スウェーデンのへヴィメタルバンド、GHOSTは悪魔崇拝を謳う独特の世界観で人気を誇るバンドである。
順風満帆な活動に思われたが、2017年にかつてのメンバーより訴訟が起こされる騒動があった。主に金銭や労働環境に関する訴訟であったが、原告側の訴えは棄却されている。
その後、2018年の4thアルバム『Prequelle』でよりポップな方向性を示し、これまでの作風からやや方向転換が見られた。その後はいくつかシングルリリースが続いている。
2021年にアルバム発表のアナウンスもあったものの、まだ今のところリリースの予定は聞かれない。GHOSTは今後どんな作品を世に出し、活動を行っていくのだろうか?
今回の記事では、前半に訴訟問題の概要、そしてその後のGHOSTに何か影響があったのか考察する。訴訟問題がどんな騒動だったのか振り返り、今後を考える1つの手がかりとしたいと思う。
後半では4thアルバム『Prequelle』以降にリリースされた楽曲を紹介し、今後リリースされるであろうアルバムの方向性を予想してみたい。
2017年の訴訟問題~4thアルバム『Prequelle』発売とその影響
GHOSTは2006年に結成されてから、4作のアルバムをリリースしてきた。悪魔崇拝のグループとしてデビューし、その正体は全く不明のバンドと言われてきた。
サウンドは、初期こそB級感の溢れるメタルであったが、徐々にポップさとおどろおどろしさの絶妙なバランスを見せる楽曲で、人気を博す。
3rdアルバムに収録された「Cirice」では、2016年の第58回グラミー賞「最優秀メタル・パフォーマンス賞」を受賞するなど、高い評価を受けるようになる。
なお現在の最新作は2018年の4th『Prequelle』である。
筆者は、4枚のアルバムを聴き、かつて以下のようにブログ記事を作成した。GHOSTの紹介、そして4枚のアルバムレビューについて気になる方はお読みいただきたい。
※筆者がこれまでの4作のアルバムのレビューを行った記事はこちら
GHOSTの活動の歴史の中では、やや残念な出来事もあった。それは2016年に元バンドのメンバーによって起こされた訴訟問題である。
この訴訟問題によって、演奏をともにしてきたメンバーが脱退し、2017年に新たな体制でバンドは継続された。その最中に制作されたのが、4th『Prequelle』だった。
『Prequelle』はこれまでとやや異なる作風であり、その変化には訴訟問題も影響したのではないかという噂も一部には見られた。
ここでは訴訟問題の概要と、その後にリリースされた4th『Prequelle』について述べておこう。
GHOSTに起きた訴訟問題
2016年末、GHOSTの元メンバーが、バンドの中心人物のトビアス・フォージに対して訴訟を起こした。主には報酬と労働環境について起こされた訴訟だと言う。
ずっと匿名のバンドとして活動してきたGHOSTだったが、訴訟に関連して中心人物がトビアス・フォージ氏であることが明らかになった。
そして悪魔崇拝のバンドが、非常に人間臭い問題で訴訟となっているように報じたニュースもあった。GHOSTの不気味なイメージが崩されたと嘆くファンもいたと報じている。
・THE WALL STREET JOURNAL:悪魔崇拝バンド、劣悪な労働環境めぐり訴訟
記事によれば、メンバーの1人がアパートの共有洗濯機を使ってライブ衣装を洗っていたという事実まで発覚したようだが、訴訟の内容はメンバーの関係と金銭に関するものだったようだ。
2016年末にバンドから解雇された元ネームレス・グールズ4人の連名で訴訟が起こされ、ボーカリストのトビアス・フォージに対して起こしたものであった。
訴訟の内容は、ネームレス・グールズ内ではバンドの利益はメンバー間で平等に分配される共同会社としての契約が成立すると考え、2011年から2016年のバンドの収支記録の公開を求めた。
訴訟のきっかけとなったのは、2016年にトビアス・フォージがネームレス・グールズを自身の経営する会社の社員にしようとしたことだと言う。
訴訟を起こしたメンバーはバンドから解雇される形となり、2017年には新たなメンバーを加入させてバンドは継続している。
トビアス・フォージは4人のメンバーを共同経営者として考えておらず、自らが雇った従業員であると原告側の訴えを否定した。
そして2018年10月には、4人の訴訟はリンシェーピング地方裁判所によって棄却されている。共同会社の契約が締結されたと立証する証拠がなかったためであった。
※参考にさせていただいた、訴訟問題について詳しく書かれたブログ
以上が訴訟の概要であるが、つまりどんな揉め事だったのだろうか?詳細が分からない部分も多いが、筆者が思うには、「GHOSTはどんな団体であるかの解釈の相違による揉め事」だと捉えた。
以下は、問題を考えるヒントとなりそうな記事である。
・NM MAGAZINE:【NEWS】メタルバンドGhostのPapa Emeritus IIIが「Ghostは決してバンドとして組んだわけではない」と語る
トビアス・フォージ氏の考え方としては、GHOSTはバンドではなく、制作やライブに応じて演奏メンバーをかえながら、彼の描く世界観を表現する音楽グループと言うことなのだろう。
彼らのライブパフォーマンスの娯楽性・芸術性、音楽作品に見られる独特な世界観も、バンドと言うよりは芸術集団のようなイメージである。
しかし一緒にライブをともに演奏してきたメンバーからすれば、対等に音楽を作り上げてきたプライドもあったと思われる。
作品やライブの世界観と、人間同士の関係はまた別の話だ。仲間だと思っていたのに、切り捨てられたような気持ちになったのかもしれない。
これまでは全てにおいて契約はせず、暗黙の合意で行ってきたことが、バンドの規模が大きくなるにつれ、金銭関係の問題として表面化してしまったのだろう。
法律的には元メンバーの訴えが棄却された。GHOSTはバンドなのか、ソロユニット的なものなのか、その認識が曖昧だったゆえに、はっきりさせられた事案とも言えるのかもしれない。
しかし気になるのは原告側のトビアス氏への発言だ。
「非常識なほど不誠実で、欲深く、ダークだ。ダークといってもゴーストが歌う曲のようなダークさではなく、富と名声に手が届きそうになると親友たちを裏切るようなダークさだ」と述べた。
もしこの発言が真実を表しているとすれば、それはきっとGHOSTの作品に表れてくるのではないか。何か”汚い”ものとして、作品の質の低下であるとか、良くない変化として出てくると思う。
筆者としては、訴訟の内容だけでは真実はわからないため、少し注意深くGHOSTの表現するものを見ていきたいと思った。
この記事を書こうと思ったのも、訴訟問題のあった後に、GHOSTの作るものに何か変化があったのか、確認しておきたかったからである。
4thアルバム『Prequelle』への影響と評価
訴訟問題の最中に制作された4thアルバム『Prequelle』。キャラクターもコピア枢機卿となり、作風としてもこれまでとは異なるものとなった。
以下にアルバム解説とトビアスのコメントが載っている。
ここでは、70年代よりも80年代を感じさせる点、そして悪魔的な世界観ながらサウンドはカンサスのようである点、を述べている。
結果的に、全米チャート初登場3位、全英チャート初登場6位と言う人気の高い作品となった。
具体的な楽曲をみると、「Dance Macabre」は楽曲提供用に作られたそうだが、ダンスビートにポップなメロディが乗る。今までになくポップで、門戸が開かれたような印象がある。
その他に、「Rats」もパワフルでテンションの高さを感じた。
一方でアルバム収録曲からは内省的なヘビーさも感じた。「See the Light」や「Life Eternal」などのバラードからも、これまでになく美しく、切ないメロディを聴くことができる。
アルバムのテーマには、ペストの流行に伴って流布した「死の舞踏」があると言われている。ポップなだけでなく、ピリッと風刺の効いた(むしろ昨今を予見したような)作品となっている。
またトビアスによれば、前作と次回作の過渡期の作品とも位置付けている。やはり本作がどのような意味を持つのか、重要になりそうではある。
billboard JAPAN:ゴーストの主宰者トビアス・フォージが語る、レディー・ガガ級ライブ演出「今実現できているのは全体像の10%にしか至らない」
筆者としては、ポップになったという変化は感じたが、嫌な変化としては受け止めなかった。著しく質が落ちたとか、そんな印象も全くなかった。
彼の音楽センスの幅広さを感じたし、真摯に取り組む姿勢も感じたように思えた。
そうは受け取らなかった評価の例も紹介しておこう。
筆者は購入に至らなかったのだが、「ヘドバン」vol.19にて人間椅子の鈴木研一氏がコスプレをして、GHOSTについて語る記事を読んだ記憶がある。
鈴木氏は、4thアルバムは好みに合わないと言っていた。そして訴訟問題でメンバーがクビになり、作曲する人が変わって悪くなったのではないか、という旨のことが書いてあったのが印象に残った。
鈴木氏の印象なんだろうな、と思いつつ、果たしてそれが事実なのだろうか?とも思った。調べてみると、この点については事実誤認であると指摘する記事もあった。
筆者は人間椅子のファンでもあるので、擁護すれば、鈴木氏はどこかハードロック少年がそのまま大人になったようなところがある。
おそらくこの発言も、事実を調べてのことではなく、純粋に想像してのことだったのではないか。
今以上に海外のバンドの情報がない時代に、友だち同士で、何となく聴いた噂であれこれバンドの内情を想像する、そうした仲間内の話を誌面上で公開したようなところだろう。
鈴木氏は1stからずっと追って聴いていたために、やはり初期の楽曲が好きだったのだろう。
筆者はほぼ同じ時期に全部のアルバムを聴いていたので、GHOSTと言うバンドが幅広い音楽を扱うことを知って聴いたので、違和感は全くなかった。
少し話は広がってしまったが、筆者としては訴訟問題が色濃く影響したとは感じられなかった。少し内省的な楽曲が増えたのは、テーマによるものかやはり訴訟問題のショックはあったのかもしれないが。
いずれにしても、GHOSTの作る音楽が嫌な方向に向かっているとは感じられなかった。
4thアルバム『Prequelle』発売後のリリース作品
ここからは、4thアルバム以降の作品がどのような楽曲なのか紹介していこうと思う。2021年10月現在は、シングルが3枚、いずれも配信でリリースされている。
オリジナル楽曲のシングルが2枚、Metallicaのカバーシングルが1枚となっている。
シングル『Seven Inches of Satanic Panic』
2019年9月13日にリリースされたシングルが『Seven Inches of Satanic Panic』である。「Kiss The Go-Goat」「Mary On A Cross」の新曲2曲が収められている。
各種配信サービスやサブスクリプションにて聴くことができる。なおCD化はされていないが、アナログ盤としてリリースされている。
本シングルは、50年前にリリースされたGhostの幻の7インチレコードが復刻した、という設定である。
1969年にPapa Nihilがフロントマンを務めるGhostがリリースしたシングルのマスターテープや、ライブパフォーマンスを収めたMVが長らく行方不明だった。
Papa Nihilにより、マスターテープや8mmフィルムが発見・修復されたのだという。時代を飛び越えるGhostの物語は非常に興味深い。
各楽曲について、まずは「Kiss The Go-Goat」についてである。
「Kiss The Go-Goat」(Official Music Video)
公開されたMVでは、上記のようなストーリーが盛り込まれている。そして楽曲のMVでは1969年に撮影された映像が使われている、という設定である。
楽曲については、当然1960年代の音楽をイメージしたもの。これまでのGHOSTは70年代ハードロックに始まり、4thアルバムでは80年代寄りのサウンドと、変化を遂げてきた。
今回はハードロック以前の楽曲ということもあり、また印象が大きく異なる。筆者は最初に聞いた時の印象は、少し地味な楽曲だなというものだった。
80年代的な煌びやかさから、一転してあえて古臭いサウンドを再現したもので、それも当然なのかもしれない。しかし聴き込んでいくと、GHOSTらしいポップなメロディが浮かび上がってくる。
ハード・ヘビーなGHOSTを期待する人には向かないが、トビアスの幅広い音楽性を改めて感じられる楽曲となっている。
2曲目の「Mary On A Cross」も同じく1969年にリリースされたという設定だ。
「Mary On A Cross」(Official Audio)
レトロなキーボードのイントロが印象的である。「Kiss The Go-Goat」よりも、キャッチーなメロディラインが耳馴染みやすい。
GHOSTが共通しているのは、シンプルで質の高いメロディを何度も繰り返す、という手法だ。ポップスやロックでは常套手段だが、展開をあれこれ加えない分、逃げも隠れもできない。
今回のシングル2曲は60年代に回帰した楽曲ということで、よりシンプルな楽曲になっている。
先に紹介したインタビューでは、トビアスは常に今まで聴いたことのない楽曲を作りたい、と述べていた。ファンは○○のような曲を聴きたい、と思っても、二番煎じはオリジナルを超えられない。
彼はGHOST自身の楽曲をも、常に超えていこうという姿勢を強く感じるシングルだった。
シングル『Enter Sandman』
Metallicaの1991年の大ヒット作『Metallica』から1曲目の「Enter Sandman」のカバーが、2021年9月11日にYouTubeに公開されている。
シングルとして各種配信やサブスクリプションで聴くことができる。
なお2021年10月1日に、発売30周年を記念して53組のアーティストによるカバーアルバム『Metallica Blacklist』が発売され、GHOSTによるカバーも収録された。
イントロではピアノの伴奏で1コーラスが歌われる。コード進行を変えると、こうもメロディアスに聞こえるのかという、アレンジになっている。
そしてバンド演奏では一転して、本家へのリスペクトを感じさせるヘビーな演奏へ。随所に洒落たコード使いが見られるのがGHOSTらしい。
ダークさと煌びやかさを行き来するのは、GHOSTの特徴そのもの。見事にMetallicaの楽曲もGHOST色に染め上げている。
GHOSTはカバー曲もいつも面白いなと感じる。
シングル『Hunter’s Moon』
2019年のシングル『Seven Inches of Satanic Panic』は、やや企画物のカラーもあるシングルだったが、この「Hunter’s Moon」はこれまでのGHOSTを受け継ぐシングル曲である。
「Hunter’s Moon」(Official Music Video)
「Hunter’s Moon」は映画『ハロウィン KILLS』(デヴィッド・ゴードン・グリーン監督)とのコラボレーション曲だと言う。
ジョン・カーペンター(John Carpenter)の同名映画を現代に甦らせた『ハロウィン』(2018年)の続編、新3部作の第2作だそうだ。
ホラー映画のコラボ曲と言うことで、GHOST節が炸裂かと思いきや、思いのほかポップな楽曲でもある。リズムとしては「Dance Macabre」のようなダンスビートである。
そして相変わらず3分ちょっとという短い時間の中で、ポップな要素からヘビーな要素まで無駄なく詰め込んでいるのはさすがである。
今回はハードロック的なサウンドでありつつ、古臭さはなく、新たなロックとして聴かせてくれる。
デビュー時点から強烈な個性を放っていたが、今やストレートな曲を作ってもGHOSTらしさがにじみ出ている。
なお2022年1月21日に7”シングルレコードとしてリリースされる。
※歌詞を和訳したサイト
まとめ – 今後リリースされるアルバムはどんな作品になるのか?
ここまで訴訟問題から、4thアルバム、そしてそれ以降のリリースについて紹介してきた。
訴訟問題と言うハプニングが発生したのであるが、トビアスが描こうとしている音楽の世界観はずっと貫かれているようにも思う。
4thアルバムは確かに作風の変化はあったが、彼の精神性が変容したものとは思えなかった。あくまで音楽的な幅広さを感じさせるものだったと思う。
彼は先に紹介したインタビューで、できる限りアートとして表現したいが、時にはその瞬間の流れに任せることもある、と語っていた。
おそらく彼は念入りに準備をして完璧に音楽を構築したいタイプなのだろうと思う。
しかし人間味がないかというと、そうではない。その時々に表現したいものは、感覚を信じて作っている部分もありそうである。
彼の中では、GHOSTと言うバンドの世界観やコンセプトは完璧でありたい部分なのではないかと思う。
だからこそ訴訟問題は、コンセプトを崩してしまうもので、彼にとってはショッキングな出来事ではあったと思う。
一方で音楽で描きたいものは、感覚的で自由でありたいと感じているようである。1stこそ見た目通りに、B級のメタルであったが、そこに居続けたい訳ではないようだ。
アルバムごとに作風が異なり、毎回どんな楽曲が飛び出すのか分からない。4thアルバム以降は、60年代的なもの、4thの延長にあるポップな楽曲がシングルリリースされた。
次のアルバムが、必ずしもそういった楽曲で占められるのか、もちろんわからない。ただしトビアスが、4thが前作と次回作の過渡期の作品だと述べていた。
3rd『Meliora』がハードロック色の強い作品だったが、4thはポップな要素やプログレ的なインスト曲、より煌びやかなアレンジが目立っていた。
これまでの楽曲の流れと彼の発言を総合すると、次回作はより幅広いロックの魅力を感じさせる作品になるのではないか、と思った。
それはメタルのような様式化されたものではなく、ロックやポップスの持つ可能性を広げるような作品だ。これは予想であるとともに、筆者の願いでもある。
そうした音楽的に自由で豊かな作品を作った時、真に訴訟問題の影響から抜け出せるのではないかと思う。
筆者は4thアルバムには直接的な訴訟問題の影響はないと書いた。しかし原告側の発言したネガティブなイメージがどうしても頭をよぎってしまう。
そこから完全に脱却するには、純度の高い音楽作品を、誰も文句のつけようのない完成度の作品を作ってこそ、可能になるのではないかと思った。
GHOSTには期待を込めつつ、次回作を楽しみに待ちたいと思う。
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