』(1997)
- 『NHK みんなのうた さとうきび畑』(1997)
- 『ROMANTICO』(2004)
- まとめ
なぜ「松本隆」×「南佳孝」なのか?
「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲のみでコンサートが行われるのにあたり、最初に松本隆・南佳孝と言う2人の縁について書いておきたい。
まず、何と言っても南佳孝氏がデビューするにあたって、松本隆氏が重要な人物だった。
CDJournalの南氏のインタビューによれば、松本氏はバンド「はっぴいえんど」の解散直前の時期で、作詞家になろうかディレクターになろうか迷っていた時期だったそうだ。
デモテープを作っていた南氏のもとに、南氏の後輩が松本氏を連れてきたのが出会いだと言う。そこで意気投合し、「1本の映画のようなアルバムを作ろう」ということになった。
それが南氏のデビューアルバム『摩天楼のヒロイン』であり、はっぴいえんどの解散記念コンサートと同日の1973年9月21日に発売された。
なお作詞だけでなく、アルバムのプロデュースも松本氏によるものだった。
別のインタビューによれば、南氏は「松本隆と会ってなかったら、今の自分はない」と、本人にも直接伝えたこともあるのだと言う。
当時はまだマイノリティだった、”都会の洗練された音楽”を作ることで意気投合した2人。その後、そうした音楽が”シティポップ”と呼ばれるようになり、その先駆けとなる音楽だった。
南氏のデビュー盤以降も、松本隆・南佳孝のタッグによる楽曲は70年代後半~80年代中盤にかけて数多く制作された。また他のアーティストへの楽曲提供においても、2人によるものは多い。
その原点には、デビュー盤『摩天楼のヒロイン』を共作のような形で完成させた、という出来事が大きかったようである。
※南佳孝氏のおすすめアルバムについては下記の記事へ
「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の南佳孝名義の楽曲一覧
では、さっそく「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の南佳孝名義の楽曲を一覧表にしてまとめてみた。表は以下の通りである。
No. | タイトル | 収録作品 | 発表年 | 編曲 |
---|---|---|---|---|
1 | おいらぎゃんぐだぞ | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
2 | 弾丸列車 | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
3 | 吸血鬼のらぶしいん | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
4 | 勝手にしやがれ | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
5 | 摩天楼のヒロイン | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
6 | 夜霧のハイウェイ | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
7 | 春を売った女 | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
8 | ピストル | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
9 | 午前七時の悲劇 | 摩天楼のヒロイン | 1973 | 松本 隆/矢野 誠 |
10 | Portrait Woman | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
11 | Lion Under The Moonlight | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
12 | Sleeping Lady | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
13 | Marie, Come Back | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
14 | Route 88 | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
15 | Dear Mr. Sharlock | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
16 | Vision In The Rain | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
17 | Manhattan Gigolo | SPEAK LOW | 1979 | 佐藤 博 |
18 | Simple Song | SPEAK LOW | 1979 | 坂本 龍一 |
19 | 憧れのラジオ・ガール | MONTAGE | 1980 | 坂本 龍一 |
20 | 夜の翼 | MONTAGE | 1980 | 坂本 龍一 |
21 | 月に向かって | MONTAGE | 1980 | 大村 憲司 |
22 | デジタル・ツイスト | MONTAGE | 1980 | 坂本 龍一 |
23 | 回転扉 | MONTAGE | 1980 | 大村 憲司 |
24 | スローなブギにしてくれ(I Want You) | SILKSCREEN | 1981 | 後藤 次利 |
25 | Groovy Night | SILKSCREEN | 1981 | 後藤 次利 |
26 | デ・ジャ・ヴー | SILKSCREEN | 1981 | 清水 信之 |
27 | 空中庭園 | SILKSCREEN | 1981 | 後藤 次利 |
28 | 涙のステラ | SILKSCREEN | 1981 | 清水 信之/南 佳孝 |
29 | 羅針盤 | 羅針盤(シングル) | 1982 | 矢野 誠 |
30 | Cool | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
31 | Scotch and Rain | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
32 | 夏服を着た女たち | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
33 | 天文台 | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
34 | 波止場 | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
35 | 口笛を吹く女 | SEVENTH AVENUE SOUTH | 1982 | Leon Pendarvis |
36 | 曠野へ | DAYDREAM | 1983 | 井上 鑑 |
37 | 昼下がりのテーブル | DAYDREAM | 1983 | 井上 鑑 |
38 | オズの自転車乗り | 冒険王 | 1984 | 清水 信之 |
39 | 80時間風船旅行 | 冒険王 | 1984 | 清水 信之 |
40 | 素敵なパメラ | 冒険王 | 1984 | 清水 信之 |
41 | Peace | 冒険王 | 1984 | 川島 裕二 |
42 | 浮かぶ飛行島 | 冒険王 | 1984 | 清水 信之 |
43 | 火星の月 | 冒険王 | 1984 | 清水 信之 |
44 | 宇宙遊泳 | 冒険王 | 1984 | 川島 裕二 |
45 | 真紅の魔都 | 冒険王 | 1984 | 川島 裕二 |
46 | スタンダード・ナンバー | 冒険王 | 1984 | 大村 雅朗 |
47 | 黄金時代 | 冒険王 | 1984 | 川島 裕二 |
48 | 冒険王 | 冒険王 | 1984 | 井上 鑑 |
49 | 二人のスロー・ダンス | 二人のスロー・ダンス(シングル) | 1985 | 井上 鑑 |
50 | ダイナー | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
51 | ミーン・ストリート | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
52 | ジョンとメリー | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
53 | ラスト・ショー | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
54 | 突然炎のごとく | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
55 | フラミンゴ・キッド | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
56 | 理由なき反抗 | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
57 | 水の中のナイフ | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
58 | シュガーランド・エキスプレス | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
59 | 華麗なるギャツビー | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
60 | スケアクロウ | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
61 | 避暑地の出来事 | LAST PICTURE SHOW | 1986 | 井上 鑑 |
62 | 再会 (AGAIN) | VIDEO CITY(シングル) | 1987 | 佐藤 博 |
63 | Video City | VINTAGE | 1987 | 清水 信之 |
64 | Girl | VINTAGE | 1987 | 清水 信之 |
65 | Paradiso | DAILY NEWS | 1988 | 本田 達也/西本 明/南 佳孝 |
66 | 待つ女 | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
67 | ・・・恋かもしれない | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
68 | バンジー・ジャンプ | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
69 | 青空 | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
70 | 魂のデート | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
71 | 水のように風のように | SKETCH OF LIFE | 1997 | 鈴木 茂 |
72 | 火星のサーカス団 | NHK みんなのうた さとうきび畑 | 1997 | 清水信之 |
73 | 遙かなディスタンス | ROMANTICO | 2004 | 井上 鑑 |
74 | サンクチュアリ | ROMANTICO | 2004 | 笹路 正徳 |
筆者調べによると、該当する楽曲は全部で74曲存在した。ここには作詞・作曲ともに、別の作家と連名になっている楽曲は含めていない。
なお、参考にしたのは、松本隆作詞楽曲リスト、南佳孝オフィシャルサイトや実際のCDブックレット、またオンラインCDショップサイト情報等である。
過去の作品においては、CDブックレットやオフィシャルサイトの情報が一致しない場合があった。その際には複数の情報を総合して、正しいと思われる情報を選んだ。
作品ごとに「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲紹介
ここからは、収録されている作品ごとに、楽曲を見ていきたい。
収録アルバム・シングルの全体の特徴と、松本隆・南佳孝による楽曲に関する内容を併せてコメントしている。
『摩天楼のヒロイン』(1973)
- 発売日:1973年9月21日
- レーベル:トリオレコード
<対象楽曲>
- おいらぎゃんぐだぞ
- 弾丸列車
- 吸血鬼のらぶしいん
- 勝手にしやがれ
- 摩天楼のヒロイン
- 夜霧のハイウェイ
- 春を売った女
- ピストル
- 午前七時の悲劇
南佳孝氏のデビューアルバム。松本隆氏が作詞と編曲・プロデュースを行い、編曲には矢野誠氏が加わり、3人がタッグを組んで作られた作品である。
もともと南氏が作り溜めていた楽曲ではなく、新たに「1本の映画のようなアルバムを」ということで書き下ろされたもの。南氏は本当のデビュー作は2枚目『忘れられた夏』であると述べている。
そのため、楽曲の雰囲気も後の作品とはやや異なり、どこかダークで尖った印象もある。2nd以降とは、独立した作品として聴くのが良いかもしれない。
全11曲のうち、9曲が松本隆・南佳孝の組み合わせの楽曲。
なおそれ以外では、「ここでひとやすみ」は南氏が作詞を担当。また「眠れぬ夜の小夜曲」は作詞に南氏、補作詞に松本氏というクレジットになっている。
ただインタビューによれば、南氏が作った歌詞を松本氏が作り直した楽曲が他にもあるようで、厳密に誰が作詞かと分けるのも難しいように見える。
『SPEAK LOW』(1979)
- 発売日:1979年6月21日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- Portrait Woman
- Lion Under The Moonlight
- Sleeping Lady
- Marie, Come Back
- Route 88
- Dear Mr. Sharlock
- Vision In The Rain
- Manhattan Gigolo
- Simple Song
2ndアルバム『忘れられた夏』以降は、ラテンミュージックからの影響を受けた南氏らしい音楽性を確立。一方で、名作と言われる3rd『SOUTH OF THE BORDER』には松本氏の単独の作詞はない。
1st『摩天楼のヒロイン』はヒットしなかったが、決裂したと言うことではない。南氏は自らのメロディとサウンドを求めて、様々な作家・音楽家と組んで楽曲を作っていた。
続く4th『SPEAK LOW』では、全11曲中9曲が松本氏による作詞である。郷ひろみが「セクシー・ユー」でカバーした「Monroe Walk(モンロー・ウォーク)」は来生えつ子による歌詞。
前作『SOUTH OF THE BORDER』の都会的かつラテンサウンドのトータル感に比べると、やや音楽性は拡散しているアルバム。ブルースやロック色があるような印象がある。
松本氏はあくまで作詞家の立場から参加で、「Route 88」「Manhattan Gigolo」などでは映画を観るかのような歌詞。過去形で語られる「Vision In The Rain」は、歌詞として読むと味わい深い。
そしてラストを飾る名曲「Simple Song」は、ストーリーより絵画のような歌詞である。
『MONTAGE』(1980)
- 発売日:1980年5月1日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- 憧れのラジオ・ガール
- 夜の翼
- 月に向かって
- デジタル・ツイスト
- 回転扉
2nd『忘れられた夏』~4th『SPEAK LOW』までの3作は夏を意識した作品。本作は世界観を広げ、都会的な雰囲気を匂わせる。
そして坂本龍一氏の打ち込みサウンドが、新たな風を吹かせている印象だ。彩り豊かなサウンドで、ポップなメロディが前面に出たアルバムである。
松本氏による作詞は前作より減り、全10曲中5曲である。本作では南氏自身による作詞も多くなっている。
松本氏の作氏の曲では、都会の風景を切り取った歌詞が印象的だ。タンゴのリズムが心地好い「夜の翼」はその最たる例であろう。
男女の関係を回転扉というアイテムから描いた「回転扉」も味わい深い歌詞だ。
『SILKSCREEN』(1981)
- 発売日:1981年2月25日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- スローなブギにしてくれ(I Want You)
- Groovy Night
- デ・ジャ・ヴー
- 空中庭園
- 涙のステラ
大ヒットとなった「スローなブギにしてくれ (I want you)」が収録されているアルバム。
アルバム全体を通して聴くと、実験的な楽曲が多い印象である。前作がポップにまとめた反動からか、あまり”南節”とも言うべきメロディラインが炸裂する曲は少ない。
松本氏が作詞をしたのは、全12曲の中で5曲。その他は、南氏自身によるものや、来生えつ子氏によるものが多くなっている。
アルバム全体的に、日本ではないどこか異国を思わせる歌詞が多い。「デ・ジャ・ヴー」「空中庭園」などは、どこか異国を舞台にした映画のワンシーンのようでもある。
実験的な楽曲が多い中で、王道を行くのは「涙のステラ」である。短い楽曲ながら、視界が開けていくような心地好さがある。
『羅針盤』(シングル、1982)
- 発売日:1982年1月21日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- 羅針盤
1982年のシングル『羅針盤』のタイトル曲で、アルバム未収録曲である。1997年の『the best』や2013年の『All Time Best 〜CUARENTA〜』などで聴くことができる。
なお作詞にクレジットされているのは「江戸門弾鉄」なる人物である。これは松本隆氏のペンネームであり、大瀧詠一氏の楽曲などの一部でクレジットされていることがある。
1982年のポーラサマーキャンペーンイメージソングとして制作されたもの。ラテン色のあるダンスミュージックに仕上がっている。
編曲は矢野誠氏が行っており、デビュー盤『摩天楼のヒロイン』の3人が再び揃うこととなった。
『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982)
- 発売日:1982年9月22日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- Cool
- Scotch and Rain
- 夏服を着た女たち
- 天文台
- 波止場
- 口笛を吹く女
南氏にとっては初めての海外(ニューヨーク)レコーディングを行った作品で、タイトルはニューヨークの地名と7枚目のアルバムであることをかけたもの。
前作『SILKSCREEN』は慌ただしい状況下で作られたようだが、本作はじっくりと時間をかけて作られたそうだ。人気の高い作品で、最高傑作に挙げる人も多いようである。
これまでにないほど、”都会”や”夜”といったテーマを前面に押し出したアルバムだ。そうしたテーマ設定も手伝って、歌詞・メロディ・アレンジと、非常に筋の通った作品になっている。
松本氏の歌詞は全11曲中6曲である。その他の曲は、「Down Beat」のみ来生えつ子氏、それ以外は南氏による歌詞だ。
何と言っても「Cool」~「Scotch and Rain」の流れは、本作の世界観を象徴するもの。味わい深い大人の映画を1本観たかのような、贅沢な時間を感じられる楽曲だ。
またアルバム後半には「波止場」「口笛を吹く女」など、隠れた名曲が並んでいる。80年代には松本氏による歌詞がまた増えるのだが、そのきっかけになった作品なのではないか、と思う。
『DAYDREAM』(1983)
- 発売日:1983年7月21日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- 曠野へ
- 昼下がりのテーブル
編曲に井上鑑氏を迎え、再び国内のプレーヤーとともに作り上げたアルバム。
前作がかなりコンセプトの強い作品だったためか、本作は楽曲のアプローチがかなり多様になっている。ロック色の強い楽曲、アンビエント風味のある楽曲など、実験的な要素も強い。
そうした前作との作風の違いからか、松本氏の作詞は全10曲中わずか2曲。アルバムの中でも南氏らしさが出ている2曲であるように、筆者は感じている。
「昼下がりのテーブル」は前作の雰囲気を残しつつ、大人のバラード。「曠野へ」はシンセサイザーの柔らかな音色が魅力的な1曲になっている。
アルバムではビート感の強い楽曲も多く、前後の作品と並べると、やや異色の作品だ。
『冒険王』(1984)
- 発売日:1984年6月21日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- オズの自転車乗り
- 80時間風船旅行
- 素敵なパメラ
- Peace
- 浮かぶ飛行島
- 火星の月
- 宇宙遊泳
- 真紅の魔都
- スタンダード・ナンバー
- 黄金時代
- 冒険王
デビュー盤『摩天楼のヒロイン』以来、11年ぶりに松本隆・南佳孝がタッグを組んで作ったアルバム。
プロデュースは松本隆・南佳孝の両名でクレジットされている。ずっと作詞家としての参加であった松本氏が、本作では久しぶりにプロデュースを行うことになった。
本作は、”かつての少年”が描いていた未来に関する物語を、1枚のアルバムを通じて描き出している。冒険やSFといった、これまでの南氏の楽曲では歌われなかったテーマが次々に登場する。
松本氏は全12曲において作詞に関わっている。「Come Back」のみ、Martha Lavenderとの連名であるため、今回の対象からは外している。
11年の時を経て、再び松本隆・南佳孝が組んで作られた本作は、当然ではあるが、2人の表現の幅が大きく増している。
それは世界観へのこだわりやコンセプトを持ちながら、ポップな作品として表現されている点においても明白である。
どれも名曲だが、やはりタイトル曲「冒険王」であろう。ストリングスを用いた優雅なアレンジ、言葉数の少ないメロディに、ここまで広大な世界を表現できる歌詞はさすがと言うほかない。
『二人のスロー・ダンス』(1985)
- 発売日:1985年7月3日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- 二人のスロー・ダンス
アルバム未収録のシングル曲であり、2002年の『シングルズ 1978-1993』や2013年の『All Time Best 〜CUARENTA〜』などで聴くことができる。
TBS系ドラマ『夫婦生活』の主題歌に起用された楽曲。離婚が近い俳優夫婦というドラマの設定から、別れのダンスを踊る物語の歌詞になっている。
メロディとしては「スタンダード・ナンバー」にも通じる、ラテン要素がありつつ哀愁を帯びたもの。
松本隆・南佳孝のタッグも、まさに円熟の領域に入っていることがわかる1曲になっている。
『LAST PICTURE SHOW』(1986)
- 発売日:1986年2月26日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- ダイナー
- ミーン・ストリート
- ジョンとメリー
- ラスト・ショー
- 突然炎のごとく
- フラミンゴ・キッド
- 理由なき反抗
- 水の中のナイフ
- シュガーランド・エキスプレス
- 華麗なるギャツビー
- スケアクロウ
- 避暑地の出来事
前作に続き、松本隆・南佳孝がタッグを組み、共同プロデュースを行って制作されたアルバム。編曲は全て井上鑑氏によるもので、『DAY DREAM』以来となる。
本作は1950年代~80年代の映画のタイトルをそのまま楽曲のタイトルにし、映画の世界観を楽曲に表現したコンセプトアルバムである。
考えてみると、デビュー盤『摩天楼のヒロイン』も映画のような音楽を、という狙いで作られたもので、映画の好きな両氏のこだわりが結実した作品と言えるかもしれない。
本作は松本隆氏による作詞は、全13曲のうち12曲。残る1曲はインストゥルメンタルであるため、実質は全曲が松本氏による作詞と言うことになる。
どの楽曲も元の映画を知っていると、映画のシーンが浮かぶようでもあり、一方で別の物語を想像することもできる余白がある。
前作『冒険王』ではサウンド面でもコンセプト性が強かったものの、本作はもう少し各楽曲の個性がある印象である。
本作を最後に松本氏が南氏の作品にこれほど関わることはなくなり、本作が彼らの集大成と言える作品となったのかもしれない。
『VIDEO CITY』(シングル、1987)
- 発売日:1987年2月26日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- 再会 (AGAIN)
アルバム『VINTAGE』の先行シングルとしてリリースされたもの。「VIDEO CITY」も松本氏による楽曲だが、ここではアルバム未収録の「再会 (AGAIN)」を取り上げた。
2013年の『All Time Best 〜CUARENTA〜』で聴くことができる。
『VINTAGE』(1987)
- 発売日:1987年6月3日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- Video City
- Girl
サウンドや制作陣で大きく変化が見られた本作。打ち込みが楽曲の多くを占めるようになり、当時は若手だった小西康陽や高柳恋などを作詞に起用している。
やはり前作『LAST PICTURE SHOW』は、それまでの南氏の活動を総括するような作品だったのか。新たなサウンド・メロディを求めて、前に進もうと言う意思が感じられる作品になっている。
松本氏による作詞は、全13曲の中でわずか2曲のみ。いずれもシングル曲で、「Video City」はナショナルショップイメージソング、「Girl」は東宝映画『微熱少年』の挿入歌であった。
前作までの『冒険王』『LAST PICTURE SHOW』は懐古的な物語でもあったが、本作ではより現代的なムードを志向しようとしているように見える。
『DAILY NEWS』(1988)
- 発売日:1988年9月21日
- レーベル:CBSソニー
<対象楽曲>
- Paradiso
前作以上に新しい音楽的要素を加えたアルバム。全体的にビート感が強く、ファンクのリズムまで飛び出す、若々しいサウンドに仕上がっている。
松本氏による歌詞は前作よりさらに減り、全12曲中1曲のみである。「Paradiso」は東映映画『疵』主題歌に起用された。
「Paradiso」に関しては、今までになくタイトなビートであるが、南氏らしいラテン色のある情熱的なメロディ。歌詞にも緊張感があり、南佳孝の新たな側面も引き出されている。
本作以降、しばらく松本隆・南佳孝という組み合わせによる楽曲は登場しなくなる。
『SKETCH OF LIFE』(1997)
- 発売日:1997年6月25日
- レーベル:Kitty Records
<対象楽曲>
- 待つ女
- ・・・恋かもしれない
- バンジー・ジャンプ
- 青空
- 魂のデート
- 水のように風のように
松本氏が作詞で参加するのは、実に9年ぶりのアルバムである。70年代から同年代で活動してきたミュージシャンとは、しばらく制作をともにしない状況が続いていた。
本作では、松本隆・南佳孝・鈴木茂という3人が組んで作られたアルバム。楽曲も70年代後半~80年代前半頃の南氏を思わせる、懐かしい雰囲気の作品となっている。
松本・南の組み合わせとなっているのは、9曲中6曲である。
ラブソングが並ぶアルバムであるが、これまでの異国情緒のあるものというより、アルバムタイトルのように日常をスケッチしたような、さりげない風景を描いている。
複雑な関係の「魂のデート」、普遍的な美しさを描いた「水のように風のように」などが印象的だ。実は辛辣な内容を歌った「バンジー・ジャンプ」も興味深い歌詞である。
『NHK みんなのうた さとうきび畑』(1997)
- 発売日:1997年9月1日
- レーベル:キューン・ソニーレコード
<対象楽曲>
- 火星のサーカス団
1985年10月~11月にNHK『みんなのうた』で放送された楽曲。リリースは1997年のCDであるが、1985年のリリースなので、曲の雰囲気は懐かしく聞こえる。
火星のサーカス団が銀河を旅する、という内容の歌詞。楽曲の雰囲気としては、1984年の『冒険王』を思わせるような内容となっている。
楽しげな雰囲気の中に、どこか哀愁を感じさせる楽曲となっている。
『ROMANTICO』(2004)
- 発売日:2004年7月21日
- レーベル:ビクターエンタテインメント
<対象楽曲>
- 遙かなディスタンス
- サンクチュアリ
1999年の『PURPLE IN PINK』と、2001年のカバーアルバム『NUDE VOICE』などを挟んで、7年ぶりに松本隆氏が作詞で参加したアルバムである。
アルバム全体的には、90年代に続いていたタイトなビートは少なくなり、ゆったりと肩の力を抜いた楽曲が増えた印象である。
松本・南の組み合わせは、全13曲のうち2曲のみ。いずれも先行シングルに収録されており、「遙かなディスタンス」は佐川急便イメージソングに起用された。
「遥かなディスタンス」は時間や距離を超えたラブソング、「サンクチュアリ」は聖域にまつわる少し不思議な世界の歌詞。異なるタイプの2曲になっている。
なお2022年現在、本作以降で松本隆・南佳孝の組み合わせで作られた楽曲はない。
まとめ
この記事では、「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲を全て集めて紹介した。
全部で74曲の楽曲を紹介したが、時代順に並べてみると、曲調や歌詞の変化なども見えてきて面白かった。
「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」が多かったのは、1979年~1986年の間であることが分かった。そしてこの期間の多くは、松本隆氏は職業作家的な関わり方をしていた。
デビュー盤『摩天楼のヒロイン』は松本隆氏がプロデュースにも関わり、松本隆カラーも強い作品になった。しかし先駆的過ぎる内容でもあって、セールス的には芳しくなかった。
その後、南氏は2nd『忘れられた夏』で、作詞・作曲とヘッドアレンジで、真のソロデビューを果たした。松本氏は、プロデュースより作詞家としての活動が中心となっていった。
南氏は「スローなブギにしてくれ (I want you)」のヒットもあり、様々なタイアップも獲得する。一方の松本氏は「ルビーの指環」などを手掛け、作詞家として売れっ子になっていた。
そんな2人が再びプロデュースでも組んだ、『冒険王』『LAST PICTURE SHOW』と言う2作は重要な作品なのだろう。
デビュー盤『摩天楼のヒロイン』でやりたかった、映画や小説の世界を音楽で紡ぐ、という作品の構想を、時を経て実力をつけた2人が見事に作り上げたアルバムだったのだ。
松本氏は、南氏に作詞をすることに対して、こんな発言をしていた。
南佳孝に作詞をする時は、男で同い年ということで、作り事がない自分が投影されることが多い。その中でもアルバムの片隅に置き忘れられたような、この小品の傑作が人気が高く、他では封印され、九月にsonoriumだけで演奏せれると聞いた。で、はるばるこのsimple songを聴きに神戸からやってきた。
— 松本 隆 (@takashi_mtmt) September 21, 2019
きっと南氏も松本氏に歌詞を頼む時には、同じことをイメージしているのではなかろうか。
彼らが組むとき、それは職業的な関係だけでなく、やはり同じ時代を生きてきた仲間であり、ライバルであり、特別な関係性だったのだろうと思った。
『LAST PICTURE SHOW』以降、徐々に2人が組むことは減ったが、近年は2021年の南佳孝フェス「I WILL 69 YOU」に松本氏がゲスト参加、また2022年にコンサート「Simple Song」で2人が揃う。
どんなステージになるのか、そして今後もまた2人で楽曲を作ることがあるのか、楽しみにしたいところだ。
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