70年代ブリティッシュハードロックサウンドに文学的な日本語詞を乗せる唯一無二の世界観を誇るバンド人間椅子、その魅力は日本のみならず海外にも伝わっている。
人間椅子の楽曲は音源で楽しむことはもちろんであるが、何と言ってもライブが魅力的なバンドである。
今回は人間椅子のライブに参加しておよそ25年となる筆者が、人間椅子のライブの魅力や楽しみ方について掘り下げて書いた記事である。
近年のライブの選曲や、ライブの頻度などにも触れているので、最近参加し始めた人やこれから参加しようと思っている人にもお読みいただければ、人間椅子のライブが楽しみになる内容である。
人間椅子のライブの魅力を5つのポイントから紹介
ハードロックバンド人間椅子の魅力と言えば、その唯一無二の世界観やサウンドにあるが、それを直に体験できるのがライブである。
1990年に『人間失格』でデビューしてから35年、デビュー前からライブ活動を続けてきたライブバンドである。
ロックバンドのライブと言えば様々な魅力があるだろうが、独特な世界観の人間椅子ゆえに、ライブの魅力も人間椅子特有の部分もあるように感じている。
今回は5つのポイントから人間椅子のライブの魅力に迫った。
スリーピースとは思えない迫力のサウンドと演奏力
人間椅子の魅力と言えば、3ピースとは思えないほどの重厚で迫力あるサウンドと、それを支える確かな演奏技術である。
そんな迫力あるサウンドが、見事にライブで再現されるどころか、スタジオ音源以上に躍動感のある演奏が楽しめるところが最大の魅力だろう。
たとえば2019年にYouTubeにMVを公開し、再生回数が1,700万回を超えている「無情のスキャット」は、メインリフの重厚なサウンドが魅力である。
ライブ映像がYouTubeにアップされているが、3人で出しているとは思えない分厚い音を聴くことができる。
そして、ライブ映像や音源で聴くのとは異なる、ライブハウスで聴く人間椅子の轟音の快感は言葉で説明ができない。
これは他のバンドも同様であるが、音を聴くと言うより”体感”するに近い感覚の生演奏の快感は、現地に行かなければ絶対に得られないものだと思っている。
人間椅子の場合、歪んだギターや低音の強いベース、激しいドラムと、それなりに音が大きいが、決して不快な音ではない。聴いていて心地好い轟音なのである。
※なお近年は音量の制限が厳しいようで、昔ほど轟音とはなかなかいかない。10年以上前は本当に大きな音で、耳栓をしないと耐えられない人も多かったことだと思う。
さらに人間椅子は演奏技術にも定評があり、ライブでの3人の息の合った演奏が素晴らしい。そしてスタジオ音源とはまた異なる、ライブならではのノリも新たに生まれる。
音源としては綺麗な形で残す目的があったとしても、ライブはその時の勢いや、ライブで聴いてちょうど良いテンポなどもある。
リハーサルを重ね、ライブ用に楽曲をブラッシュアップしているので、ライブではまた違った楽曲の魅力に出会えるはずだ。
※「どだればち」などライブでこそ味わえるノリ、そして終盤のギターソロはライブならではのアドリブも楽しめる。
定番曲とレア曲の絶妙なバランス
人間椅子のライブを楽しむ上では、どのような楽曲が選ばれているのか、いわゆるセットリストを見るのも楽しみの1つだろう。
人間椅子の近年のライブでは、定番曲を押さえつつ、ややレアな曲から、長らくやっていなかった超レア曲を散りばめた、絶妙なバランスの選曲になっている。
人間椅子の場合、ポップスの歌手などとは異なり、なかなか”ヒットソング”という形での定番曲はないが、ずっとライブで披露されてきた人気曲が、ライブではたびたび披露される。
そうした定番曲は、およそベストアルバムに収録されている楽曲と一致していると考えて良いだろう。
最近のベスト盤であれば、2019年リリースの『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト』の楽曲は、多くがライブの定番曲である。
「針の山」「人面瘡」「なまはげ」「無情のスキャット」など、これだけ聴いてライブに望んでも、どれか知っている曲は出てくるはずである。
できるだけどの曲も知ってライブを楽しみたい、となると、人間椅子はアルバムが20枚以上、楽曲も280曲以上あるため、どの時期からどんな曲が飛び出すか予想できない。
そのため全アルバム(ベスト盤のみに収録の新曲なども)をとにかく押さえるほかない。
ただとんでもないレア曲はライブに1、2曲程度であることが多く、その他は準定番・準レア曲くらいの楽曲が多くなっている。
「人間失格」「踊る一寸法師」「怪人二十面相」「見知らぬ世界」など、アルバムタイトル曲になったような曲などは、準定番として割とよく披露される。
こうしたセットリストを分析してみるのも面白いだろう。なお昔(15年以上前)の人間椅子は、もっとレア曲が多く、一見さんには厳しいライブだった時代があったのだった。
※【人間椅子】今となってはライブの意外な幕開け・ラストが実はとても良かった曲を集めてみた
真剣な演奏と緩いMCのギャップ
人間椅子のライブでは、練られた選曲で迫力の演奏を楽しむ時間が勿論醍醐味であると同時に、演奏の合間に繰り広げられるMCもまた楽しい時間である。
よく言われるように、おどろおどろしい演奏とは裏腹に、非常にまったりと緩い雰囲気のMCが人間椅子の魅力である。
人間椅子のMCでは観客を盛り上げるようなMCはほとんどなく、ごくごく普通の会話が進んでいく形である。
それを白塗りの鈴木研一氏、和装の和嶋慎治氏、鯉口シャツのナカジマノブ氏のばっちり衣装をまとった3人がごく普通の会話をしているギャップが面白いのである。
話題と言えば、楽曲に関することもあれば、ツアーやレコーディング中に起きた出来事、また3人それぞれの趣味や近況に関する話題などが展開される。
和嶋氏・鈴木氏は中学からの付き合いであるから、阿吽の呼吸というのか、学生時代の友達どうしにしか醸し出せない雰囲気がある。
人間椅子デビューから15年して加入したナカジマ氏であるが、持ち前の明るさも手伝って、2人の間によく溶け込みつつ、2人にない元気なMCを展開してくれる。
※ネット配信番組『帰ってきた人間椅子倶楽部』では人間椅子のライブMCの雰囲気を楽しめることだろう。
なおライブでは最初のMCを鈴木氏が、そして和嶋氏がツアータイトルなどの情報を述べた後、2人でMCが展開される、というパターンが多い。
ナカジマ氏は途中、会話に参加することもあるが、終盤のナカジマ氏が歌うコーナーでソロMCをすることが多い。
なおよく見かけるMCは和嶋氏と鈴木氏によるお互いの褒め合いである。
なお昔はもっと際どい時事ネタや下ネタなども話していたが、SNSの時代になり、メンバーの年齢も上がったことで、より平和な話題が増えたように思う。
とはいえ、微笑ましい雰囲気のMCは昔から変わっていない気がする。
無理に盛り上がらなくて良い自由な楽しみ方
人間椅子のライブの良いところは、無理に盛り上がって観る必要もなく、各々の自由な楽しみ方で節度を守ってライブを楽しむ人が多いところでもある。
人間椅子のライブでは、終盤に「ダイナマイト」「針の山」のような激しい楽曲も演奏されるが、一方で中盤にはじっくりと聴けるような楽曲も配置される。
ライブではモッシュやダイブのような激しい盛り上がり方をする人はまずおらず、リズムに乗る人もいれば、じっと腕組して聴いている人もいて、本当に人それぞれである。
曲によっては同じところで手拍子や腕を振り上げるなど、”振付”的なものもあるが、それをしなければならない、という雰囲気も特にない。
筆者のごく主観ではあるが、純粋に人間椅子の音楽を楽しみに来ている人たちが多いのが、参加していて心地好いのである。
近年のライブに参加するファン層は、年齢も(おそらく)音楽の趣味もかなり多様に見える。イカ天からのファンや、その当時から知りつつ最近になって聴き始めた人たちがまずは多い。
そして最近は若いファンも多くなっており、20~30代と思われるファンもよく見かける。
2013年にOzzfest Japanに出演してブレイクした際には、割と荒々しいノリの若者が増えた時期があったが、最近はそうした人たちは減り、各々の楽しみ方で観ている若い人が増えた。
またサブカルやヘヴィメタルのファンがかつては多めだったが、特にハードロックなどを聴くわけではない人も人間椅子の独特な魅力に惹かれて、ライブに来ているようだ。
こうしたファン層の多様さも、ライブで自由に楽しめる雰囲気を作り出しているように思う。
※【人間椅子】ライブならではのアレンジと合いの手がある楽曲を集めてみた
近年では貴重になってきたライブの機会
最後はライブの魅力と言うより、近年はライブ演奏の機会が減少傾向にあり、人間椅子のライブ自体が貴重になってきている、という現状について述べておきたい。
2020年にコロナの影響で社会全体にライブ活動がストップしたのをきっかけに、人間椅子はライブ活動の頻度を意図的に落としたようである。
近年はアルバムリリースのある年はリリースツアーのみ、リリースのない年は年2回のツアーで全国6~8か所ずつ回ることが多くなっている。
年間2本のツアーをやっているので、決して少ないという訳ではないかもしれないが、どうしてもそれ以前の”超売れっ子活動期”があったために、少なく見えてしまう部分がある。
2013年のOzzfest Japanで露出が増えるようになり、2015~2019年頃まではかなり活動のペースが速かった。
中でも2016年に『怪談 そして死とエロス』をリリースした際には、リリースツアーを含めて年間3本のツアーがあり、その間にも対バンやフェス出演も盛りだくさんだった。
しかし2023年『色即是空 ~リリース記念ワンマンツアー~』で鈴木氏が持病の脊柱管狭窄症が悪化するなど、体調面での不安も見られるようになった。
それだけが理由ではもちろんないだろうが、年齢的にも若手売れっ子のような活動ペースからは落としたい、という要望がメンバーから出たことは想像できる。
2025年は前年のツアーでの予告通り、新作『まほろば』リリースのツアーまでは一切ライブ活動は行っていない。
おそらくレコーディングが終わると、少しずつライブ活動は復活するものとは思うが、ライブの回数的には今後貴重になっていくのはやむを得ないところである。
ぜひツアーで近県に来た際は、躊躇することなく参加することをおすすめしたい。
※【人間椅子】静か過ぎる?バンド生活35周年の幕開け – 人間椅子の現在地とこれから
まとめ
今回の記事では、ハードロックバンド人間椅子のライブの魅力についてまとめた。
ライブは演者の魅力はもちろんのこと、ファンも一体となってその空間を作り上げている、と常々思っている。
人間椅子のライブは、圧倒的な演奏力・クオリティで奏でられる音や世界観、そしてほのぼのしたMCという人間椅子の魅力が詰まった空間になる。
そしてファンはそうした人間椅子への愛に溢れており、純粋に音楽を楽しむ人たちが多いため、非常に心地好い空間が出来上がるように思う。
何よりも語るよりもまず、人間椅子のライブに参加してみてほしい。近年はライブの機会がやや減少傾向にあることを述べた。
人間椅子メンバーはもうすぐ還暦を迎える年齢である。末永くライブ活動を続けてほしいと願う一方、ぜひ参加できる時にはライブを見ていただきたい。
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