京都出身の4人組ガールズバンド、おとぼけビ〜バ〜は国内以上に海外から熱烈な注目を浴びている。
Red Hot Chili PeppersのベースFleaやMetallicaのドラマーLars Ulrich、Foo Fightersのギター・ボーカルDave Grohlなどが、彼女らを取り上げて絶賛している。
筆者もおとぼけビ〜バ〜のあまりに個性的な音楽性に度肝を抜かれた。いったい彼女たちの音楽の魅力とは何なのだろうか。
本記事では現時点での最新作『SUPER CHAMPON』(2022)をレビューしながら、バンドの魅力や海外から評価される理由についても考察してみた。
【アルバムレビュー】おとぼけビ~バ~ – SUPER CHAMPON(2022)
さっそくおとぼけビ~バ~のアルバム『SUPER CHAMPON』について、作品の概要とレビューを行っていきたい。
レビューでは本作の特徴や魅力だけでなく、本作から見られる今のおとぼけビ~バ~の魅力についても語っている。
作品概要
- 発売日:2022年5月6日、2022年5月25日(国内盤)
- レーベル:Damnably
No. | 曲名 | 時間 |
---|---|---|
1 | アイドンビリーブマイ母性 | 2:05 |
2 | ヤキトリ | 1:44 |
3 | サラダ取り分けませんことよ | 1:22 |
4 | パードゥン? | 1:45 |
5 | 穴兄弟で鍋パーティー | 1:13 |
6 | リーブミーアローンやっぱさっきのなしでステイウィズミ | 1:42 |
7 | 携帯みてしまいました | 1:32 |
8 | あなたとの恋、歌にしてJASRAC | 1:12 |
9 | 呼ばんといて喪女 | 1:39 |
10 | あらあんたえらいええ時計してそれどこで買いはったん | 0:26 |
11 | ジョージ&ジャニス | 0:42 |
12 | 一級品の間男 | 2:09 |
13 | ヤリチン武勇伝ちゃう口を慎め | 0:16 |
14 | 孤独死こわい | 1:55 |
15 | ジジイ is waiting for my reaction | 0:59 |
16 | DM送ってやろうか | 0:12 |
17 | DM送ってやろうか Part2 | 0:13 |
18 | レッツショッピングアフターショー | 0:17 |
収録時間 | 21:17 |
おとぼけビ〜バ〜が2022年に発表したアルバム『SUPER CHAMPON』は、前作『いてこまヒッツ』から3年ぶりの作品である。全18曲入りで、収録時間は21:17だ。
TOWER RECORDSの紹介では以下のように書かれている。
- タイトルの「チャンポン」が示す通り、ジャンルレスそしてボーダレスに混ざりあい展開するカオスミュージック全18曲を収録
- おとぼけビ~バ~の音楽性を極限まで高め全世界に提示するまさに「チャンピオン」のような作品
メンバーは、あっこりんりん(ボーカル・ギター)、よよよしえ(ギター・コーラス)、ひろちゃん(ベース・コーラス)、かほキッス(ドラム・コーラス)の4名である。
オリジナルメンバーはあっこりんりん・よよよしえの2名で、ひろちゃんは2013年に加入、かほキッスは2018年に加入している。
現体制になってからは前作『いてこまヒッツ』に続く2枚目のアルバムであり、前作が旧譜の新録音源などを含む作品だったことを考えると、新体制での純粋な新作としては初になる。
2016年よりイギリスのインディーズ音楽レーベルDamnablyからのリリースで、国内盤リリースの方が後になっている。なお国内盤は2024年現在入手しにくい状況となっている。
2022年にUK Album Downloads Chartでは最高77位を獲得している。
レビュー
アルバム『SUPER CHAMPON』を聴いた率直な感想や感じたこと、そして本作から感じ取れる、今のバンドが放つ魅力について考察した。
全体の印象
とにかく衝撃的な作品である。全18曲、20分ちょっとという短い時間の中に、これでもかと言うほどの情報量と熱量が込められている。
何に影響を受けてこういう作品ができたのか全く読めない、ジャンルレスでまさに”チャンポン”な作品になっている。
本作でまず印象に残るのは、爆速かつジェットコースターのように進んでいく楽曲である。とりわけ「携帯みてしまいました」は、衝撃的なドラムプレイを聴くことができる。
まだ過去作品を十分に聴き込めてはいないが、よりソリッドさを増し、攻撃性・切れ味のある作品に仕上がっている。
全体的な佇まいは過去作品と変わっていないものの、過去の楽曲には、もう少しガレージロック的なロックンロールの雰囲気やネオ昭和歌謡的な歌詞の世界観があったように見える。
しかし本作ではそうした何かの”リバイバル”的に思われる要素はほぼなくなっており、圧倒的な個性を確立した記念すべき作品と言って良いかもしれない。
歌詞の世界観も独特なもので、「サラダ取り分けませんことよ」「穴兄弟で鍋パーティー」など、一見すると何を言っているのかと思わせる歌詞だが、頭にこびりついてしまうフレーズが強烈である。
「アイドンビリーブマイ母性」「あなたとの恋、歌にしてJASRAC」など、強烈に風刺が効いている歌詞が多いが、起承転結などをつけずに、聴く側に委ねているところが興味深い。
歌詞がよりフレーズの連呼となっている点は、文章的な要素もあった過去作品に比べると、海外の人にとっても覚えられそうなフレーズを意識したものでもあるのだろうか。
アルバムを通じてメロディアスな要素もなく、爆速で突っ走る作品なのだが、不思議と耳に残るポップな雰囲気は失っていないところも魅力である。
むろん一般に言うキャッチーさやポップさとは全く異なる音楽だが、聴き続けるうちに不思議と耳に残っていく音楽性は取っつきにくいものではない。
どこか子どもの歌う童謡のような、土着的なメロディとして日本人の心に響くからなのか、海外の人にとっては新鮮なものに聞こえるのかもしれない。
あえて注文をつければ、圧倒的な情報量のアルバム前半から、後半の流れでひと捻り合っても面白かっただろうか。
ただ本作は全速力で突っ走ったまま終わるところに、まだまだ伸びしろを感じさせると言う意味で良かったところもある。
個人的にはプログレッシブな雰囲気さえある「リーブミーアローンやっぱさっきのなしでステイウィズミ」の方向性が増えても面白いし、さらにソリッドな作風になっても面白いと思う。
本作はガレージロック的な雰囲気から脱し、あまりに独特な個性を放った記念碑的作品のように思える。だからこそ次に物凄く期待がかかる作品とも言えるだろう。
本作にみる今のおとぼけビ~バ~の魅力とは?
本作から見えてくる、今のおとぼけビ~バ~の魅力について考えてみたいと思う。
おとぼけビ~バ~の魅力を一言で表すならば、「バランス感覚」であると筆者は思った。もう少し付け加えるならば、ロックの初期衝動を保つためのバランス感覚、とでも言おうか。
一聴すると破天荒なパンクバンドに聞こえるが、この音楽性を保つ上では、たとえば以下の要素の絶妙なバランス感覚が必要になるだろう。
- 自由に飛び回るようなバンドサウンド
- 圧倒的に構築された楽曲とテクニック
- 失われていないポップさ
まずもって、ロックの初期衝動とも言える、バンドサウンドがおとぼけビ~バ~の魅力である。まるでどこにでも飛び回れるような自由さを感じさせるサウンドが、とても心地好い。
そしてどういうセンスで生まれたのか全く読めない、独特過ぎる世界観の歌詞と楽曲は、猪突猛進に見えて、実は非常に複雑で構築されたものになっている。
作詞・作曲をするのはボーカル・ギターのあっこりんりんであるが、かなりバンドがアレンジを組み立てていくタイプではないかと見ている。
多少なりともバンドをやったことのある人ならば、これらの曲をいかにバンドで合わせているのか興味津々であろう。「数秒のキメで6時間練習する」とも語られていたが、非常に納得できることだ。
まずはこの破壊的サウンドと、テクニックや構築と言った一見相反する部分を、いかに成立させるかがこのバンドの見どころであると思う。
この点において、本作『SUPER CHAMPON』では、より攻撃的でパワフルになりながら、さらに複雑で構築された楽曲になっている点で、大いに進歩しているように思われた。
2018年にドラムのかほキッスが加入したことも大きな変化のようだ。彼女のドラム単体でも取り上げられるほどの超絶プレイであり、確実に楽曲の幅を広げ、精度を上げたのではないか。
そして4人のコンビネーションがなくては成立しない音楽であり、とにかく普段から練習をしてベストな状態を作り上げている様子が、音から窺える。
ハードコアな印象を持つが、その音楽性にはポップさも失われていない点も重要な要素である。そしてこのポップさとハードさのバランスも、本作に至るまでに変化があったように思われた。
既に述べたように、前作を含めそれ以前の音源を聴くと、もう少し”いかにも”ガレージロックバンド風、ガールズロックバンド風の音や世界観があったように思える。
その変わり目を感じるのは、たとえば2017年リリースの「ラブ・イズ・ショート」の音源は、どちらかと言えば以前のおとぼけビ~バ~という感じがする。
曲の雰囲気、あっこりんりんの歌い方やバンドのサウンド、見た目まで含め、まだガレージロックやガールズバンド風の装いをしているかのように思われる。
それが本作に繋がる作風に変わっているのが、2019年の『いてこまヒッツ』収録の「ハートに火をつけたならばちゃんと消して帰って」である。
それまでは、何か意識して目指そうとしていたバンドや音楽性があったのかもしれないが、本作に向かうおとぼけビ~バ~は、完全に独自路線を行くことに覚悟を決めたような印象を受ける。
既存のガレージロックとかガールズロック的なイメージは捨て去り、今の4人が出せる音を限界まで突き詰めていくようなストイックさが感じられる。
バンドの音楽とは、起点として依拠する音楽性があるものの、それよりも先にメンバーの個性が集まってできるサウンドがあるものだと思っている。
今のおとぼけビ~バ~は、4人が出せる音を突き詰めて磨き上げたところに生まれた楽曲を世に放っているところが、最大の魅力かもしれない。
まとめ+なぜ海外で高評価なのか?
今回の記事では、おとぼけビ~バ~の2022年のアルバム『SUPER CHAMPON』をレビューしながら、今のバンドとしての魅力を考察した。
新体制になってから初の純然たるオリジナルアルバムであり、これまで以上にソリッドかつ攻撃的で、圧倒的な個性をテクニカルな演奏で見事に作り上げた力作であると筆者は感じた。
そしてそれまでのバンドが持っていた、ガレージロックやガールズバンド然とした、何かにこだわっていたかのような佇まいを捨て、4人のメンバーで独自の音をストイックに追求した結果だと見ている。
こうしたおとぼけビ~バ~の音楽性は、国内よりも先に海外で評価されることとなった。いったいなぜなのだろうか。
確たる理由はよく分からないが、1つには良いロックバンドの持つ、只ならぬ感じが海外のロックファンに伝わったのではなかろうか?
先ほども述べた通り、ロックバンドの良さは、特定のジャンルを表現するために音楽があるのではなく、メンバーの個性が先に立って独特のノリや音楽性が形成される。
ジャンルが先に立てば「こういう人たちがこういう音楽をやりたいのね」という思惑が見えてしまうのだが、メンバーの個性が作り上げる音楽は圧倒的に独自なものとなる。
かつてeastern youthがfOULを称してそのように言っていたのと、近いものを感じる。
おとぼけビ~バ~にはそうしたロックバンドならではのメンバーの個性が結集した只ならぬ感じがあり、そうしたロックバンドの良さを理解できる人口が日本より海外に多いと言う事だろう。
加えて日本人が(良い意味で)異形の存在としてのロックバンドをやっているところが、海外の人にとってはクールに見える風潮もありそうだ。(人間椅子が海外で評価されたのもその風潮だろう)
さらに言えば、やはり衝撃的な音こそロックの原点である。昨今はサブスクでプレイリストを流し聴きするのが全盛の時代であり、ソフトかつライトな音楽の方がよく聴かれるようになった。
そんな風潮の中で、その方向性とは絶対に真逆の、聴くものを釘付けにしてしまう衝撃的なサウンドはむしろ新鮮な風として受け入れられたのではないか。
ロックにおいても、クリックや打ち込みを使うことで、”正確な”演奏をすることは十分可能になった。しかしそれで失われるのは、人の息づかいで変わる演奏のノリである。
おとぼけビ~バ~の演奏は、人力でしか出しえないノリや阿吽の呼吸があり、そうした揺れのある音楽がむしろ貴重になっている。
そしてただがむしゃらにかき鳴らすのではなく、見事に音楽として高い構築度を誇るところが素晴らしい。非常に期待のロックバンドであり、今後の展開が楽しみである。
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