”ジャケ買い”はなぜ成功するのか? – ”現代版”ジャケ買いのすすめ・今なお重要なジャケットの役割

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音楽の聴き方

CDやレコードアルバムの”ジャケ買い”とは、アルバムのカバーアートの第一印象だけで購入を決めることである。いわゆる”一目惚れ”の買い方である。

スリリングな買い方ゆえに、お気に入りに出会えた時は運命の出会いのようにさえ思える。ただ作品情報はネットにあり、サブスクで音源は事前に聴ける現代では、ジャケ買いする人は減ったはずだ。

そもそもCDを買わない人が増えた今、死語と言っても良いレベルかもしれない。

しかし、音源を買うような音楽好きにとってはジャケ買いは現代においても健在ではないかと考える。今回はジャケ買いはなぜ成功するのか、現代版ジャケ買いとも言える買い方について考えてみた。

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ジャケ買いはなぜ成功するのか?

まずもって、ジャケ買いとは成功するものなのか、ということである。もちろん失敗はあるが、結構良いアルバムに巡り合えるのではないか?とも思っている。

その理由としては、1つにアルバムジャケットが作品にとって重要な意味を持つことがある。

そして情報のなかった時代とは違う”現代版ジャケ買い”を定義すると、ジャケットはかなり意味のある指標となることがもう1つである。

上記2つの視点から現代におけるジャケ買いを語ってみよう。

音楽作品におけるジャケットの役割

音楽作品(アルバム)におけるジャケットは、作品の印象を決める重要な指標である。それもいくつかの意味において、指標となり得るものだ。

まずは作品の充実度や、作り手側のコンディションみたいなものが如実に表れるのがジャケットであると考える。名盤には良いジャケットあり、というのが割と成り立つ、ということだ。

多くの場合は楽曲が出揃い、作品の形がある程度見えてからジャケットは決まるものだろう。やはり作品が凄いものになると思えれば、ジャケットにも力が入ると言うものだ。

ジャケットを見ると、バンドやミュージシャンのその時のコンディションのようなものが想像できるのである。良い状態の時はジャケットも堂々としたものに、迷走している時は迷った感じが出てしまう。

さらに美的感覚にこだわるミュージシャンであればこそ、ジャケットも自らの感覚に合うものを選んでいることが多い。

そう考えれば、ジャケットが好みに感じられれば、音楽も自分好みの可能性が高い。たとえば筆者の場合、現代アート的な絵画やイラストを用いたジャケットは好みの音楽のことが多い。

逆に奇抜なイラストや漫画のような雰囲気のジャケットはあまり好みでなく、音楽も合わないと感じることが多かった。

さらに付け加えれば、ジャンルごとにジャケットの特徴も存在する。そのため、ジャケットを見るだけで何となくどんな音楽ジャンルを想像できる点も大きい。

この点については、後半で詳しく述べることとする。

現代版の”ジャケ買い”とは?

アルバムジャケットが作品の雰囲気や、ミュージシャンのコンディションを示すものであり、作品自体のクオリティや好みを予想できるものであることを述べた。

しかし当然ながら完全に比例するものではないため、ジャケットだけを参考にアルバムを購入するのはなかなかの賭けになる。

情報が乏しかった過去とは違い、現代では作品情報はネットにあるし、サブスク解禁されている作品ならば、事前に試聴のような形で聴いてから買うかどうか決めることができる。

このように現代ではジャケットの好みをきっかけに、その後のリサーチを行った上で確実に好きなアルバムが購入できる、というのを筆者は”現代版ジャケ買い”と呼ぶことにした。

もはやアルバムジャケットに賭ける、という要素はなくなったが、音楽を聴こうと言う第一歩としてジャケットから入る、という意味での”ジャケ買い”ということだ。

音楽を探すという作業も、現代ではAIがおすすめしてくれるものを聴く、などあまり感性を働かせなくなってしまった。

しかし何もないところから、好みの作品に行き着く方法として、いまだジャケットの第一印象というのは強烈な要因になっているように思える。

昨今ではサブスクで聴けば十分という作品と、買って手元に置きたい作品は異なるものとなっており、あえて手元に置きたい作品は、何かピンと来るものがあったか、という第一印象が重要だ。

その第一印象となるのがアルバムジャケットであり、アルバムジャケットを手掛かりに作品を買うと言う行為は、音楽を聴く上でもいまだ健在であると筆者は考える。

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”現代版ジャケ買い”が成功する場合とは?

作品情報や楽曲を試聴できる環境もある現代においても、今だジャケットを参考に買うという”現代版ジャケ買い”は有効な方法であると考える。

ここでは筆者が実践して見出してきた”現代版ジャケ買い”を行う上で大事なことをまとめてみた。

ジャンルによる特徴と良いジャケットのパターン

「音楽作品におけるジャケットの役割」の最後に書いた通り、ジャケットはジャンルの特徴と重なっている点には注目したい。

ある程度、ジャケットを見るとどんなジャンルなのか分かったりするのだ。いくつか挙げれば、以下のような特徴があるように思える。

  • ハードロック:ややホラーな雰囲気のキャラクターなどのイラストが用いられる
  • プログレ:伝統的な絵画作品のような格調高い雰囲気がある
  • パンク:ジャケットの載せないようなものをあえて載せるシュールな雰囲気がある
  • アンビエント・前衛音楽:現代アートのような抽象絵画のような雰囲気がある
  • ソウル・ヒップホップ:ミュージシャン自身の写真が使われることが多い

たとえばハードロックならIron MaidenやRiotなど決まったキャラクターが登場するなど、(意図せず)コミカルだったり可愛く見えたりするものもある。

・Riot – Fire Down Under(1981)

また前衛音楽やアンビエント、シンセ音楽などは現代アート的な雰囲気がある場合が多く、見分けやすいジャンルである。

・Tangerine Dream – Phaedra(1974)

またソウル・ヒップホップはミュージシャンの顔写真が多く、ファッションも含めての音楽と言う感じがあり、他のジャンルとはやや違う感じがして面白い。

・Mobb Deep – The Infamous(1995)

続いて、良いジャケットにはいくつかパターンがあることも述べておきたい。

まず優れたジャケットはアートとして価値が高いものであり、それはたいてい名盤だったりする。ジャケットに惹かれる作品は、やはり内容も素晴らしいのである。

3枚ほど挙げれば、たとえばBlack Sabbathの『Sabbath Bloody Sabbath』(1973)は宗教画のようでありながら、悪魔的な世界観で怖くも美しさすら感じるアート作品である。

ジャケットは堅い感じもするが、内容はポップなところもギャップがあって良い。

・Black Sabbath – Sabbath Bloody Sabbath(1973)

また言わずと知れたKing Crimsonの名盤『In the Court of the Crimson King』(1969)は、なんとも言えない表情の男がジャケットになっている。

しかしずっと見ていると顔ではなく何かの構造物のように見えてくる不思議なジャケットで、作品の内容とはまた違った不思議な魅力がある。

・King Crimson – In the Court of the Crimson King(1969)

New Orderの名盤『Technique』(1989)にはアンティークショップで見かけたガーデン用の天使像を用いてコラージュしたようなジャケットになっている。

音楽シーンの危うさやその崩壊をイメージさせるもので、メッセージ性がありつつ、アート作品としても完成度が非常に高い。

・New Order – Technique(1989)

あるいはメンバー・ミュージシャンが映っている自画像的なジャケットも、それが堂々たるアート作品になっていると作品の充実度を物語っているように思える。

こちらも3枚挙げれば、The Jimi Hendrix Experienceの最後のアルバム『Electric Ladyland』(1968)は、Jimi Hendrix自身の顔写真を加工したものが用いられている。

そのままアート作品になりそうなシンプルかつ芸術性が高いもので、タイトルが愛知県にあるライブハウスの名前に使われるなど、やはり名盤として語り継がれている。

・The Jimi Hendrix Experience – Electric Ladyland(1968)

Rob Zombieのソロ第1作となる『Hellbilly Deluxe』(1998)は彼の世界観そのものを表した自画像ジャケットであり、ホラー映画のポスターのようでもある。

音楽的にはバンドのWhite Zombie時代を受け継ぐものだが、打ち込みとヘヴィメタルが融合した独特なヘヴィネスを確立している。

・Rob Zombie – Hellbilly Deluxe(1998)

Prefab Sproutの2ndアルバム『Steve McQueen』(1985)のジャケットはまるで青春映画の1シーンのようなメンバー写真である。

そして見事にそのイメージを具現化したような瑞々しい楽曲が集められた名盤であり、ジャケットまで含めてその充実度は凄まじいものがある。

・Prefab Sprout – Steve McQueen(1985)

筆者が経験して成功したジャケ買い作品

最後に筆者が実際に経験したジャケ買いに近い体験談を書いておこうと思う。いずれもジャケットのみで買う昔のジャケ買いではなく、筆者が言う”現代版ジャケ買い”に近い体験だ。

筆者が購入した古い順に3枚のアルバムを紹介しよう。

まずはエレファントカシマシの7thアルバム『東京の空』(1994)である。この作品はエレカシの中で最初に購入したアルバムで、2005~2006年頃だったと記憶している。

・エレファントカシマシ – 東京の空(1994)

かろうじてリアルタイムで聴いていた「今宵の月のように」から掘り下げていくと、全く異なる音楽性のバンドだと言うことが分かってきた。

当時エレカシのトリビュートアルバム『エレファントカシマシ カヴァーアルバム 花男』がリリースされ、怒髪天のカバーした「男餓鬼道空っ風」に大いに感動したものだった。

その楽曲が入っているアルバムということが大きな要因でもあったが、このジャケットの堂々たる宮本氏の立ち姿に惹かれるものがあった。

「ドーンと」行っている感じがして、聴いてみるとジャケットの雰囲気そのものの内容で、いまだお気に入りのアルバムの1つである。

※『東京の空』のアルバムレビューはこちら

次に紹介するのは、The Gunの1stアルバム『Gun』(1968)である。人間椅子が好きだった筆者は、次第にかつてのハードロックを聴き漁るようになっていった。(2012~2013年頃のこと)

・The Gun – Gun(1968)

最初は人間椅子のメンバーが取り上げた作品を聴いていたが、それでは飽き足らずに自身で情報を集め始めた。個人のアルバム紹介サイトを覗いていた時に見つけたのが本作だった。

漫画のようで壮大なジャケットである。邦題は『悪魔天国』と名付けられた作品だが、日本の地獄絵図を思わせるような見事なジャケットだと感じた。

思わず購入した本作であるが、ハードロック前夜とも言える時代の貴重な作品で、ジャケット通りの充実した作品である。

後日談では人間椅子の鈴木研一氏が主宰するハードロック喫茶「ナザレス」というDJイベントで、本作を持参して「Race with the Devil」を流してもらったのが良い思い出である。

最後に紹介するのはMonsoonの唯一のアルバム『Third Eye』(1983)である。こちらは2024年に入って購入したアルバムだ。

・Monsoon – Third Eye(1983)

たまたま見つけたネット記事で、ニューウェイヴと世界の音楽の融合を特集したものがあり、その中で興味を惹かれた作品である。

「Ever So Lonely」というヒット曲を聴いた印象も手伝いつつ、『Third Eye』と言うタイトル、そしてボーカルSheila Chandraの目元だけを切り取ったジャケットに惹かれるものがあった。

内容はインドの伝統音楽をポップスに取り入れた、当時としては斬新なもの。その革新性と言うか、新らしい風が吹くような心地よさに満ちているアルバムとなっている。

まとめ

今回はジャケ買いを取り上げつつ、現代においてもジャケットの印象に惹かれて購入する”現代版ジャケ買い”は有効ではないか、ということを書いた。

アルバムジャケットは、作品の雰囲気やジャンル、ミュージシャンのコンディションなどを表すものであり、その第一印象は作品のクオリティや好みをある程度予測できるものと考える。

昨今では音楽を主体的に探すよりも、サブスクで誰かの作ったプレイリストを聴くとか、AIがおすすめしてくれるものを聴く、という受動的な聴き方が増えてしまった。

しかし自らの感覚を頼りに好きな音楽を探す作業は、やはり受動的な聴き方とは異なる楽しさがある。そのためには音楽をたくさん聴くとともに、ジャケットをたくさん見た経験値も重要となろう。

ジャケ買いも、全く音楽を知らないところから始めるのは難しい。自分の中での良いジャケットのパターンやジャンルごとの特徴などが見えてきて、初めて感度良く探せると言うものだ。

音楽のパッケージや配信方法は時代によって変わっていくが、楽しい聴き方・探し方は時代を経てもそれほど変わらないのではないか、と筆者は思う。

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