【人間椅子】アルバム制作時期より前に作られた・披露された後に収録された楽曲たち

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バンド生活三十五周年を迎えた人間椅子、これまで全部で23枚ものアルバムが発表されている。

人間椅子の音源発表は、基本的にアルバムであり、先行してシングルがリリースされることも稀である。楽曲制作もアルバムリリース前にまとめて行い、レコーディングすると言う流れのようだ。

また人間椅子はあまりストックを残さず、書き下ろしでアルバムを制作するのが近年の方針のようである。ただそんな中、かつてはストックから楽曲がアルバム収録されたこともあった。

今回集めたのは、アルバム制作時期より前に作られた、あるいは披露されたものの、アルバムに収録されたのは後になった楽曲たちである。

まだ未完成・未発表の状態でライブで披露された曲、企画で作られた曲、長らく温めていた曲など様々である。曲にまつわるエピソードとともに紹介しよう。

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アルバム制作時期より前に作られた・披露された後に収録された楽曲たち

今回アルバム制作時期より前に作られた・披露された曲を紹介する。

これらはメンバーのインタビューや、当時のファンの人からの情報(を掲載したサイト情報)などをもとに、筆者が知り得たものをまとめた。

内部関係者ではないため、あくまで表に出ている情報のみ、また筆者が見聞きしたもののみとなる。

分かる楽曲は、どの時点で発表・披露されていたのかと言う時期の情報も付し、収録された作品情報も載せている。なおデビュー前後はストックと新曲の境目が難しいので、一部のみ取り上げた。

人面瘡

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1989年のライブでは既に披露されている。0th『人間椅子』に収録。
  • 初収録作品:シングル『夜叉ヶ池』(1991年2月21日)

軽快なロックンロールと不気味な歌詞、そしてプログレ風味を加えた和嶋氏の初期の代表曲の1つである。いまだにライブ後半で頻繁に披露される、ロングセラー楽曲である。

メジャーデビュー前の1989年時点でのライブで披露されており、通称0thと呼ばれるインディーズ盤『人間椅子』に収録されている。

しかし実はメジャーデビュー後にオリジナルアルバムに収録されたことがなく、音源的にはやや数奇な運命をたどっている。

初めての収録は1991年のシングル『夜叉ヶ池』のカップリングと言う扱い、その後は1994年のベスト盤『ペテン師と空気男〜人間椅子傑作選〜』に収録されると、ベスト盤では常連の楽曲となった。

爆弾行進曲

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1989年のライブでは既に披露されている。
  • 初収録作品:『桜の森の満開の下』(1991年3月13日)

ライブでも”切り込み隊長”的な立ち位置で、序盤にライブをヒートアップさせることに長らく貢献してきた楽曲。

35周年を記念したワンマンツアー『バンド生活三十五年~猟奇第三楽章~』でも、その役割を担っていた。

実はデビュー前からのレパートリーであり、1989年11月頃のライブから披露されていたようだ。(こちらのサイトのセットリスト情報を参照)

ただし収録されたのは1991年の2ndアルバム『桜の森の満開の下』だった。

相撲の唄

  • 作詞:鈴木研一、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1989年のライブでは既に披露されている。
  • 初収録作品:『桜の森の満開の下』(1991年3月13日)

相撲ファンである鈴木氏らしい歌詞の楽曲、当時は”ナンセンスソング”の枠で語られていた。

こちらもデビュー前の1989年、初のワンマンライブ『百鬼夜行のおどろ唄』にて披露されている。デビュー前からアルバム収録となった『桜の森の満開の下』の頃まではよく披露されていたようだ。

ただその後は、あまり人気のない曲だと本人たちが知ってから、意地でもやらないと決めてしまったようである。そろそろその禁を解いて、ライブで披露してほしいところである。

マンドラゴラの花

  • 作詞・作曲:鈴木研一
  • 最初に発表・披露された時期:1989年のライブでは既に披露されている。
  • 初収録作品:『黄金の夜明け』(1992年6月21日)

漫画『エコエコアザラク』から着想を得て作られたという楽曲。一貫して不気味な曲調と気味の悪い歌詞は鈴木氏の本領発揮と言ったところ。

デビュー前からライブでは披露されていたが、あまりに渋い楽曲だったためか、なかなかアルバムに収録されなかった楽曲である。1992年の3rd『黄金の夜明け』にようやく収録されることとなった。

ちなみに鈴木氏の処女作である「デーモン」と言う楽曲の中間部を使っており、思い入れの強い楽曲なのだと思われる。近年もたまにライブで披露されることがある。

時間を止めた男

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1993年の『羅生門』制作時に一緒にレコーディングされたが録音が間に合わず未収録。
  • 初収録作品:『踊る一寸法師』(1995年12月10日)

空想の世界に誘われるような歌詞と、ヘヴィにして悲しげな名曲である。

この曲は1993年の『羅生門』に収録されるはずの楽曲だったが、トニー・アイオミのプロデュース話が流れたせいか、レコーディング期間も短かったようで、収録が間に合わなかったという。

そのため『羅生門』は普段より1曲少ない、9曲でリリースされることになってしまった。1995年、次のアルバム『踊る一寸法師』でめでたく収録されることとなった。

途中までレコーディングした音源があるはずだが、『羅生門』から『踊る一寸法師』にかけてギターサウンドは結構変わっている。

『羅生門』の音像で「時間を止めた男」がどのような雰囲気だったのか大いに気になるところである。

刀と鞘

  • 作詞・作曲:鈴木研一
  • 最初に発表・披露された時期:1993年・1994年のライブで「男はつらいよ(仮)」として披露。
  • 初収録作品:『無限の住人』(1996年9月20日)

1996年のアルバム『無限の住人』に収録、さらにシングルカットまでされた楽曲である。

1993年・1994年のライブで「男はつらいよ(仮)」と言うタイトルで披露されていたそうである。(こちらのサイトに書かれている)

制作途中の段階からライブでも披露され、シングルカットまでされた楽曲であり、本人たちとしては力作だったのだろう。そして筆者も非常に気に入っている楽曲である。

しかし歌詞に難がある(下ネタとして受け取れる)ことから、自主規制の形でライブ演奏をしなくなってしまったようである。

ちなみに『無限の住人』の曲はリリース前にライブで披露されていたものが多く「もっこの子守唄」も94年頃に披露されていたそうだ。

黒猫

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1994年のファンクラブの集いで「充血」(「黒猫」の中間部)として披露。
  • 初収録作品:『無限の住人』(1996年9月20日)

Black Sabbathの3rdアルバム『Master of Reality』に通じるヘヴィさに、難解な日本語詞とプログレ風味と畳み込む展開の多さなど、和嶋氏の構築された楽曲の1つの頂点である。

この曲には何曲分にもわたりそうなアイデアが詰め込まれているが、実際のところ、中間部は「充血」と言うタイトルで披露されたことがあるようだ。

前半のヘヴィな展開から、急にスピードメタル風の展開は唐突にも思えるが、やはりもともと別のピースだったということだ。しかしこの唐突さこそ、「黒猫」の味となっている。

恐山

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:テレビ番組『人間椅子俱楽部』(第1期)第99回に披露、1997年頃か?
  • 初収録作品:『修羅囃子』(2003年1月22日)

アコースティックギターとベース・ドラムという編成で演奏される楽曲。不気味さを感じさせつつも、無常の風が吹いてきそうな味わい深い曲調になっている。

なおもともとは青森ローカルで放送されていたテレビ番組『人間椅子俱楽部』の企画、「青森ミステリーゾーン」内で恐山に行き、演奏された楽曲がもとになっている。

当時の映像を見ると、キーが少し低めだったのと、アウトロ部分のメジャーに転調する部分はもともとなかったようだ。

個人的にはテレビで放映されたバージョンの方が気に入っている。

道程

  • 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
  • 最初に発表・披露された時期:2003年のイベント「ダダイスト宣言」で披露。
  • 初収録作品:『三悪道中膝栗毛』(2004年9月29日)

ナカジマノブ氏が加入して最初のアルバムで、初めてボーカルを取ったのがこの曲で、まるでナカジマ氏が歌う想定で作られたかのような出来だが、当時は全くそうではなかった。

既に次回作のリリースも決まっていた中での後藤マスヒロ氏の脱退。2003年のイベントでは「道程」は既に披露されており、(おそらく作曲した)鈴木氏ボーカルで披露されたのだろう。

しかし歌が上手く合わなかったので、『修羅囃子』には収録されなかったそうだ。ナカジマ氏が歌ったら合うのではないか、ということで、『三悪道中膝栗毛』にめでたく収録された。

まるでナカジマ氏が加入することを見越して作られたかのような楽曲にも思える。

白日夢

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:1990年渋谷でのライブ、1998年の「奇数月ライヴ七月」などで「夏の墓場」披露。
  • 初収録作品:『真夏の夜の夢』(2007年8月8日)

和嶋氏による仏教的世界観の楽曲であり、近年ではあまり見られなくなったポップなメロディが前面に出た美しい楽曲である。

この曲の原型は、『真夏の夜の夢』リリースから遡ること20年近く前で、Aメロ部分が「夏の墓場」と言う曲だったそうだ。ライブでも何度か披露されていたのだが、ようやく形になったのだと言う。

『真夏の夜の夢』リリース当時のツアーのMCでそのことが語られている。これほど間隔が空いてから、アルバム収録されるケースも珍しいのではなかろうか。

そしてタイトルが「夏の墓場」だったから、”夏”つながりで『真夏の夜の夢』に収録されたのか、と考えたりした。

人間椅子『真夏の夜の夢』ツアー@千葉ルック : 修羅草子
ツアー『真夏の夜の夢』 膿物語 幽霊列車 夜が哭く 人喰い洗車 猿の船団 羅生門 世界に花束を どっとはらい 閻魔帳 時...

塔の中の男

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:リリースより10年ほど前からAメロ部分のリフは存在していた。
  • 初収録作品:『未来浪漫派』(2009年11月4日)

ドイツの詩人フリードリヒ・ヘルダーリンを偲んで作られたと言うこの楽曲。9分近い大作であり、不気味な前半部と、希望を感じさせる中間部が対比的に配置されている。

不気味な雰囲気のAメロ部分のリフは、かなり昔から温めていたものだったらしい。鈴木氏からは曲にしてくれという要望があったそうだが、ようやく実現できたという感じだろう。

確かに『未来浪漫派』の時期にありそうなリフと言うより、後藤氏在籍時の人間椅子などに合っても良さそうなリフだ。当時曲にしていたら、おそらく全く別の雰囲気の曲になっていただろう。

悪魔と接吻

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:『未来浪漫派』(2009年)のタワーレコード購入特典のCDに収録。
  • 初収録作品:『此岸礼讃』(2011年8月3日)

コンパクトな楽曲ながら、不気味さと疾走感、そして工夫された展開が詰め込まれた佳曲である。この曲、実は当初は『未来浪漫派』の”おまけ”的な扱いの楽曲だった。

タワーレコードで『未来浪漫派』を購入すると、特典CDとして付いてきた楽曲である。ただライブでも披露され、人気を博した楽曲であった。

そのためか、次作『此岸礼讃』に正式メンバーとして加わった形である。ただ作風としては、洋風の感じがするので、やはり『未来浪漫派』の雰囲気と何となく合っている。

いまだに筆者の中では『未来浪漫派』の一部という認識の方が強い曲だ。

【人間椅子】現在は入手困難となった初回限定盤や店舗限定特典のCD、DVDの内容紹介

此岸御詠歌

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:『此岸礼讃』(2011年)のリリースツアーから入場曲として使用。
  • 初収録作品:『萬燈籠』(2013年8月7日)

人間椅子はライブの入場曲を、他のミュージシャンの楽曲などを編集して使っていたが、『此岸礼讃』のリリースツアーよりSEとしてオリジナル曲を用い始めた。それがこの「此岸御詠歌」だ。

アルバム『萬燈籠』に収録され、その後もSEとしてたびたび使用されてすっかりお馴染みとなった。しかし『此岸礼讃』のツアー時は全くの新曲であり、ファンとしては大いに驚いたものだった。

そして『萬燈籠』では新たに録音し直されており、『此岸礼讃』のリリースツアーから新録されるまでの期間のみ使われた、幻のオリジナルバージョンがバンドの手元にのみ存在する。

なおメインリフは「今昔聖」を作曲する上で生み出されたリフのようである。

菊花の数え唄

  • 作詞・作曲:和嶋慎治
  • 最初に発表・披露された時期:ドラマ『JKは雪女』(2015年)の劇伴として「針の山」のような曲?として作られた。
  • 初収録作品:『怪談 そして死とエロス』(2016年2月3日)

軽快なビートに乗せて、和風の音階と歌詞で突き進む楽曲である。一聴すると、メインのリフやAメロなども「針の山」を意識したもののようにも思える。

それもそのはずで、もともと「針の山」を似せて作られたのではないかと推察される。この曲のリフは、ドラマ『JKは雪女』の劇伴を人間椅子が担当した中で登場したものだ。

劇伴の楽曲は、人間椅子の「相剋の家」や「陰獣」に非常に似た曲が新たにレコーディングされて使われたようで、その中には「針の山」に似せたと思われる曲もあった。

しかし後でびっくりしたのは、その曲がオリジナルとしてアルバムに収録されており、それが「菊花の数え唄」だったのだ。

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まとめ

今回は人間椅子の楽曲の中で、アルバム制作時期より前に披露・発表された楽曲について紹介した。

こうして並べてみると、失礼ながらライブの定番やベスト盤に収録されるタイプの曲はそれほど多くないことが分かる。

とりわけ和嶋氏は、”火事場の馬鹿力”とでも言おうか、制作が切羽詰まってきたり、レコーディングに入っているのにまだ作っている曲こそ、ベストに入るような楽曲なのだ。

やはり楽曲にも旬がある、ということなのだろう。できるだけ作ってからすぐに表に出す、というのが良いようである。

もちろん、だからと言って出来の悪い曲と言う意味では決してない。個人の思い入れと、バンドでのリリースのタイミングと、諸々の状況が重なってこそ収録が決まるものだ。

楽曲にも様々に歴史があり、そんな背景を知ると、楽曲の楽しみ方も増えると言うものだろう。

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