バンド生活三十五周年を迎えた人間椅子、ヘドバンPremium Vol.2では人間椅子を表紙に、大々的に特集が組まれていた。
中でも人間椅子への「100の質問」がとても面白い企画だった。この内容を掘り下げるトークイベントが開催されるに至っている。(既に会場チケットは販売終了)
※『ヘドバンPremium』Vol.2発売記念トーク・イベント 人間椅子 新春公開座談会〜「100の質問」についてのあれこれ
この「100の質問」は、心理学的に(そこまで行かずとも)様々にメンバーの人柄やそれぞれの立ち位置などが読み解ける質問がたくさんある。
インタビューやMC等で窺い知れる人間性と、この質問を突き合わせると、納得できる部分や意外に感じられる部分など発見が多かった。
今回の記事では、人間椅子への「100の質問」について、単に情報としてではなく、人柄や心理を読み解ける質問を選んで独自に考察を試みることにした。
なおあまり回答の核心的な部分のネタバレは避けたいので、手元にヘドバンPremium Vol.2を置きながら、こちらの記事を読んでいただくことをおすすめする。
人間椅子メンバーの人柄や立ち位置が分かる「100の質問」
人間椅子を表紙に大々的に特集を組んだ『ヘドバンPremium Vol.2』が11月14日に発刊された。
人間椅子メンバー3名へのロングインタビューもかなり読み応えのあるものだったが、人間椅子への「100の質問」が実はかなりメンバーの人間性や立ち位置を読み解ける素材であるように思えた。
「100の質問」は内容的に音楽や娯楽から、思想や生き方に関するものまで多岐にわたっている。一部はメンバーによって質問が異なるが、大半は全員に共通の質問となっている。
今回はその中から、メンバーの人間性や3人の立ち位置が読み取れる質問を選び出し、10項目に分けて書いてみることにした。
取り上げた質問(複数同時の場合も)と質問番号をタイトルにして、回答から考察をしている。
なお質問だけから読み解けるものではなく、筆者がこれまで見聞きしてきたインタビュー記事やライブMCなどと突き合わせて、考察したものである。
好きだった(得意だった)科目・授業(038)
まず興味深く思われたのは「好きだった(得意だった)科目・授業」である。見事に3人とも違う方向にばらけているのが面白い。
そして好きな科目とは、やはり元来その人がやっていて好きなこと・熱中できることだと考えられる。やりたくないことなどしたくない子ども時代に”好き”や”得意”と感じられるのは、余程好きなことだ。
和嶋氏はやはり文学が好きになり、そしてバンドの中で作詞を多く手掛けていることからも、子ども時代からその方向性が変わっていないことが分かる。
ナカジマ氏のパワフルなドラム、そしてエネルギッシュなキャラクターも昔から変わらないことが窺えるものである。
鈴木氏も昔から趣味が一貫していることが感じられる。
好きな動物・嫌いな動物(040・041)
「好きな動物・嫌いな動物」の中で、見事に和嶋氏・鈴木氏の回答が全く逆になっているのが面白い。狙っての回答でなければ、凄いことである。
好きな動物とは、心理テストなどにもよく出てくるように、その人の性格や対人関係のあり方などを示すものとして考えられる。
それが全く逆であると言うことは、お互いに全くないものを持っている、ということを意味するのだろう。つまり得意なことを分担し、苦手なものを補い合えるということだ。
和嶋氏・鈴木氏がなぜお互いに惹かれ合うのか、それはやはりある部分において、お互いに全くないものを持っているからであり、これほど長くバンドとして続いた理由を垣間見たように思えた。
好きな季節・天気(044・045)
「好きな季節・天気」もまた興味深い質問である。天気や季節は、その人の性格や体感などとリンクするものであり、何となくその人の性格傾向のようなものが見えてくる。
意外にもメンバー3人とも、夏・晴れという暑い時期や爽やかな天気を好むと言う回答であった。人間椅子の楽曲自体は、冬や曇り空が似合いそうだが、メンバー自体の好みとは違うようである。
これは完全な持論であるが、暗い音楽が好きな人ほど、実は前向きな人が多い、というものである。暗い人が暗い音楽を聴く・演奏していると、そのまま闇の中に落っこちていってしまう。
実は根幹に明るさのある人たちこそ、暗い音楽を好むのではないかと思っている。人間椅子のメンバーを見ていると、曲は湿って暗いが、MCになると途端にポカポカした雰囲気になる。
こうしたメンバーの人間性の部分が表れた回答のように思えて興味深かった。
座右の銘(048)
座右の銘は、自分の生き方の指針となるような言葉のことである。単に好きな言葉と言うより、自分に言い聞かせている言葉、迷った時に立ち戻る言葉のようなものである。
和嶋氏は、別の回答で自堕落なところがあると自覚しているようで、戒めのニュアンスも強そうに感じられた。
一時期、ベートーヴェンの「悩みを突き抜けて歓喜に到れ」という言葉を紙に書いて貼っていたという和嶋氏だが、やはり好きな言葉とは少しニュアンスが違うようである。
※2021年のアルバム『苦楽』に同名の楽曲も収録された。
ナカジマ氏はよくご自身で書き物などで記すことの多い言葉である。生き方の指針・原点のような言葉であると同時に、よく「浮ついてしまう」と語っていることへの戒めかもしれない。
鈴木氏は「ない」という回答で、言葉を指針とするような生き方を選ばない、というのも鈴木氏らしい。彼の楽曲も言葉で説明するようなタイプではなく、生きざまが表れている。
短所・長所(054・055)
短所・長所は端的にその人の人間性を示すものであり、お互いに裏腹のものであり、長所は短所になり、その逆もあり得るものだろう。
それぞれの短所・長所から考えるに、和嶋氏は自由人と言うことだろう。枠に当てはめられるのを嫌い、人に対しても枠に当てはめる態度はとりたくないということである。
枠がないというのは自由であるが、”自律”していなければどんどん怠けてしまう欠点にもなる。
鈴木氏は(長所が書いていないが)良くも悪くも頑固であり、譲らないところがあるのだろう。人に対してそれを強要はしないだろうが、自分の領域にあるものにはこだわりがあるということだ。
これはまさに人間椅子における二人の立ち位置とリンクする。表現を常に変化させて新たな側面を生み出してきた和嶋氏と、デビュー前から一貫した表現で人間椅子を守ってきた鈴木氏である。
そしてナカジマ氏はとにかくこまめな人ということのようだ。短所になれば、細かすぎて人に鬱陶しく思われてしまう。
ただナカジマ氏はそれを長所として、人間椅子のマネージャー的な動きを得意として引っ張ってきたと言う大きな功績がある。
夏休みの宿題(059)
「夏休みの宿題をコツコツ進めるか、まとめてやるか」の質問も興味深い。これは締め切りに対する捉え方や、作業をする時の進め方が表れてしまうものである。
人間椅子の場合、曲作り・制作のあり方そのものが表れていると言えないだろうか。早くに曲を作り終えるのか、ギリギリまで(レコーディングが始まっても)曲を作っているか、ということである。
人間椅子の曲作りについては、2019年のアルバム『新青年』の初回限定盤に収録されたレコーディング風景・インタビューの映像などで窺い知ることができる。
和嶋氏はいつもギリギリになることが多く、制作のエンジンがかかるまでにも時間がかかるそうだ。レコーディングに入る前後でそれが加速し、レコーディングに曲を持ってくることもあるようである。
最後の方に出来た楽曲が代表曲になることも多く、「品川心中」や「今昔聖」、「無情のスキャット」などの大作は、アルバム制作の終盤に何とか出来上がることが多い。
一方の鈴木氏は曲作り期間に入ると、着々と楽曲を作るそうで、締め切りにももちろん間に合うように早くからリフを貯めているようだ。実に堅実な制作のあり方である。
ナカジマ氏はアルバムに1曲ということが多いが、リフやアイデアを作り、それを和嶋氏・鈴木氏にプレゼンしながら練り上げて完成させていくそうだ。
ナカジマ氏も堅実なやり方であり、制作期間を有効に活用した作り方である。
改めて「夏休みの宿題」の質問の回答を見れば、楽曲制作とリンクするところがあると言えるだろう。
口癖(069)
メンバーそれぞれの「口癖」に関する質問は、その人が日常的に行いがちな行動や気になっていること、重要視していることなどが表れるものだ。
048の座右の銘が、より長期的な人生におけるテーマや指針であるとすれば、口癖はもっと短期的・日常的に気になっていることが表れる。
こちらも人間椅子メンバーの三者三様の生き方、気になっていることが表れていると言えるだろう。
和嶋氏は日常的に頭を動かしているタイプであることが窺える。見た目の通り、思索にふけると言うタイプである。
一方で鈴木氏は日常的に身体のことが気になっているようである。ここ最近は脊柱管狭窄症のために腰の痛みが悪化し、『色即是空』リリース時のツアーでは椅子に座って演奏していた。
身体の心配があると、なかなか他のことが考えられなくなるものである。とにかくお大事にしていただきたいばかりである。
そしてナカジマ氏はライブでもおなじみの一言、普段から明るいナカジマ氏らしい口癖である。
人生で一番嬉しかったこと・あなたを変えてしまった出来事(083・097)
「人生で一番嬉しかったこと・あなたを変えてしまった出来事」は、ともに人生の転機となるような出来事や、到達点など重要な出来事を答える質問となっている。
人間椅子メンバーとして回答するお仕事でもあるので、人間椅子の出来事に寄るということはあるだろう。そうした回答の影響があったとしても興味深い回答である。
和嶋氏と鈴木氏の回答を対比してみると面白い。和嶋氏は自身の精神の変容から、それが人間椅子としてデビューできるに至った一連の流れを回答していると見ることができる。
和嶋氏は、自らの中に生まれたもの(あるいは与えられたもの)を通じて、表現活動ができる喜びを、人生の中で重視している。
一方で鈴木氏は好きなバンドと出会い、相棒と言えるギタリストに巡り合った良い出会いが全てと言い切っている、と見ることができる。
まさにハードロックと出会い、そしてバンドを組むために生まれてきた、と言っても過言ではないのであり、天職に就いていると言えるのかもしれない。
占い・幽霊を信じるか(093・094)
「占い・幽霊を信じるか」と言う質問は、目に見えない世界を実際にどう捉えているか、ということである。
人間椅子は怪奇・幻想の世界と言う、目に見えない世界を歌うバンドであるが、楽曲と言う表現の中にあることと、現実にある世界や自分自身のことの捉え方は違う可能性ももちろんある。
結果的には、和嶋氏・ナカジマ氏の2名と、鈴木氏の間で見解が分かれることとなった。目に見えない世界の話ゆえ、この分かれ方について言葉で表現するのは難しい。
しかしどこか空気感のようなもの、フィーリングの違いとしてみると、確かにこの2対1の組み合わせもあり得るように思える。
そして改めて和嶋氏・鈴木氏はお互いに目に見えない世界の捉え方も全く違うからこそ、人間椅子の楽曲にも違った味わいが生まれるのだろう、とさえ思える。
1つだけ願いが叶うとしたら(098)
何かを願う、ということは、その願いが何であるのか、によってその人が意識しようとしている世界の広さのようなものが明らかになると思っている。
身近なもの(お金とか健康)であれば、私たちが見えている日常の世界であり、世界平和のような大きな願いであれば、意識が世界の方に向いている、ということである。
しかしそれはあくまで”意識する”ということであって、人間の度量を示すものではない、と思っている。つまり意識することと、それをどれだけ行動に移すか、とは別の問題であるからだ。
そう言った観点で見ていくと、まず鈴木氏は自分の肉体・健康問題に関することであり、とにかく身体を大切にすることに意識が向かっているようである。
これは先ほども述べた通り、まず自分の肉体が健康でなければ、それ以上のことをかなかなか考えられないものである。
ナカジマ氏は健康で良い人生を、という生き方の問題であり、鈴木氏より少し俯瞰度が上がっている。
そして和嶋氏は社会のあり方、精神のあり方を問題にしている。唐突に登場した「縄文時代」と言うワードは、おそらく戦争がない、人間本来の生き方をしていた時代になることを願ってのことだろう。
鈴木・ナカジマ・和嶋の順に俯瞰度が上がっているのが面白い。何となく精神世界への没入度に比例するようにも思える。
まとめ
今回は人間椅子を特集したヘドバンPremium Vol.2に収録の「100の質問」から、メンバーの人柄や立ち位置の分かる質問を取り出して考察してみた。
こうした質問への回答は、インタビュー記事のような発話を文章にしたものとは異なり、メンバーの中の無意識的な部分に迫れる、という点で面白い。
そのため各々の回答を見比べながら考察してみるのがとても興味深いものである。もちろん今回取り上げた質問以外にも、様々に解釈する面白さがあるだろう。
人間椅子はおどろおどろしく、ヘヴィなサウンドが特徴のバンドであるが、そうした音楽がいかにこの3人から生まれていくのか、その人柄に迫ってみるのも面白いように思う。
※”人間椅子らしさ”の正体と変遷についての考察 – デビュー前後の”ごった煮”の音楽性を起点として
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